魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第八章 アサキ、覚醒

01 「んじゃまあ、そんなワケでえ、しくよろーっス」白い

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「んじゃまあ、そんなワケでえ、しくよろーっス」

 白い半袖セーラー服姿の、水色と白のしましまフレームの大きなサングラスをおでこにかけた、タレ目が印象的な女子が、見た目通りのかるーーい喋り方で、チェケラッみたいな感じに上げた右手を振った。

 それに続いて、彼女と同じ制服を着た隣の女子が、のほほんとしたゆっくり口調で、

「お土産買ってくるからあ。なあんにも起きなければいいけどお、なんかあったらあ、よろしくお願いしますねえ」

 のーんびりした口調ながらも丁寧に、ゆっくり深々と、頭を下げた。

「まっかせといてえ! ノブにゃんとヒサにゃん!」

 向き合って立っている、天王台第三中学校の女子制服を着た六人のうち、へいなるが、どっかん自分の胸を叩くと、そのまま右拳を突き出した。

「おー、あんがとさんっ。んっじゃねええっ。しくよろーっス」
「ぐーっどらーっく」

 セーラー服の女子二人は、振り返りつつ、またまたチェケラッチョみたく手を振って、コンビニのある角を折れて、姿を消した。

「いまの妙に騒々しい女子が、第二中のよろずのぶさんと、ぶんぜんひささんじゃ。たまに共同戦線を張る仲じゃけえ、覚えといた方がええよ、アサキちゃん。……忘れたくとも忘れられんかも知れんけど。相変わらずキャラ強烈じゃけえね」

 その騒々しさにすっかり辟易してしまっているのか、あきらはるは苦い笑顔でアサキへ説明した。

「確かに強烈だったね。……でも、ちょっと安心したあ」
「なにが?」

 小首を傾げる治奈。 

「いやあ、他にも仲間がいたから、ようやくこうした活動をしていることの実感がわいたというか。……ひょっとして、みんなで担いでいるのかなあ、とも思ってたからさあ」

 というアサキの言葉に、みんな、ずどどっとずっこけ転びそうになった。
 いや、カズミなど本当に転んで、アスファルトにおでこ思い切り打ち付けてしまった。

「いまさら過ぎるだろ! お前はもう、何度も変身して、ヴァイスタと戦ってるし、殺されそうになってもいるだろ!」

 立ち上がったカズミは、涙目でおでこ押さえながら、赤毛の少女へと声を荒らげた。

「まあ、そうなんだけどさあ。でも、ほら、わたしたちだけでしょ?」
「ん? ああ、ヴァイスタと戦う者があまりに少人数過ぎて、いまいち現実感が持てなかったってこと? まあ確かに、メンシュヴェルトって、どこにあって誰がいて、とか、あたしもなーんにも知らねえなあ」
「でも、いまのでちょっと実感は持てた。……とにかく、こうした持ちつ持たれつで、わたしたちもこないだの合宿をすることが出来たんだね」

 一人うんうん頷いているアサキ。

 先日行われた強化合宿には、治奈たち第三中の魔法使いが五人全員揃って参加したのだが、アサキは、もし留守中にヴァイスタが出たらどうするのか気になって仕方なかったのだ。
 他の魔法使いが守るから大丈夫だよ、と治奈たちにいわれていたとはいえ、そんな人たち見たことなかったし。

 さっきの、ああいう子たちが代わりに戦ってくれていたんだ。と思うと、少しスッキリした。
 あんなチェケヨロみたいな態度でまともに戦えるのか、という別の問題に対してモヤモヤしてしまいそうだが。

「まあ、そういうことだな。あん時は確か、さっきのあいつらが天三中の全エリアを引き受けてくれたんだっけか。でも、ヴァイスタ一匹くらいしか出なかったらしいけどな」
「それでも感謝だよ。だってヴァイスタから人々を守ってくれたんだもん」

 アサキはぎゅうっと両の拳を握った。
 同じ志の仲間がいることに、ちょっと心楽しい気持ちになって、それでちょっと興奮しているのだ。

「だからさ、それはお互い様なんだってばよ。……つうか正直いっていいかあ?」
「なあに?」
「あたし、あいつら嫌い! アサキも見たろ? ケツに子が付いたり古風な名前のくせに、まあ態度がチャラチャラしててさあ。確かあそこ、全部で十人ちょいの魔法使いがいるんだけど、全員が全員もうなんだかあんな感じなんだよ。うちでいうところの成葉みたいな感じ? 相対しているだけでもう身体中をバリバリ掻きむしりたく……」
「ナルハは、あんなチャラチャラなんかしてないもん! ナルハは、あんなチャラチャラなんかしてないもん! 普通だもん!」

 平家成葉の、まるで幼児のような金切り声が、カズミの声を言葉途中で粉々に砕き吹き飛ばした。

「成葉ちゃあん、声がうるさいよおお!」

 アサキが、いや他のみんなも、

「キーーーンとするけえ」
「鼓膜破れるやろ!」
「音声兵器かお前はあ!」

 酸っぱすぎる梅干しを口に放り込まれたかのような、ぐちゃぐちゃな顔で、両耳を塞いでいる。

「あれ、そもそもなんの話をしてたんだっけか?」
「忘れないでよお、カズミちゃん。さっきの子たちが、合宿の時に交代してくれたって話だよ。そしたらカズミちゃんが、あの子たち嫌いとかいい出して」
「ああ、そうだそうだ。つかアサキがそんなどうでもいい話をするから、その流れでナル坊の怪音波を食らっちまったじゃねえかよ!」
「わたしのせいじゃないよお!」

 などと、カズアサ漫才を延々続けていても仕方ないので、話を進めよう。

 先ほど治奈が説明した通り、チャラい態度の白セーラー服二人は、隣の学区である天王台第二中学校の女子生徒だ。
 彼女らもまた、メンシュヴェルトに所属する魔法使いなのである。

 水色と白のストライプが入った大きなサングラスをかけていて、言動のことごとくがチャラチャラしているのが、リーダーのよろずのぶ

 のほほんほんわか、悩みもなさそうにしているのが、副リーダーのぶんぜんひさだ。

 彼女たちが担当する第二中エリアの半分を、これからの三日間、アサキたち第三中の魔法使いが守ることになるのだ。

 どうしてそうなったかというと、第二中学校のメンバーの中に、家庭の事情でどうしても数日間遠くへ行かなければならない者が出たことがきっかけである。

 中二の姉妹で、抜群の連係が自慢のエース級の存在。チャラチャラ度もエース級らしいが、ともかくその二人が不在となれば頭数の問題以上の戦力大幅ダウンは必至。
 開き直りではないが、ならばいっそ任務を交代してもらい全員でリフレッシュ休暇に当てないか? という話が持ち上がって、自校の校長に申請し、第三中の樋口校長が快諾。

 かくして、第三中学校の魔法使いが、これから数日の間、第二中学校学区の自分たちに近い側半分を受け持つことになり、リーダーと直接会って、引き継ぎに必要な警戒ルールや、出没地点の注意点など話を聞いていたのである。

「それじゃ、あたしらも帰るかYOヨーチェケラッ」

 猫背になってラッパーみたいな指使いをしながら、カズミがくるり踵を返した。

よろずさん、チェケラなんて一回もいったことないじゃろ」
「そう? でもあいついつも、こういう指やるじゃん」
「ああ、ほうじゃね。いわれてみれば」

 治奈もチェケラな指使いを真似してみせた。

「現在わたくしたち全員が一緒にいるうちに、当番や待機の体勢について話し合いをしておきたいですね。アサキさんとウメさんが加わったこともありますし、これまで漠然としていたルールをはっきりさせ、修正しておきましょうか」

 と、おおとりせいが、ゆっくり丁寧な口調で、建設的な提案をした。

「当番?」

 アサキが首を傾げた。

「一時的とはいえ、二つのエリアを守るのは大変です。でも、よその守りを預かるわけですから責任は重大ですよね」
「うん。それはそうだよ」

 正香の正論に、アサキはこくり頷いた。

「でも、よろずたちの時は、無責任にチェケラチェケラやってただけだと思うぜ。たぶん」
「ほじゃから、そがいな言葉一度も聞いたことないじゃろ……あ、ごめん、続けて正香ちゃん」

 治奈は笑ってごまかしながら、どうぞーっと両の手のひらを正香へと差し出した。

「はい。通常の任務は日々のことですし、警戒エリアも狭いので、あまり自らを縛らず臨機応変にやっているところがあるんです」
「アサキ、臨機応変って分かるかあ?」

 カズミが茶々を入れる。
 小馬鹿にされ、ムッとした表情になるアサキであるが、正香がそのまま語り続けようとしているので、慌てて表情を戻して話を聞く。

「でも、よそのエリアを任される以上はそうもいかない。ですから、誰を哨戒任務につかせるか、自宅待機のローテーションはどうするか、などしっかりルールを決めておかないと、なにか起きたときに迅速的確な対応が出来ない」
「ああ、なるほど。だからこれからそれを決めようってことだね」

 アサキは、ポンと手のひらを叩いた。

「はい。上が、そうした行動まで管理するところもあるらしいですが、我々の場合は基本的に自主裁量に委ねられていますので」
「分かった。どこで話し合うの?」
「そんじゃあYOヨー、みんな聞けYO、そこを曲って手賀って少しのとこに、でっけえかっけえ公園あるからYO、そこで話し合いは無し愛とかなにいってんのか分かんなくなっちゃったYO!」

 カズミは、またまた再び踵を返して、指をパチンパチン鳴らしながら公園への道を歩き出した。

「ほじゃからよろずさんたち、ラッパーではないんじゃけど……」

 青空の下、治奈がぼそり虚しい突っ込みを入れたYO。
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