286 / 395
第二十五章 終わりの、終わり
02 飛び交う怒号、苛立ちの声。混乱し、慌てふためく声。
しおりを挟む飛び交う怒号、苛立ちの声。
混乱し、慌てふためく声。
朝空の遥か下である地上では、大勢の人々が右往左往し逃げ惑っている。
ここはリヒトの東京支部。
行き交う多数である白衣を着た男女は、ほぼ間違いなく全員がリヒトの研究員だろう。
スーツ姿の者も、おそらくほとんどはリヒト関係の者だろう。
魔道着姿の女子たちも大勢だ。
今回の至垂捕獲作戦に参加したメンシュヴェルトの魔法使いと、阻止の命を受けたリヒトの魔法使いと、両方であろう。
リヒト所長、至垂徳柳を、捕らえるべく、守るべく、双方それぞれの行動をしていたが、施設が爆発して粉々になるという予期せぬことが起きて、現状把握も目的も分からなくなってしまっているのだ。
と、このような騒ぎの中であるからして、九人の女子がボロボロの格好で棒立ちに立ち尽くしていても、特に目立つものでもなかった。
九人の女子、
メンシュヴェルト東葛エリア、我孫子市天王台の魔法使いが六人。
昭刃和美、明木治奈、文前久子、嘉嶋祥子、天野姉妹。
それと、メンシュヴェルト広作班の三人。
ほんの数分前までは、みな建物の中にいた。
そこにはアサキも至垂もいたが、突然の大爆発に巻き込まれて、気が付けばこの九人だけが、ここに立っていた。
理性の消し飛ぶその前に、とアサキが逃してくれたのだろうか。
それとも、ただの偶然なのだろうか。
九人とも怪我だらけ。酷い見てくれである。
特に広作班リーダーの仁礼寿春など、右腕がない。
全員、防具は粉々に砕け、まともに身を覆っておらず、魔道着も至るところ切り裂かれ、燃え、焦げ、溶け、半裸同然である。
なのに肌の露出を感じさせないのは、無事なところを探すのが難しいほどに傷だらけだからだ。全身が血にまみれているからだ。
疲労感も目立っている。
立ち姿、肩、顔の色、ずっしり重い。
もしまたリヒトの魔法使いとまた戦うことになったとしても、果たして立ち向かおうと思える元気すら、残っているかどうか。
それほどの疲労困憊感が彼女たちからは漂っていた。
立ち尽くす彼女たちの目の前は、変わらず騒々しい。
パニックに逃げ惑う、白衣の者たち。
狼狽え、上層への指示を求めている魔法使いたち。
カズミたち九人は、まだ建物の中での激戦や悲劇が肌に残っているのか、違和感、消失感、ぽかんとした表情で、ただ立ち尽くしている。
そんな中、いち早く我に返ったか、明木治奈が小さくため息を吐いた。
「よかったわ。フミが、ここにおらんで」
フミとは、明木史奈のこと。治奈の妹だ。
「そういや、フミちゃん助けにここへきたんだよな」
そう、カズミのいう通り彼女たちは、誘拐されたまだ小学生の明木史奈を救出するために、ここへやってきたのだ。
その史奈は、別働隊として潜入していた天野姉妹によって救出されている。
メンシュヴェルトとしては、至垂を捕らえて盟友であるリヒトを横暴独裁から解放するという目的があったため、そのまま史奈救出のメンバーを先陣として、作戦を展開。
上層直属チームである広作班を送り込み。
その他の戦力も、続々と送り込むべくここリヒト東京支部へと向かわせた。
だが、至垂への対応をめぐって、仲間割れとも呼べる戦闘に入ってしまう。史奈だけでなく、アサキの義父母までもが人質に取られおり、どうすべきか対立が起きたのだ。
アサキは仲間たちに懇願して無抵抗を貫き、片目を失い、全身を切り刻まれ、四肢ほとんどを切断されるという、生きているのが不思議なくらいの酷たらしい姿になってしまう。
自分の生命に変えても父母や、母から生まれてくる生命を守ろうとしたのだが、その先に待っていたのは、首を切り落とされた両親の姿。
ただアサキを絶望に追い込みたいだけの至垂が、約束など守るはずもなかったのである。
そして、アサキの絶望に満ちた魔力が暴発し、気が付けば、九人はここに立っていたというわけである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる