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第二十六章 夢でないのなら
05 「ここも、リヒトの研究所なんじゃねえの?」薄桃色シ
しおりを挟む「ここも、リヒトの研究所なんじゃねえの?」
薄桃色シャツに、デニムのミニスカート、茶髪ポニーテールの少女が、ベッドに腰を掛けている。
カズミである。
ミニスカートだというのに、構わず持ち上げた片足首を反対の膝に乗っけているものだから、さっきから前に立つアサキは顔を赤らめそわそわしている。
見えてしまいそうなのが、気になって気になって。
カズミは、そんなアサキの態度に、ようやく気が付いたようで、
「べっつに誰もいねえんだからあ。お前もくつろいで、普段みたくガバッて股アおっぴろげて座りゃいいだろ」
「嫌だよ。というか、普段もなにも、やったことないよそんな座り方」
もう。
小声でいいながら、アサキもすぐ隣に腰を下ろした。
膝丈タータンチェックの、プリーツスカート姿で、ぴったりと膝を閉ざして。
必要以上にきつく力を入れて閉じているのは、まあ当て付けというものである。
「ねえ、どうしてここがリヒトの研究所だと思ったの?」
アサキは尋ねる。
「じゃあ他にどこだよ、って話だ。……リヒトの研究所では、キマイラってのを作っていたんだろ? で、まだ信じられねえけど、お前とか、至垂のクソとか、あと、あの戦ったくそ強え魔法使いたちが、そのキマイラだった」
「うん。わたしも、実感があるような、ないようなだけど」
キマイラ。
それは人工臓器を融合させた、新たな生命体である。
アサキは、人型のキマイラとして、リヒトの科学力により生み出されたのである。
人型キマイラの中で、特に魔力係数の高い者を、魔道器と呼ぶ。
アサキは、その魔道器である。
絶望した魔法使いがヴァイスタになる、という説からの発展研究で、将来の超ヴァイスタ化を見越して作られた生物。と考えれば、魔道器であること当然ではあるのだが。
「例えばさ、あたしも、この建物で、キマイラとして作り出されたのかも知れない。お前も、あらためてもう一回。あたしたちやっぱり、あの時に死んでてさ、記憶だけを受け継いでてさ。……さっき指が触れ合った時に、こいつ誰だってお互いに思ったのも、そう考えると納得がいくだろ」
「気持ちの悪いこというの、冗談でもやめて欲しい。話の辻褄は合うよ。でも、わたしたち二人とも、もう死んでいるだなんて、そんなこと考えたくないよ」
「世界を吹っ飛ばそうとしたやつが、よくいうぜ。吹っ飛ばされたら、みんな死ぬだろうが」
「ごめん……」
アサキは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「おい、冗談にいちいち謝るなよ。仕方ない事情なのは、こっちも分かってんだからさあ」
「うん。ごめんね」
「だから謝んなあああああああ! 今度謝ったら、服もパンツもびりっびり再生不可能の職人芸的に細かく引き裂いて、全裸にひん剥いて、落書きしまくって、ちっちぇえオッパイのとこもぐるぐる渦巻き書いて、色々丸見えの恥ずかしい姿勢のまま荒縄で縛り上げて、通路を端から端まで、ごろんごろん転がすからな!」
「え、えーーーっ」
なんでそこまでされなきゃならないのお!
といった、泣き出しそうな情けない表情を浮かべるアサキであるが、それはすぐ笑みへと変わった。
この横暴身勝手に思える言動は、カズミなりの気遣いであって、それがなんとも嬉しかったからだ。
ただし、本当に脱がされ転がされたりもされかねないので、ちょっと不安ではあるけれど。
「しかし、リヒトって、こんな妙ちくりんな建物を作るんだな」
ばたんごろりん、カズミは片膝に足首を乗せたまま、アサキいわく見えちゃうよの姿勢のまま、倒れた。
かと思うと、ばねのごとく反動で、すぐに上体を起こした。
きょろきょろ、室内を見回す。
「しかしセンスねえデザインの部屋だな、リヒトって」
「だからリヒトとは限らないってば」
「じゃあ、さっきあたしがいった、遥か遠い未来の地球じゃねえの? 実際、こんな見たこともねえ部屋の造りだろ。部屋の外もなんか気持ち悪いしさ」
無数の管を、編み合わせて作ったような壁。
天井からは、植物のような、機械装置のような、得体の知れないものが大量にぶら下がっている。
部屋の中央には、巨大な試験管が逆さに床から突き出している。
そして、この部屋の外は、うねうね曲がり伸びる、チューブの中といった感じの通路。
確かに、SF映画の未来世界のようではある。
要するに、現実感と既知感がない。
「そうだね。……そもそもここは、わたしたちのいた世界なのかな」
「ああ……もしかしたらここが『絶対世界』だったりってこと?」
「ないとは、思うけど」
ないと思うというより、あって欲しくないと思う。
神々の世界が、こんなところだなんて。
世界が滅ぶかも知れないリスクを背負ってまで、くるようなところじゃないだろう。
この外になにがあるのか、知らずにいうのも早いけど。
でも、大丈夫だ。
きっと、「絶対世界」なんかじゃない。
この建物の外は、きっと、わたしたちのよく知る世界だ。
みんなのいる、世界。
わたしたちが守った、世界だ。
たち、といっても、わたしは最後の最後で、とんでもないことをしようとしてしまったのだけど。
アサキは、小さなため息を吐いた。
ベッドから、腰を上げた。
「そろそろ、出ようか。……わたしたちを運んだ人が、目覚めたことに気付いてここへくるかな、とも思っていたけど、そんな気配もないし」
「だな。んじゃあ、ちょっくら探検してみっぺ」
こうして再び二人は、こじ開けた扉を潜り抜け、巨大なチューブ状の中を歩き出したのである。
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