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第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
03 身体が、巨大な手に摘まれ引っ張られているかのように
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身体が、巨大な手に摘まれ引っ張られているかのように浮き上がっている。
と思った瞬間には、元いた部屋へと戻っていた。
四人の少女たちは、机と寝台だけの簡素な部屋の中に立っていた。
あまりの唐突さに、アサキ、治奈、カズミの三人は、不思議さに口を半開きにして、きょろきょろしてしまう。
「な、なんか、ワープでもした感じだなあ。夢でも見てたような……」
カズミが、自分の手や足、腕を上げて脇腹などを見たり、身体をぽんぽん叩いている。
あまりの高速移動に、身体が削れていないか気にでもなったのか。
実は陽子電送技術でハエが紛れ込んでたらどうしよう、とかなんとか心配でもしたのか。
「単なる高速昇降です。もう皆さんの身体も感覚も慣れたでしょうから、戻りは速度を抑えなかっただけです」
白い衣装の少女、ヴァイスが説明する。
「へえ、すっげえんだな。つまりこれが、西暦五千年の科学ってわけだ」
いま彼女らの存在する時代は、さらに千八百億年後の未来である。
だが、この超速移動技術が生み出された時代は、カズミのいう通り西暦五千年頃のものだ。
仮想世界の時送りに成功していれば、人類はもっと進んだ技術を手に入れることも出来ていたのかも知れないが。
「西暦だなんてとてつもない大昔、ってことは理解したけど、やっぱあたしらにとっちゃ遥かな未来なんだよなあ。ああもう、頭がこんがらがるな」
難しげな、苦い表情を浮かべるカズミであるが、ふと、難しげな表情のまま首を傾げて、むむと眉を寄せて唸った。
「あれ、そもそもあたしら、なんの話の途中だったんだっけ?」
「わたしたちの、これからすべきことだよ」
赤毛の少女、アサキが答える。
「ああ、そうだった」
「まあ、当面のところは、この現実世界や宇宙を云々というのは後回しじゃろな。まずは、仮想世界を守ること。シュヴァルツが、それを破壊しようと考えておるのなら」
「だな。フミちゃんが生きてることが、分かったんだもんな」
カズミは、治奈の肩を叩いた。
「他のみんなもじゃ! だって、世界は、あったんじゃから」
「ごめんごめん。でもよ、この世界であたしたちが頑張って、あいつらからあたしたちの地球を守り抜いて……それでどうなるんだろうな? あ、いや、もちろん守るけれども、その先に、なにがあるのかって話でな」
カズミは、難しそうな顔で頭を掻いた。
「なにかが、出来るはずなんです。あなたたち二人はともかくとして、アサキさんさえいれば」
というブロンド髪の少女の言葉に、カズミはつまらなそうにふんと鼻を鳴らした。
「栗毛ぇ、てめえは、ほんっと人の気持ちの機微が分かんねえやつだな。事実だろうと正直にいやあいいってもんじゃねえだろが」
「すみません、悪気はないのですが」
栗毛、白衣装の少女ヴァイスは小さく頭を下げた。
「とりあえずあたしらを持ち上げときゃあ、アサキがビビったりむずがったりしても、あたしらがおだててその気にさせたりとか、してやれるってもんだろ」
「承知しました」
インプット完了。ブロンド髪の少女は、小さく頷いた。
「そ、そんな、おだててその気に、とか。……必要なことなら、やらなきゃならないことなら、やるよ。わたしに、そんな力があるかなんて、分からないし……いまは、ちょっと……元気が、出ないけど」
ふう、
赤毛の少女は、弱々しい顔で、弱々しいため息を吐いた。
先ほど、義理の両親を思い出して大泣きをしたが、まだその気持ちがまったくおさまっていないのだ。
気持ちの整理が、まったくついていないのだ。
「ところでヴァイス、ふと思ったんだけど」
カズミは不意に、ヴァイスへと声を掛けた。
「なんでしょうか、カズミさん」
「あのさ、死んだ人間を生き返らすことって、出来ないのかな?」
もちろん仮想世界の、であろう。
定義にもよるが、生きている人間などこの人工惑星上にはいない。それどころか、おそらくこの宇宙上にも存在していないのだから。
アサキの気持ちを察しての、質問か。
もとから、尋ねようとしていたことなのか。
「出来ません」
いずれにしても、瞬間的に突っぱねられたが。
「魔法であれ無理です。仮に可能であるとして、それは、あなたたちにとっての『本当の世界』を否定することになりませんか?」
その言は一理、いや一理以上にあるだろう。
簡単に死者が蘇っていては、それこそゲームの世界である。
生命の価値がない世界になってしまう。
「なんだよ、残念」
カズミは、小さな舌打ちをした。
予想通りと思ったか、あまり落胆もない様子ではあるが。
「ありがとう、カズミちゃん」
アサキはカズミの質問を自分への気遣いと捉えて、心から礼をいった。ちょっとぎこちないかも知れないけれど、本心からの笑みを浮かべた。
「な、なんだよ急に」
「わたしが修一くんたちのことで落ち込んでいるから、そういうこと聞いてくれたんでしょう?」
「バカ、違うよ! スカートめくるぞ!」
「でも確かに、生き返れないというのは当然かも知れないね」
だからこそ、現実なんだよ。
もしもそれが自由にかなったら、世の中はきっと、とんでもないことになってしまう。
常識的に考えてもそうだし、それに、ヴァイスちゃんのいう「設定」を途中で覆したことにより、世界にどんな影響が出るかも分からない。
家族が死んで悲しいのは、わたしだけじゃない。
生きている者が、そこから一歩を踏めるかだ。
でも……
それじゃあウメちゃんがこの「絶対世界」にきたとしても、雲音ちゃんの魂を蘇らせることは出来なかった、ということか。
次の地球にまた生まれて、とかならばともかく。
でもそれはもう、別の人間だ。
雲音ちゃんは、もう、蘇らない。
ウメちゃんも……
悲し過ぎだ。
あまりにも報いが、なさ過ぎだ。
救いが、なさ過ぎた。
慶賀応芽の顔が脳裏に浮かび、一緒に活動したあれこれが浮かび、またアサキは元気なく俯いてしまっていた。
く、
と呻くと、ぼろっ、ぼろっ、左右の頬を、涙が伝い落ちていた。
と思った瞬間には、元いた部屋へと戻っていた。
四人の少女たちは、机と寝台だけの簡素な部屋の中に立っていた。
あまりの唐突さに、アサキ、治奈、カズミの三人は、不思議さに口を半開きにして、きょろきょろしてしまう。
「な、なんか、ワープでもした感じだなあ。夢でも見てたような……」
カズミが、自分の手や足、腕を上げて脇腹などを見たり、身体をぽんぽん叩いている。
あまりの高速移動に、身体が削れていないか気にでもなったのか。
実は陽子電送技術でハエが紛れ込んでたらどうしよう、とかなんとか心配でもしたのか。
「単なる高速昇降です。もう皆さんの身体も感覚も慣れたでしょうから、戻りは速度を抑えなかっただけです」
白い衣装の少女、ヴァイスが説明する。
「へえ、すっげえんだな。つまりこれが、西暦五千年の科学ってわけだ」
いま彼女らの存在する時代は、さらに千八百億年後の未来である。
だが、この超速移動技術が生み出された時代は、カズミのいう通り西暦五千年頃のものだ。
仮想世界の時送りに成功していれば、人類はもっと進んだ技術を手に入れることも出来ていたのかも知れないが。
「西暦だなんてとてつもない大昔、ってことは理解したけど、やっぱあたしらにとっちゃ遥かな未来なんだよなあ。ああもう、頭がこんがらがるな」
難しげな、苦い表情を浮かべるカズミであるが、ふと、難しげな表情のまま首を傾げて、むむと眉を寄せて唸った。
「あれ、そもそもあたしら、なんの話の途中だったんだっけ?」
「わたしたちの、これからすべきことだよ」
赤毛の少女、アサキが答える。
「ああ、そうだった」
「まあ、当面のところは、この現実世界や宇宙を云々というのは後回しじゃろな。まずは、仮想世界を守ること。シュヴァルツが、それを破壊しようと考えておるのなら」
「だな。フミちゃんが生きてることが、分かったんだもんな」
カズミは、治奈の肩を叩いた。
「他のみんなもじゃ! だって、世界は、あったんじゃから」
「ごめんごめん。でもよ、この世界であたしたちが頑張って、あいつらからあたしたちの地球を守り抜いて……それでどうなるんだろうな? あ、いや、もちろん守るけれども、その先に、なにがあるのかって話でな」
カズミは、難しそうな顔で頭を掻いた。
「なにかが、出来るはずなんです。あなたたち二人はともかくとして、アサキさんさえいれば」
というブロンド髪の少女の言葉に、カズミはつまらなそうにふんと鼻を鳴らした。
「栗毛ぇ、てめえは、ほんっと人の気持ちの機微が分かんねえやつだな。事実だろうと正直にいやあいいってもんじゃねえだろが」
「すみません、悪気はないのですが」
栗毛、白衣装の少女ヴァイスは小さく頭を下げた。
「とりあえずあたしらを持ち上げときゃあ、アサキがビビったりむずがったりしても、あたしらがおだててその気にさせたりとか、してやれるってもんだろ」
「承知しました」
インプット完了。ブロンド髪の少女は、小さく頷いた。
「そ、そんな、おだててその気に、とか。……必要なことなら、やらなきゃならないことなら、やるよ。わたしに、そんな力があるかなんて、分からないし……いまは、ちょっと……元気が、出ないけど」
ふう、
赤毛の少女は、弱々しい顔で、弱々しいため息を吐いた。
先ほど、義理の両親を思い出して大泣きをしたが、まだその気持ちがまったくおさまっていないのだ。
気持ちの整理が、まったくついていないのだ。
「ところでヴァイス、ふと思ったんだけど」
カズミは不意に、ヴァイスへと声を掛けた。
「なんでしょうか、カズミさん」
「あのさ、死んだ人間を生き返らすことって、出来ないのかな?」
もちろん仮想世界の、であろう。
定義にもよるが、生きている人間などこの人工惑星上にはいない。それどころか、おそらくこの宇宙上にも存在していないのだから。
アサキの気持ちを察しての、質問か。
もとから、尋ねようとしていたことなのか。
「出来ません」
いずれにしても、瞬間的に突っぱねられたが。
「魔法であれ無理です。仮に可能であるとして、それは、あなたたちにとっての『本当の世界』を否定することになりませんか?」
その言は一理、いや一理以上にあるだろう。
簡単に死者が蘇っていては、それこそゲームの世界である。
生命の価値がない世界になってしまう。
「なんだよ、残念」
カズミは、小さな舌打ちをした。
予想通りと思ったか、あまり落胆もない様子ではあるが。
「ありがとう、カズミちゃん」
アサキはカズミの質問を自分への気遣いと捉えて、心から礼をいった。ちょっとぎこちないかも知れないけれど、本心からの笑みを浮かべた。
「な、なんだよ急に」
「わたしが修一くんたちのことで落ち込んでいるから、そういうこと聞いてくれたんでしょう?」
「バカ、違うよ! スカートめくるぞ!」
「でも確かに、生き返れないというのは当然かも知れないね」
だからこそ、現実なんだよ。
もしもそれが自由にかなったら、世の中はきっと、とんでもないことになってしまう。
常識的に考えてもそうだし、それに、ヴァイスちゃんのいう「設定」を途中で覆したことにより、世界にどんな影響が出るかも分からない。
家族が死んで悲しいのは、わたしだけじゃない。
生きている者が、そこから一歩を踏めるかだ。
でも……
それじゃあウメちゃんがこの「絶対世界」にきたとしても、雲音ちゃんの魂を蘇らせることは出来なかった、ということか。
次の地球にまた生まれて、とかならばともかく。
でもそれはもう、別の人間だ。
雲音ちゃんは、もう、蘇らない。
ウメちゃんも……
悲し過ぎだ。
あまりにも報いが、なさ過ぎだ。
救いが、なさ過ぎた。
慶賀応芽の顔が脳裏に浮かび、一緒に活動したあれこれが浮かび、またアサキは元気なく俯いてしまっていた。
く、
と呻くと、ぼろっ、ぼろっ、左右の頬を、涙が伝い落ちていた。
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