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妻の一日

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 妻の1日は早いです。
 あの人が起きる前に起きて、軽い朝食を作ります。
 いつもはフレークなのだけれど、今日は職場の管理職が集まる大事な会議があるそうなので、あの人の大好きな卵とウィンナーを用意して見ました。
 スクランブルエッグと、こんがり美味しそうなウィンナー。
 少しのサラダを用意して、少量のパンと牛乳。
「よし、完成」
 朝食を用意した後は愛しの旦那様の起床です。
 これがまた大変で。

「あなた~?ご飯ができたわよー?」
「んー」
「あらあら」

 声をかけながら寝室に入ると、愛しの旦那様はあられもない姿ですやすやと寝息を立てて。
「これは、また手間取りそうねぇ」
 少しだけ大変そうですが、私はめげないのです。

 数十分後。

 ようやく起こせました。
 けれど眠っているところを起こされて、あの人はとんでもなく不機嫌。
 低血圧の人を朝無理やり起こすととても大変だから、普通の人はしちゃダメよ?
 私ったら誰に言ってるのかしらね?
「ご飯はもうできてるわよ?」
「んー」
「ワイシャツもアイロン済み、新しいネクタイは一緒にかけてあるから、着てってちょうだいね」
「ん、ありがと」
 ふふ。不機嫌でもお礼はきちんと言ってくれるのよね。
「どういたしまして」
 もうほんとこういうところ好きだわ。
「ミキ、朝ごはんは?」
「え?私は後でいいわ?まだ少しやることが」
「怒るよ」
 あら、これは。いつものかしら。
「大丈夫よ、後できちんと食べるかr」
「一緒に、食べる、譲らない」
 ぁぁもうほんとにこの人は。
 そんなこと言われたら逆らえないじゃないの。
「わかった、じゃあ一緒に食べましょうね」
「うん」
 あ、少し頬が緩んだ。
 朝からもだえがとまらないのだけれどどうしてくれましょうか?

 食事が終わったら、少しくつろいで、すぐにお仕事のお見送り。
 ワイシャツを持ってきて、カバンを持って玄関へ。
「気をつけて行ってきてね」
「うん」
「今日は遅くなりそう?」
「どうだろう。仕事量次第だけど、早く帰れると思う」
「そう、よかったわ。お夕飯はなにが食べたい?」
「何でもいいよ?」
 もう、またこの人は。
 お夕飯のメニューを聴くといつもこういうんだから。
「それが一番困るのっ」
 好きなものとか食べたいものとかね?あるじゃない?
「じゃあ、、、。ミキが食べたいもの」
 もう、またそんなこと言って。
 まぁ、いいわ。私の食べたいものは、二人で美味しく食べられるものだもの。
「わかった。じゃあ今日はハンバーグにしましょうか。野菜がいい?お肉がいい?」
「お肉」
 即答ですか。本当にお肉が好きなのねぇ。
 今日はお肉と野菜のハンバーグにしましょ。
「わかった。美味しいハンバーグを作って待ってるわ」
「じゃあ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい。お気をつけて」
「はーい」
 そんなちょっとのんびりした返事をして、あの人はドアを開けて仕事に向かう。
 扉が閉まるその瞬間まで見つめてしまうのは、ちょっとばかりの寂しさの表れだったりするのだけれど。
 あの人には、ないしょ。
「さて、働きますよー」

 旦那様の出勤を見送った後は、洗濯物を洗い、その間に食器を洗います。
 洗い物の数が少なければ、しまうところまでやってしまって、ちょっと休憩。
 洗濯物を干した後はお昼までのんびりタイム。
 趣味をしたりニュースを見たり、最近好きになったドラマを見たりして過ごすの。
「今日はお絵かきでもしようかしら」
 お昼ご飯を食べた後は軽いお掃除。
 お夕食の買い物を済ませて帰宅。
 干していた洗濯物を取り込んで、たたんでしまった後はティータイム。
 この日は美味しいクッキーをいただいたので、美味しい紅茶と一緒にいただきます。

『、、、ということで大瀧さん。最近こう行った事件が多いですが、どう思いますか?』
『この手の事件はとても繊細です。手を打とうにも、なにかしらの対策をした矢先にこのような事件が起こってしまっては、政府も手の打ちようが、、、』

「最近、デリケートな事件が多いのね。怖いわ。あの人は大丈夫かしら?」
 紅茶を飲んだ後は時計を確認し、お風呂を洗って置きます。
 時間があればお裁縫やお絵かきなどで時間を潰し、夕方から夜にかけてお夕食の準備をするの。
「さて、今日はちょっとだけ頑張るわよー?」
 ご飯を炊いて、お鍋に出汁を沸かして少し考える。
「スープはコンソメにするとして、卵かしら?玉ねぎかしら?」
 卵もいいけれど、そろそろ玉ねぎも使わないといけないし、迷うわねぇ。
 確かオニオンスープの方が好きだったような?
「よし、玉ねぎにしましょう」
 玉ねぎを出して下ごしらえの後にスライスして、お鍋に入れる。
 その間にお肉を用意して。

 下ごしらえが終わってお肉を焼こうという時に旦那様の帰宅。

「ただーいま」
「おかえりなさい」
 フライパンの様子を見ながら一度火を止め、お出迎えです。
 カバンを受け取って、上着を受け取って。
「お疲れ様ね。今日はどうでした?」
「うん、普通だったかな。あ、でもいつもより少し大変だったかもしれない」
 あら、少し気落ちした顔?
 何かあったのかしら?
「何か、あったの?」
「んー、まぁ。社長と会長が、ちょっとね」
「叔父様とお父様?」
「うん。何というか、大変だったよ。ハハ」
 これは、この雰囲気は聞いてはいけない話、というものかしらね。
 そっとして置きましょう。
「ご飯はもう直ぐできるけれど、ごめんなさい、もう少しかかりそうなの」
「いいよ全然、そんな急がなくても」
「ありがとう。できたら直ぐに呼ぶわ。それまでゆっくりしてて大丈夫よ」
「ミキ」
 あら?いつもより明るい声?
「はあい?」
 ふふ。この声で呼ばれるのは私、とても好きなの。
「いつもありがとう。色々やってもらって済まないね」
 あら、これは嬉しいご褒美だわ。
 言葉だけでなく頭を撫でてもらえるなんて。
 ふふ。やっぱり幸せ者ね、私。
「いいの。気にしないで?私は好きでやってるの。でも、そう行ってもらえると、とても嬉しいわ。こちらこそありがとう」
「好きだよ」
「あら、愛してるとは言ってくれないのね?」
「もちろん愛してる」
「私もよ。愛してるわ」
 これは、勝てないわねぇ。
 本当にこの人は。
 言葉の全てに、行動の全てに、私はどれほど落ちればいいのでしょう。
 今だって、これ以上にないくらいの愛おしさと幸福感を感じてしまっていて、死んでも構わないくらいだわ。
 あなたが好きよ。私の旦那様。
 そばに居られることがどれほど嬉しいか、あなたは知っているのかしら。
 あなたの声に、表情に、気配り一つにさえキュンとしてしまうから、時々結婚したことを後悔する時があるの。
 だって、本当に身が持ちそうにないんだもの。

 今日も今日とて、私はこの人に勝てる気はしないまま、1日が終わっていくのね。
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