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第二章 封印の書

第二十四話 氷の魔剣士

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「何!」

GIGIGII!

何と剣と槍が噛み合い、刃じりを合わせているではないか!
「チッ!」
変わった剣を持った青年はそう吐き捨て、負けじとその剣でデビルライトランスを押し返した。
メドゥサは、行き成りのことで驚いて力の反作用で後ろに跳ねて飛びのく。
「何奴!」
「…………。」
青年は黙ったまま、何も答えようとしない。
キュラ、エリュー、テアフレナなど、一同が面食らった。
魔剣イフリートが共鳴している。キュラがそれをまたみやった。
沈黙がはしり、口を閉ざしている。

「その剣から発する魔闘気は? まさかッ、氷の魔剣ッ!」
メドゥサは眼(め)が見えないが、剣から発せられるオーラで感知し、知ったようにいう。
「氷の魔剣!」
エリュー声を出して、後方で驚きの色を隠せなかった。
「チッ、バレちゃぁ、仕方ないな。ご名答、いかにも、氷の魔剣アイスブレイカーだ!」
「魔剣アイスブレイカー!」
キュラは、後方でそういい驚嘆した。

「大丈夫か! 二人共、下がってな!」
後ろを振り向き二人に注意深く青年は一瞥しながらいった。
「……」
しばらく間を置いて、メドゥサの方を向き直り、青年は強く睨み付けた。
そして、重苦しく閉ざしていた口を開いた。
「剣をまじえた瞬間判った……。お前は俺に勝てない。在るのは、地獄行きだ。いますぐこの手で殺してやる!」
青年は、剣の切っ先をメドゥサに真っすぐ掲げながら向け、半身になり同時に左手(ゆんで)で地面と平行に一直線に首を斬るジェスチャーをした。
「フフン、面白いことをいうな、小僧よ、眼(め)が見えないからといって、このメドゥサ、己に負けることなど、有り得んわ。今のセリフそっくりそのまま、このデビルライトランスで返してくれるわ!」
「はぁ!」
メドゥサは魔闘気を身体から噴出し、青年に向かって、高速に飛び直進して行く!
青年も同時に動いた。
「『氷闘気(アイスレヴィラスタ)!』はぁぁぁぁッ!」
青年から魔闘気が出た!
青年の青い目が光る。
宙を飛びながら、その模様を見たメドゥサは、関係なしに怒涛の波となって炯炯(けいけい)と眼光を放ち、更に加速し突っ込んでくる。
「死ネエェェェェェ!」
デビルライトランスにオーラを加え大振りに上から薙いだ!
刃(やいば)が一閃する!
「どうした、そんなものか?」
青年は、左手(ゆんで)でデビルライトランスの大の刃を挟み受け止めた。
何とあれだけのメドゥサの一撃を素手で、しかもメドゥサの闘気(オーラ)付きを軽く手が震えることなく凝(じ)っと受け止めているではないかッ!
「グッ、ググッ、パワー負けしてるだと! まさかッ、こんなはずがッ! グッ、グッ、グググッ! こんなはずがぁぁッ!」
メドゥサは身体を揺らし空中で足掻き、デビルライトランスを青年の方からひいたり、前に突き出すような素振りを必死でする。

しかし、全くといっていいほど、青年が受け止めた手は揺れることもなく、震えることもなく、まるで、その位置で硬直しているようだった。
あの冷静なメドゥサが、少しずつ表情に焦りを見せ出す。
次の瞬間、青年は疾風迅雷のように凄まじいスピードで動いた!
「うらぁ!」

DOSUU!

「ぐはぁぁあぁぁぁッ!」
メドゥサは迎撃され、血反吐(ちへど)を吐いた。
鮮やかに青年のパンチがメドゥサの腹部にめり込んでいた!
その場にいる誰もが、息を呑んだ。
腹部を突き破るように打たれ、メドゥサはもたつき数歩後ろにパンチの衝撃で吹っ飛んだ。
岩石が一緒に壊れガタガタと辺りに崩れ去った。
「つ、強い!」
それを目の当たりにしたエリューはそう口にし、余りの速い展開に驚き唖然なっていた。
「こんなはずがぁッ! こんなはずがぁぁぁぁッ!」
メドゥサはすぐさま、ムクッと倒れた場所から勢い良く立ち上がり両手を曲げ、混乱し表情を一変させた。
ダメージは免れない。
血管がハチキレそうになり、焦りの色で冷静さを失い逆上し、大きく咆哮を上げた。
 そのときだった。
「一撃であの世(よ)に送ってやる!」
氷の魔剣がどこともなく消えた。
青年は右手の氷の紋章を蒼白く光らせた。
凍てつく冷気を感じる。
そして、両手に氷のエネルギーを集中させて無我夢中に複雑な技に対する陣容の手さばきを取り、次の瞬間、それは発動した!

「『氷竜破(ブリザードドラゴン)!』」
青年の手から氷の竜が口を開き、ものすごい速さで凄いウェーブがかかり、波動となり、メドゥサに向けて発せられた!
「こんなものぉぉぉぉッ!」
真正面から『氷竜破(ブリザードドラゴン)』の波流を受け、弾き返そうと必死に手を前に出し抵抗する。
受けながら氷の冷気を散らし、空中を旋回し舞う。
 しかし、メドゥサにこれを返せるだけの力はなかった。動揺しきっていた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
次の瞬間、それがメドゥサの最期の断末魔となっていた。
力尽き果て弾き返せなかった末に氷の波動を諸に受け、動作が弾き返そうとするそのままで全身、時が止まったかのように、全てがカチカチに凍っていた。
青年の手元にどこかに消えていた氷の魔剣が現れ、それを佩剣(はいけん)し瞬時に凍って、口も開くこともない、死んだはずのメドゥサに向かって動いた。
「とどめだぁッ!」

GICHUUIIIIIINN!

次の瞬間、メドゥサが凍っていた大きい氷の巨魁が首筋で斜めにズレ、メドゥサの首が真っ二つに切断され吹っ飛んだ。
そしてそれは、ガタンと氷と氷の摩擦面を滑らせ地面にズレ落ちた。
青年は続けざまに魔剣の切っ先を掲げ動いた。
「うらぁッ!」

KYUUUUUUNN!

青年は雄叫びを上げ、同時にメドゥサの胴体が何重にも斬られ、凍った氷に、斜めに線が切り刻まれた。
メドゥサの凍った身体は、氷ごと幾重にもきられ分断され、あちこちに四散し地面に落ち崩れ去った。
次の瞬間、メドゥサの頭だけが氷ごとどこかに消えた。
 一体なにが起こったのだ。
「消えたッ!」
青年は一丸となって素早く消えた方を睨み返した。

「チッ、しまった! くそぅ、逃がしたかッ!」
青年は悔しそうに舌打ちし、瞬時に右手の紋章を顔の前辺りに持って来て蒼白く光らせた!
次の瞬間!
「紋章光! 『氷封印呪(アイスロック)!』」
青年の手が光り、氷のまま、凍って分断されたメドゥサの胴体とおぼしき全てに氷の紋章が現れ、薄く蒼白く光り、紋章が全てに映し出され、まるで封をするように氷の紋章が固まった氷のうちに秘めるように入り、輝きが内蔵するように消えた。

「魔界の伝承通り奴が不死身なら、メドゥサがいかに不死身であれど、氷(アイスレヴィ)の紋章光で俺が氷に、個々で封印してある以上、絶対に復活は不可能だ!」
「でも、溶けるんじゃ?」
近くにいたエリューが目に映った猜疑心をむき出しにしてヒョウに投げ掛けた。
「……イイや、この氷は絶対に溶けない。氷の魔神アイスレヴィの魔力を要したいて付く魔の氷だからな。俺が死ぬ以外、解除方法はない。頭だけが異界に逃げようと包まれた氷は絶対に砕けはしない」
「さっきはどうもありがとうございます。あ、あなたは?」
少し恥ずかしそうに手を前で重ね、ぺこりとお辞儀しながらてエリューは青年に訊いた。
「……名乗るほどでもないが……、氷の魔剣士ヒョウ、ヒョウ・コールドレオンだ!」
ヒョウは水色の髪に蒼い目、腰の後ろに短剣を装備し、左手には機械式のナイフのようなものがついていた。マントを羽織っていた。
そのときだった。

VINVIN!

「…………!」
氷の魔剣が何かと共鳴している。
手から直にエネルギーを感じて気付き、ヒョウは共鳴している方に魔剣を携え歩み寄って行く。
すぐ後ろではエリューがファイの石の欠片を何個も拾って集め、亡骸となった異形のファイの石を握りしめ、立ち竦み、屈(かが)み込んで顔を落とし、ポタポタ涙を流している。

ヒョウはそれにきづき、その様子を一瞥した。
魔剣が近くにあることに、ヒョウは共鳴して気が付いた。
メドゥサを倒し、テアフレナ、アザレ、レイティス、イーミ姫さまたちもエリューに近寄ってきた。みな、顔を落としている。レイティスも涙ぐんでいた。騎士学校時代からの唯一の友達だったからだ。
ヒョウが驚いて言葉を発した。
「……これは炎の魔剣イフリートッ! そうか、俺がここに引き寄せられたのも、この魔剣同士で共鳴していたからなんだな!」
ヒョウは不敵な笑みを浮かべ、魔剣の前で足をとめた。石を拾い集め、泣いているエリューを見て、声をかけた。

「一体、どうしたんだ?」
ヒョウは少し前屈みでヒヤリと不敵な表情を浮かべ、気持ちを察し、問うた。
近寄ってきた、テアフレナたちの顔色を見ても、誰かが死んだのはヒョウにもわかっていた。
「わ、私の所為でファイ様が石に……」
感極まって、声涙しエリューは悲しそうにいった。
すると、歩み寄って来たイーミ姫様がなだめるようにエリューの肩に手を置き、語り掛けた。
「エリュー、あなたの所為じゃないわ」
「イーミ姫さま!」
「(イーミ姫?)」
 ヒョウはその名前をきいて、怪訝な顔つきをした。もしやと思った。
 しかし、信じれなかったのは事実だった。こんなところにソレイユの王位継承者がいるはずがないと。
「大丈夫よ、エリュー。きっと、ファイを元に戻してみせるわ。私の解石化(かいせきか)魔法(まほう)、全般的な身体異常を回復させることができる、今から唱えるこの魔法でね!」
そう、なだめるようにエリューに言うと、イーミ姫はファイの亡骸の石に手を掛け、手に光りが集束して行く!




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