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第五章 古代から生き永らえたもの

第六十六話 獣人の力

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「ほぅ、面白い、人白豹(ワージャガー)か」
ギラりと睨みつけ、デカラビアは不敵な笑みを浮かべながら言った。
レギンは、その挑発にも動じなかった。豹神そのものだった。
そして、イーミ姫さまの方を向き直った。
「ソレイユって言う所をみると、貴方様はソレイユの王位後継者イーミ姫様だな、こんな所で会えるとは思わなかったぜ、無礼をすまんな」
今までのことを不憫に想ったのか、レギンは軽く一礼をしながら、イーミ姫に言った。
イーミ姫さまは全然いいよ、というような素振りで、困った顔でジェスチャーを手で返した。
その時だった。状況が一変した。
「グヌヌ、化物め、パワーで勝てると思うな、筋鋼魔鎧力!」
リビコッコにオーラが集中し、なくなった左手から、何かドロッとした黒い肉片のようなものが現れて何かを象っていく。
「な、何、馬鹿な、砕けた左手が、再生しただと?」
ヒョウが垣間見て、悔しそうに舌打ちした。
「小僧よ、確かに砕けて、左手はないわ。だが、この技は、身体を鋼と化し、身体の異常を修復することが出来るのじゃよ」
リビコッコは術で修復した左手を握り、不敵な笑みを見せた。
その、気迫からは瘴気を感じた。
全員、戦闘態勢に入った。身構え次の攻撃に構えた。
エリューやテアフレナ、キュラたちもファイの後ろで構え直した。
ファイが、間合いを詰めるようにジリリと歩を歩ませる。
「(左手の色が違う、なるほど、鋼製の手ってわけか)」
ファイが、ニヤリと思索し、笑みを浮かべた。
「(リビコッコめ、さっきの一発で、強敵と悟ったな。もう、鋼の鎧を使いよった)」
デカラビアが、考察し、間合いを詰めだした。
何かを狙っているような鋭い視線だ。
続け様にレギンが口火を切った。
「化物は、テメェじゃネーか、サムソン村長の仇、こい、コテンパンにのしてやる!」
レギンが雄叫びと同時に右手でこいと、挑発のポーズを取った。
リビコッコがそれに対して憤慨するのは目に見えていた。
「ワレを甘く見るなぁッ」
レギンとリビコッコが地を蹴った。二人の間合いが狭まり、ぶつかった。
「グググ!」
「ふんぬぅ!」
両手で掴み合い、押し合いになった。
二人の気迫とそのぶつかり合う力で地盤が軋み、亀裂が入った。足が減り込んでいく。双方とも譲らず、互いに自身の自慢の力で押し合うが、だが、力比べはレギンが一枚上手だった。
レギンが思いっきり、力を出し、リビコッコの強力な力に負けず、いとも簡単に、背が曲がるくらいに押し返していく。その時だった。
「おらぁ!」
「ぐがぁ! (こいつ、何て、重いパンチだ!)」
急に、レギンが押し合いをしていた手を話し、凄いスピードでリビコッコの顔面に強烈なパンチをお見舞いした。
リビコッコの顔が歪み、リビコッコは打たれた顔面を手で押さえ、そのパンチの威力に方膝をついた。
完全に動揺していた。
「どうした、立てよ、フラッとしたか? 力、比べは、負けないぞ。さっきまでの勢いはどうした、デカ物!」
「己ぃ、虚仮にしおって! 殺してくれるわぁぁッ!」
リビコッコはレギンの言葉に憤慨し、血を上らせて、闘気を剥き出しにした。凄まじい闘気で空間にズレが生じた。
雄叫びを上げた瞬間、構え直し、再び戦闘態勢に入った。
面子がその様子を固唾を呑んでみていた。
「凄いじゃネーか、ヒョウが傷を負わされた、あのデカ物とパワーが互角だ」
ファイがビックリした面持ちで言った。隣にヒョウがいた。
「いや、押し合いを見てもそうだが、レギンさんのパワーはそれ以上かもしれない! それに、まだ余裕がある」
「さぁて、俺たちも加勢するかッ」
ファイとヒョウは魔剣を構えて、リビコッコのいる方に、瞬速移動しようとした。
その時だった。
どこからともなく、瘴気と共に威圧感を察知した。
「フフフ、待て、お前達。三対一では、幾らリビコッコでも、分が悪いではないか? 我がお前達の相手をしてやるわ、今度は逃さんぞッ!」
デカラビアが、二人が気付かない間に、真正面に移動してきていた。
ファイたちに、緊迫感が走り、動きを止め、魔剣で間合いを計り、構えて威圧した。
「クッ、確かデカラビアとか言ったな、俺がお前を仕留めてやる、こい!」
ヒョウが、負けじと言い返す。魔剣の段平をぎらつかせた。
だが、デカラビアは動揺することもなかった。魔剣士二人相手にしても、余裕だった。
「言葉遣いに気を付けるんだな、小僧! 望むところだ! 白骨死体にしてやるわぁッ!」
デカラビアは突出し、突貫しようとした。ヒョウに真正面から向かってくる。
獰悪な声で吠えると、ギロリと鋭い眼光を照らし、睨み返した。
ヒョウは答えることもなく、不敵に笑った。その矢先だった。
計算していたように魔剣に氷の魔闘気が集っていく。
「アイスザンバー!」
間合いを見計らい、ヒョウの技が真正面から向かってきていたデカラビアに飛んだ。
氷の刃靭が空間を斬るように瞬速に伸びて、剣筋がチリチリと氷粉を上げ、一閃した。デカラビアに直撃しようとした。直撃すれば、身体ごと丸氷だ。
だが、相手にも可也のスピードがあった。
「(氷の刃か)何のぉ!」
デカラビアは、声高にいうと同時に当たる直前で上手いこと身を翻し、躱した。
いとも簡単に避ける。
ヒョウは、それを一瞥すると、悔しそうな表情で舌打ちした。
ファイたちにも動揺が走った。デカラビアの実力はまだ、不明だったからだ。
真価が出た。スピードは可也の物だった。得体の知れない実力に緊迫感が犇いた。
「始まったわね」
「私も魔法で!」
イーミ姫さまが懸念した声でいうと、エリューが腕を捲り、杖を片手に一歩足を踏み出し、魔法の詠唱に入る。
次の瞬間、事態は一触即発した。





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