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第八章 堕天使レビが遺したもの

第九十九話 悪魔虫鬼族

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「もうすぐ、ストーム山脈を越せるわ」
 姫様は記憶移動魔法を詠唱しつづけ、フレイア都市からストーム山脈の奥地まで飛んできていた。皆は少し疲れがとれたのか、やわらいだ表情をしていたり、和んだりしている。

 テアフレナが気を遣ってきた。
「姫様、いつでも代わりますよ」

「テアフレナ大丈夫よ」
 姫様がいったそのときだった。

「みんな、左右に振れ!」
 ファイが隣にいたエリューを後ろに突き飛ばし、その場にいたものが記憶移動魔法の詠唱内の左右に散った。
 一瞬だった。無数の何かが真ん中から、記憶移動魔法を貫通していった。

「な、なに、四次元光が! きゃー」
 記憶移動魔法を制御している四次元光が寸断され、魔法が飛散し、全員が空中に投げ出された。この状況で飛べるものは限られていた。飛べないものは助かる見込みはない。

 ファイの目の前を長い針のようなものが通って行った。
 後少し顔を前に出していれば、顔が串刺しになっていた。
「なんだ、この光る針みたいなのは!」
 ファイとヒョウは目で合図をすると、紋章を同時に光らせ、宙を飛んだ。

「どうやら、奴さんのお出ましのようだ」
 ヒョウの顔つきが鋭くなった。皆に、緊迫感が犇めく。
「ファイ!」
「おう、わかってら」
 ファイとヒョウは、宙を駆け、両手に担げるだけの人数を手に抱えた。
 エリューも飛翔魔法でとんでいた。
 そして、あの巨体のレギンを両手でどうにかぶら下げていた。
 高度がゆっくり下がっていく。

「うー、レギンさん重過ぎです」
「すまぬな、嬢ちゃん。これだけはどうにもならねーぜ」
 ニミュエは一瞬、気が飛んでいた。
 羽が生えてるからか、ファイは近くにいたが、飛べない人を優先して助けなかった。
 気が飛んで、すぐにニミュエは目が覚めた。
 落ちていく現状に気が付いた。
「キャー落ちる、て、あたしそういや、羽根が生えてたんだ」
「落ちるぅどん!」
 ニミュエの目の前を鎧猫、ボンが舞い落ちて行った。
 それをニミュエは渋々、掴んで持った。

「もう、ほんとにあんた猫でしょ、空中回転くらいしなさいよ、きゃーおもーい」
 高度がどんどん下がっていく。支えきれない。
「鎧が重くてできないダス。ありがとダス。後で食べ物ごちそうするどん」

 ファイが飛びながら言い寄ってきた。
「ニミュエ、みんな無事か!」
「うん、なんとか」
 ニミュエが笑顔で返すと、ウィードと敵が対峙していた。
「く、何奴!」

「ウィード、小細工をしおって。どうりですんなりレビ記を渡すと思ったわ」
「くそ、後少しってところで、魔族か」
「気づいたか」
 ヒョウがぼそりと重厚な声で言うと、フォライーはニヤリと不敵な笑みを見せた。

「破れたページをよこせ、そうすればすんなり退いてやる」
「断る。お前にやるものなどない。もう、捨てて燃やした」
 ウィードはハッタリをかけた。だが、相手も狡猾だ。一筋縄ではいかない。
「ほぅ、面白いことをいうな。お前がそんなことをできないのは周知だ。隠そうとしても無駄だ」

「この前のお返しだ、今度はお前の息の根を止めてやる」
 ウィードがそういうとフォライーは嘲笑った。
「くはは、面白い。実に面白い。このフォライー様を斃すだと。愉快だ。だが、相手をするのは我ではない。この悪魔虫鬼族ゴエティアを斃せたら相手にでもなってやるわ」

「悪魔虫鬼族ゴエティアだと?」

 ファイがそういうと危地をみな感知した。とてつもない変異の敵がいることを。





☆☆
UP予定。感想お待ちしています。第百話、新たなる敵と激闘!
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