ファウスト プリンセス

蒼井肇

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第二章 花の妖精は繊細で困るじゃない??

第十六話 店員さんができちゃった!!

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しばらく、ミレアは走っていた。はぁはぁ、息を上げながら、やっとのことで自分の店に着いた。プニロンも少し遅れて帰ってきた。
 ファイが店の前に出て、壊れた窓を直していた。どうやら、それで最後のようだが。
「ファイさん、ただいま帰りました」
「ただいまプニ」
「ん、ああ、ミレアとプニロンか。お帰り」
 ミレアがお辞儀しながら、帰ってきたのに対し、ファイは釘を口にくわえたままで、トンカチを握って、たたいてるところだった。
 ミレアが持っていた魔法の花をファイさんに差し出した。
「ファイさん、お花買ってきたのですが、それが……」
「どうしたんだ? 綺麗な赤い花じゃないか。花ばかりみて、花に何かあるのか?」
「これ、魔法の花みたいなんです」
「このつぼみがある、花がか?」
 ファイはびっくりした面持ちだった。
「それが、ポテチナさんの話では、人間と同じように生きていて、性格が繊細だそうなんです。きっと嘘ですよね? 魔法の花なんて聞いたことないですし」
 ミレアがえへへと、少しほほ笑みながらいった。
「いいや、嘘じゃないかもしれないぞ。それはどこでとれたと言っていた? 採取国は?」
「たしかとなりの地域のペルスィアーナだといっていましたよ」
「ペルスィアーナ? もしかすると、花の妖精かもしれないな。地域は知らないが、花の妖精が生まれる前に花の中にいるということを昔、王立図書館で読んだことがある」
 ファイが面食らうようなことをいった。妖精が生まれる花があるのだろうか。
「王立図書館? 花の妖精? まさか、このつぼみの中に?」
「まぎれもなく、本物の魔法の花なら、その可能性はあるな」
 ファイはひと段落おいて意味深な顔つきでいった。
「ではでは、この棚の上においておくね。お水あげるね。めいっぱい育つのよ」
 ミレアはそういうと、近くにあったジョウロで花に水をいっぱいあげた。
「それにしても、一階が前より綺麗になってるプニ」
 帰ってくるまでに、壊されたものがほとんど直されていた。しかも前より綺麗だった。
「わぁ、ほんとだね、ファイさん、プロ並みですね。なんでもできるんですね」
「ほめるな。照れるじゃないか。居候でおいてもらうんだから当然のことをしたまでだ。
今日から俺もここの店員だ。仲良くやろうぜ」
 ファイはほほえみながら答えた。かなり強い戦士であって心強い店員だ。
「お仕事、手伝ってくださるんですね。ありがとうございます」
 ミレアはぺこりとお辞儀をした。ファイはたじたじだった。
 そして、ファイが話をきりだした。
「ところでよぅ、仕事はあるのか?」
「二つ、ギルドから予約してある仕事があります。後は、ギルドに行って、受注スタートすれば、仕事始めです」
「で、それはどんな仕事なんだ? 手伝えるような仕事なのか?」
 ファイが腕を組みながらいった。
「一つは『倉庫にあるものを食べてしまう、怪奇動物の駆除』でしたね」
「よく覚えてるプニね」
「ミレアはやれば出来る子なの。もう一つはごめんなさい。えへ忘れちゃいましたですぅ」
 ミレアは笑顔でかえす。みんなこの笑顔にやられて、許してしまうのだ。
「怪奇動物の駆除か。やっかいそうだな。魔物かもしれないな。よし、その仕事からしよう。俺もギルドに一緒に行く。それに、お前のボディガードもしてやらないとな」
「ミレア良かったプニね。守ってくれる王子様が出来たプニ」
「こらぁ、からかうなぁ~まてぇ~」
 ミレアがプニロンの言葉に顔を赤らめて、走り出した。しばらく追いかけっこが続いた。
 それをみて、ファイは笑った。
(ここは、俺がいたところとちがって、平和でにぎやかだな。ちなまぐさいことはミレアにはみせたくないものだ)
 ファイは何かを想っていた。経験してきたことは生き死にが当たり前だったのか。
 そのとき、ミレアが急にファイの前でとまった。
「でもでもでも、ミレア素直に嬉しいです。ファイさんがいてくれたら、心強いです」
 ガッツポーズを取って、ミレアはいった。プニロンも動きを止めて首をかしげた。
「では、みんなでギルドに仕事契約に参りましょう」
「いくか。(怪奇動物か。いったい、なんなんだ?)」



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