魔王ルシファーの異世界征服!〜異世界転移した最強の魔王は魔物を持ち帰り現代を侵略する〜

勇者れべる1

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第二十九話「弓愛」

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 ―メタトロンのアジト

「キューピッドだって?そんな下級の天使でルシファーが殺せるのか?」

 ミカエルがいぶかしげな表情で尋ねる。
 槍をルシファーに取られた事もあり彼は苛ついていた。
 それをにっこりと笑いメタトロンは答えた。

「まあ私に任せておけ。戦いはここさ」

 メタトロンはこめかみをツンツンとつつきながらミカエルに重要なのは知性だとアピールした。
 ミカエルは半信半疑でメタトロンの作戦を了承した。

 ―ルシファーズハンマー

「敵襲だ!」

 人狼のクラウスが合図する。
 ルシファーが不在の時にメタトロンの軍勢が現れたのだ。
 しかしルシファーも馬鹿じゃない、元魔王のスカーレットやエルフの戦士のリィン、ゴブリンの魔神のゴブ子、天使のフォルスにクラウスの人狼部隊と貴重な戦力を残してあるのだ。
 スーパーオークのアレックスは店を壊すので今日はお休み。
 ミカエルが直接乗り込んでも来ない限り負ける事は無い。
 しかし彼女らは気付いていなかった、敵に曲者が混じっていた事に。

「はああああああああ!!!」

 リィンは竜殺しの短剣で敵を薙ぎ払う。

「火竜の火よ!荒れ狂え!!!」

 ゴブ子の魔術が炸裂する。

「元魔王の力を舐めるなよ!」

 スカーレットの手から蒼い炎が放たれる。

 三人の美女・美少女の攻撃が敵に決まる。
 大勢の敵が一斉に吹き飛んだ。
 その僅かな騒ぎの間に小さな一撃が三人に決まった。
 それはキューピットの矢だった。
 そして一時間後、騒動は収まり敵は撤収した。
 そしてルシファーが帰って来たその時である。

「おいおい、随分お楽しみだった様だね」

「貴様がルシファーだな!喰らえ!」

 小太りのおっさんのキューピットの矢がルシファーに刺さる。
 それは傷跡も残さずルシファーの体に溶ける様に消えた。

「ん?何かしたか?」

 ルシファーは何とも無い様で手をかざすと目の前のキューピットを殺そうとする。
 しかしそれを天使のフォルスが止める。

「彼に害は無い。純真無垢なか弱い天使なんだ。見逃してやれ」

 それはメタトロンに操られているとはいえ、同胞を無闇に殺したくないというフォルスの同情心からであった。
 ルシファーも雑魚一人見逃すことに目くじらを立てる事はないとキューピットを見逃した。
 しかしこの判断を後にルシファーは後悔する事になる。

 ―一時間後

「しかしなんか胸の辺りがこうむずむずしてこないか?」

 リィンが胸の辺りをさする。

「そうね、きゅっとしめつけられるような感じがするわ」

 ゴブ子が胸に手を当てる。

「それに何故か心臓が高鳴ってきたぞ?」

 スカーレットが顔を高揚させて言う。

「それは恋の病だな。キューピットの矢によるものだ」

 フォルスが冷静に物事を分析する。

「「「恋の病ですって!?」」」

 三人が息を揃えてフォルスに詰め寄る。
 この男が問題無いと帰したのだ、責任は彼にある。
 フォルスはグレーのスーツのシワを伸ばすと三人から距離を取る。

「まあ落ち着け。キューピットの矢は赤と青の二種類ある。片方だけじゃ一定時間ドキドキして終わりだ」

「「「なーんだ、心配して損した」」」

 しかし次の一言が場の雰囲気を変えた。

「僕も打たれたぞ。青い矢だった」

「「「え」」」

 三人の時間が止まった。
 そして目の前にはルシファーしか見えなくなった。

 ―メタトロンのアジト

「最近のルシファーは仲間に甘い。昔の彼だったら拷問してるか殺してる筈だ。だから身内に殺して貰う」

「仲間割れを狙う訳か。貴様らしいこすい作戦だ」

「知略と言って欲しいね。向こうには元魔王もいるし期待はできるだろう」

「しかしキューピットの力だぞ。下級天使の力がルシファーに通じるか?」

「だから彼にはちょっとした改造を施しておいた。ミカエル、君の翼の羽を授けておいた」

「貴様、勝手に!」

 大天使の体の一部は大いなる聖遺物となり、持ち主に強大な力を与えるという。
 今のキューピットの力はただの恋愛成就ではなく、狂信的な好意、日本で言うヤンデレ地味た効果を発揮していた。
 ルシファーを得る為に殺し合いをするか、ルシファーを殺し永遠に添い遂げる事を選ぶか、いずれにしてもルシファー軍への損害は大きい。

「さて、神の説いた愛の行く末を見届けようじゃないか」

 メタトロンは悪趣味な笑顔をニヤニヤと浮かべていた。

 ―ルシファーズハンマー

「貴様の事は前々から気に入らなかったんだ。なんだその長ったらしい赤髪は。ちゃんと切れ!」

 リィンがスカーレットに悪態をつく。

「これは魔王の威厳というものだ!それに元魔王の私こそルシファーの妻に相応しいと思わないか?」

 スカーレットが胸を張って答える。

「私を分割したり、先代魔王を卑怯な手で封印したり、魔王としては器が小さすぎないかしら?」

 ゴブ子がスカーレットに嫌味を言う。

「「「ぐぬぬぬぬ!」」」

 三人が目に見えない嫉妬の火花を散らしている。
 いずれも自身がルシファーの妻に相応しいと自信満々の様子だ。

「なあオーナー、長年連れ添った相棒だろう?このまま永遠のパートナーになってやってもいいぞ?」

 リィンが普段使わない猫撫で声で上目遣いになりルシファーに懇願する。

「あんな小娘よりも私の方がいい。なにしろ元魔王だからな。二人でこの世界を統治しよう」

 スカーレットが身を寄せそのいい匂いのする赤髪をルシファーの体に巻き付けて来る。
 その赤い唇には今にでも吸い込まれそうだ。

「あんたがゴブリンを集めてくれれば私は最強の魔神に戻れる。ミカエルだろうがなんだろうが私が殺してやるよ。あんただけの為に、ね」

 ゴブ子がその緑色の肌を密着させて来る。
 ルシファーの体には豊満な二つの双丘が当たっていた。


「うーん、どれも魅力的な提案だな。全部と言うのは?」

「「「駄目!」」」

 ルシファーの案は当然却下された。

「こうなったらお前らを全員殺してオーナーを私の物にしてやる!」

 リィンが竜殺しの短剣を構える。

「小娘が、元魔王相手に粋がるなよ。ルシファーは私の物だ」

 スカーレットが両手に蒼い炎を灯す。

「二人とも殺して私がルシファーの妻になる。最強の魔神には最強の魔王こそ相応しい」

 ゴブ子の手の動きに合わせて地面に魔方陣が描かれ光り出す。

「おいおい、彼女達が本気で戦ったらこのクラブが滅茶苦茶になるぞ。でも殺すには惜しい人材だし……」

 ルシファーは悩んだ末にフォルスに丸投げする事にした。
 そもそも彼がキューピットを逃がさなければこうはならなかったのだ。
 100%彼の責任である。

「と言う訳でフォルス、キューピットを見つけてこの状況をなんとかするんだ」

「分かった、私の責任だしな」

 天使の翼がはばたく音がするとフォルスはその場から消えた。
 それから数分後……

「逃げるな!卑怯者!」

 リィンがナイフを振り回すが宙を浮くスカーレットには当たらない。

「フゥーハハハ!卑怯もらっきょうもある物か!」

「随分余裕の様だけど、背後がお留守よ」

 ゴブ子の魔術がスカーレットの背中に直撃する。
 スカーレットの特殊なマジックコートさえなければ致命傷だったろう。

「隙あり!」

 リィンの短剣がゴブ子にかすめる。
 ゴブ子はすんでの所でかわした。

「危ないじゃない!」

「よそ見する方が悪い」

「おいおい、これじゃあまるで殺し合いじゃないか」

 今現在ルシファーズハンマーでは、三人による剣戟と魔術の応酬が繰り広げられていた。
 いずれも息を飲む攻防で、皆致命傷こそおってはいないものの怪我はしている。
 後でルシファーの力で癒せるとはいえ、仲間同士で殺し合うのは中々に痛々しい光景だった。

「もういい加減にしてくれ、僕に君達の中から一人を選ぶつもりは無い。神は言った、汝、平等に愛せと」

 言ったか言って無いか碌に覚えていない父の言葉を引用しなだめようとするルシファー。
 その瞬間三人の矛先がルシファーに変わった。

「私を愛してくれないなら、オーナーを殺して私も死ぬ!」

 リィンが涙を流しながら短剣を強く握る。

「元魔王としてでなく一人の女としてお前の死体を愛そう。なぁに、死霊術の心得はある」

 スカーレットはその長い前髪を眼前に垂らしながらうつむいている。
 その髪が恐ろしい表情を隠していた。

「お前をゴブリンにして血と肉を私の体に取り込んでやろう。最強の魔神の一部になるのだ」

 ゴブ子が恍惚の表情を浮かべルシファーに迫る。

「仕方ない、惜しい人材だし愛着もなくもなかったが、ここで消えて貰う」

 狼狽えていたルシファーの顔は冷徹な魔王の顔になった。
 その瞳は赤く輝いている。
 ルシファーが手をかざして三人を手にかけようとしたその時である。

 バタン!

 ルシファーズハンマーの扉が大きく音を立てて開いた。
 そこから出て来たのはフォルスと小太りのキューピットだった。

「さあ、キューピット、彼女達の洗脳を解くんだ」

「わ、分かった」

 キューピットは黄色い矢を用意しリィン、スカーレット、ゴブ子を射抜いた。
 瞬間三人は正気に戻りこれまでの自分の記憶に赤面している。

「ところでこのキューピット君はどうする?」

 ルシファーは少しイライラしている様だった。
 まあこれまでの事を考えれば当然ではあるが。
 それを見たフォルスはキューピットの弁護をする。

「彼はメタトロンに洗脳されていただけだ。彼の洗脳は解いておいたから今度は本当に無害だよ」

「そうか、じゃあ僕は許そう。しかし彼女らはどうかな?」

「「「ぶっ殺してやる!」」」

 そこには殺意に満ちた三人とそれを引き留めるクラウス達がいた。
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