43 / 46
第04章 大団円
07話 『犬と歩けば!』
しおりを挟む
さとしがユキを迎えてからもうじき一年が経つ。その間にさとしは、小学6年生から中学1年生になった。物心ついてから初めて区切りの時期を意識したのではないだろうか。たとえ小中一かん校だといっても区切りは区切りだ。そんな不安定な時期をさとしはユキと共に過ごせたのは有意義なことだと思っていた。もしユキがいなかったとしてもそれなりに乗り越えたであろうが、ユキといる今を知っているさとしにとって、それは想像するに経験したくない展開だった。そう、それは、一人っ子で、両親も共働きの子が味あわなければならない多くのこどくを持て余してしまうであろう展開であり、そして今もこどくに過ごしているであろう展開だ。それはさとしの心にトラウマを残していたかもしれない出来事であった
また、ユキがいなければ犬の散歩会は発足しなかった。おさななじみのヒロちゃんとの関係は続いていただろうけど、今のようにより親密に付き合っていたかどうかは分からない。中学生になってクラスの変わった寺本との関係は続いていたであろうか、これも分からない。また、たえ子ちゃんとは出会えなかったであろう。そして日呂志おじさんが同じ事情で雨宮家に転がり込んできたとしても、今のように打ち解けたあいだがらになっていたかどうかは、疑問である。
これら散歩会のきずなは4ひきの犬、いやもうすぐさらに3びき加わるのだが、それらの犬がいなければ当然できなかったきずなだ。犬が、人と人を結びあわせてくれたのだ。さとしは自分が成長するのに必要な分だけのこどくだけを抱いて、すんなりと区切りを乗りこえていったのだった。
「さあ今日を始めるか」
とさとしがまだねむそうな顔でかけ声を上げた。
今日も散歩会は続く。外は秋らしい好天である。さとしはユキの誕生会に文子おばあちゃんにもらったユキの新しい服をユキに着せてみた。採寸はマルのものだったがさすが親子おばあちゃんの言った通りぴったりだった。背中に写実的なユキの顔がししゅうしてある。その顔が微笑ましい。文子おばーちゃんブランドといっていいほどの出来上がりだ。それから去年さとしの誕生会にもらった、同じくおばあちゃんにつくってもらったさとしがお守りにしているコースターを取り出して、この気持ちのいい季節に感謝の念を送った。そして散歩会のメンバーのみんなにももれなく感謝の念を送った。中でも一番笑顔にかがやいていたヒロちゃんには特別にたっぷりと感謝の念を送っておいた。
ヒロちゃんの愛犬ヒメは、子どもの頃から散歩という習慣をもたなかったため、その喜びが分からなかった。散歩会に参加したてのころは消極的に最後尾を歩いていたものだが、ヒメが急成長し散歩の喜びを知った今では、2番目をサムといっしょに歩くようになった。ヒメとサムは仲良しだったし、飼い主の、ヒロちゃんとたえ子ちゃんもいいお付き合いをしているらしい。(くわしくはヒロちゃんに話させた)ユキは再び最後尾になった。でもそんなことどこ吹く風。自分がまだ1歳のじゃくはいであることも。そしてヒメは6才の大せんぱいであることも、ちゃんと心得ていた。
「クゥーン」
ユキは、となりを歩くさとしに甘えた鼻声で鳴いた。
もっとも本当の最後尾はいつも日呂志おじさんなのであるが、それは今、取りかかっている仕事の着想を得たいという、積極的な理由があることをさとしは今さらのように知った。その仕事とはもちろん小説である。後ろから散歩会の様子をながめているといいアイデアがうかぶのらしいのだ。そういえば日呂志おじさんがメモを取っていることをみんなは知っていた。小説のタイトルは『犬と歩けば!』といって、さとしらと同年代向けのものを書いているらしい。そして物語の完成も、もう間近らしい。さとしは完成したら最初に読みたいとだだをこねた。すると日呂志おじさんは「ああたのむよ」と一言いってくれたのであった。
つづく
また、ユキがいなければ犬の散歩会は発足しなかった。おさななじみのヒロちゃんとの関係は続いていただろうけど、今のようにより親密に付き合っていたかどうかは分からない。中学生になってクラスの変わった寺本との関係は続いていたであろうか、これも分からない。また、たえ子ちゃんとは出会えなかったであろう。そして日呂志おじさんが同じ事情で雨宮家に転がり込んできたとしても、今のように打ち解けたあいだがらになっていたかどうかは、疑問である。
これら散歩会のきずなは4ひきの犬、いやもうすぐさらに3びき加わるのだが、それらの犬がいなければ当然できなかったきずなだ。犬が、人と人を結びあわせてくれたのだ。さとしは自分が成長するのに必要な分だけのこどくだけを抱いて、すんなりと区切りを乗りこえていったのだった。
「さあ今日を始めるか」
とさとしがまだねむそうな顔でかけ声を上げた。
今日も散歩会は続く。外は秋らしい好天である。さとしはユキの誕生会に文子おばあちゃんにもらったユキの新しい服をユキに着せてみた。採寸はマルのものだったがさすが親子おばあちゃんの言った通りぴったりだった。背中に写実的なユキの顔がししゅうしてある。その顔が微笑ましい。文子おばーちゃんブランドといっていいほどの出来上がりだ。それから去年さとしの誕生会にもらった、同じくおばあちゃんにつくってもらったさとしがお守りにしているコースターを取り出して、この気持ちのいい季節に感謝の念を送った。そして散歩会のメンバーのみんなにももれなく感謝の念を送った。中でも一番笑顔にかがやいていたヒロちゃんには特別にたっぷりと感謝の念を送っておいた。
ヒロちゃんの愛犬ヒメは、子どもの頃から散歩という習慣をもたなかったため、その喜びが分からなかった。散歩会に参加したてのころは消極的に最後尾を歩いていたものだが、ヒメが急成長し散歩の喜びを知った今では、2番目をサムといっしょに歩くようになった。ヒメとサムは仲良しだったし、飼い主の、ヒロちゃんとたえ子ちゃんもいいお付き合いをしているらしい。(くわしくはヒロちゃんに話させた)ユキは再び最後尾になった。でもそんなことどこ吹く風。自分がまだ1歳のじゃくはいであることも。そしてヒメは6才の大せんぱいであることも、ちゃんと心得ていた。
「クゥーン」
ユキは、となりを歩くさとしに甘えた鼻声で鳴いた。
もっとも本当の最後尾はいつも日呂志おじさんなのであるが、それは今、取りかかっている仕事の着想を得たいという、積極的な理由があることをさとしは今さらのように知った。その仕事とはもちろん小説である。後ろから散歩会の様子をながめているといいアイデアがうかぶのらしいのだ。そういえば日呂志おじさんがメモを取っていることをみんなは知っていた。小説のタイトルは『犬と歩けば!』といって、さとしらと同年代向けのものを書いているらしい。そして物語の完成も、もう間近らしい。さとしは完成したら最初に読みたいとだだをこねた。すると日呂志おじさんは「ああたのむよ」と一言いってくれたのであった。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる