チュヴィン

もり ひろし

文字の大きさ
13 / 30
第2章 鳥や動物たちの時代

00話 第2章への序章

しおりを挟む
 これまでを少し振り返ろう

 和寿は何処にでもいる鳥や動物好きの少年だった。彼がスズメのヒナを保護したことで、この物語は始まる。スズメは和寿によってチュヴィンと名付けられた。鳥や動物の心が半ば読める和寿少年と特別な使命を帯びたスズメのチュヴィンは出会うべくして出会った。二つの存在は、今までの世界のことわりを変えてしまう。

 人間には、太古の昔、魔女の嫉妬を買って封印された『万能のコミュニケーション能力』というものがあった。これが封印されている限り、世界は、人間の本意ではないにしろ滅ぼされようとしていた。これまでの争いの絶えない人間には必然の結果だ。

 人間に一番近い距離で生活しているスズメの一族に、人間の『万能のコミュニケーション能力』の封印を解く呪文と、限られた人間に同じく『万能のコミュニケーション能力』をあたえる魔法が代々伝えられてきた。和寿にもチュヴィンにも、始めから知らされていたわけではない。それは突然だった。つまりチュヴィンは巣から落ちて瀕死の時、「あなたは生きなくてはならない」と両親に言われ、自分が救世主であることが明かされる。また和寿はチュヴィンにその素質を見込まれて魔法によって『万能のコミュニケーション能力』が与えられ人類の代表者にされてしまう。
 あとは紳吉おじいさんを含む身近な鳥や動物から募った100の仲間で魔女から封印の水晶玉を奪い、人間にだけ封じられていた『万能のコミュニケーション能力』の封印を解き、結果、人は鳥や動物と話せるようになり、人と人は、より深いコミュニケーションをおこなうことができるようになった。そして、人と人は争わなくなり、世の中は平和を取り戻すことになる。最後に印象的だったのは幹夫君のペットのハムスターの空太が病気で亡くなろうとしている時に最期のお願いを飼い主の幹夫君に聞いてもらい大往生を遂げたことがあげられる。動物は決して人より劣った生き物ではない。ペットの死も人の死も何の変りもなかったのだ。



 さて人間と鳥や動物が話せる世界、人間同士がもっとわかり合える世界のお話です。

三好家では文鳥のブンちゃんの地位がにわかに上がった。人間にとってはあくまで自然にいつのまにかである。なぜなら人間の『万能のコミュニケーション能力』はある日突然解放されたのだから。その解放された前後を知るものはもうすでにこの能力を身に着けているすべての鳥や動物たちと、自覚的にチュヴィンの魔法によってこの能力を身に着けた和寿と紳吉おじいさんのみである。すべてが一挙に変わったので、普通の人間には何故と問うことすらできない。ブンちゃんは喜んだ自分の言うことが重みを増して受け止められるのだから。ためしに、
「誰か籠から出して遊んでおくれ」
とつぶやいてみると、時間に余裕のある者は、進んでこの要求を呑んでくれた。といっても時間に余裕があるのは紳吉おじいさんばかりだ。このおじいさんが封印解放の前後を知る英雄だなんて誰が思うだろう。本人はその話がしたくてしょうがない。それは分かるけど、家族は一般の人間だから封印解放の前後など知らないし、おじいさんが話をしていても、ぼけてきたとしか思わないだろう。結局ペットのわたし以外、相手になるものはいないので聞いてあげている。和寿はどうか。和寿は学校だ。和寿は朝早くに出かける。飼育係なのだ。

 和寿はチュヴィンに乗って学校に通っていた。チュヴィンの背中を撫でればいつでもこびとにも逆に元通り等身大の人間にもなれる。そしてこびとの時にはチュヴィンの背に乗ってフライトもできる。この魔法は今でも有効だ。こびとになる時も等身大の人間に戻る時も一瞬なので誰にも気づかれない。チュヴィンとの絆はますます強くなった。
「もう梅雨も明けるでしょう。暑い夏がやってきますね」
チュヴィンが言った
「こうして登下校できるからずいぶん楽さ」
「わたしもご主人とこうしてずっといられるのがうれしいんです」
「僕ばっかり世話になって悪いと思っているんだ。なんのお返しもできていない」
「そんな堅苦しい仲にはなりたくないですね。もっと気軽に呼んでください。そろそろ学校ですね」
「ありがとう」
学校に着くと放課後を約束して等身大に戻りチュヴィンとは別れた。

「さあウサギとハムスターが待っているぞ」和寿は調理室に行ってくず野菜をもらってきた。いつもの通りまだ登校してくる生徒はいない。でも教室の扉を開けると動物たちが和寿を待っていた。ハムスターのジェリーがいつものように
「お腹と背中がくっついちゃうよ」
と言って甘えた声を出した。ウサギのピーターは、ぴょんぴょん跳ねて和寿に頭突きを食らわせた。そして
「僕は今日はニンジンがいいな」
と言った。そして皆が
「おはよう」
と合唱した。いつもの朝が戻ってきた。和寿はうれしくって仕方なかった。ここは楽園か。世話を手早くかたずけていくと後ろから「おはよう」と早い生徒がやって来る。もうこっそりと動物と話す必要も無い。皆が動物と話せるのだから。動物と話していても変な人とは思われない。

さて、第2章、鳥や動物たちの時代、が本格的に始まるよ。準備はいいかな。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

処理中です...