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第2章 鳥や動物たちの時代
05話 アンチ西洋文明、紳吉おじいさん
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九月も終わりに近づいたというのに、日中は40℃近い気温を記録していた。教室はエアコンが効いていたので苦にはならなかったが、外に出ると室内との温度差が大きくて、身体に応えた。昔は教室にエアコンなどなかったという。それだけ気候が変わったのだ。和寿は学校が終わるとまず家に帰ってシャワーを浴び、夕涼みを兼ねてチュヴィンに乗っていた。チュビンと話す肝心の用は、新たに勃発した子供と大人との間の心の温度差をいかにして解消するかについてのことだ。子どもは、自然に帰って動物と仲良く暮らしたかった。一方大人は動物を自分たちに比べれば劣ったものとして扱いたがった。なぜなら自分たちには文明(主に西洋文明)というものがあり今更、自然に帰れなどということはできないと思ったからだ。日本人の文明観も昔と比べて随分変わったものだ。
確かに大人の意見には、分がある。学校の教育だって文明の産物だ。まあ、そういう教育を通して文明を享受して生きることを教えているのがそもそもである。でも文明の中には色々な物が交わっていて自然を愛する思想もなくはない。と言うか、日本には積極的に自然から学ぼうとする思想がかつてあった。和寿のおじいさんである紳吉おじいさんは日本の侘び寂を愛してきた。和寿のおじいさんは今でこそだいぶ老いぼれてしまったが、昔には珍しい大卒だ。そして裸一貫からひとりで切り盛りして造園業をやって来た。大きな庭と屋敷を築いた成り上がりものだ。このおじいさんこそアンチ西洋文明の旗手なのではないだろうか。子どもらは自然を愛していた。おじいさんは、そんな彼らの考え方を代弁する大人だった。おじいさんがかつて和寿と共に北の森作戦で魔女と戦ったのは偶然の出来事じゃなかったのかもしれない。必然だったのかもしれない。
「おじいちゃん。なんで大人はおじいちゃんのような大人ばかりじゃなかったのだろう」
和寿は共に縁側で過ごしているおじいさんに聞いた。
「昔の日本人は自然を大切にしたものじゃ。しかし世界がグローバル化すると効率の良い西洋の文明に流されていったのかな。かつての日本人は、自然を半ば神としてあがめていたのに。農家の雨乞いなど、ごく自然な日本人のふるまいだったはずじゃ。世界との距離が縮まって近づいてくると、あっという間に西洋の文明に飲み込まれていった。西洋は効率を重要視する。すると自然崇拝など笑い事じゃったわ。わしは庭に、昔の日本人の心を再生させてきた。ちょっと前の日本人にはそれがうけた。日本庭園じゃ。それが今は西洋の庭園に飲み込まれておる。わしはお役御免というわけじゃよ」
「おじいちゃんの作る庭、僕は好きだよ。この家の庭もおじいちゃんが設計したんでしょ」
「ああそうじゃ。何! この庭園の魅力が分かるというのか。しぶいのう。子どもが好きというなら遺伝子レベルではまだ、日本人の血は絶えていないのかもしれないのう。うれしいよ」
「小さな自然を眺めているような気がするのさ。野鳥もリスも一杯やって来るし。そう僕らは鳥や動物が好きなだけなんだよ」
「それも日本人がかつて持っていた感性の一部だよ。花鳥風月と言う言葉がある。日本人がいかに自然を愛したかが分かる言葉だ。その中に鳥という言葉もあるだろ」
「おじいちゃんは僕らの仲間だね」
「ああそうじゃ。わしは古い人間だからのう。若い仲間がいて頼りになるよ」
「ぼくらこそおじいちゃんがいれば百人力さ」
さて、子どもの思いと大人の思いの協調はできるのだろうか。まだまだつばぜり合いは続くであろう。でもこうやって仲間を増やすことが子ども側の希望になっている。ましてや町の長老格の紳吉おじいさんがこういってたよと言えばおじいさんの言うことをむげには出来なかったのである。まだ町では年寄りを大切にする習わしが残っていたのだから。都会ではこうもいかなかったであろうが。
はたして、おじいさんがこういっていた、ということが実際に町に伝わると日本人の伝統的な思考法を持つ人々がいち早く仲間になった。半ば西洋的な思考法をとる人も日増しに日本的な思考法を思い出したかのようにして仲間になった。感覚的に西洋的な思考法をありがたがっていただけなのかもしれない。それらの人々は改めて日本の伝統を真に受けて胆がすわるように落ち着いた。それでもまだ鳥や動物たちと仲良く暮らしていこうと考える大人は少数派だった。相変わらず世界は、人間中心に回っていた。
あんなに自然を愛した日本人はどこに行ったのであろう。子どもたちの革命がもしことをなすとしたら日本人が先頭に立たなければならないはずだ。紳吉おじいさんはそう考えていた。しかし去年開かれた環境サミットでも日本人の影は薄かったこと。薄かったこと。今の日本の大人の代表が参加したのだから仕方がないのであろう。おじいさんには心もとなかった。
和寿は、多くの大人とは仲たがいしてしまったが、おじいさんが仲間でいてくれることが何よりも救いとなった。おじいさんは戦友であり、両親を除けば、誰より親身になってくれる肉親だったのだから。
確かに大人の意見には、分がある。学校の教育だって文明の産物だ。まあ、そういう教育を通して文明を享受して生きることを教えているのがそもそもである。でも文明の中には色々な物が交わっていて自然を愛する思想もなくはない。と言うか、日本には積極的に自然から学ぼうとする思想がかつてあった。和寿のおじいさんである紳吉おじいさんは日本の侘び寂を愛してきた。和寿のおじいさんは今でこそだいぶ老いぼれてしまったが、昔には珍しい大卒だ。そして裸一貫からひとりで切り盛りして造園業をやって来た。大きな庭と屋敷を築いた成り上がりものだ。このおじいさんこそアンチ西洋文明の旗手なのではないだろうか。子どもらは自然を愛していた。おじいさんは、そんな彼らの考え方を代弁する大人だった。おじいさんがかつて和寿と共に北の森作戦で魔女と戦ったのは偶然の出来事じゃなかったのかもしれない。必然だったのかもしれない。
「おじいちゃん。なんで大人はおじいちゃんのような大人ばかりじゃなかったのだろう」
和寿は共に縁側で過ごしているおじいさんに聞いた。
「昔の日本人は自然を大切にしたものじゃ。しかし世界がグローバル化すると効率の良い西洋の文明に流されていったのかな。かつての日本人は、自然を半ば神としてあがめていたのに。農家の雨乞いなど、ごく自然な日本人のふるまいだったはずじゃ。世界との距離が縮まって近づいてくると、あっという間に西洋の文明に飲み込まれていった。西洋は効率を重要視する。すると自然崇拝など笑い事じゃったわ。わしは庭に、昔の日本人の心を再生させてきた。ちょっと前の日本人にはそれがうけた。日本庭園じゃ。それが今は西洋の庭園に飲み込まれておる。わしはお役御免というわけじゃよ」
「おじいちゃんの作る庭、僕は好きだよ。この家の庭もおじいちゃんが設計したんでしょ」
「ああそうじゃ。何! この庭園の魅力が分かるというのか。しぶいのう。子どもが好きというなら遺伝子レベルではまだ、日本人の血は絶えていないのかもしれないのう。うれしいよ」
「小さな自然を眺めているような気がするのさ。野鳥もリスも一杯やって来るし。そう僕らは鳥や動物が好きなだけなんだよ」
「それも日本人がかつて持っていた感性の一部だよ。花鳥風月と言う言葉がある。日本人がいかに自然を愛したかが分かる言葉だ。その中に鳥という言葉もあるだろ」
「おじいちゃんは僕らの仲間だね」
「ああそうじゃ。わしは古い人間だからのう。若い仲間がいて頼りになるよ」
「ぼくらこそおじいちゃんがいれば百人力さ」
さて、子どもの思いと大人の思いの協調はできるのだろうか。まだまだつばぜり合いは続くであろう。でもこうやって仲間を増やすことが子ども側の希望になっている。ましてや町の長老格の紳吉おじいさんがこういってたよと言えばおじいさんの言うことをむげには出来なかったのである。まだ町では年寄りを大切にする習わしが残っていたのだから。都会ではこうもいかなかったであろうが。
はたして、おじいさんがこういっていた、ということが実際に町に伝わると日本人の伝統的な思考法を持つ人々がいち早く仲間になった。半ば西洋的な思考法をとる人も日増しに日本的な思考法を思い出したかのようにして仲間になった。感覚的に西洋的な思考法をありがたがっていただけなのかもしれない。それらの人々は改めて日本の伝統を真に受けて胆がすわるように落ち着いた。それでもまだ鳥や動物たちと仲良く暮らしていこうと考える大人は少数派だった。相変わらず世界は、人間中心に回っていた。
あんなに自然を愛した日本人はどこに行ったのであろう。子どもたちの革命がもしことをなすとしたら日本人が先頭に立たなければならないはずだ。紳吉おじいさんはそう考えていた。しかし去年開かれた環境サミットでも日本人の影は薄かったこと。薄かったこと。今の日本の大人の代表が参加したのだから仕方がないのであろう。おじいさんには心もとなかった。
和寿は、多くの大人とは仲たがいしてしまったが、おじいさんが仲間でいてくれることが何よりも救いとなった。おじいさんは戦友であり、両親を除けば、誰より親身になってくれる肉親だったのだから。
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