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第2章 鳥や動物たちの時代
12話 体に聞け
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和寿は小学5年生を終えようとしていた。3学期を迎え1年で一番寒い時期のことだ。学校のエアコンが壊れるという事件が起こった。寒さに比較的強いウサギはともかくハムスターにとっては大変つらい出来事であった。
「おい眠くなってきたぞ」
ハムスターのジェリーは言った。
「おいらも眠くなってきた」
同じくハムスターのミッキーが答えた。
冷房は昨今の暑すぎる夏には当たり前に必要だったが、暖房は厚着をすればなんとかなるということで、修理を怠りがちだった。しかし今や動物ともコミュニケーションがとれる人間である、彼らハムスターの苦しみの声が聞こえてしまう。段々とハムスターのために、声をあげる生徒も増えだした。
「何だかハムスターの様子がおかしいよ」
「おい、これはハムスターが冬眠に入るサインなのでは。ハムスターたちは、冬眠の準備など、してこなかったじゃん」
など、大切な仲間を心配して、エアコンの修理を訴える生徒が現れ出した。そしてついに先生も動き出した。万能のコミュニケーション能力が彼らを動かしたのだ。とりあえず学校の倉庫に眠っていた、だるまストーブが何十年かぶりに日の目を見た。なんと暖かいストーブだろう。均一に部屋を暖めはしないが、近くに寄ってみると確かな暖かさがある。みなは「古いものもいいよね」と口々につぶやいた。先生も自分たちが子供時分に育った当時を思い出して懐かしんだ。
「おや、元気が出て来たぞ」
ミッキーが言った
「目がさえて来た。お腹がペコペコで眠っている場合ではないな」
ジェリーが言った。
今の時代空気を汚すだるまストーブなど見向きもしなかったものだが、意外なきっかけで使ってみると、みなに支持された。「今年の冬はこれで行こうよ」という声が高まり、それが採択された。昔のものも情緒があっていい。人々はこれらのものを遠ざけて頭で考える理想を思って、暮らしのものを造り使ってきた。しかし今、体が本物らしきものを求めて、動いたのだ。
チュヴィンやハクちゃんが言っていた「人間は頭や心を使いすぎるよ」という意見が思い出された。彼らの意見は徹底して体に聞けだ。体が知っていると言ってもいい。考えようによっては、彼らの意見がまっとうに思えてくる。しかし何事も経験してさらに考えて得た事しか人間は採用しようとしない。どうしても考えてしまう。何しろ人間はずっとこうしてきて、時代の最先端にいるのだから。今のように特別な条件が揃わなければ昔のものに見向きもしないだろう。体に聞け。特別な修行をした人とか、長生きして十分な経験を積んだ人にしか、こんな意見はなれ初めないのかもしれない。
さて和寿のSDGsの活動はどうなったか。チュヴィンやハクちゃんにしたら何ともまどろっこしい活動ぶりであったが、人間の世界ではいちよう評価された。チュヴィンやハクちゃんにしたらそんなに頭で考えなくとも体が答えを知っていると言いたくってたまらないのだが。
人間は鳥や動物のしていることが理解できないらしい、とチュヴィンは結論づけた。人間も単純な体の反応ならすぐに処理できた。例えばお腹が減ったとか。しかし、世界平和のために何をすべきかなど、問題が抽象的になったり、大きくなると、それらを複雑化して頭で考えるようになる。これは人間の得意技だけれど、なかなか結論に至らないこともある。問題は枝分かれするたびにさらに複雑化し、へたをすると人の一生という時間を費やしても片付かない。もちろん人間は頭を使うことができるから長い時間を使って科学や文化を発展させたのだが。
それに比べて鳥や動物たちは簡単である。まず体に聞く。そして体が思ったことを実行すれば大抵、間違わないのだ。チュヴィンたちはそう思っていた。そうした遺伝子を持った鳥や動物が生き残ってきた。体というものは非常によくできている。
時々生き物が絶滅してしまうことがある。体が環境に適応できなかったためであろう。つまり体に聞くのは良いのだがその答えが間違っていたということなのだろう。遺伝子に書かれていない状況が発生してしまったというわけだ。その種はそこまでであったということができる。しかし人間がかかわって滅びた鳥や動物はしっかり人間が責任を持たねばならない。そこに鳥や動物保護の一端を担うSDGsの意味がある。
SDGsを提案した大人による大人の事情というのが確かにある。今の多くの大人にはSDGsが慈善事業に思えてしまう。慈善事業ではお腹が膨れないという的を外した意見が多い。仕方がないのかな。多くの大人の限界か。正義感の強い子どもはそれらの大人に反抗したくもなるのだろう。和寿は大人と子供の間に立って上手くやってきた方だ。世界子どもサミットは上手く行ったし、多くの大人にも認めてもらった。時が経って和寿の中で練られてきた目標のようなもの、「鳥や動物たちと人間の和合」はまだまだ始まったばかり。次は何をしようかと和寿は考えていた。鳥や動物の仲間は増えたけど人間の仲間が足りていない。そう、志をひとつにする体験をしたのは和寿と和寿のおじいさんばかり、状況は圧倒的に不利だった。
「おい眠くなってきたぞ」
ハムスターのジェリーは言った。
「おいらも眠くなってきた」
同じくハムスターのミッキーが答えた。
冷房は昨今の暑すぎる夏には当たり前に必要だったが、暖房は厚着をすればなんとかなるということで、修理を怠りがちだった。しかし今や動物ともコミュニケーションがとれる人間である、彼らハムスターの苦しみの声が聞こえてしまう。段々とハムスターのために、声をあげる生徒も増えだした。
「何だかハムスターの様子がおかしいよ」
「おい、これはハムスターが冬眠に入るサインなのでは。ハムスターたちは、冬眠の準備など、してこなかったじゃん」
など、大切な仲間を心配して、エアコンの修理を訴える生徒が現れ出した。そしてついに先生も動き出した。万能のコミュニケーション能力が彼らを動かしたのだ。とりあえず学校の倉庫に眠っていた、だるまストーブが何十年かぶりに日の目を見た。なんと暖かいストーブだろう。均一に部屋を暖めはしないが、近くに寄ってみると確かな暖かさがある。みなは「古いものもいいよね」と口々につぶやいた。先生も自分たちが子供時分に育った当時を思い出して懐かしんだ。
「おや、元気が出て来たぞ」
ミッキーが言った
「目がさえて来た。お腹がペコペコで眠っている場合ではないな」
ジェリーが言った。
今の時代空気を汚すだるまストーブなど見向きもしなかったものだが、意外なきっかけで使ってみると、みなに支持された。「今年の冬はこれで行こうよ」という声が高まり、それが採択された。昔のものも情緒があっていい。人々はこれらのものを遠ざけて頭で考える理想を思って、暮らしのものを造り使ってきた。しかし今、体が本物らしきものを求めて、動いたのだ。
チュヴィンやハクちゃんが言っていた「人間は頭や心を使いすぎるよ」という意見が思い出された。彼らの意見は徹底して体に聞けだ。体が知っていると言ってもいい。考えようによっては、彼らの意見がまっとうに思えてくる。しかし何事も経験してさらに考えて得た事しか人間は採用しようとしない。どうしても考えてしまう。何しろ人間はずっとこうしてきて、時代の最先端にいるのだから。今のように特別な条件が揃わなければ昔のものに見向きもしないだろう。体に聞け。特別な修行をした人とか、長生きして十分な経験を積んだ人にしか、こんな意見はなれ初めないのかもしれない。
さて和寿のSDGsの活動はどうなったか。チュヴィンやハクちゃんにしたら何ともまどろっこしい活動ぶりであったが、人間の世界ではいちよう評価された。チュヴィンやハクちゃんにしたらそんなに頭で考えなくとも体が答えを知っていると言いたくってたまらないのだが。
人間は鳥や動物のしていることが理解できないらしい、とチュヴィンは結論づけた。人間も単純な体の反応ならすぐに処理できた。例えばお腹が減ったとか。しかし、世界平和のために何をすべきかなど、問題が抽象的になったり、大きくなると、それらを複雑化して頭で考えるようになる。これは人間の得意技だけれど、なかなか結論に至らないこともある。問題は枝分かれするたびにさらに複雑化し、へたをすると人の一生という時間を費やしても片付かない。もちろん人間は頭を使うことができるから長い時間を使って科学や文化を発展させたのだが。
それに比べて鳥や動物たちは簡単である。まず体に聞く。そして体が思ったことを実行すれば大抵、間違わないのだ。チュヴィンたちはそう思っていた。そうした遺伝子を持った鳥や動物が生き残ってきた。体というものは非常によくできている。
時々生き物が絶滅してしまうことがある。体が環境に適応できなかったためであろう。つまり体に聞くのは良いのだがその答えが間違っていたということなのだろう。遺伝子に書かれていない状況が発生してしまったというわけだ。その種はそこまでであったということができる。しかし人間がかかわって滅びた鳥や動物はしっかり人間が責任を持たねばならない。そこに鳥や動物保護の一端を担うSDGsの意味がある。
SDGsを提案した大人による大人の事情というのが確かにある。今の多くの大人にはSDGsが慈善事業に思えてしまう。慈善事業ではお腹が膨れないという的を外した意見が多い。仕方がないのかな。多くの大人の限界か。正義感の強い子どもはそれらの大人に反抗したくもなるのだろう。和寿は大人と子供の間に立って上手くやってきた方だ。世界子どもサミットは上手く行ったし、多くの大人にも認めてもらった。時が経って和寿の中で練られてきた目標のようなもの、「鳥や動物たちと人間の和合」はまだまだ始まったばかり。次は何をしようかと和寿は考えていた。鳥や動物の仲間は増えたけど人間の仲間が足りていない。そう、志をひとつにする体験をしたのは和寿と和寿のおじいさんばかり、状況は圧倒的に不利だった。
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