チュヴィン

もり ひろし

文字の大きさ
28 / 30
第3章 子どもが思うこと、大人が思うこと

02話 永遠の説得

しおりを挟む
 春がやってきた。和寿は六年生になった。鳥や動物たちは子育てのシーズンだ。チュヴィンにも相手ができた。柄のはっきりした美人である。2羽は和寿の家の屋根に巣をこしらえた。ここなら和寿に何か起きてもすぐに駆けつけられる。先日の入院騒ぎの時も困らないであろう。
 ハクちゃんにもパートナーができた。鳥たちはいいな。当たり前のように相手が見つかる。人間は頭にあげて考えるから複雑になってしまう。その身軽さに和寿は嫉妬した。
 ハムスターのジェリーにも、アリスというパートナーができた。鳥や動物たちにとって一年で一番楽しくにぎやかな季節がやって来たのだ。

 和寿にも好きな女の子がいた。おとなしめだが芯のしっかりした子だった。目が合うとどっきりした。と同時にフンッという目線を浴びせられ、和寿はたじたじになる。和寿と同じように鳥や動物が好きな女の子だ。
 和寿はどうしてそんなに度胸がないのだろう。チュヴィンはそんな和寿のことを心配した。と同時にじれったさも感じていた。
「我々にとっては、玉砕あるのみ。当たって砕けろだ」
 チュヴィンにとって和寿の弱点はそこだと言わんばかりだった。チュヴィンにはまだ和寿に明かしていない魔法がある。その魔法で二人をくっつけるもくろみもあった。しかしこの魔法は本人次第という限界もあるのだが。



 和寿は鳥や動物たちと人間の大人が対立しない、新しい方法を考えていた。要は鳥や動物たちと和寿が対立しないように、コミュニケーションがしっかりとれていればいいのだ。『話さない作戦』でいったん大人たちと話せないふりをして思い通りにしようとしたことがあったけど、上手く行かなかった。そう、もくろみ通り人間中心主義に歯止めはかからなかったのだ。さて、この作戦の別バージョンを実施してみた。人間の大人たちに今度は初めから抗議の意味を持たせたのだ。だから今度は話せないふりではなく積極的に無視をするという形をとった。
 大人たちの反応は、やはり前回と同じく、鳥や動物たちにいらついた。しかし優しい大人にはこのストライキと呼べる抗議が伝わった。もっと鳥や動物たちの言葉を聴こうとする考えが沸き起こったのだ。しかし大半の大人には喧嘩を売っているようにしか受け止められなかった。この作戦も長期を要しそうだ。もっと効率の良い作戦はないものか。
「このままでは本当に喧嘩になっちゃうよ」
あえなく『話さない作戦Ver2』も全体としては失敗に終わってしまった。

 何かいい方法はないものか。両作戦から得られた教訓は、
「粘り強く説得に当たれ」
魔女と戦う時より大変だよ。そうだ。もっと我々はゆったりと人間の大人に接しよう。「押してダメなら引いてみよだ」
それしかないもんね。

 早速翌日から、その『押してダメなら引いてみよ作戦』は実行された。大人たちが鳥や動物たちを馬鹿にしようとすれば、鳥や動物たちはご説ごもっともとひいた姿勢を保った。そんな彼らに大人たちは少々困惑気味だったが、そうだその通りだと半ば得意顔をしている。しかし自分の言っていることが果たして有効かどうか、大人たちには少しだけ考えるゆとりが生まれた。万事このように事が運んだのでさすがの大人も、自身に不信を抱き始めた。
 すべてが思い通りというわけではないが、今までとった作戦で一番有効だと思う。説得とは大変な作業だ。しかし弱者にとって一番有効な作戦だと思う。コミュニケーションで一番有効な方法だとも思う。

 でも結局、現実には、
「コミュニケーションは不完全なものだ」
という悲しい結論が出そうた。しかし、和寿はまだあきらめていなかった。


 別の方面から考えてみた。一般的に、コミュニケーションには誤解がつきものだ。人間の大人たちと鳥や動物たちの間にも誤解があると言っていいだろう。ならば誤解に対する捉え方を少しだけアップデートしよう。

 誤解は個々の技術的な問題があるが、それを取り除けたとしても、もどかしさを感じるのではないだろうか。

 全く未知のことを相手に伝えるならば、まず、そこには物理的あるいは時間的限界があって、なんとかやっとというところだろう。

 ましてや人と鳥や動物たちの間には埋めがたい距離がある。そもそも個と個が何かを伝えあう場合、意味の届かない、つまり言葉などの伝達手段が届かない領域がどうしようもなくあって、それに伴う伝える側も意図しない誤解の入り込む余地が、少なからずある。例えば、伝達者が持つ、無意識の広大な領域とか...。チュヴィンと和寿の間にさえ誤解は避けられません。

 会話だけで意味をを追うのには限界があります。もしかしたら正しい意味の解釈など存在せず、ただ個々の解釈だけがあるのかもしれません。そして誤解にはふた通りあると思います。肯定的なものと否定的なものです。

 肯定的な誤解は個と個をつなぐものです。否定的なそれは離反を招きます。前者が鳥や動物たちと人の子どもたちの関係で、後者が鳥や動物たちと人の大人たちの関係なのかもしれません。問題は後者です。ならどうすればよいのか。徹底的にぶつかり合うしかないのでしょう。それでも足りないのかもしれません。説得は手を変え品を変えて永遠に続けなければならないものなのかもしれません。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

処理中です...