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2章 三浦幸子 23歳 不妊治療
9話 不妊症(1)
しおりを挟む7話8話のあらすじ
幸子は不妊治療の病院に行き、検査を受けるが異常なしと分かる。しかし医師は、幸子は誰かに強要されて病院に来たと察し、子供を産めば将来的な責任が出てくる。幸子が本当に子供が欲しいのかを考えるべきだとアドバイスを受ける。
幸子は一人向き合い考えていくが、「私はもう一人になりたくない」と呟き、ある決意する。
幸子は誠に不妊治療の病院に行った事、子供が出来るタイミングは明後日だと話すが誠は明らかにその話を嫌がる。現在の誠は何故嫌がっているのかが分からない。
見かねた神は誠に思い出させる為に、2日後の妻の記憶に誠の魂を植え付ける。幸子は寝ている誠にタイミングだと頼む。嫌がる誠だが、幸子が姑が言っていると言うと誠は渋々同意する。しかし誠は乱暴に行為を行い、終わるとすぐ寝てしまう。その姿に幸子は「虚しい」と呟き涙する。誠は幸子の経験を自らし、幸子の気持ちがよく分かる。そして誠は思考する。「不妊の原因は自分だったのに」と。
一 現在 一
倒れた誠は病院に運ばれCT検査を受ける。「くも膜下出血」と診断され、命が危ぶまれる状況だと分かる。
登場人物
三浦 誠(現在) 三浦 誠(現在) 55歳の普通の会社員。
ある日、妻に離婚要求をされるが誠はその理由が分からない。
それから1ヶ月後、「くも膜下出血」で倒れてしまい生死の境を彷徨う。死んだと思い、人生の悔いとして妻の離婚要求の理由を知りたいと願う。
神に離婚要求の理由を教えてやろうと言われ、過去の妻の記憶に魂を植え付けてもらい、過去の妻目線で過去の自分とのやり取りを見ている。
おしゃべりでおちゃらけている。
妻が仕事に家事で毎日疲れていると身を持って知る。
自分の母親が幸子をいびっていた事を知りショックを受ける。また、自分も幸子に酷い事をしていた事を目の当たりにして考えを変えていく。
三浦 誠(過去) 口数が少なく最低限の事しか話さない。亭主関白。何故か、妻から不妊治療について話されるのを過度に嫌がっている。
三浦幸子(現在) 誠の妻。誠に離婚要求しているが理由は話していない。
三浦幸子(過去) 化粧品販売員で百貨店で勤めている。家事を一人でこなしている。大人しい性格。実は、姑にいびられていた。
誠の母親 子供を産むように誠や幸子に強く言っている。そして誠が知らない所で嫁の幸子をいびっていた。
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9話 不妊症(1)
誠は病院に行く幸子の体に魂を植え付けてもらう。これから言われる事も全て覚悟しながら。
幸子は内診を受ける。恥ずかしさと痛みに目を閉じながら終わるのをひたすら待つ。検査が終わり幸子は診察室に呼ばれる。医師は暗い表情をしており誠は覚悟を決める。
「三浦さん、もしかしたら旦那さんは子供が出来にくい体質かもしれません。」
「……え。」
幸子は驚く。……しかしそんな気もしていた為どこか腑に落ちたようだ。
今、幸子が受けた検査は『フーナ検査』と呼ばれるものだ。昨日幸子は夫婦生活を行い、体内に精子がある状態。その粘液を採取し誠の精子の状態と幸子の粘液に問題ないかを顕微鏡で観て問題ないかを確認する検査だ。そして異常が見つかった、……誠の方が。
(なんとなく分かっていたんだな……、ごめんな……。)
医師は表を見せて幸子に説明する。誠の精子の量は明らかに少なく、変形していたり動きが鈍いとの事だった。ただ、体調に左右される事も多く今回の検査だけでは分からないと医師は強調して話す。しかし、もし問題があるなら早めに調べ対応した方が良いと説明し、その為には正式に検査を受けるべきだと話す。
医師は小さな容器と採精のやり方が書いてある説明書を渡す。幸子は不妊治療の本を読み内容を知っていた為、ただ俯き顔を赤らめている。
(そうだよな、こいつは知っているんだよな……。俺以上に恥ずかしかったのはこいつだったのに……。)
誠はこの後どのような対応をしたか覚えている。幸子にとっての嫌な事は覚えていないくせに、自分にとっての嫌な事は覚えている。誠は自分の身勝手さを恥じ、苛立ちを覚える。
「旦那さんの同意が得られれば電話で検査予約を取り、指定した日に持って来て下さい。ただ、無理強いするとご夫婦の仲に影響しますのでよく話し合って下さいね。」
「……はい。」
「今回はタイミングが取れている為、懐妊に至る可能性は充分あります。ですが、検査や治療が必要かもしれない。その事も考えておいて下さい。」
「先生、ありがとうございます。」
幸子は礼を言い病院を後にする。やはり感じていた違和感は当たっていた。医師が『男性不妊』を疑ってくれなかったらこれからもギスギスとタイミング法だけを頑張り続けなければならなかった。勿論、まだ分からない。でも……。幸子は思考を巡らす。
幸子は家に帰って来て容器と説明書を隠す。どうやらすぐには話さず、今回の妊娠の不成立が分かった後に話をするつもりだ。非効率のような気もするが誠が嫌がっている事を幸子は充分分かっているからだ。
そして二週間が過ぎ、無情にも幸子の願った懐妊には至らず、誠に精液検査を頼む日になる。誠はこの先を覚えているが、神にその場面を見せて欲しいと頼んだ。幸子が誠に検査の事を切り出せたのは、病院に行ってから1ヶ月近くが経ってからだった。
その日は金曜日、誠は土日が休みの為夕食時にお酒を飲みリラックスしている。そのタイミングを選び幸子は話を切り出す。
「ねえ、あなた。」
誠は身構える。これでも夫婦、幸子の表情から何を考えているかは分かっているつもりだ。
「風呂入ってくる。」
誠はまた晩酌を切り上げようとする。
「待って!あのね、こないだ病院で……。」
「分かってる!その日教えてくれたら良いから……。」
幸子は黙る。いつもならそれで良い、だけど今日は違う。
「違うの、あのね、あなたも検査が必要で、だから……。」
幸子は言葉に詰まる。言葉で話せない分、検査用の容器と説明書を出す。誠はそれを見て幸子が何を言いたいのかが分かる。そして……。
「俺が悪いと言いたいのか!」
「悪いだなんて言ってない!でも……。」
幸子は否定出来ない、誠に原因があるかもしれない現状だからだ。
「子供が出来たら良いんだろう!出来たら!」
誠は幸子を無理矢理倒し、無理矢理迫ってくる。しかし幸子は一切抵抗せずただ身を任せる。
…
誠は何も言わずお風呂場に行く。それに対し幸子はただ横になったままでいる。
(……痛っ……。最低だな俺……。酔っていたなんて言い訳にならない。しかもこの事もすっかり忘れていたよ……。本当に最低だな……。)
「……やっぱり駄目だった……。」
幸子は一人呟く。
「でもタイミングは取れた……。だから良いじゃない……。」
幸子は泣くのを必死に抑え、誠が使っていた「とっくり」と「おちょこ」を回収し食器洗いを再開する。その間に誠はお風呂から上がってくるがお互い顔を見合わせない。
幸子はその日の家事を終わらせ脱衣所に行き服を脱ぐが、お風呂場からシャンプーとコンディショナーと洗面器を洗面所に持ってくるだけで浴室に入らない。そして洗面所で洗面器にお湯を張り、髪の毛を濡らしシャンプーをしていく。
(あの時は意味が分からなかった……、でも今なら分かるよ……。)
目から涙がポロポロ出てくる。それを流すかのようにシャンプーの途中なのに顔を洗い始めメイクを落とし始める。
(……ごめん、本当に……。)
脱衣室の前に大きな影が見えるが、顔を洗い泣いている幸子は気付かない。その影はしばらくし消えてしまう……。
幸子は気持ちを落ち着かせ、顔と髪の泡を綺麗に洗い流し次は体をタオルで拭いていく。そしてやはりシャワーは浴びず使用した物を片付ける。そしてここからはいつも通りにスキンケアを行い眠りにつく。ただ、今日はベッドではなくリビングのソファーに布団を持って行ってそこで寝ている。
(……同じ空間で寝るのは怖いよな……。)
現在の誠は全てを分かっている。過去の誠はベッドで寝ているが、実は起きていて一部始終を感じ取っていたからだ。
『……罪滅ぼしのつもりか?』
神は誠に語りかける。
(神様……。)
誠は黙り込む。
『お前が何故この時間に戻りたいと言っているかは分かっていた。過去の過ちを見るのは辛かっただろう?』
(いえ、こいつの目線で見ないといけない。痛みを知らないといけない、そう思いました……。)
『……どうだった?』
(辛いですね……。信じている人から振るわれる暴力は……。本来なら自分を守ってくれる人なのに……。そんな人に無理矢理……。)
誠の思考は乱れる。
『どうして妻の話をいつも避けていた?何故ここまでの事をした?今のお前はとっくに思い出しているだろう。』
誠の思考はより乱れる。触れられたくない過去のようだ。……だからこそ忘れていたのだろう。自分の心を守る為に。
『悪かったな……。もう次の場面に行った方が良い。お前に見て欲しいものは他にもある。』
(いえ、まだです。さっきの発言からこいつが考えていた事が分かりました。だから明日を見せて下さい。)
『大丈夫か?』
(はい、お願いします。)
『……分かった……。』
神は場面を明日に切り替える。
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