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3章 三浦幸子25歳 妊娠、そして……
22話 妊娠8週目(2)
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[あなたの事が楽しみなのね。私を抱きしめてくれたのなんてプロポーズの時だけだったから……。]
(おい!神様が聞いているんだ!余計な事言うなよ!)
しかし幸子は何も言っていない。そう、これは幸子の思考なのだ。
(神様!これは……?)
『妻の思考だ。お主に全て考えさせるつもりだったが、お主は鈍すぎる。だから妻の思考を流す事にした。』
(あ、ありがとうございます。……この時、そんな事思っていたんだ。)
『言っておくが必要な時だけだからな?』
(はい、勿論です。)
……幸子は分かっていたのだ、誠が食器を洗おうとしてくれた事を。その後も不器用な男は、お風呂掃除をして幸子を先に入れようとする。
「風呂に入れ。」
「ありがとう。」
[やっぱり優しいな……。]
(おい、母さんが来る日はお前は絶対離れるな!分かったな!)
過去の自分に眼を飛ばす。
幸子はお湯に浸かる。たまたまだろうが、お湯は温くなんとか吐かずに入浴出来る。最低限洗い早めに上がって来るが、幸子は我慢出来ずにその場に座り込む。
「おい!」
誠はうずくまる幸子に駆け寄る。心配しつつ目を逸らす。
[気持ち悪い……、もう……だめ……。]
「ごめんなさい、気持ち悪くて。パジャマ着るの手伝ってくれない?」
「ああ。」
誠は幸子を手伝うが、時折目を逸らす。
(照れてる場合か!まったく……。)
しかし、誠は幸子の髪まで乾かし部屋まで連れて行き寝かす。途中、吐いてしまった幸子の介抱まで行いベッドに寝かせる。
『ほぉ、実はやる男だったんだな、お前。』
神は誠に語りかける。
(お、覚えていません……。)
[……ありがとう……、あなた……。]
(も、もう思考は良いです!)
『待て、今から大事な思考が出て来る。しっかり聞いておけ。』
[でもどうしよう……。駄目なってしまったら……。あんなに喜んでいるのに……。話すべきかな?でも……。]
幸子はお腹を摩る。
(大丈夫だ!元気な心拍聞いただろう?この子は試練を乗り越えた強い子だから……。)
『まだだ。まだ、安心できる時期ではない。今からでも心拍停止はある話なんだ。』
(え!まだなんですか!)
「命とはな、か弱いものなんだ。少しの事でも簡単に散ってしまう。それが小さい者なら尚更。」
(……本当にそうですね……。)
誠が今思い浮かんだのは自身の事ではない。散っていった小さな……。誠は不意に過った記憶を打ち消し、神に問いかける。
(神様?ずっと心配しないといけないのですか?もっとみんな喜んでいたような……?)
『……ああ、一般的に十二週まで妊娠を継続出来れば、流産率は一気に下がると言われているらしいな。』
(十二週?)
『妊娠三ヶ月の事だ。あと一ヶ月で赤ん坊に栄養を送る「胎盤」と呼ばれる物が出来る。そしたら悪阻も軽減する。』
(じゃあ、妻は育つかも分からない子の為に今耐えているのですか?)
『そうだ。』
(……そう……ですか。)
誠はこの先もこの命が育まれる事を知っているから必死に耐えている。しかし、幸子はこの先の未来を知らずに無事に育つ事を信じ耐えている。ただ、母の強さというものを実感する。
(俺も一緒の時を過ごすよ。神様、どうかお願いします。)
『構わぬが、これからの展開は覚えているよな?覚悟は出来ているのか?』
(はい、俺はあの時見ているだけでした。だから、こいつの苦しみを知りたいです。)
『……お主変わったな。人間とはこんな短時間で変われるのか……。』
(妻になってみて色々感じました。まあ、死んでからでは遅いのですけどね。)
『遅すぎる事はない。』
(神様……。)
誠は前より気になっていた事を聞くと決める。
(あの、神様はどうして私なんかにこのような事をして下さるのですか?人間なんて無数に存在し、毎日死んでいます。それなのにどうして?)
『……たまたまだ。』
(でも、私の事も妻の事も知っておられる。以前より知っておられたみたいに……。何かあるなら教えて下さい!)
神は黙り込む。どうやら神側にも何かあるようだ。
『……そうだな、確かに我は前からお前達を知っている。』
(何か不敬な事でもしましたか?全く覚えていないのですが……。)
神は笑い飛ばす。どうやら誠は見当違いしているようだ。
『不届者などいちいち覚えておらん。まあ、落書きされる事もよくあったがな。』
(ら、落書き?そのような事を!)
誠の思考は乱れる。子供の頃ならやっていてもおかしくないからだ。
『あ、いや話がそれた。安心しろ、お主の話じゃない。何故お主に肩入れするかだったな。我は「ある人物」の願いを聞き入れただけの事。だからお主が恐縮する必要はない。』
(……ある人物?誰ですか?)
『それはお主が自身で導き出せ。自ずと分かる事だから……。』
(はい。)
『まあ、とりあえず今はこの流れに身を任せろ。そしたら見えてくるからな。』
死にかけている誠の元に神が来たのは、神の気まぐれではなく「ある人物」に頼まれての事だった。「ある人物」とは誰なのか?何故、そんな事を頼んでいるのか?誠は後に知る事となる。
(おい!神様が聞いているんだ!余計な事言うなよ!)
しかし幸子は何も言っていない。そう、これは幸子の思考なのだ。
(神様!これは……?)
『妻の思考だ。お主に全て考えさせるつもりだったが、お主は鈍すぎる。だから妻の思考を流す事にした。』
(あ、ありがとうございます。……この時、そんな事思っていたんだ。)
『言っておくが必要な時だけだからな?』
(はい、勿論です。)
……幸子は分かっていたのだ、誠が食器を洗おうとしてくれた事を。その後も不器用な男は、お風呂掃除をして幸子を先に入れようとする。
「風呂に入れ。」
「ありがとう。」
[やっぱり優しいな……。]
(おい、母さんが来る日はお前は絶対離れるな!分かったな!)
過去の自分に眼を飛ばす。
幸子はお湯に浸かる。たまたまだろうが、お湯は温くなんとか吐かずに入浴出来る。最低限洗い早めに上がって来るが、幸子は我慢出来ずにその場に座り込む。
「おい!」
誠はうずくまる幸子に駆け寄る。心配しつつ目を逸らす。
[気持ち悪い……、もう……だめ……。]
「ごめんなさい、気持ち悪くて。パジャマ着るの手伝ってくれない?」
「ああ。」
誠は幸子を手伝うが、時折目を逸らす。
(照れてる場合か!まったく……。)
しかし、誠は幸子の髪まで乾かし部屋まで連れて行き寝かす。途中、吐いてしまった幸子の介抱まで行いベッドに寝かせる。
『ほぉ、実はやる男だったんだな、お前。』
神は誠に語りかける。
(お、覚えていません……。)
[……ありがとう……、あなた……。]
(も、もう思考は良いです!)
『待て、今から大事な思考が出て来る。しっかり聞いておけ。』
[でもどうしよう……。駄目なってしまったら……。あんなに喜んでいるのに……。話すべきかな?でも……。]
幸子はお腹を摩る。
(大丈夫だ!元気な心拍聞いただろう?この子は試練を乗り越えた強い子だから……。)
『まだだ。まだ、安心できる時期ではない。今からでも心拍停止はある話なんだ。』
(え!まだなんですか!)
「命とはな、か弱いものなんだ。少しの事でも簡単に散ってしまう。それが小さい者なら尚更。」
(……本当にそうですね……。)
誠が今思い浮かんだのは自身の事ではない。散っていった小さな……。誠は不意に過った記憶を打ち消し、神に問いかける。
(神様?ずっと心配しないといけないのですか?もっとみんな喜んでいたような……?)
『……ああ、一般的に十二週まで妊娠を継続出来れば、流産率は一気に下がると言われているらしいな。』
(十二週?)
『妊娠三ヶ月の事だ。あと一ヶ月で赤ん坊に栄養を送る「胎盤」と呼ばれる物が出来る。そしたら悪阻も軽減する。』
(じゃあ、妻は育つかも分からない子の為に今耐えているのですか?)
『そうだ。』
(……そう……ですか。)
誠はこの先もこの命が育まれる事を知っているから必死に耐えている。しかし、幸子はこの先の未来を知らずに無事に育つ事を信じ耐えている。ただ、母の強さというものを実感する。
(俺も一緒の時を過ごすよ。神様、どうかお願いします。)
『構わぬが、これからの展開は覚えているよな?覚悟は出来ているのか?』
(はい、俺はあの時見ているだけでした。だから、こいつの苦しみを知りたいです。)
『……お主変わったな。人間とはこんな短時間で変われるのか……。』
(妻になってみて色々感じました。まあ、死んでからでは遅いのですけどね。)
『遅すぎる事はない。』
(神様……。)
誠は前より気になっていた事を聞くと決める。
(あの、神様はどうして私なんかにこのような事をして下さるのですか?人間なんて無数に存在し、毎日死んでいます。それなのにどうして?)
『……たまたまだ。』
(でも、私の事も妻の事も知っておられる。以前より知っておられたみたいに……。何かあるなら教えて下さい!)
神は黙り込む。どうやら神側にも何かあるようだ。
『……そうだな、確かに我は前からお前達を知っている。』
(何か不敬な事でもしましたか?全く覚えていないのですが……。)
神は笑い飛ばす。どうやら誠は見当違いしているようだ。
『不届者などいちいち覚えておらん。まあ、落書きされる事もよくあったがな。』
(ら、落書き?そのような事を!)
誠の思考は乱れる。子供の頃ならやっていてもおかしくないからだ。
『あ、いや話がそれた。安心しろ、お主の話じゃない。何故お主に肩入れするかだったな。我は「ある人物」の願いを聞き入れただけの事。だからお主が恐縮する必要はない。』
(……ある人物?誰ですか?)
『それはお主が自身で導き出せ。自ずと分かる事だから……。』
(はい。)
『まあ、とりあえず今はこの流れに身を任せろ。そしたら見えてくるからな。』
死にかけている誠の元に神が来たのは、神の気まぐれではなく「ある人物」に頼まれての事だった。「ある人物」とは誰なのか?何故、そんな事を頼んでいるのか?誠は後に知る事となる。
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