トイレのミネルヴァは何も知らない

加瀬優妃

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2時間目 盗撮騒ぎ

エピローグ・これってどーゆー種類のお仕置き?

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「あっ、これは……!」
「グラタン皿だね。莉子、グラタンが好きなの? 今度作ってあげようか?」

 やってきました日曜日。新川透のリクエストにお応えしてドライブ&お買い物です。
 今日の私の服装は、襟と袖にドレープの入ったベージュの長袖ブラウスに、焦げ茶色の膝丈サロペットスカート。それにエンジ色のショートブーツ。
 もともと持ってた服じゃないよ。金曜日の夜に新川透から渡されました。金曜日の午前中に買いに出かけたらしい。
 ……ってか、靴のサイズはいつの間に計ったの? ピッタリだったけど……。

「これ着てきて❤」
「こういうのが好きなの?」
「いや、とりあえず莉子が好きそうだったから。で、『俺がいないと何もできなさそうな頼りなくて可愛い甘えんぼな女の子』仕様でお願いします」
「そんなたくさんの要素、盛り込めるか!」

 ずびしっ!と頭にチョップはかましたけれども、とても楽しみにしてくれているのがビシビシ伝わってきた。大きい声では言えないけど、そのときの新川透の表情が、ちょっと可愛かったです。
 
 そしてこの服、かなり私好みだ。ほら、私ってガリガリだから、あんまり体にピタッとした服は似合わないんだよね。ふわふわーひらひらーっていうのをついつい選んでしまう。
 だけど……何で私の好みがわかったんだろう? 二回しか見てないのにね……。


 まぁそれはいいとして、私と新川透はハイウェイオアシスに新しく入ったという生活雑貨のお店に来ていた。確かに可愛いグラスやお洒落なお皿がいっぱいだ。料理はしないけど、見てるだけで何だか楽しい。

「新川センセー、グラタンも作れるの?」
「莉ー子」
「はぐっ!」

 そうじゃないでしょ、と耳元で囁かれる。私の左側にいた新川透が、少しかがんで私にしか聞こえないような声で。
 何でこうなったのかは分からないんだけど、外で先生はやめて、かと言ってフルネームは嫌、今日一日だけでいいから名前で呼んで、と言われて。
 そもそもはお仕置きの一環だからね、と念を押されて。
 そしてなぜ逆らえないの、莉子!! だって今回は完敗だから! はい、詰んだー!

「え……えーと……透ちゃん?」
「なーに、莉子❤」

 ひーっ! 何ですか、この甘ったるい感じは!
 そしてなぜ「透さん」でも「透くん」でもなく「透ちゃん」なのか!
 ぜーったい、一番恥ずかしがるようなもの、ということでチョイスしたに違いない! そうに決まってる!
 ちょっとわかってきたもん、新川透のこと!

 こんな感じで叫びだしそうになる局面がちょこちょこあるんだけど、そのたびにぐうっと飲み込む。
 あああ、ものすごくカロリーを消費している気がする……。

 気を取り直して、グラタン皿の一つを手に取る。
 ちょっと昔のことを思い出した。お母さんと一緒に、ファミレスに行ったときのこと。

「外でご飯食べるときね……といっても、だいぶん昔の話になっちゃうけど。グラタンとドリアだとついついドリアを選んじゃうんだよね。ご飯がついてる分お得だよね、と思って」
「相変わらず腹持ちでしか選ばないね……」
「だから何て言うか……高くはないけど贅沢な食べ物、っていう印象」
「そんなことはないんだけどね。まぁ、じゃあ買っておこうか。どれがいい?」
「んーっと……」

 楕円形や真ん丸。取っ手の付いたものや片手鍋風のもの。色々な形がある。
 どれも素敵だなあ、と思っていると
「ちょっとあの人カッコいいよね」
「や、やばくない?」
「でも……ロリコンなのかな……?」
という女性三人組のヒソヒソ声が聞こえてきた。

 ろ、ろ、ロリコン……。そうか、リクエストにお応えしたものの、ちょっと幼すぎたかなあ。見ようによっては中学生に見えるかもしれない。
 もともと顔が地味だし、童顔と言えば童顔かも。もっと欠点をカバーするようなメイクにするべきだったな。何だか、新川透に申し訳ない……。
 だって、これまで超絶モテ人生を送ってきた彼が! よもや『ロリコン』と言われる日が来ようとは!
 嫌だー、こんなよくわかんないことで新川透の人生の汚点になりたくないです! 何か、ずーっと付いて回りそうじゃない!

「……莉子」
「え?」

 ぐるぐる考えている最中に不意に呼ばれたので、驚いて顔を上げる。
 が、上がりきる前に、右手でガッと肩を引き寄せられ、チュッと左耳にキスをされた。
 咄嗟に「ひえっ!」と叫んでばばっと離れようとしたけど、
「ほら、陶器類に囲まれるところで暴れると危ないから」
と離してくれない。

「なっ……ぐっ……がっ……」

 な、な、何てことを! 自らロリコン認定されに行くとは!
 しかもここは公共の場ですよ! イチャイチャしていい場所ではないのです! ピピーッ、はい、警告1!
 いやそもそも、私たちはそういう関係ではないでしょ! 誰もそんなことしていいって言ってない! 言ってないし! 言ってないからね!
 新川透のことだから、それって莉子の許可が要るの?とか真顔で言いそうだ。要ーるーんーでーすー!と全力で返さなくては。

 ハッとしてヒソヒソ女性三人組を見ると、何とも言えない顔をして私たちを見ていた。そのうちの一人とバチンと目が合い、さらに私の頬が熱くなる。三人組はハッとしたように新川透の顔を見ると、さささーっと足早に去ってしまった。

 いったいどんな顔をしてたんだよ新川透は、と思い見上げると、尋常じゃなくニコニコしている。……いや、ニヤニヤ? デレデレ?
 とにかく目尻の下がりっぷりが半端ない。何か甘~い変なフェロモンが出ている。エロい顔ってこういうのを言うのかなー。

「はー、面白かった」
「ひ、ひどい!」
「ひどいのは傍にいる俺より赤の他人を気にする莉子の方だと思うな」
「だ、だって……!」
「気にしなくていいよ。今日の莉子は可愛い。俺のリクエストに一生懸命応えてくれた。俺の見立ても完璧。はぁー、ずっと抱っこしてたい。正直、理性を保つのが辛い。莉子が怒るからってやっぱりあの手錠、捨てなきゃ良かった。まだまだ使い道があった気がするのに……」
「こっ、後半かなりオカシイからー!」
「はい、その格好で蹴りは禁止ね。可愛いけど可愛くないからねー。可愛いけど」
「うぐっ……」

 私を可愛い地獄に嵌める気ですか。今日はずっとこんな感じなの? 心臓がもたないんですけど!!
 やっぱり借金の返済、し過ぎたよね! 絶対そうだよね! 過払い金、返して! 助けて、何ちゃら法律事務所ー!!
 今回ばかりは……完全に丸め込まれた! 悔しい~~!!
 もう絶対に、思い通りになんかなるもんか!


 ……そう固く、心に誓ってたんだけどね。
 新川透のマンションに戻り、買ってきた食器を洗って片付けているとき。

「ああ、良かった。買うんなら絶対、莉子と一緒に莉子が好きなものを、と思ってたからさ」

……と、ひどく上機嫌に新川透がのたまった。
 ん? と思い、じーっと見上げる。

「じゃあ、あえて最低限にしてたの?」
「そう」
「私が言い出すまで待ってたってこと?」
「まぁね」

 うわーい、やっぱりいいように操られてるじゃん!! 莉子のバカバカ!
 くっ……今日一日、完全に私のミス。一生の不覚だわ!
 もう絶対に甘い顔しない! こいつの全力おねだりには屈しない!

 拳を握って意気込んだところで、ふと我に返る。
 ……あれ? ちょっと待てよ。
 この食器棚、いつ買ったんだろう……? 一人暮らしを始めたの、いつだって言ってたっけ……?

「ん? 何?」
「……いや、何でもない……」

 機嫌良さげに微笑む新川透に、私はゆっくりと首を横に振った。
 何か、聞いたら駄目なような気がしたから。
 だって、新川透が言うところの、莉子ホイホイの代物よ?
 そう、それに! 食器棚だけ買い替えた可能性もあるしね! そうだよね!
 『ご想像にお任せします』。これ、これね! いい言葉だ!

 皆さん、ごめんなさい。
 私にはまだ、彼の真意を知る勇気はありません……。


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