66 / 88
放課後 ~後日談~
初詣に行こう ~健彦side~(後編)
しおりを挟む
「ふうん……去年はそんな感じだったんだ」
そして大晦日、夜の十一時五十分頃。
俺と中西恵は、山の中の神社の境内で、長々と続くお参りの列に並んでいた。
ここは街の中心部からはかなり離れているのだが、学業に強いというだけあって割と有名なようだ。あちらこちらに小学生の親子連れや受験生っぽい高校生などを見かける。
しかし元々がそう大きい神社ではないために、一度にお参りできる人数には限りがある。そのため三列ぐらいに分かれ、厚手のコートに身を包んだ人々が白い息を吐きながら年が明けるのを待っていた。
これだけ辺りが暗く人も多いなら、あの小さい仁神谷の姿なんて同級生には見つけられないだろう。境内に外灯はなく、参道に沿って置かれた淡い光を放つ灯篭と所々で焚かれている篝火だけが頼りになる状態だ。透兄なりに仁神谷のことを考えてるんだな、と思う。
まぁ大方予想通りではあったが、神社に着いた途端、透兄は
「莉子、あっちにご神木があるからまずはそこからね。だからここからは別行動で」
と言ってさっさと仁神谷を連れて離れていってしまった。
仁神谷は
「えっ、ちょっ……」
と何やら慌てていたが、俺と中西は生温い視線を送りつつ
「……だろうな」
「そりゃ、まあねぇ」
と相槌を打ち、半目で二人の姿を見送った。
もう、仁神谷が拒絶する理由はないからな。透兄なら強引に二人きりになると思ったよ。
しかし、暗闇の中に本殿だけが明るく浮かび上がる夜の神社は、なかなか幻想的で心が洗われる気がする。
透兄の影響で合格祈願なんてしたことなかったから、
「初詣なんて初めてだけど、いいもんだな」
と思わず呟いたら、中西にひどく驚かれた。
そして去年はどうしたんだと聞かれたので、俺の受験事情を話してやった。
どうせこの列に並んでいる間は何もすることがない。ずっと黙りこくっているのも変だし。
しかしまぁ、去年はそんなカッコいいことを言っていた透兄が、まさか一人の女のためにこうも奔走するとはねぇ。
そう言えばあの二人はどうしたかな、と辺りを見回すと、そのご神木方向からのお参りの列の中に、透兄らしき人影を見つけた。ご神木周辺は明かりが無く、かなり薄暗かったけど、透兄は背が高くて頭一つ抜け出ているから、ちょっと目立つ。
こういうとき便利だよな……と思いつつ目を凝らしてみると、仁神谷がにじり寄る透兄の顎をグイグイと押し上げていた。
……何をしてるんだ、あのバカップルは。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
振り返ると、中西はどうやら二人の方は見てなかったようで、腕を組んで何かを真剣に考え込んでいた。
「その、受験後の話。その時って新川センセーはもう莉子の境遇は知ってたはずだから……自分に言い聞かせてたのかも」
「え?」
「莉子のお母さんが亡くなったこと、新川センセーはちょっと遅れて知ったみたいだから。その時には莉子はもう高校を辞めていて……」
「……」
「気に病んでたみたい。もっと前に莉子と知り合ってたら、ちゃんと助けられたかもしれないのにって」
「そうなのか……」
透兄も仁神谷に関しては失敗したと思って――後悔していて、だから全力で取り返そうとしたのかな。
しかしそのために弟の俺を騙してこき使うというのは、兄としてどうなんだと思うのだが。
最初に俺がした、透兄の盗撮。
あれはそもそも、透兄に頼まれてしたことなのだ。今更何を言っても言い訳に聞こえるだろうが、俺が自ら始めたことじゃない。
透兄のファンの女生徒に写真を撮っていることがバレたのは、まぁ俺のミスなんだが。
俺の周りに寄ってくる女というと、たいていは透兄が目当てだ。だからさっさと相手の目的を聞いてあとは自分でどうにかしてくれ、と投げた方が楽なのだ。
俺ができるのはこの程度だよ、と最初にはっきり分からせる。どうせ透兄の方がうまく捌けるんだし。
だからちょっとぐらい良いだろ、と安易に考えたのがマズかった。
後で透兄にたっぷり叱られ、悪事の片棒を担がされる羽目になる。
ただ……俺に仁神谷のことを話したのは、ちょっと意外だったな。まさか透兄から女の話を聞かされるとは思ってなかったからな。何となく、男として対等になったような、そんな気分。
まぁ、俺の弱みを握っていたから話せたのかもしれないけど……計画のためには俺に事情を知らせておくことが必要で、仁神谷には手を出すな、という牽制もあったのかな。
いや、掃除婦の中に若い女の子がいるとか絶対に気づかないし、仮に気づいたところで好きになるとは限らないし。しかも透兄が惚れてるって分かっててちょっかいをかける訳がないんだけどな。
あの透兄が全てのエネルギーを注ぎ込んでいる女に、そんな……。
うっ、想像しただけで背筋が凍る。
「まぁ、透兄が仁神谷に本気だってことは、弟の俺が証明するよ……」
だから俺はひたすら二人が上手くいくことを祈ってます、邪魔する気は毛頭ありません……と見えぬ神に祈るような気持ちで呟くと、中西は
「確かにね」
と言って「ふふっ」と小さく笑った。
「新川先輩も大変だね」
「まあな……。それに最初に比べると、仁神谷が絡んだ時の透兄の俺に対する反応が、だんだん敏感になってるんだよな」
「ああ……」
「だから仁神谷には大人しくしててもらいたいんだよ。俺のことなんか気に掛けなくていいからさ」
中西は聞き上手だな、と思う。透兄の教育のおかげで少々女性不信気味なんだが、中西には割と普通に話せる。
あの二人を一番よく見ている人間、という共通事項があるからかもしれない。
そんな気安さもあり思わず愚痴ると、「はははっ」と楽しそうな笑い声が返ってきた。
「それは無理な相談だねぇ。莉子は自分の立ち位置とかそういうのに結構うるさいからさ」
「あいつが俺を構うと、透兄の目つきが鋭くなるんだよ。頼まれても手なんか出さないってのに……。そんなに俺って信用がないのかな」
「えっ!? それは逆じゃない!?」
中西が驚いて声を上げる。ちょうど篝火が中西の顔を照らしていて、まるで恐怖映画のワンシーンのようになっていた。
光の当たり方かもしれないが、そこまで驚愕の表情をしなきゃいけないようなことを言ったか、俺?
「逆?」
「逆だよ。莉子が新川先輩を好きになったら困るからだよ」
「仁神谷が? 無いだろ」
「無いとは思うけど……でもほら、傍目に見たら年齢的には釣り合うじゃない?」
「まぁ……」
「それだけでも十分脅威なのに、莉子も先輩には気兼ねなく接してるみたいだしさ。それがまた結構、稀で」
「稀なんだ……」
「警戒心が強いからね。『第1段階クリア』って感じかな」
仁神谷もなかなか厄介な人間なんだな……。まぁ、分かってはいたけど。
透兄があんな計画まで立てたぐらいだし。それこそ、ミスったらワンチャンとか無いんだろうな。
「だから、新川先輩だったら莉子も好きになってしまうかもしれない、と……それだけ弟を買ってるってことじゃないの?」
「えっ!?」
それは予想外だ。透兄にとって俺なんて、下僕みたいなもんなんだろうと思ってたし。
俺は男として対等になれた『気分』でいただけだが、透兄的には既に対等だったってことか?
そんな馬鹿な……。
あり得ないだろ、と首を捻る俺に気づいたのか、中西は
「先輩も意外に頑なだよね」
と呆れたように言い放った。
「つまり、信用……というか、それだけ評価してるってことだよね。認めてるっていうのかな」
「そうか……?」
「もう、新川先輩は気弱すぎ。もっと自信を持ちなよ」
中西はそう言うと、ふふふっと微笑んだ。その表情はちょっと大人びていて、後輩のはずだけど本当に姉御だな、と思う。
思えばこうして二人きりで話すのは初めてだが、何の思惑もない女子と話すのは気が楽で、意外に楽しい。
「それに、新川先輩と莉子、高校も同じでしょ?」
「え? そうだっけ?」
「知らなかったの?」
「ああ」
透兄もそんなこと言わなかったしな。仁神谷の出身高校なんて、気にも止めてなかったけど。
「だいたいウチの高校なんて、学年が違ったら誰がいるかなんて分からないぞ。部活とかで一緒でもない限りは」
「だって生徒会もやってたって言ってたし」
「仁神谷が?」
「うん。1年の後期に」
「じゃあすれ違いだ。俺が生徒会をやっていたのは、その半期前、俺が2年の前期のときだ。時期が違ってたらまず接点はないよ」
「あれー? おかしいな。予想が外れた」
首を傾げ、眉間にしわを寄せる中西。腕を組み、右手の人差し指を眉間にあてて「ん~~」と唸っている。まるでどこぞの警部のようだ。
いったい何がそんなに引っ掛かるのか。
「てっきり新川センセーは先輩から情報を貰ってたんだと思ってたんだけどな」
「情報? 仁神谷の?」
「うん」
「それはないぞ。俺が透兄から仁神谷の話を聞いたのは、予備校に入ってからだ」
「そうなんだ」
中西は一瞬がっかりしたような顔をしたが、
「うーん、それもそうか」
と気を取り直したように頷いた。
「新川センセーが、おいそれと自分の弱みを弟に見せたりする訳ないよね。どうせカードを切るなら一番効果的な局面で、のはず」
「確かに。よく見てるな、お前」
「まぁねー」
得意気に右手をおでこにあて、敬礼みたいなポーズをしておどける中西に、思わず笑ってしまった。
しかし、ふと……何かが引っ掛かる。
あれ、ちょっと待てよ?
同じ高校だったということは、俺が2年の時に仁神谷は1年。
俺自身も知らない間に情報を引き出すのは容易いことだよなあ……。
……まさかとは思うが、透兄がウチの高校の体育祭や文化祭に来てたの、そのためだったんだろうか。
あの透兄が両親や伊知郎兄に頼まれたからって「弟のために」ってだけで動くなんて、変だし。きっとそうだ。
再び離れた列に並んでいる二人の方を見る。
元の場所から少し前に進んだようで、拝殿から漏れ出た光が透兄の背中をぼんやりと浮かび上がらせていた。
少し腰をかがめているようだ。ここから見えないが、恐らく仁神谷に話しかけているんだろう。他人には勿論、家族にすら見せたことがない、蕩けそうな笑顔で。
頼むから仁神谷、透兄のことだけ考えて、おとなしくしていてくれ。透兄の関心をそうやって引き付けておいてくれ。
それが、新川家の……いや、俺の平和に繋がるからさ。
で、後生だから、これ以上俺に構わないでくれ。
何かヘマをしたら……今度こそ確実に、息の根を止められるから。
そして大晦日、夜の十一時五十分頃。
俺と中西恵は、山の中の神社の境内で、長々と続くお参りの列に並んでいた。
ここは街の中心部からはかなり離れているのだが、学業に強いというだけあって割と有名なようだ。あちらこちらに小学生の親子連れや受験生っぽい高校生などを見かける。
しかし元々がそう大きい神社ではないために、一度にお参りできる人数には限りがある。そのため三列ぐらいに分かれ、厚手のコートに身を包んだ人々が白い息を吐きながら年が明けるのを待っていた。
これだけ辺りが暗く人も多いなら、あの小さい仁神谷の姿なんて同級生には見つけられないだろう。境内に外灯はなく、参道に沿って置かれた淡い光を放つ灯篭と所々で焚かれている篝火だけが頼りになる状態だ。透兄なりに仁神谷のことを考えてるんだな、と思う。
まぁ大方予想通りではあったが、神社に着いた途端、透兄は
「莉子、あっちにご神木があるからまずはそこからね。だからここからは別行動で」
と言ってさっさと仁神谷を連れて離れていってしまった。
仁神谷は
「えっ、ちょっ……」
と何やら慌てていたが、俺と中西は生温い視線を送りつつ
「……だろうな」
「そりゃ、まあねぇ」
と相槌を打ち、半目で二人の姿を見送った。
もう、仁神谷が拒絶する理由はないからな。透兄なら強引に二人きりになると思ったよ。
しかし、暗闇の中に本殿だけが明るく浮かび上がる夜の神社は、なかなか幻想的で心が洗われる気がする。
透兄の影響で合格祈願なんてしたことなかったから、
「初詣なんて初めてだけど、いいもんだな」
と思わず呟いたら、中西にひどく驚かれた。
そして去年はどうしたんだと聞かれたので、俺の受験事情を話してやった。
どうせこの列に並んでいる間は何もすることがない。ずっと黙りこくっているのも変だし。
しかしまぁ、去年はそんなカッコいいことを言っていた透兄が、まさか一人の女のためにこうも奔走するとはねぇ。
そう言えばあの二人はどうしたかな、と辺りを見回すと、そのご神木方向からのお参りの列の中に、透兄らしき人影を見つけた。ご神木周辺は明かりが無く、かなり薄暗かったけど、透兄は背が高くて頭一つ抜け出ているから、ちょっと目立つ。
こういうとき便利だよな……と思いつつ目を凝らしてみると、仁神谷がにじり寄る透兄の顎をグイグイと押し上げていた。
……何をしてるんだ、あのバカップルは。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
振り返ると、中西はどうやら二人の方は見てなかったようで、腕を組んで何かを真剣に考え込んでいた。
「その、受験後の話。その時って新川センセーはもう莉子の境遇は知ってたはずだから……自分に言い聞かせてたのかも」
「え?」
「莉子のお母さんが亡くなったこと、新川センセーはちょっと遅れて知ったみたいだから。その時には莉子はもう高校を辞めていて……」
「……」
「気に病んでたみたい。もっと前に莉子と知り合ってたら、ちゃんと助けられたかもしれないのにって」
「そうなのか……」
透兄も仁神谷に関しては失敗したと思って――後悔していて、だから全力で取り返そうとしたのかな。
しかしそのために弟の俺を騙してこき使うというのは、兄としてどうなんだと思うのだが。
最初に俺がした、透兄の盗撮。
あれはそもそも、透兄に頼まれてしたことなのだ。今更何を言っても言い訳に聞こえるだろうが、俺が自ら始めたことじゃない。
透兄のファンの女生徒に写真を撮っていることがバレたのは、まぁ俺のミスなんだが。
俺の周りに寄ってくる女というと、たいていは透兄が目当てだ。だからさっさと相手の目的を聞いてあとは自分でどうにかしてくれ、と投げた方が楽なのだ。
俺ができるのはこの程度だよ、と最初にはっきり分からせる。どうせ透兄の方がうまく捌けるんだし。
だからちょっとぐらい良いだろ、と安易に考えたのがマズかった。
後で透兄にたっぷり叱られ、悪事の片棒を担がされる羽目になる。
ただ……俺に仁神谷のことを話したのは、ちょっと意外だったな。まさか透兄から女の話を聞かされるとは思ってなかったからな。何となく、男として対等になったような、そんな気分。
まぁ、俺の弱みを握っていたから話せたのかもしれないけど……計画のためには俺に事情を知らせておくことが必要で、仁神谷には手を出すな、という牽制もあったのかな。
いや、掃除婦の中に若い女の子がいるとか絶対に気づかないし、仮に気づいたところで好きになるとは限らないし。しかも透兄が惚れてるって分かっててちょっかいをかける訳がないんだけどな。
あの透兄が全てのエネルギーを注ぎ込んでいる女に、そんな……。
うっ、想像しただけで背筋が凍る。
「まぁ、透兄が仁神谷に本気だってことは、弟の俺が証明するよ……」
だから俺はひたすら二人が上手くいくことを祈ってます、邪魔する気は毛頭ありません……と見えぬ神に祈るような気持ちで呟くと、中西は
「確かにね」
と言って「ふふっ」と小さく笑った。
「新川先輩も大変だね」
「まあな……。それに最初に比べると、仁神谷が絡んだ時の透兄の俺に対する反応が、だんだん敏感になってるんだよな」
「ああ……」
「だから仁神谷には大人しくしててもらいたいんだよ。俺のことなんか気に掛けなくていいからさ」
中西は聞き上手だな、と思う。透兄の教育のおかげで少々女性不信気味なんだが、中西には割と普通に話せる。
あの二人を一番よく見ている人間、という共通事項があるからかもしれない。
そんな気安さもあり思わず愚痴ると、「はははっ」と楽しそうな笑い声が返ってきた。
「それは無理な相談だねぇ。莉子は自分の立ち位置とかそういうのに結構うるさいからさ」
「あいつが俺を構うと、透兄の目つきが鋭くなるんだよ。頼まれても手なんか出さないってのに……。そんなに俺って信用がないのかな」
「えっ!? それは逆じゃない!?」
中西が驚いて声を上げる。ちょうど篝火が中西の顔を照らしていて、まるで恐怖映画のワンシーンのようになっていた。
光の当たり方かもしれないが、そこまで驚愕の表情をしなきゃいけないようなことを言ったか、俺?
「逆?」
「逆だよ。莉子が新川先輩を好きになったら困るからだよ」
「仁神谷が? 無いだろ」
「無いとは思うけど……でもほら、傍目に見たら年齢的には釣り合うじゃない?」
「まぁ……」
「それだけでも十分脅威なのに、莉子も先輩には気兼ねなく接してるみたいだしさ。それがまた結構、稀で」
「稀なんだ……」
「警戒心が強いからね。『第1段階クリア』って感じかな」
仁神谷もなかなか厄介な人間なんだな……。まぁ、分かってはいたけど。
透兄があんな計画まで立てたぐらいだし。それこそ、ミスったらワンチャンとか無いんだろうな。
「だから、新川先輩だったら莉子も好きになってしまうかもしれない、と……それだけ弟を買ってるってことじゃないの?」
「えっ!?」
それは予想外だ。透兄にとって俺なんて、下僕みたいなもんなんだろうと思ってたし。
俺は男として対等になれた『気分』でいただけだが、透兄的には既に対等だったってことか?
そんな馬鹿な……。
あり得ないだろ、と首を捻る俺に気づいたのか、中西は
「先輩も意外に頑なだよね」
と呆れたように言い放った。
「つまり、信用……というか、それだけ評価してるってことだよね。認めてるっていうのかな」
「そうか……?」
「もう、新川先輩は気弱すぎ。もっと自信を持ちなよ」
中西はそう言うと、ふふふっと微笑んだ。その表情はちょっと大人びていて、後輩のはずだけど本当に姉御だな、と思う。
思えばこうして二人きりで話すのは初めてだが、何の思惑もない女子と話すのは気が楽で、意外に楽しい。
「それに、新川先輩と莉子、高校も同じでしょ?」
「え? そうだっけ?」
「知らなかったの?」
「ああ」
透兄もそんなこと言わなかったしな。仁神谷の出身高校なんて、気にも止めてなかったけど。
「だいたいウチの高校なんて、学年が違ったら誰がいるかなんて分からないぞ。部活とかで一緒でもない限りは」
「だって生徒会もやってたって言ってたし」
「仁神谷が?」
「うん。1年の後期に」
「じゃあすれ違いだ。俺が生徒会をやっていたのは、その半期前、俺が2年の前期のときだ。時期が違ってたらまず接点はないよ」
「あれー? おかしいな。予想が外れた」
首を傾げ、眉間にしわを寄せる中西。腕を組み、右手の人差し指を眉間にあてて「ん~~」と唸っている。まるでどこぞの警部のようだ。
いったい何がそんなに引っ掛かるのか。
「てっきり新川センセーは先輩から情報を貰ってたんだと思ってたんだけどな」
「情報? 仁神谷の?」
「うん」
「それはないぞ。俺が透兄から仁神谷の話を聞いたのは、予備校に入ってからだ」
「そうなんだ」
中西は一瞬がっかりしたような顔をしたが、
「うーん、それもそうか」
と気を取り直したように頷いた。
「新川センセーが、おいそれと自分の弱みを弟に見せたりする訳ないよね。どうせカードを切るなら一番効果的な局面で、のはず」
「確かに。よく見てるな、お前」
「まぁねー」
得意気に右手をおでこにあて、敬礼みたいなポーズをしておどける中西に、思わず笑ってしまった。
しかし、ふと……何かが引っ掛かる。
あれ、ちょっと待てよ?
同じ高校だったということは、俺が2年の時に仁神谷は1年。
俺自身も知らない間に情報を引き出すのは容易いことだよなあ……。
……まさかとは思うが、透兄がウチの高校の体育祭や文化祭に来てたの、そのためだったんだろうか。
あの透兄が両親や伊知郎兄に頼まれたからって「弟のために」ってだけで動くなんて、変だし。きっとそうだ。
再び離れた列に並んでいる二人の方を見る。
元の場所から少し前に進んだようで、拝殿から漏れ出た光が透兄の背中をぼんやりと浮かび上がらせていた。
少し腰をかがめているようだ。ここから見えないが、恐らく仁神谷に話しかけているんだろう。他人には勿論、家族にすら見せたことがない、蕩けそうな笑顔で。
頼むから仁神谷、透兄のことだけ考えて、おとなしくしていてくれ。透兄の関心をそうやって引き付けておいてくれ。
それが、新川家の……いや、俺の平和に繋がるからさ。
で、後生だから、これ以上俺に構わないでくれ。
何かヘマをしたら……今度こそ確実に、息の根を止められるから。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる