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放課後 ~後日談~
新川透はというと。~過保護が過ぎる。その後~
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さて、完全にしてやられた彼は……?
――――――――――――――――――――――――――――
「だから嫌だったんだ。ウチが絡むとロクなことにならない」
新川透がうんざりしたような顔でコーヒーを啜った。私はというと、はぁそうなんだ、と間抜けな相槌を打ちながら東京土産の白い卵型のカステラをモグモグしている。
一夜明けて、26日。
玲香さんにジェットコースターみたいなオブジェのあるでっかいショッピングモールに連れていかれた。
マジで買い物三昧になるんじゃ、とちょっと恐怖を感じたんだけど、いろんなお店に連れていかれて
「どういうのが好き?」
「これも可愛いわね」
「あ、こういうのも似合うわよ」
と話をしただけ。実際に買ったのは、玲香さんが一目惚れしたという私用の薄いピンクの花柄ワンピース。それと、新川透用の紺色の丈が長めの春物ジャケット。この二つだけだった。
お昼を食べてから午後の新幹線に乗り、地元の駅に着いたのは夕方。
今日は休みだったという新川透が、恐ろしく不機嫌オーラをまき散らしながら腕を組み、仁王立ちでホームで待っていた。
それでも通りすがりの女子たちが何かを話しながらチラチラ見ていて、めっちゃ注目を浴びていたんだけども。
わざわざ入場券を買ったのか……。こ、怖いよー。
昨日、お風呂に入ったら疲れ切ってしまって、結局電話をしないまま寝ちゃったんだよね。
玲香さんが事の次第は簡単にメールしたらしいんだけど……やっぱり怒っていたみたいで、結局怖くて今日になっても私からは連絡できなかったのです。
「やってくれましたね、玲香さん」
「あら、透くんも了承してたでしょ?」
「まさかこんなに早く事を運ぶとは思ってませんよ」
「大丈夫、透くんが心配するようなことは何もないわ。はい、これ」
玲香さんが買ってきた洋服の袋を新川透に押し付ける。
「ちょっとしたお詫び。莉子ちゃんにもよく似合うワンピースを買ったの。今度、着てみて」
新川透は一瞬黙ると、おとなしく袋を受け取った。
「何も?」
「何も。予定通りよ」
「……そうですか」
フンと鼻を一つ鳴らし、袋を左手に抱えて右手で私の左手を取る。
「これはありがたく頂きます。莉子もね」
「莉子ちゃんはちゃんと夜には返してね」
「どうしますかねー」
おいこら、私は物じゃないし!
しかもここは地元! 手を繋ぐとか、恥ずかしいんですけど!
ちょっとアンタ、もう少し自分が目立つことを自覚してください。とてもじゃないけどこの視線、耐えられない!
……という私の心の叫びは届かず、そのまま引きずられるようにして新川透のマンションに連れてこられたのだった。
* * *
「大人達にいいように丸め込まれて、本当に……」
「……ごめんなさい」
ちびちびとコーヒーを啜りながらちらりと新川透の顔を盗み見る。
相変わらず、眉間には深い皺が刻み込まれている。自分の知らないところで契約成立に至り、レポートだの何だのと畳み込まれたのがかなり不快なようだ。
「でもね、私、料理できないじゃない? だから食事のことが一番心配だったらしくて……」
「だから……」
新川透が何かを言いかけたが、すぐに口をつぐんでしまった。焦れたようにガシガシと頭を掻く。
「えっと、確かにものすごく圧を感じたけど」
「そりゃそうだろう。松岡氏は莉子に構いたくて仕方がないんだし、小坂氏はその意を汲んであくまで有利に事を進めるだろうし。玲香さんは莉子と一緒に暮らしたことで『私が保護者』という意識が強くなってるからな。もともと世話好きだし」
……そうなのか。温かい人達に囲まれて、私って恵まれてるなあ。
まぁ、ちょっと行き過ぎな気はするけど。
「だから、何だかんだ言って俺が一番マトモなの」
いや、それはどうだろう。囲い込もうとしてた人の台詞じゃないなー。
一番行き過ぎてるのは間違いなく、あなたです。
ただ、受験が終わるまでの新川透は、確かにいろいろとセーブしてたような気はするけども。必要以上に甘やかすようなことはなかったし。
「このまま松岡家に入れられる、なんてことはないだろうな……」
「念書もあるし、大丈夫じゃない?」
「念書には法的拘束力なんて何もないよ」
「それでも、大企業の創業者一族でもある専務が、署名してハンコまで押したんだから」
私を安心させるためとはいえ、大の大人がそんなことまでしてくれたのだ。
その誠意をちゃんと信じたい。
「……莉子はさあ」
新川透は頬杖をつくと、ブスッとふてくされた顔で私を睨んだ。
「玲香さんや松岡氏、小坂氏のことは割と信用してるよね」
「それは、まあ……。だっていい人達だもん。今回のことはかなり強引ではあったけど、意地っ張りな私に合わせて一生懸命考えてくれたんだな、と思ったし」
「俺も悪い人達だとは言ってないよ。だけどね」
ガタッと立ち上がってバンとテーブルに両腕を突く。その音にちょっと驚いて、思わず両肩が上がる。
「一番付き合いの長い俺のことは全然信用していないように感じるのは、どういうこと?」
「えっ!?」
何だ、それ?
ちょっと意味が分からないぞ。
どういう意図で言ってるんだろう、と新川透の顔をまじまじと見上げたけど、裏の意味みたいなものは何も感じられなかった。
本当にただただ真っすぐ不満をぶつけられた、という感じ。
「信用……してるよ?」
「いーや、してないね。あんまり頼ってくれないし」
「もう、何で拗ねるの?」
「拗ねてない」
いや、バリバリ拗ねてるでしょうがー! この人たまにすごく子供みたいなことを言うよね。
何が気に入らないのかなあ、もう。
まぁ、でも、そう言われてみると全面的に信用している訳じゃないからなあ。
ちょっとこの人何をするか分からないわ、という恐怖心みたいなものはあるかもしれない。
「んー、強いて言えば最初が騙し討ちだったからじゃない?」
「玲香さんもそうでしょ」
「でもあれは、私が構えないようにするための配慮というか」
「俺だって、莉子が警戒しないようにするための配慮だし」
「それは何か違うというか……」
そうだよ。決定的に違うんです、他の三人と新川透は。
そこには信頼関係の前に恋愛感情がある訳だから。そして恋愛感情というのは、些細なことでも不安を呼び起こしたりするものなのですよ。
時として恋愛感情が信頼関係をぶっ壊すこともある訳です。
とはいえ、これを言うと
「あなたには恋愛感情があるからよ」
と伝えたも同じで、嫌だなあ。恥ずかしい。
「……何で赤くなるの?」
「何でもないです」
「絶対、何もなくないでしょ。言って、言って」
「ほら、そこだよ!」
私はコーヒーカップをドンとテーブルに置くと、ビシッと新川透を指差した。
「他の三人は無欲なのに、新川透は欲だらけだからです!」
「小坂氏はともかくとして、玲香さんと松岡氏は無欲ではないでしょ」
「欲の種類が違うの!」
「……ふうん」
ちょっと考えた後、新川透はニヤッと笑った。
「そう言われればそうだ。莉子がこんな赤くなってモジモジするの、俺の前しかないからね。もしくは俺がらみの話題の時か」
「それは、そう……」
「大好き」
「はっ!?」
突然告白されて、心臓がひときわ強く跳ね上がる。
ちょっと、急に何の脈絡もないことを言わないでよ! 顔が作れないじゃない!
しかしここでアウアウしては駄目なのだ。あっちのペースに飲み込まれる訳にはいかない。
バレンタインで学習したよね、莉子!
自分を励ましながら、ぐうっと奥歯を噛みしめて平静を装う。
「突然、何を言うのやら……」
「莉子が大好きなのは当然だけど、特に赤面して涙目になっている莉子が大好き」
「んがっ……」
まだ言うか、こいつは!
しかも、超ドS発言してます、この人ー!
「鬼か! この悪魔! 大魔王!」
「何とでも言って。そうか、欲だらけかー。そこまで分かってるんなら遠慮はいらないね。受験も終わったことだし、一つずつ叶えてもらうとするか」
「はい?」
「実は『莉子とやりたいことリスト』があるんだよね」
新川透はそう言うと、右手の人差し指で自分の頭を指差した。すでに頭の中にリストアップされている、とでも言いたいのだろう。
しかし何ともコメントしがたいネーミングだなあ。脱力する。
「いや、ほら、後期試験の勉強もあるしね?」
「そうは言ってもなかなか手につかないものだよ。ひとまず発散しよう。俺も相当、我慢したからね」
「いや、ちょっと……」
発散するべきは私で、あなたではないのでは。
そう言いかけて、思わずグッと喉が詰まる。
そういやさっき、私は何を考えたっけ。
――ただ、受験が終わるまでの新川透は、確かにいろいろとセーブしてたような気はするけども。
あぎゃ――!
終わった、確かに受験が終わっちゃったわよ! 最高の免罪符だったのに!
つまりこの人、現在セーブする気はゼロだ!
「あの、ちょっと、まだ心の準備が!」
いかん、逃げなくては! ……でも、どこへ?
慌てて席を立ったものの、どう動けばいいのか皆目見当がつかない。
「大丈夫、まだそこまではしない」
「じゃあ、どこまで!?」
「随分はっきり聞くね。えーと……」
「や、やっぱりいいや。帰ります」
「駄目、逃がさない」
まぁ、狭いリビングダイニングでは逃げ場もそうない訳で、あっさりと捕まる。
軽々と抱き上げられ、テレビの前のソファに座らされた。……いや正確には、新川透の両足の間に。
「あ、な……」
「とりあえずDVDでも見よう。字幕なしで解るようになりたいって言ってなかった?」
「い、言ったけど、この体勢で?」
「まぁまぁ。いくつかリスリングに良さそうなのを見繕っといたから……よいしょっと」
「ちょ、ちょっと! 何で移動するたびにいちいち抱きかかえるの!」
「逃げるから」
「に……逃げませんよ?」
「というより、離したくないから」
「ほら、自分の欲が最優先じゃん! そこだよ!」
「うーん、こればっかりはどうしようもないね」
「改善する気、全くないでしょ!」
「それは改悪だからね」
「何を……」
「はい、始まるよ。しっかり聞こう」
* * *
そんなわちゃわちゃがあって、結局ずっと後ろからハグされたままDVDを見ました。
……って、ずーっと「ペットかよ?」ぐらいの勢いで撫でくり回されたら、何も頭に入ってくきません!
あ、念のため言っておきますが、エッチな意味じゃないですよ! 頭と腕、手ぐらいのもんです。
それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ! 私がおかしいのかなあ!?
こ、これからこの容赦ない攻撃をしのがなければならないのか……。
もしくは慣れていかないといけないのか……。
そうだ、赤面しないようになればいいのかな? いやいや、そんなこと無理だってーの!
受験が終わって……違う何かのカウントダウンが始まった。
漠然とそう感じて、背中に変な汗が流れた。
おかしいな、私の心の安定はいつ訪れるんだろう?
――――――――――――――――――――――――――――
ざっくりまとめると、「莉子ちん、みんなに愛されてるね」、という話。
……のはず。( ̄▽ ̄;)
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「だから嫌だったんだ。ウチが絡むとロクなことにならない」
新川透がうんざりしたような顔でコーヒーを啜った。私はというと、はぁそうなんだ、と間抜けな相槌を打ちながら東京土産の白い卵型のカステラをモグモグしている。
一夜明けて、26日。
玲香さんにジェットコースターみたいなオブジェのあるでっかいショッピングモールに連れていかれた。
マジで買い物三昧になるんじゃ、とちょっと恐怖を感じたんだけど、いろんなお店に連れていかれて
「どういうのが好き?」
「これも可愛いわね」
「あ、こういうのも似合うわよ」
と話をしただけ。実際に買ったのは、玲香さんが一目惚れしたという私用の薄いピンクの花柄ワンピース。それと、新川透用の紺色の丈が長めの春物ジャケット。この二つだけだった。
お昼を食べてから午後の新幹線に乗り、地元の駅に着いたのは夕方。
今日は休みだったという新川透が、恐ろしく不機嫌オーラをまき散らしながら腕を組み、仁王立ちでホームで待っていた。
それでも通りすがりの女子たちが何かを話しながらチラチラ見ていて、めっちゃ注目を浴びていたんだけども。
わざわざ入場券を買ったのか……。こ、怖いよー。
昨日、お風呂に入ったら疲れ切ってしまって、結局電話をしないまま寝ちゃったんだよね。
玲香さんが事の次第は簡単にメールしたらしいんだけど……やっぱり怒っていたみたいで、結局怖くて今日になっても私からは連絡できなかったのです。
「やってくれましたね、玲香さん」
「あら、透くんも了承してたでしょ?」
「まさかこんなに早く事を運ぶとは思ってませんよ」
「大丈夫、透くんが心配するようなことは何もないわ。はい、これ」
玲香さんが買ってきた洋服の袋を新川透に押し付ける。
「ちょっとしたお詫び。莉子ちゃんにもよく似合うワンピースを買ったの。今度、着てみて」
新川透は一瞬黙ると、おとなしく袋を受け取った。
「何も?」
「何も。予定通りよ」
「……そうですか」
フンと鼻を一つ鳴らし、袋を左手に抱えて右手で私の左手を取る。
「これはありがたく頂きます。莉子もね」
「莉子ちゃんはちゃんと夜には返してね」
「どうしますかねー」
おいこら、私は物じゃないし!
しかもここは地元! 手を繋ぐとか、恥ずかしいんですけど!
ちょっとアンタ、もう少し自分が目立つことを自覚してください。とてもじゃないけどこの視線、耐えられない!
……という私の心の叫びは届かず、そのまま引きずられるようにして新川透のマンションに連れてこられたのだった。
* * *
「大人達にいいように丸め込まれて、本当に……」
「……ごめんなさい」
ちびちびとコーヒーを啜りながらちらりと新川透の顔を盗み見る。
相変わらず、眉間には深い皺が刻み込まれている。自分の知らないところで契約成立に至り、レポートだの何だのと畳み込まれたのがかなり不快なようだ。
「でもね、私、料理できないじゃない? だから食事のことが一番心配だったらしくて……」
「だから……」
新川透が何かを言いかけたが、すぐに口をつぐんでしまった。焦れたようにガシガシと頭を掻く。
「えっと、確かにものすごく圧を感じたけど」
「そりゃそうだろう。松岡氏は莉子に構いたくて仕方がないんだし、小坂氏はその意を汲んであくまで有利に事を進めるだろうし。玲香さんは莉子と一緒に暮らしたことで『私が保護者』という意識が強くなってるからな。もともと世話好きだし」
……そうなのか。温かい人達に囲まれて、私って恵まれてるなあ。
まぁ、ちょっと行き過ぎな気はするけど。
「だから、何だかんだ言って俺が一番マトモなの」
いや、それはどうだろう。囲い込もうとしてた人の台詞じゃないなー。
一番行き過ぎてるのは間違いなく、あなたです。
ただ、受験が終わるまでの新川透は、確かにいろいろとセーブしてたような気はするけども。必要以上に甘やかすようなことはなかったし。
「このまま松岡家に入れられる、なんてことはないだろうな……」
「念書もあるし、大丈夫じゃない?」
「念書には法的拘束力なんて何もないよ」
「それでも、大企業の創業者一族でもある専務が、署名してハンコまで押したんだから」
私を安心させるためとはいえ、大の大人がそんなことまでしてくれたのだ。
その誠意をちゃんと信じたい。
「……莉子はさあ」
新川透は頬杖をつくと、ブスッとふてくされた顔で私を睨んだ。
「玲香さんや松岡氏、小坂氏のことは割と信用してるよね」
「それは、まあ……。だっていい人達だもん。今回のことはかなり強引ではあったけど、意地っ張りな私に合わせて一生懸命考えてくれたんだな、と思ったし」
「俺も悪い人達だとは言ってないよ。だけどね」
ガタッと立ち上がってバンとテーブルに両腕を突く。その音にちょっと驚いて、思わず両肩が上がる。
「一番付き合いの長い俺のことは全然信用していないように感じるのは、どういうこと?」
「えっ!?」
何だ、それ?
ちょっと意味が分からないぞ。
どういう意図で言ってるんだろう、と新川透の顔をまじまじと見上げたけど、裏の意味みたいなものは何も感じられなかった。
本当にただただ真っすぐ不満をぶつけられた、という感じ。
「信用……してるよ?」
「いーや、してないね。あんまり頼ってくれないし」
「もう、何で拗ねるの?」
「拗ねてない」
いや、バリバリ拗ねてるでしょうがー! この人たまにすごく子供みたいなことを言うよね。
何が気に入らないのかなあ、もう。
まぁ、でも、そう言われてみると全面的に信用している訳じゃないからなあ。
ちょっとこの人何をするか分からないわ、という恐怖心みたいなものはあるかもしれない。
「んー、強いて言えば最初が騙し討ちだったからじゃない?」
「玲香さんもそうでしょ」
「でもあれは、私が構えないようにするための配慮というか」
「俺だって、莉子が警戒しないようにするための配慮だし」
「それは何か違うというか……」
そうだよ。決定的に違うんです、他の三人と新川透は。
そこには信頼関係の前に恋愛感情がある訳だから。そして恋愛感情というのは、些細なことでも不安を呼び起こしたりするものなのですよ。
時として恋愛感情が信頼関係をぶっ壊すこともある訳です。
とはいえ、これを言うと
「あなたには恋愛感情があるからよ」
と伝えたも同じで、嫌だなあ。恥ずかしい。
「……何で赤くなるの?」
「何でもないです」
「絶対、何もなくないでしょ。言って、言って」
「ほら、そこだよ!」
私はコーヒーカップをドンとテーブルに置くと、ビシッと新川透を指差した。
「他の三人は無欲なのに、新川透は欲だらけだからです!」
「小坂氏はともかくとして、玲香さんと松岡氏は無欲ではないでしょ」
「欲の種類が違うの!」
「……ふうん」
ちょっと考えた後、新川透はニヤッと笑った。
「そう言われればそうだ。莉子がこんな赤くなってモジモジするの、俺の前しかないからね。もしくは俺がらみの話題の時か」
「それは、そう……」
「大好き」
「はっ!?」
突然告白されて、心臓がひときわ強く跳ね上がる。
ちょっと、急に何の脈絡もないことを言わないでよ! 顔が作れないじゃない!
しかしここでアウアウしては駄目なのだ。あっちのペースに飲み込まれる訳にはいかない。
バレンタインで学習したよね、莉子!
自分を励ましながら、ぐうっと奥歯を噛みしめて平静を装う。
「突然、何を言うのやら……」
「莉子が大好きなのは当然だけど、特に赤面して涙目になっている莉子が大好き」
「んがっ……」
まだ言うか、こいつは!
しかも、超ドS発言してます、この人ー!
「鬼か! この悪魔! 大魔王!」
「何とでも言って。そうか、欲だらけかー。そこまで分かってるんなら遠慮はいらないね。受験も終わったことだし、一つずつ叶えてもらうとするか」
「はい?」
「実は『莉子とやりたいことリスト』があるんだよね」
新川透はそう言うと、右手の人差し指で自分の頭を指差した。すでに頭の中にリストアップされている、とでも言いたいのだろう。
しかし何ともコメントしがたいネーミングだなあ。脱力する。
「いや、ほら、後期試験の勉強もあるしね?」
「そうは言ってもなかなか手につかないものだよ。ひとまず発散しよう。俺も相当、我慢したからね」
「いや、ちょっと……」
発散するべきは私で、あなたではないのでは。
そう言いかけて、思わずグッと喉が詰まる。
そういやさっき、私は何を考えたっけ。
――ただ、受験が終わるまでの新川透は、確かにいろいろとセーブしてたような気はするけども。
あぎゃ――!
終わった、確かに受験が終わっちゃったわよ! 最高の免罪符だったのに!
つまりこの人、現在セーブする気はゼロだ!
「あの、ちょっと、まだ心の準備が!」
いかん、逃げなくては! ……でも、どこへ?
慌てて席を立ったものの、どう動けばいいのか皆目見当がつかない。
「大丈夫、まだそこまではしない」
「じゃあ、どこまで!?」
「随分はっきり聞くね。えーと……」
「や、やっぱりいいや。帰ります」
「駄目、逃がさない」
まぁ、狭いリビングダイニングでは逃げ場もそうない訳で、あっさりと捕まる。
軽々と抱き上げられ、テレビの前のソファに座らされた。……いや正確には、新川透の両足の間に。
「あ、な……」
「とりあえずDVDでも見よう。字幕なしで解るようになりたいって言ってなかった?」
「い、言ったけど、この体勢で?」
「まぁまぁ。いくつかリスリングに良さそうなのを見繕っといたから……よいしょっと」
「ちょ、ちょっと! 何で移動するたびにいちいち抱きかかえるの!」
「逃げるから」
「に……逃げませんよ?」
「というより、離したくないから」
「ほら、自分の欲が最優先じゃん! そこだよ!」
「うーん、こればっかりはどうしようもないね」
「改善する気、全くないでしょ!」
「それは改悪だからね」
「何を……」
「はい、始まるよ。しっかり聞こう」
* * *
そんなわちゃわちゃがあって、結局ずっと後ろからハグされたままDVDを見ました。
……って、ずーっと「ペットかよ?」ぐらいの勢いで撫でくり回されたら、何も頭に入ってくきません!
あ、念のため言っておきますが、エッチな意味じゃないですよ! 頭と腕、手ぐらいのもんです。
それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ! 私がおかしいのかなあ!?
こ、これからこの容赦ない攻撃をしのがなければならないのか……。
もしくは慣れていかないといけないのか……。
そうだ、赤面しないようになればいいのかな? いやいや、そんなこと無理だってーの!
受験が終わって……違う何かのカウントダウンが始まった。
漠然とそう感じて、背中に変な汗が流れた。
おかしいな、私の心の安定はいつ訪れるんだろう?
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……のはず。( ̄▽ ̄;)
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