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収監令嬢・その後SS
召喚聖女は反省したい
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微妙に前回の「召喚聖女は仲人をしたい」の続きだったりします。
久々のマユ視点です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やっと聖女ちゃんとお茶ができるわね」
そう言ってユーケルンはほのかに薔薇の香りのするお茶を一口飲んだ。
その男装麗人のような美しい顔を緩ませ、ゆるくウェーブのかかった金髪がさらりと流れ落ちる。湯気の向こうに見えるその姿は、とても優雅で見惚れそうなほど美しい。
あ、でも、小指が立っちゃってるわね……。
ここは、以前にも訪れたユーケルンの別荘。前は
「ムーンが傍についていないと駄目です!」
とセルフィスに言われていたから中に入れなかったんだけど、私も正式に『魔物の聖女』となってメキメキと力をつけてるし。
あと、セルフィスから貰った指輪は防御魔法のほかに撃退魔法もかかっていて、食らった攻撃は数倍にして弾き返す仕組みになっているの。
前にね、『分身見分け勝負』に“また”負けたトラスタが
「何でアッシが勝てないんスかー!」
と逆切れしてウッカリ竜巻の魔法を発動したことがあったのよ。
そのとき、私をとりまく指輪の波動に思いっきり弾き返されてイーオス山の山頂まで飛ばされてたわ。思わず「ファー!」と叫びたくなるぐらい見事に飛んでいったっけ……。
ま、それはいいとして。
そんな魔王の魔法に守られているので「まぁいいでしょう」とセルフィスの許可も下り、こうして二人でお茶してる訳です。
「それにしても、素敵なおうちね」
辺りを見回しながら思わずため息をつく。アイボリーの壁とドアに、艶やかなローズを基調としたオシャレな家具たち。私達がお茶を飲んでいるこの椅子とカーテン、壁際にある長椅子、すべてが同じ柄。品の良い赤色の中央にスミレのような紋章が金糸で刺繍されている。
奥には立派な白いグランドピアノ。重厚感のあるハープも置いてあるわ。かつてはここで貴族がミニ演奏会でもしていたのかしら?
「うふふ、そうでしょう。いくつかある中でもここは一番のお気に入りなのよー」
「楽器があるけど……演奏するの?」
「アタシは無理ね。レミリアが嗜んでいたの」
そう言うと、ユーケルンはカップを置いてすっと立ち上がった。ゆっくりと白いグランドピアノの前に向かい、天使の羽根のような大きな蓋を立ち上げ、手前の蓋も開ける。
そしてぽーんと一つの鍵盤を叩くと、「あら」と声を上げ、眉を顰めた。
「やぁねぇ、音が狂ってるわ。……ま、ずっと放置していたから仕方が無いわね」
「弾けないのに、分かるの?」
私は楽器関係は全く駄目だったから、そういうのは全然わからないわ。
少し驚いてそう聞くと、ユーケルンは「ふふっ」と笑い眉を下げた。
「この音だけはわかるの、レミリアが教えてくれたから。自分が弾くのに合わせてここを叩けばいいわよ、と言って」
そう言いながら、ユーケルンが白い鍵盤を一定のリズムで叩く。ぽぉん、ぽぉんと伸びやかな音がこの美しい空間に広がっていく。
「あれは何て曲だったかしらねぇ……思い出せないけど。そうすれば二人で弾けるでしょ、って言って」
そう言いながら鍵盤を叩くユーケルンは、今まで見たことのないような笑みを浮かべていた。
失った彼女を思い出して淋しそうな……だけど、そうやって彼女の姿を思い出せて幸せそうな。
不意に、ピアノの椅子に腰かける貴族令嬢の後ろ姿が見えた気がした。
両手で美しい旋律を奏でながら、傍らに立つ美しい男性に微笑みかける令嬢。そんな令嬢にぴたりと寄り添い、一本指で鍵盤を叩きながら笑みを返すユーケルン。
二人の楽しそうにはしゃぐ声、軽快なメロディまで聞こえてきそうな……。
ああ、そうか。
番なら誰でもいい訳じゃない。ユーケルンは、決してレミリアを忘れない。
「アタシも番が欲しいの!」とか言っていたけれど……それも本心ではあるのだろうけど、そんなことを言いながらも心の奥底ではレミリアをずっと想っていたいんだわ。彼女と過ごした時間という大切な宝物を、ずっとここに閉じ込めておきたいと……。
馬系の魔物のメスをあてがおうなんて考えて、申し訳なかったわ……。
本当に私って恋愛方面は駄目ね。デリカシーが無いというか。
そんなだから、美玖も私の言動にイラついていたのよ。
「あら、どうしたの聖女ちゃん?」
自分の無神経ぶりに落ち込んでいると、いつの間にかテーブルに戻ってきていたユーケルンが不思議そうに私の顔を覗き込んでいる。
「……いえ、ちょっと」
「えー、なぁにぃ? なぁにぃ? 教えてよー」
「えっと……」
さすがに本人の意向を無視して『バチェラー・ユーケルン』を企画していました、なんて言えないわよ。
ダラダラと冷や汗を流しながらどう誤魔化せばいいか目まぐるしく考える。
ふと、セルフィスの顔が思い浮かんだ。そういえば、あのとき……。
「……魔王に言われたことを、思い出しまして」
「あら、なぁに?」
「この世界の魂は、ずっと循環しているんだそうです」
この世界に生まれた生命は、すべて女神から生まれたもの。
肉体の死を迎えたあと、魂は天に上がり、浄化を受ける。そして過去を失いまっさらになったあと、再び地上に還ってくる。……新しい人生を歩むために。
だけれど、壊れたり歪んでしまった魂は還れない。そのまま消滅して霧散し、魔精力と化して宙に漂うのみ。
「もしあなたがレミリアを手元に置いたままだったら、恐らく魂は消滅してしまっていたわ」
人間でも魔物でもなくなった生き物が、浄化を受けて生まれ変われるとは到底思えない。
セルフィスが言っていた、“壊れたり歪んでしまった魂”ということになるだろう。
「でも、レミリアは人間としてその生を終えた。正気に戻ることは無かったそうだけど、とても幸せそうに微笑んでいたそうよ。……あなたが見せた夢の中で」
クロエから聞いたレミリアの話を思い出して、彼女の最期の姿を伝える。
ユーケルンが知りたかったかどうかはわからないけど……でも、言っておいた方がいいと思ったから。
「……じゃあ……どこかにレミリアはいるの?」
「そうね。あなたのおかげでね」
それだけは間違いなかった。
ユーケルンがそのとき何を想ってそうしたのかはわからないわ。でも、それはとても良いことだったのだと伝えたかった。
「ウソ! 本当に!?」
「でも魂はまっさらになってしまったのだから、何も覚えていないわよ」
「でもいるのよね!」
「ええ、この世界に生きる人間たちのいつかの時代のいずこかに。……だけど」
ふと言葉を切った私に、ユーケルンが
「だけど何よ!」
と鼻息荒く詰め寄る。
とは言っても私に危害を加えることになるとマズいので、それ以上距離は詰めてこない。両手の拳をグッと握って堪えてはいるけれど。
ああ、本性は獰猛だとセルフィスが言っていたっけ。やっぱりユーケルンも魔獣は魔獣、扱いには注意しなければならないわ……。
「先ほども言ったように、強く恨んだり深く傷ついたりといった極限状態に晒された魂は浄化を乗り越えられないそうよ。魂が弱ってしまっていて」
「……」
「古の魔王侵攻のあと、人間の数がなかなか増えなかったのはそのせいもある、と」
「つまり……人間を苛めるなってこと?」
「平たく言えばそうね」
魔物の蹂躙により、かつてレミリアだった人間が死ぬかもしれない。そして踏みにじられた魂は二度と生まれ変われない。
「いやぁねぇ、聖女ちゃんったら」
フン、と鼻を鳴らしストン、と椅子に座り直したユーケルンがお茶のお代わりを自分のカップに注ぐ。
「つまり、こう言いたいのね? いざというとき――魔物や魔獣が地上を荒らす事態になったときには、アタシに人間を守る側になれ、と」
「……」
「魔物は知性をもたないし、魔獣だって思慮浅い者もいるからね。暴走する可能性は、まぁ、大いにあるわね」
「……ええ」
八大魔獣のナンバー3、風の魔獣ユーケルン……さすがに飲み込みが早いわね。
「いやだわー、レミリアを人質にするなんて!」
「そんなつもりはないのだけど」
「絶対そうでしょ! この性悪女!」
「あら、ひどい」
「だいたい、聖女ちゃんはちーっとも公爵令嬢っぽくないわ! レミリアの方がよっぽど素晴らしい令嬢だったわよ!」
「どんな風に? 見習いたいわ」
「えっとねー」
そう言って宙を見上げたユーケルンは、レミリアがいかに美しく優しく奥ゆかしかったかをこんこんと語り始めた。
その顔からは、少しだけさきほどの淋しさは消えていて、楽しそうで。
余計なことをしようとしていたお詫びには、なったかしら。
……とは思ったのだけど、いかんせん話が長い。しかもちょいちょい私をディスってくる。
悪かったわねー、しとやかじゃなくって! もと日本の色気ナシJKだもん、仕方ないでしょ!
ああ、すこーしだけ意地悪したくなってきた。
もしレミリア(の転生体)を見つけたら……と夢見心地で語るユーケルンに、
「ただ、女性に転生するとは限らないけれど」
と言ってみる。
するとユーケルンは両目を見開き、
「え、ええ~~!? 男は困るわよ!」
とサロン内が揺れそうなほどの大声を上げた。
「そう言われてもね。そしたら次の転生チャンスに期待するしか無いわね」
「えぇぇ……」
「それに前も言ったけれど、聖女の素質が無ければ結局は同じことになるわ」
「あー、もう……条件が厳しすぎるわー!」
「魔獣は不死なんでしょう? 人間とは違って。……いつか、出会えるといいわね」
ふふふ、と微笑み五杯目の紅茶を口に含む。
ユーケルンは「ん」とぴたりと止まり、何回か瞬きをしたあと、
「聖女ちゃんもいつかはいなくなっちゃうのねぇ」
と呟き、つまらなそうな顔をした。
「ええ。ですので、わたくしが生きている間は大人しくして頂きたいわ」
私だって、消えたくない。転生したいもの。
だから私を困らせるようなことはしないでよねー、と暗に込めてすました顔で言ってみせる。
するとユーケルンは
「はぁ、ほんっとうに食えない女ね」
と言い、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後SSはこれにて終了です。
次回からは『蛇足の舞台裏』となります。
主役は、あの……?
久々のマユ視点です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やっと聖女ちゃんとお茶ができるわね」
そう言ってユーケルンはほのかに薔薇の香りのするお茶を一口飲んだ。
その男装麗人のような美しい顔を緩ませ、ゆるくウェーブのかかった金髪がさらりと流れ落ちる。湯気の向こうに見えるその姿は、とても優雅で見惚れそうなほど美しい。
あ、でも、小指が立っちゃってるわね……。
ここは、以前にも訪れたユーケルンの別荘。前は
「ムーンが傍についていないと駄目です!」
とセルフィスに言われていたから中に入れなかったんだけど、私も正式に『魔物の聖女』となってメキメキと力をつけてるし。
あと、セルフィスから貰った指輪は防御魔法のほかに撃退魔法もかかっていて、食らった攻撃は数倍にして弾き返す仕組みになっているの。
前にね、『分身見分け勝負』に“また”負けたトラスタが
「何でアッシが勝てないんスかー!」
と逆切れしてウッカリ竜巻の魔法を発動したことがあったのよ。
そのとき、私をとりまく指輪の波動に思いっきり弾き返されてイーオス山の山頂まで飛ばされてたわ。思わず「ファー!」と叫びたくなるぐらい見事に飛んでいったっけ……。
ま、それはいいとして。
そんな魔王の魔法に守られているので「まぁいいでしょう」とセルフィスの許可も下り、こうして二人でお茶してる訳です。
「それにしても、素敵なおうちね」
辺りを見回しながら思わずため息をつく。アイボリーの壁とドアに、艶やかなローズを基調としたオシャレな家具たち。私達がお茶を飲んでいるこの椅子とカーテン、壁際にある長椅子、すべてが同じ柄。品の良い赤色の中央にスミレのような紋章が金糸で刺繍されている。
奥には立派な白いグランドピアノ。重厚感のあるハープも置いてあるわ。かつてはここで貴族がミニ演奏会でもしていたのかしら?
「うふふ、そうでしょう。いくつかある中でもここは一番のお気に入りなのよー」
「楽器があるけど……演奏するの?」
「アタシは無理ね。レミリアが嗜んでいたの」
そう言うと、ユーケルンはカップを置いてすっと立ち上がった。ゆっくりと白いグランドピアノの前に向かい、天使の羽根のような大きな蓋を立ち上げ、手前の蓋も開ける。
そしてぽーんと一つの鍵盤を叩くと、「あら」と声を上げ、眉を顰めた。
「やぁねぇ、音が狂ってるわ。……ま、ずっと放置していたから仕方が無いわね」
「弾けないのに、分かるの?」
私は楽器関係は全く駄目だったから、そういうのは全然わからないわ。
少し驚いてそう聞くと、ユーケルンは「ふふっ」と笑い眉を下げた。
「この音だけはわかるの、レミリアが教えてくれたから。自分が弾くのに合わせてここを叩けばいいわよ、と言って」
そう言いながら、ユーケルンが白い鍵盤を一定のリズムで叩く。ぽぉん、ぽぉんと伸びやかな音がこの美しい空間に広がっていく。
「あれは何て曲だったかしらねぇ……思い出せないけど。そうすれば二人で弾けるでしょ、って言って」
そう言いながら鍵盤を叩くユーケルンは、今まで見たことのないような笑みを浮かべていた。
失った彼女を思い出して淋しそうな……だけど、そうやって彼女の姿を思い出せて幸せそうな。
不意に、ピアノの椅子に腰かける貴族令嬢の後ろ姿が見えた気がした。
両手で美しい旋律を奏でながら、傍らに立つ美しい男性に微笑みかける令嬢。そんな令嬢にぴたりと寄り添い、一本指で鍵盤を叩きながら笑みを返すユーケルン。
二人の楽しそうにはしゃぐ声、軽快なメロディまで聞こえてきそうな……。
ああ、そうか。
番なら誰でもいい訳じゃない。ユーケルンは、決してレミリアを忘れない。
「アタシも番が欲しいの!」とか言っていたけれど……それも本心ではあるのだろうけど、そんなことを言いながらも心の奥底ではレミリアをずっと想っていたいんだわ。彼女と過ごした時間という大切な宝物を、ずっとここに閉じ込めておきたいと……。
馬系の魔物のメスをあてがおうなんて考えて、申し訳なかったわ……。
本当に私って恋愛方面は駄目ね。デリカシーが無いというか。
そんなだから、美玖も私の言動にイラついていたのよ。
「あら、どうしたの聖女ちゃん?」
自分の無神経ぶりに落ち込んでいると、いつの間にかテーブルに戻ってきていたユーケルンが不思議そうに私の顔を覗き込んでいる。
「……いえ、ちょっと」
「えー、なぁにぃ? なぁにぃ? 教えてよー」
「えっと……」
さすがに本人の意向を無視して『バチェラー・ユーケルン』を企画していました、なんて言えないわよ。
ダラダラと冷や汗を流しながらどう誤魔化せばいいか目まぐるしく考える。
ふと、セルフィスの顔が思い浮かんだ。そういえば、あのとき……。
「……魔王に言われたことを、思い出しまして」
「あら、なぁに?」
「この世界の魂は、ずっと循環しているんだそうです」
この世界に生まれた生命は、すべて女神から生まれたもの。
肉体の死を迎えたあと、魂は天に上がり、浄化を受ける。そして過去を失いまっさらになったあと、再び地上に還ってくる。……新しい人生を歩むために。
だけれど、壊れたり歪んでしまった魂は還れない。そのまま消滅して霧散し、魔精力と化して宙に漂うのみ。
「もしあなたがレミリアを手元に置いたままだったら、恐らく魂は消滅してしまっていたわ」
人間でも魔物でもなくなった生き物が、浄化を受けて生まれ変われるとは到底思えない。
セルフィスが言っていた、“壊れたり歪んでしまった魂”ということになるだろう。
「でも、レミリアは人間としてその生を終えた。正気に戻ることは無かったそうだけど、とても幸せそうに微笑んでいたそうよ。……あなたが見せた夢の中で」
クロエから聞いたレミリアの話を思い出して、彼女の最期の姿を伝える。
ユーケルンが知りたかったかどうかはわからないけど……でも、言っておいた方がいいと思ったから。
「……じゃあ……どこかにレミリアはいるの?」
「そうね。あなたのおかげでね」
それだけは間違いなかった。
ユーケルンがそのとき何を想ってそうしたのかはわからないわ。でも、それはとても良いことだったのだと伝えたかった。
「ウソ! 本当に!?」
「でも魂はまっさらになってしまったのだから、何も覚えていないわよ」
「でもいるのよね!」
「ええ、この世界に生きる人間たちのいつかの時代のいずこかに。……だけど」
ふと言葉を切った私に、ユーケルンが
「だけど何よ!」
と鼻息荒く詰め寄る。
とは言っても私に危害を加えることになるとマズいので、それ以上距離は詰めてこない。両手の拳をグッと握って堪えてはいるけれど。
ああ、本性は獰猛だとセルフィスが言っていたっけ。やっぱりユーケルンも魔獣は魔獣、扱いには注意しなければならないわ……。
「先ほども言ったように、強く恨んだり深く傷ついたりといった極限状態に晒された魂は浄化を乗り越えられないそうよ。魂が弱ってしまっていて」
「……」
「古の魔王侵攻のあと、人間の数がなかなか増えなかったのはそのせいもある、と」
「つまり……人間を苛めるなってこと?」
「平たく言えばそうね」
魔物の蹂躙により、かつてレミリアだった人間が死ぬかもしれない。そして踏みにじられた魂は二度と生まれ変われない。
「いやぁねぇ、聖女ちゃんったら」
フン、と鼻を鳴らしストン、と椅子に座り直したユーケルンがお茶のお代わりを自分のカップに注ぐ。
「つまり、こう言いたいのね? いざというとき――魔物や魔獣が地上を荒らす事態になったときには、アタシに人間を守る側になれ、と」
「……」
「魔物は知性をもたないし、魔獣だって思慮浅い者もいるからね。暴走する可能性は、まぁ、大いにあるわね」
「……ええ」
八大魔獣のナンバー3、風の魔獣ユーケルン……さすがに飲み込みが早いわね。
「いやだわー、レミリアを人質にするなんて!」
「そんなつもりはないのだけど」
「絶対そうでしょ! この性悪女!」
「あら、ひどい」
「だいたい、聖女ちゃんはちーっとも公爵令嬢っぽくないわ! レミリアの方がよっぽど素晴らしい令嬢だったわよ!」
「どんな風に? 見習いたいわ」
「えっとねー」
そう言って宙を見上げたユーケルンは、レミリアがいかに美しく優しく奥ゆかしかったかをこんこんと語り始めた。
その顔からは、少しだけさきほどの淋しさは消えていて、楽しそうで。
余計なことをしようとしていたお詫びには、なったかしら。
……とは思ったのだけど、いかんせん話が長い。しかもちょいちょい私をディスってくる。
悪かったわねー、しとやかじゃなくって! もと日本の色気ナシJKだもん、仕方ないでしょ!
ああ、すこーしだけ意地悪したくなってきた。
もしレミリア(の転生体)を見つけたら……と夢見心地で語るユーケルンに、
「ただ、女性に転生するとは限らないけれど」
と言ってみる。
するとユーケルンは両目を見開き、
「え、ええ~~!? 男は困るわよ!」
とサロン内が揺れそうなほどの大声を上げた。
「そう言われてもね。そしたら次の転生チャンスに期待するしか無いわね」
「えぇぇ……」
「それに前も言ったけれど、聖女の素質が無ければ結局は同じことになるわ」
「あー、もう……条件が厳しすぎるわー!」
「魔獣は不死なんでしょう? 人間とは違って。……いつか、出会えるといいわね」
ふふふ、と微笑み五杯目の紅茶を口に含む。
ユーケルンは「ん」とぴたりと止まり、何回か瞬きをしたあと、
「聖女ちゃんもいつかはいなくなっちゃうのねぇ」
と呟き、つまらなそうな顔をした。
「ええ。ですので、わたくしが生きている間は大人しくして頂きたいわ」
私だって、消えたくない。転生したいもの。
だから私を困らせるようなことはしないでよねー、と暗に込めてすました顔で言ってみせる。
するとユーケルンは
「はぁ、ほんっとうに食えない女ね」
と言い、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
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その後SSはこれにて終了です。
次回からは『蛇足の舞台裏』となります。
主役は、あの……?
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