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プレゼント
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上京前日、莉子と恵のひととき。~~旦( ̄▽ ̄*)
――――――――――――――――――――――――
四月に入ったばかりの午後は、降り注ぐ太陽の光もそよそよと吹いてくる爽やかな風も心地よく、本当に気持ちがいい。
オフホワイトのブラウスにピンクのガウチョパンツ、スカイブルーのバッグにベージュの靴という出で立ちで、私はやや早足で駅前に向かっていた。
明日はいよいよ玲香さんの家を出て、横浜に行く。
しばらく会えなくなるしその前日に思いっきり遊ぼう、と恵と約束していたのだ。
時計台の前では、恵がベンチに腰掛け足を組み、スマホを眺めていた。白いカットソーにピタリとした紺のスキニージーンズが恵のすらりとした長い脚を際立たせている。若草色のロングベストでよりカッコ良さが増しているというか。
いいなぁ。こういう恰好は、私にはできないんだよね。ただただ真っすぐな棒みたいになっちゃうから。恵みたいにある程度身長があって、出るとこが出て引っ込んでるところは引っ込んでないとサマにならない。
そんなことを考えながら駆け寄ると、足音に気づいた恵がすぐさま立ち上がった。
そして――
「莉子、ソレ何!?」
と、私の足元を指して大声を上げた。
私の足元……そう、左足首にはシルバーのビーズが連なったアンクレットが付けられていた。無色透明の星形にも見える石がワンポイントになっていて、太陽の光に反射してキラリと光っている。
それにしても恵、目ざとすぎるでしょ! それともそんなに目立つのかなあ、コレ?
「ちょっと恵、声が大きい!」
「新川センセーが!?」
「えーと……まぁ、そう」
その通りなんだけども、ズバッと指摘されるとちょっと恥ずかしい。
右足で左足首を隠そうとはしてはみたものの、
「駄目、ちょっと見せて」
と強い口調で言われ、逆らえなかった。
地面にしゃがみ込み、まじまじと眺めて「へえ~」と声を漏らす恵を見下ろしながら、どうしようもなくモジモジとしてしまう。
昨日、新川透のマンションにDVDを見に行ったのだけど……。
あっ、アレじゃないよ! ちゃんと見る予定だった映画のDVDは見つかりました。そしてきっちりとお勉強してきたのです、私は。誤解なきよう。
そのあとね、おもむろにコレを出してきたのですよ。
* * *
「莉子、左足出して」
「左足? 何で……わーっ!」
新川透はソファに座っていた私の前にサッとひざまずくと、急に私の左足首を掴んだ。びっくりして思わず大声が出る。
反射的に蹴りを繰り出しそうになった右足はアッサリ受け止められてしまった。
「暴れないでね」
「何? 何するつもり?」
「アンクレットを付けるんだよ。約束したでしょ? 指輪の代わりになるものを買うから身につけてねって」
約束……したっけな……。
首を捻ったものの、新川透は私の足元にいるので暴れてパンツが見えても嫌だし、おとなしく従うことにした。
シルバーのビーズがナイロンコードに通されて輪っかを作っている。ナイロンコードの端を引っ張ると、大きさを調整できるようだ。
ワンポイントの星形の石は、どうやら水晶らしい。
そう言えばアンクレットってもともとお守りの意味が強いって聞いたような気がする。……魔除けってことかな?
新川透の太腿に私の左足を乗せる。アンクレットを通すと、コードを調整して星形の石の位置などを確認している。
その表情は真剣そのもので、この石に何か念でも込めているんじゃないかと不安になるぐらいだった。
いや、さすがの新川透も魔法が使える訳ではないでしょ。……そうだよね。そのはず。
なのに「やりかねん!」と思ってしまうのは、何故だろうか。
そんなバカなことを考えていると、新川透が「よし」と言って頷き、満足そうに微笑んだ。
「できた、こんな感じかな。必ず左足につけてね」
「うん、わかった」
まぁ、何らかの意味があるんだろう。後で調べておこう。
ここは下手にツッコまずに流しておきましょう。おかしなものを掘り起こしても怖いしね。
「長さは調整できるから。これ、ブレスレットにもなるからね」
「へえ。それにしても、本当に綺麗だね。でも、何でアンクレット?」
「ネックレスにしようかとも思ったけど、あれ、服によっては邪魔になるでしょ。アンクレットなら邪魔にならないだろうから」
まぁ、確かに。長さが調整できてブレスレットにもなるんなら、身につけやすいかも。シルバーだから、何色の服を着ても合うし。
何より、アクセサリーでアンクレットっていう発想は全くなかったもんなあ。自分なら到底買わない物を貰うのは、嬉しいよね。
「綺麗で可愛い。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「……ところで、いつまでそうしているつもり?」
つけ終わっても私の左足を太腿に乗せたまましっかりと掴んで離さない新川透を、目を細めて睨みつける。
だってさ、何だかこの体勢、恥ずかしいのよ!
そんな顔でかしずくのは止めて! 何かココロの変な部分を刺激されている気がするのよ!
「この構図、いいなあと思って」
「は……」
「あ、いいね、そのちょっと蔑むような目つき」
「はぁ?」
「莉子、ちょっとエラそうにふんぞり返ってみて」
「何でよ。何をやらせようとしてるの?」
「姫と下僕ごっこ、みたいな?」
「やりません!」
「爪先にキスしてもいい?」
「だからやらないっての!」
* * *
えーと……まぁ、そんなくだらないやり取りは置いておいて。
そんなことがあって、まぁとにかく、私の左足首にはシルバーの鎖が絡みついている訳です。
「うっはー……」
ぷらぷらと駅前のショッピングセンター内を歩きながら一通り話すと(珍妙なやりとりは当然割愛)、恵は奇妙な声を上げて「ぶくく」と含み笑いを漏らした。
「どれだけ心配性なの。牽制が凄まじいね」
「牽制?」
「調べたんでしょ、左足の意味」
「ああ、うん、まぁ……」
左足のアンクレットは『恋人がいる』という意味、右足のアンクレットは『恋人募集中』という意味になるらしいけど。
やっぱりこの『恋人』という名称にはどうにもこうにも慣れないなあ。ああ、顔が熱い。
まぁそれはいいとして、『恋人募集中』ではないので左足で正しいよね。うん。
「でも実際、莉子はすごく可愛くなったし。心配にもなるよね」
「そんなことないよ。恵みたいにスラッとしてないし、顔も地味だし……」
「いやいや、目立つ美人がモテる訳じゃないんだよ?」
その『目立つ美人』である恵が、ちょっと得意気に指を立てる。
恵は間違いなくそっちの部類なんだよね。でも気性がサバサバしてるから恋愛じゃなく友達みたいになっちゃうことが多いみたいだけど。
「莉子みたいな素朴というか控えめに咲く花っていうのがね、隙があるというか『ちょっと声をかけてみようかな』と男子が行動に移しやすいラインな気がするんだよね」
「何それ……」
実際は隙どころか鉄壁の要塞だけどね、と言って恵はまたもや「ぶくく」と奇妙な笑い声を漏らした。
要するに、女子大生になったら急に私がモテるんじゃないかと心配しているってことなのかなあ。杞憂だと思うけどなあ。
だいたい私は大学に入ったら勉強とアルバイトで忙しくなる予定で、誰かと遊ぶ暇なんて無いと思うんだけど。
「しかし、アンクレット。……よりによってアンクレット!」
我慢できなくなったらしく、恵は一声叫んだあと「ぶはははー」と腹を抱えて笑いだした。
いったい何がそんなに可笑しいのよ?
「もう、アンクレットが何なの? お守りでしょ?」
「まぁそうだけど、ペアでつけると来世も恋人同士になれるというジンクスもあるらしいし」
「えっ!」
「時代や国によっては『所有物』『奴隷』の意味を持つこともあったし」
「はい!?」
「いや、どれだけ縛りたいのよっていう……」
「もう、考え過ぎだよ! この話は終わりね!」
ただでさえオカシな展開になりそうだったのに、これ以上ツッコまれたら頭がパンクしそうだ。
私がちょっと強い口調で言うと、恵は「はいはい」と言って肩をすくめた。
だけど目は思いっきり下がっていて、まだまだ笑い足りない、喋り足りない、といった感じだ。
「問題はね、貰ってばかりだからどうしよう、と思って。誕生日も1か月後だし」
「あ、そうだね」
「何をあげたらいいんだろう。どういうのが喜ぶのか、さっぱり……」
「んー」
恵はキョロキョロと辺りを見回した。つられて私も周りの店を見回してみる。
左手にはメンズ服の店が並んでいる。
右手にはレディース服の店が並んでいて、少し奥まったところにアクセサリーショップと、何やら変わったものが置かれている雑貨屋が……。
「あっ!」
てっきり「洋服とかは?」とでもいうのかと思ったら、恵は私の手を引いてその変わったものが置かれている奇妙な雑貨屋に連れて行った。
そして「はい」と黒いモフモフの猫耳がついたカチューシャを渡される。
「例えばさ、こんな猫耳つけて」
「はぁ」
よくわからないまま黒い耳がついたカチューシャを付けてみる。まぁ、可愛いっちゃ可愛いけど、これがどうした?
「うん、やっぱり似合う。……ちょっとヤバいぐらい。でね、首輪をつけて」
「首輪? チョーカーのこと?」
「ううん、首輪。鎖が付いているとなお良い」
「は……」
「で、『今日一日好きにしていいよ』って言ったら一番喜ぶと思う」
「はぁっ!?」
一瞬、この猫耳カチューシャをつけて首輪を付けられた自分と、鎖を握ってニンマリと笑う新川透の姿が脳裏をよぎった。
くらりと眩暈がする。
いやいや、ただでさえバカになってるというのに、そんなことしたら……。
ヤバい! マジで飼われてしまう!
何しろ、手錠で拘束してしまおうなんていう発想の持ち主だよ!?
ぐおぉーっと首から頭のてっぺんに熱が上がり、私はつけていたカチューシャを乱暴に取った。
「ちょっと! ふざけないでよ!」
「だって何をしたら喜ぶか分からないっていうから、一例をね」
「そんな極端な例は止めて!」
「でも今、ちょっと想像したでしょ?」
「したよ! 絶体絶命だよ! 終わりだよ!」
「ぶはははー!!」
「あのねぇ、私、真面目に悩んでるの!」
私の必死な訴えを聞いているのかいないのか、恵はバンバン壁を叩きながら大笑いしている。
やっぱりそんな感じなんだー、と妙に納得しているのが気に食わない。
しかし改めて思い返してみると、やっぱりちょっと発想がヤバい人なんだよな。新川透って。
本当にもう、春から私、ちゃんと無事に学生生活が送れるんだろうか。
そうだ、ルールを設けよう。週末以外は絶対に新川透の家には行きません、って断言しよう。制御するには行動を制限するのが一番だ。
何しろ私には、小坂さんと玲香さんが用意してくれた女子しか入れない安住の棲み処があるんだし。
それにしても……誕生日プレゼント、本当にどうしよう?
色々と思い悩んでいる私をよそに、恵はそれはそれは楽しそうに笑い続けていた。うっすら涙まで浮かべている。
ちょっと恵、面白がってないでちゃんと相談に乗ってください!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
実は、『莉子くろねこバージョン』もあるんですけどね。
それを表紙にすると莉子に怒られそうなので、やめておきます。m(_ _)m
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四月に入ったばかりの午後は、降り注ぐ太陽の光もそよそよと吹いてくる爽やかな風も心地よく、本当に気持ちがいい。
オフホワイトのブラウスにピンクのガウチョパンツ、スカイブルーのバッグにベージュの靴という出で立ちで、私はやや早足で駅前に向かっていた。
明日はいよいよ玲香さんの家を出て、横浜に行く。
しばらく会えなくなるしその前日に思いっきり遊ぼう、と恵と約束していたのだ。
時計台の前では、恵がベンチに腰掛け足を組み、スマホを眺めていた。白いカットソーにピタリとした紺のスキニージーンズが恵のすらりとした長い脚を際立たせている。若草色のロングベストでよりカッコ良さが増しているというか。
いいなぁ。こういう恰好は、私にはできないんだよね。ただただ真っすぐな棒みたいになっちゃうから。恵みたいにある程度身長があって、出るとこが出て引っ込んでるところは引っ込んでないとサマにならない。
そんなことを考えながら駆け寄ると、足音に気づいた恵がすぐさま立ち上がった。
そして――
「莉子、ソレ何!?」
と、私の足元を指して大声を上げた。
私の足元……そう、左足首にはシルバーのビーズが連なったアンクレットが付けられていた。無色透明の星形にも見える石がワンポイントになっていて、太陽の光に反射してキラリと光っている。
それにしても恵、目ざとすぎるでしょ! それともそんなに目立つのかなあ、コレ?
「ちょっと恵、声が大きい!」
「新川センセーが!?」
「えーと……まぁ、そう」
その通りなんだけども、ズバッと指摘されるとちょっと恥ずかしい。
右足で左足首を隠そうとはしてはみたものの、
「駄目、ちょっと見せて」
と強い口調で言われ、逆らえなかった。
地面にしゃがみ込み、まじまじと眺めて「へえ~」と声を漏らす恵を見下ろしながら、どうしようもなくモジモジとしてしまう。
昨日、新川透のマンションにDVDを見に行ったのだけど……。
あっ、アレじゃないよ! ちゃんと見る予定だった映画のDVDは見つかりました。そしてきっちりとお勉強してきたのです、私は。誤解なきよう。
そのあとね、おもむろにコレを出してきたのですよ。
* * *
「莉子、左足出して」
「左足? 何で……わーっ!」
新川透はソファに座っていた私の前にサッとひざまずくと、急に私の左足首を掴んだ。びっくりして思わず大声が出る。
反射的に蹴りを繰り出しそうになった右足はアッサリ受け止められてしまった。
「暴れないでね」
「何? 何するつもり?」
「アンクレットを付けるんだよ。約束したでしょ? 指輪の代わりになるものを買うから身につけてねって」
約束……したっけな……。
首を捻ったものの、新川透は私の足元にいるので暴れてパンツが見えても嫌だし、おとなしく従うことにした。
シルバーのビーズがナイロンコードに通されて輪っかを作っている。ナイロンコードの端を引っ張ると、大きさを調整できるようだ。
ワンポイントの星形の石は、どうやら水晶らしい。
そう言えばアンクレットってもともとお守りの意味が強いって聞いたような気がする。……魔除けってことかな?
新川透の太腿に私の左足を乗せる。アンクレットを通すと、コードを調整して星形の石の位置などを確認している。
その表情は真剣そのもので、この石に何か念でも込めているんじゃないかと不安になるぐらいだった。
いや、さすがの新川透も魔法が使える訳ではないでしょ。……そうだよね。そのはず。
なのに「やりかねん!」と思ってしまうのは、何故だろうか。
そんなバカなことを考えていると、新川透が「よし」と言って頷き、満足そうに微笑んだ。
「できた、こんな感じかな。必ず左足につけてね」
「うん、わかった」
まぁ、何らかの意味があるんだろう。後で調べておこう。
ここは下手にツッコまずに流しておきましょう。おかしなものを掘り起こしても怖いしね。
「長さは調整できるから。これ、ブレスレットにもなるからね」
「へえ。それにしても、本当に綺麗だね。でも、何でアンクレット?」
「ネックレスにしようかとも思ったけど、あれ、服によっては邪魔になるでしょ。アンクレットなら邪魔にならないだろうから」
まぁ、確かに。長さが調整できてブレスレットにもなるんなら、身につけやすいかも。シルバーだから、何色の服を着ても合うし。
何より、アクセサリーでアンクレットっていう発想は全くなかったもんなあ。自分なら到底買わない物を貰うのは、嬉しいよね。
「綺麗で可愛い。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「……ところで、いつまでそうしているつもり?」
つけ終わっても私の左足を太腿に乗せたまましっかりと掴んで離さない新川透を、目を細めて睨みつける。
だってさ、何だかこの体勢、恥ずかしいのよ!
そんな顔でかしずくのは止めて! 何かココロの変な部分を刺激されている気がするのよ!
「この構図、いいなあと思って」
「は……」
「あ、いいね、そのちょっと蔑むような目つき」
「はぁ?」
「莉子、ちょっとエラそうにふんぞり返ってみて」
「何でよ。何をやらせようとしてるの?」
「姫と下僕ごっこ、みたいな?」
「やりません!」
「爪先にキスしてもいい?」
「だからやらないっての!」
* * *
えーと……まぁ、そんなくだらないやり取りは置いておいて。
そんなことがあって、まぁとにかく、私の左足首にはシルバーの鎖が絡みついている訳です。
「うっはー……」
ぷらぷらと駅前のショッピングセンター内を歩きながら一通り話すと(珍妙なやりとりは当然割愛)、恵は奇妙な声を上げて「ぶくく」と含み笑いを漏らした。
「どれだけ心配性なの。牽制が凄まじいね」
「牽制?」
「調べたんでしょ、左足の意味」
「ああ、うん、まぁ……」
左足のアンクレットは『恋人がいる』という意味、右足のアンクレットは『恋人募集中』という意味になるらしいけど。
やっぱりこの『恋人』という名称にはどうにもこうにも慣れないなあ。ああ、顔が熱い。
まぁそれはいいとして、『恋人募集中』ではないので左足で正しいよね。うん。
「でも実際、莉子はすごく可愛くなったし。心配にもなるよね」
「そんなことないよ。恵みたいにスラッとしてないし、顔も地味だし……」
「いやいや、目立つ美人がモテる訳じゃないんだよ?」
その『目立つ美人』である恵が、ちょっと得意気に指を立てる。
恵は間違いなくそっちの部類なんだよね。でも気性がサバサバしてるから恋愛じゃなく友達みたいになっちゃうことが多いみたいだけど。
「莉子みたいな素朴というか控えめに咲く花っていうのがね、隙があるというか『ちょっと声をかけてみようかな』と男子が行動に移しやすいラインな気がするんだよね」
「何それ……」
実際は隙どころか鉄壁の要塞だけどね、と言って恵はまたもや「ぶくく」と奇妙な笑い声を漏らした。
要するに、女子大生になったら急に私がモテるんじゃないかと心配しているってことなのかなあ。杞憂だと思うけどなあ。
だいたい私は大学に入ったら勉強とアルバイトで忙しくなる予定で、誰かと遊ぶ暇なんて無いと思うんだけど。
「しかし、アンクレット。……よりによってアンクレット!」
我慢できなくなったらしく、恵は一声叫んだあと「ぶはははー」と腹を抱えて笑いだした。
いったい何がそんなに可笑しいのよ?
「もう、アンクレットが何なの? お守りでしょ?」
「まぁそうだけど、ペアでつけると来世も恋人同士になれるというジンクスもあるらしいし」
「えっ!」
「時代や国によっては『所有物』『奴隷』の意味を持つこともあったし」
「はい!?」
「いや、どれだけ縛りたいのよっていう……」
「もう、考え過ぎだよ! この話は終わりね!」
ただでさえオカシな展開になりそうだったのに、これ以上ツッコまれたら頭がパンクしそうだ。
私がちょっと強い口調で言うと、恵は「はいはい」と言って肩をすくめた。
だけど目は思いっきり下がっていて、まだまだ笑い足りない、喋り足りない、といった感じだ。
「問題はね、貰ってばかりだからどうしよう、と思って。誕生日も1か月後だし」
「あ、そうだね」
「何をあげたらいいんだろう。どういうのが喜ぶのか、さっぱり……」
「んー」
恵はキョロキョロと辺りを見回した。つられて私も周りの店を見回してみる。
左手にはメンズ服の店が並んでいる。
右手にはレディース服の店が並んでいて、少し奥まったところにアクセサリーショップと、何やら変わったものが置かれている雑貨屋が……。
「あっ!」
てっきり「洋服とかは?」とでもいうのかと思ったら、恵は私の手を引いてその変わったものが置かれている奇妙な雑貨屋に連れて行った。
そして「はい」と黒いモフモフの猫耳がついたカチューシャを渡される。
「例えばさ、こんな猫耳つけて」
「はぁ」
よくわからないまま黒い耳がついたカチューシャを付けてみる。まぁ、可愛いっちゃ可愛いけど、これがどうした?
「うん、やっぱり似合う。……ちょっとヤバいぐらい。でね、首輪をつけて」
「首輪? チョーカーのこと?」
「ううん、首輪。鎖が付いているとなお良い」
「は……」
「で、『今日一日好きにしていいよ』って言ったら一番喜ぶと思う」
「はぁっ!?」
一瞬、この猫耳カチューシャをつけて首輪を付けられた自分と、鎖を握ってニンマリと笑う新川透の姿が脳裏をよぎった。
くらりと眩暈がする。
いやいや、ただでさえバカになってるというのに、そんなことしたら……。
ヤバい! マジで飼われてしまう!
何しろ、手錠で拘束してしまおうなんていう発想の持ち主だよ!?
ぐおぉーっと首から頭のてっぺんに熱が上がり、私はつけていたカチューシャを乱暴に取った。
「ちょっと! ふざけないでよ!」
「だって何をしたら喜ぶか分からないっていうから、一例をね」
「そんな極端な例は止めて!」
「でも今、ちょっと想像したでしょ?」
「したよ! 絶体絶命だよ! 終わりだよ!」
「ぶはははー!!」
「あのねぇ、私、真面目に悩んでるの!」
私の必死な訴えを聞いているのかいないのか、恵はバンバン壁を叩きながら大笑いしている。
やっぱりそんな感じなんだー、と妙に納得しているのが気に食わない。
しかし改めて思い返してみると、やっぱりちょっと発想がヤバい人なんだよな。新川透って。
本当にもう、春から私、ちゃんと無事に学生生活が送れるんだろうか。
そうだ、ルールを設けよう。週末以外は絶対に新川透の家には行きません、って断言しよう。制御するには行動を制限するのが一番だ。
何しろ私には、小坂さんと玲香さんが用意してくれた女子しか入れない安住の棲み処があるんだし。
それにしても……誕生日プレゼント、本当にどうしよう?
色々と思い悩んでいる私をよそに、恵はそれはそれは楽しそうに笑い続けていた。うっすら涙まで浮かべている。
ちょっと恵、面白がってないでちゃんと相談に乗ってください!
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