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友達の友達
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莉子と恵、いいコンビです。~~旦( ̄▽ ̄*)
―――――――――――――――――――――
「……とまぁ、こんなことがあってね。弟子とか言われてもなあ、と思って……」
マンションに帰ってきて夜も更けてから、私は恵に根本美沙緒さんのことを報告していた。
寝室の隅に置いてある備え付けデスクの上には、ピンクの縁どりが可愛い17インチの薄いデスクトップパソコンが置いてある。
画面には、風呂上がりの濡れた髪を無造作にまとめた恵の姿が映っていた。化粧水をピチャピチャと頬にあてながら「へぇー」と楽し気に口の端を上げる。
このパソコンは、松岡さんから大学入学祝いとしてプレゼントされた。このマンションの一階にはコンシェルジュの女性が三人いるんだけど、その中で一番ベテランと思われる来生さんという女の人が接続から何から全部やってくれた。
さすがにこんな高価な物を貰う訳には!……と松岡さんに伝えたんだけど、
「定期的に報告メールを小坂に送ってもらう予定だったでしょう。そのために必要ですから、お気になさらず」
と言われてしまった。
そしてパソコンを貰ったことを新川透に言うと、
「じゃあ恵ちゃんとスカイプで繋いだら? 顔を見て話ができるから、莉子も淋しくないでしょ」
と言ってくれて、その後どうやら小坂さんと打合せをしたらしく、またもや来生さんがやってきて何から何まで手配してくれた。
いや、だから、私をこれ以上甘やかさないでください。調子に乗っちゃいそうで怖いです。
でも、貰ったからにはちゃんと役目を果たさないとね。これは私個人の持ち物ではなく、あくまで任務遂行のための道具、つまり必要経費として与えられた物、と考えなくては。
そうは言っても、恵とこうして顔を合わせて話ができるのはすごく嬉しい。
六年間ずっと近くにいていつも励ましてくれた恵がいないの、やっぱり淋しかったからさ。
それにしても、すっぴんでも恵のくっきり二重瞼は健在だなあ。こういう美人さんに
「憧れてるんです!」
と詰め寄るんなら分かるんだけど、なぜ私にそんなことを言ったのか。
“なかなかお目が高いじゃない、その根本美沙緒さんとやらは”
「えー?」
“莉子は地味で童顔って自分のことをよく言ってるけど”
「だってそうだもん」
“18歳になってからの1か月余りで、だいぶん磨かれたというか綺麗になったよ。愛されるって一番の美容液なんだねー”
「あっ、あい……っ!」
な、何てこと言うんだ! しかも18歳になってからって……!
おかしなことを匂わせないで!
「新川センセーのおかげじゃない。私が吹っ切れたからだもん」
“まぁ、そういうことにしておいてもいいけど。その根本さん、新川センセーのことは何て言ってたの? 会ったんでしょ?”
「あ、うん」
“素敵女子に素敵彼氏!……とかって盛り上がってたの?”
「ううん。ひたすら恐縮してた」
あのとき――私の背後から新川透が現れたとき、どうやら奴は根本さんをひと睨みしたらしい。道理であのとき、根本さんは逃げるように走り去った訳だ……。
怒ってるとは思ったけど、それは逃げた(ように見えた)私に対してだと思ってた。それに予備校講師時代、他人にはいつもニコニコ聖人君子で感情を露わにすることなんて無かったと思うし。かなり意外だ。
“私は別に驚かないけど”
その時の様子を話すと、恵が目と鼻と口の部分が空いた白いパックを顔に貼りつけながら何でもないことのように言う。
“コバも言ってたけど、莉子のことになると大人げないんだよね、新川センセーって”
「そうなの? でもなあ……」
“……あ、そうだ。コバと連絡取ってみたら?”
「へ?」
コバ――小林梨花さんは、この春から東京の女子大の看護学部に入学した。恵を通じてどうしているかは知ってたけど、あのバレンタイン以来特にやりとりはしていない。
“莉子は、自分に似合う服はわかっても、そんな長身の大人っぽい子のプロデュースには不安があるってことでしょ?”
「うん……。メイクはまぁ、教えられるとは思うんだけど」
“コバって女子力が総じて高いからね。ファッション雑誌も読み漁ってたし流行にも敏感だし”
「なるほど……」
確かにそういうの詳しそうだなあ、小林さんて。
それに、私にアドバイスくれたときも説得力があってなかなか的確だったし、いい先生になってくれるかも。
根本さんは恋愛方面についてもどこかお花が咲いたようなイメージしか持ってなかったみたいだし、そっち方面でも頼りになりそうだなあ。私じゃその辺は何の力にもなれないし。
「そうだね。電話してみる」
“喜ぶよ、コバ。莉子と友達になりたがってたから”
「え? 何で?」
“何かね、ラクに話ができるんだって”
そう言うと、恵はプププッと右手を口元にあてて笑い出した。
“それにしても……莉子と親しくなりたがるのって、一癖ある人達ばっかりだよね”
「なっ……」
“そういうフェロモンでも出てるのかな”
「やめてよ!」
“いやー、面白い!”
恵は机をバンバン叩きながら、大声で笑いだした。
ちょっと恵、せっかくのパックに大量の皺が寄ってますよ。それじゃ意味ないのでは?
とまぁ、そんなことを思ったけど、恵の笑顔を見て声を聴いて、何だか気分が上がって励まされた。
これから私は、恵の言う『一癖ある人たち』との交流が広がっていくのかもしれない。
だけど、一番の親友は恵で、私が素の自分に還れるのはやっぱり恵の前かな、と思う。
* * *
根本さんに確認した上で小林梨花に電話をすると、
「うそ、仁神谷さん!?」
とワンオクターブ高い声が響いてきて、耳がキーンとなりそうだった。
テンションに押されながらもかいつまんで事情を説明すると、
“任せて! 行く行く、私が横浜に行くよー! いつにする!?”
と妙に乗り気で、ちょっと困惑する。
よく考えれば、小林梨花も根本さんも暴走系なんだよね。はたして私は、この二人をちゃんとまとめられるのだろうか。
根本さんが住んでいるのは、何と新川透のマンションの隣にある、十階建てのセキュリティバリバリマンションだった。つまり、私ともご近所ということになる。
お家の人が彼女を心配しているというのは本当のようで、このマンションを選んだのもセキュリティが凄いのとY大行きのバス停が目の前だから。大学からの帰りが遅くなった時に夜道を歩かせることにならないように、ということらしい。
住んでいるのが七階なのも、
「火災になったときにはしご車が確実に届くのがこの辺りだから」
という理由。
そして何と、門限は夜9時らしい。その時刻になると毎日部屋の固定電話に家族から電話がかかってくるそうだ。
そのため私の部屋ではなく、根本さんの部屋に集まることにすんなり決まった。
根本さんの部屋なら多少遅くなっても慌てなくて済むし、小林梨花が
「だったら根本さんが持っている服とかも一通り見てみたいな」
と言ったからだ。
私のところは私以外の住人はみんな社会人な訳だから、女子大生が集まってわちゃわちゃしてると目障りかもしれないしね。少しホッとした。
それに、もうちょっと自分の城を満喫したかったし。
横浜駅のホームに着いた小林梨花は、薄いグレーの柄入りTシャツにモスグリーンのショートパンツ、それにブラウンのシースルーコートという出で立ちで現れた。
黒いキャスケットを被り、茶色いふわふわカールが弾んでいる。シースルーから見え隠れする足はすらっとしていて、健康的ながらも色気がある。
師匠、さすがですよ!と言いたくなる可愛さ。モデルみたいだ。
にこーっと笑って私に手を振ったあと、根本さんに向き直り
「初めまして、小林梨花です」
と非常に可愛らしくちょこんと頭を下げた。
根本さんはというと小林梨花に見惚れていたようでハッと居住まいを正し、
「根本美沙緒と申します」
と例の綺麗なお辞儀をした。
そして「はふっ」と吐息を漏らし、
「素敵女子のお友達は素敵女子なんですね……」
と感動している。
いや、小林さんの足元にも及びませんよ、私は……。
なるほど、恵が推薦した理由も分かる。どう考えても同じ地元出身の上京したての女の子には見えない。
小林梨花は根本さんの台詞に「やだぁ」と茶目っ気たっぷりに答えたあと、
「実はまだ、『お友達』にはなれてないんだけどね」
と小首をかしげ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「でも、根本さんのおかげでなれそう。ありがとう!」
「え? お友達じゃないんですか? それはどういう……」
根本さんが困惑したように私と小林梨花の顔を見比べる。
いや、厳密にはそうかもしれないけど、別にそんなことでガチャガチャ文句を言ったりしないのにな。
しかしどう説明しようか、と躊躇していると、小林梨花は「ふっ」と不敵な笑みを漏らした。
「だって私、新川先生に横恋慕していた恋のライバルだったから!」
そう高らかに宣言し、ふっふーんと右手で髪をかき上げながら左手を腰に当て、カッと踵を鳴らして足は八の字に。謎のポーズを決めている。
ちょっとちょっと、何をカタキ役になりきってるのよ。主人公をイビる悪役令嬢みたいになってるよ!?
その役どころでいいの、本当に? 何で楽しんじゃってんの?
「ちょっと、小林さん!」
「嘘は言ってないでしょ?」
「そうだけど、何かおかしいというか……」
「――素敵です、仁神谷さん! 小林さん!」
急に大きな声が飛び込んできて、二人して振り返り、声の主を見る。
根本さんが自分の両手をガシッと組み合わせ、私たち二人を羨望の眼差しで見つめていた。
「恋のライバルからお互い認め合ってお友達へ……物語のようです!」
「いや、だから……」
「まさにそう。私の横槍なんて物ともせず、二人は関係を築き上げていったの。もうね、次元を超えた愛だったのよ」
「まぁ……まぁ!」
「ちょっと待て」
「そしてそうやって一度ぶつかり合ったから、本音で話せるっていうか、信頼しているというか。そんな感じなの」
「なるほど……。では私も、一度お二人とぶつかった方がいいのでしょうか?」
「しなくていいから! 根本さんは何でも真に受けちゃ駄目! 小林さんも、人で遊ばない!」
悪ノリする小林梨花と小林教に入信したかのような根本さんに注意すると、根本さんはビクッとし、小林梨花は口を尖らせた。
「遊んでないよ。本当のことなのに」
「ニュアンスが間違って伝わってるからアウト」
「そうかなあ?」
「あの、すみません……」
悪びれない小林梨花に対し、根本さんはまたもや丁寧な謝罪をする。
それを見た小林梨花が
「本当に動きが綺麗だね。やっぱり将来の女将さんだから?」
と感心したように目を丸くした。
小林梨花には、根本さんの了解をとった上で家の事情などは話してある。
「いえ、兄がいますから私が実家を継ぐわけじゃありません。戻って来いとは言われていますが」
「お兄さん、いるんだ」
「はい。八歳年上の、自慢の兄です」
根本さんが幸せそうに微笑む。家族に心配されてるとは言ってたけど、厳しいながらもすごく愛されて育った人なんだろうな、と思う。
そういう人って、純粋で心根が優しくて強いんだよね。
「じゃあ、お兄さんのお嫁さんが若女将に?」
「そうなりますね。ですが今はまだ……」
きっと素敵な家族なんだろうな、と微笑ましく思っていると、隣の小林梨花の瞳がキラーンと光った。
「今は、まだ!?」
「え、ええ。過去に恋人はいたと思いますが長続きせず、なかなか結婚には至らないようで」
やはり仕事が大変だからでしょうか……と呟く根本さんの手を、小林梨花がガシッと握る。
「お兄さん、紹介して」
「はい?」
「ちょっと小林さん。よく知りもしないで……」
「この根本さんが自慢の兄というからには、素敵な人のはずだもん」
「はい、素敵です。兄はお客さんに言い寄られることも多いですが、公私混同せず跡取りとしてきちんと働いています。私とは違い、とても器用でスマートです」
「根本さん、それ以上は……」
「すごい、想像が膨らむ! 俄然、やる気が出てきた!」
「だから小林さん、やる気を出すのはプロデュースの方を……」
「勿論よ! これは私が受け入れられるかどうかの関門でもあるもん。うーん、色気は押さえて清楚な感じの方がいいかな。でも年相応の可愛らしさも欲しいし……。お家の人にも褒めてもらえるようなものを考えるね!」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「任せて!」
な、何だか盛り上がっている……。
やっぱり『混ぜるなキケン』だっただろうかとやや疲れを感じつつも、
「とにかく早く行こうよ」
と二人を促し、ようやく私たち三人はホームから歩き始めた。
本当に大丈夫かな、このメンツ?
とりあえず、今日の夜はまた恵に報告しなくちゃ。
そのとき、私達三人が歩くホームに爽やかな香りと共に春の風が吹き抜けて――これからの学生生活を鼓舞してくれている気がした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
当初はここで「おまけ」を終了するつもりだったのでシメっぽくなっています。
……が、まだ続きます。( ̄▽ ̄;)
―――――――――――――――――――――
「……とまぁ、こんなことがあってね。弟子とか言われてもなあ、と思って……」
マンションに帰ってきて夜も更けてから、私は恵に根本美沙緒さんのことを報告していた。
寝室の隅に置いてある備え付けデスクの上には、ピンクの縁どりが可愛い17インチの薄いデスクトップパソコンが置いてある。
画面には、風呂上がりの濡れた髪を無造作にまとめた恵の姿が映っていた。化粧水をピチャピチャと頬にあてながら「へぇー」と楽し気に口の端を上げる。
このパソコンは、松岡さんから大学入学祝いとしてプレゼントされた。このマンションの一階にはコンシェルジュの女性が三人いるんだけど、その中で一番ベテランと思われる来生さんという女の人が接続から何から全部やってくれた。
さすがにこんな高価な物を貰う訳には!……と松岡さんに伝えたんだけど、
「定期的に報告メールを小坂に送ってもらう予定だったでしょう。そのために必要ですから、お気になさらず」
と言われてしまった。
そしてパソコンを貰ったことを新川透に言うと、
「じゃあ恵ちゃんとスカイプで繋いだら? 顔を見て話ができるから、莉子も淋しくないでしょ」
と言ってくれて、その後どうやら小坂さんと打合せをしたらしく、またもや来生さんがやってきて何から何まで手配してくれた。
いや、だから、私をこれ以上甘やかさないでください。調子に乗っちゃいそうで怖いです。
でも、貰ったからにはちゃんと役目を果たさないとね。これは私個人の持ち物ではなく、あくまで任務遂行のための道具、つまり必要経費として与えられた物、と考えなくては。
そうは言っても、恵とこうして顔を合わせて話ができるのはすごく嬉しい。
六年間ずっと近くにいていつも励ましてくれた恵がいないの、やっぱり淋しかったからさ。
それにしても、すっぴんでも恵のくっきり二重瞼は健在だなあ。こういう美人さんに
「憧れてるんです!」
と詰め寄るんなら分かるんだけど、なぜ私にそんなことを言ったのか。
“なかなかお目が高いじゃない、その根本美沙緒さんとやらは”
「えー?」
“莉子は地味で童顔って自分のことをよく言ってるけど”
「だってそうだもん」
“18歳になってからの1か月余りで、だいぶん磨かれたというか綺麗になったよ。愛されるって一番の美容液なんだねー”
「あっ、あい……っ!」
な、何てこと言うんだ! しかも18歳になってからって……!
おかしなことを匂わせないで!
「新川センセーのおかげじゃない。私が吹っ切れたからだもん」
“まぁ、そういうことにしておいてもいいけど。その根本さん、新川センセーのことは何て言ってたの? 会ったんでしょ?”
「あ、うん」
“素敵女子に素敵彼氏!……とかって盛り上がってたの?”
「ううん。ひたすら恐縮してた」
あのとき――私の背後から新川透が現れたとき、どうやら奴は根本さんをひと睨みしたらしい。道理であのとき、根本さんは逃げるように走り去った訳だ……。
怒ってるとは思ったけど、それは逃げた(ように見えた)私に対してだと思ってた。それに予備校講師時代、他人にはいつもニコニコ聖人君子で感情を露わにすることなんて無かったと思うし。かなり意外だ。
“私は別に驚かないけど”
その時の様子を話すと、恵が目と鼻と口の部分が空いた白いパックを顔に貼りつけながら何でもないことのように言う。
“コバも言ってたけど、莉子のことになると大人げないんだよね、新川センセーって”
「そうなの? でもなあ……」
“……あ、そうだ。コバと連絡取ってみたら?”
「へ?」
コバ――小林梨花さんは、この春から東京の女子大の看護学部に入学した。恵を通じてどうしているかは知ってたけど、あのバレンタイン以来特にやりとりはしていない。
“莉子は、自分に似合う服はわかっても、そんな長身の大人っぽい子のプロデュースには不安があるってことでしょ?”
「うん……。メイクはまぁ、教えられるとは思うんだけど」
“コバって女子力が総じて高いからね。ファッション雑誌も読み漁ってたし流行にも敏感だし”
「なるほど……」
確かにそういうの詳しそうだなあ、小林さんて。
それに、私にアドバイスくれたときも説得力があってなかなか的確だったし、いい先生になってくれるかも。
根本さんは恋愛方面についてもどこかお花が咲いたようなイメージしか持ってなかったみたいだし、そっち方面でも頼りになりそうだなあ。私じゃその辺は何の力にもなれないし。
「そうだね。電話してみる」
“喜ぶよ、コバ。莉子と友達になりたがってたから”
「え? 何で?」
“何かね、ラクに話ができるんだって”
そう言うと、恵はプププッと右手を口元にあてて笑い出した。
“それにしても……莉子と親しくなりたがるのって、一癖ある人達ばっかりだよね”
「なっ……」
“そういうフェロモンでも出てるのかな”
「やめてよ!」
“いやー、面白い!”
恵は机をバンバン叩きながら、大声で笑いだした。
ちょっと恵、せっかくのパックに大量の皺が寄ってますよ。それじゃ意味ないのでは?
とまぁ、そんなことを思ったけど、恵の笑顔を見て声を聴いて、何だか気分が上がって励まされた。
これから私は、恵の言う『一癖ある人たち』との交流が広がっていくのかもしれない。
だけど、一番の親友は恵で、私が素の自分に還れるのはやっぱり恵の前かな、と思う。
* * *
根本さんに確認した上で小林梨花に電話をすると、
「うそ、仁神谷さん!?」
とワンオクターブ高い声が響いてきて、耳がキーンとなりそうだった。
テンションに押されながらもかいつまんで事情を説明すると、
“任せて! 行く行く、私が横浜に行くよー! いつにする!?”
と妙に乗り気で、ちょっと困惑する。
よく考えれば、小林梨花も根本さんも暴走系なんだよね。はたして私は、この二人をちゃんとまとめられるのだろうか。
根本さんが住んでいるのは、何と新川透のマンションの隣にある、十階建てのセキュリティバリバリマンションだった。つまり、私ともご近所ということになる。
お家の人が彼女を心配しているというのは本当のようで、このマンションを選んだのもセキュリティが凄いのとY大行きのバス停が目の前だから。大学からの帰りが遅くなった時に夜道を歩かせることにならないように、ということらしい。
住んでいるのが七階なのも、
「火災になったときにはしご車が確実に届くのがこの辺りだから」
という理由。
そして何と、門限は夜9時らしい。その時刻になると毎日部屋の固定電話に家族から電話がかかってくるそうだ。
そのため私の部屋ではなく、根本さんの部屋に集まることにすんなり決まった。
根本さんの部屋なら多少遅くなっても慌てなくて済むし、小林梨花が
「だったら根本さんが持っている服とかも一通り見てみたいな」
と言ったからだ。
私のところは私以外の住人はみんな社会人な訳だから、女子大生が集まってわちゃわちゃしてると目障りかもしれないしね。少しホッとした。
それに、もうちょっと自分の城を満喫したかったし。
横浜駅のホームに着いた小林梨花は、薄いグレーの柄入りTシャツにモスグリーンのショートパンツ、それにブラウンのシースルーコートという出で立ちで現れた。
黒いキャスケットを被り、茶色いふわふわカールが弾んでいる。シースルーから見え隠れする足はすらっとしていて、健康的ながらも色気がある。
師匠、さすがですよ!と言いたくなる可愛さ。モデルみたいだ。
にこーっと笑って私に手を振ったあと、根本さんに向き直り
「初めまして、小林梨花です」
と非常に可愛らしくちょこんと頭を下げた。
根本さんはというと小林梨花に見惚れていたようでハッと居住まいを正し、
「根本美沙緒と申します」
と例の綺麗なお辞儀をした。
そして「はふっ」と吐息を漏らし、
「素敵女子のお友達は素敵女子なんですね……」
と感動している。
いや、小林さんの足元にも及びませんよ、私は……。
なるほど、恵が推薦した理由も分かる。どう考えても同じ地元出身の上京したての女の子には見えない。
小林梨花は根本さんの台詞に「やだぁ」と茶目っ気たっぷりに答えたあと、
「実はまだ、『お友達』にはなれてないんだけどね」
と小首をかしげ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「でも、根本さんのおかげでなれそう。ありがとう!」
「え? お友達じゃないんですか? それはどういう……」
根本さんが困惑したように私と小林梨花の顔を見比べる。
いや、厳密にはそうかもしれないけど、別にそんなことでガチャガチャ文句を言ったりしないのにな。
しかしどう説明しようか、と躊躇していると、小林梨花は「ふっ」と不敵な笑みを漏らした。
「だって私、新川先生に横恋慕していた恋のライバルだったから!」
そう高らかに宣言し、ふっふーんと右手で髪をかき上げながら左手を腰に当て、カッと踵を鳴らして足は八の字に。謎のポーズを決めている。
ちょっとちょっと、何をカタキ役になりきってるのよ。主人公をイビる悪役令嬢みたいになってるよ!?
その役どころでいいの、本当に? 何で楽しんじゃってんの?
「ちょっと、小林さん!」
「嘘は言ってないでしょ?」
「そうだけど、何かおかしいというか……」
「――素敵です、仁神谷さん! 小林さん!」
急に大きな声が飛び込んできて、二人して振り返り、声の主を見る。
根本さんが自分の両手をガシッと組み合わせ、私たち二人を羨望の眼差しで見つめていた。
「恋のライバルからお互い認め合ってお友達へ……物語のようです!」
「いや、だから……」
「まさにそう。私の横槍なんて物ともせず、二人は関係を築き上げていったの。もうね、次元を超えた愛だったのよ」
「まぁ……まぁ!」
「ちょっと待て」
「そしてそうやって一度ぶつかり合ったから、本音で話せるっていうか、信頼しているというか。そんな感じなの」
「なるほど……。では私も、一度お二人とぶつかった方がいいのでしょうか?」
「しなくていいから! 根本さんは何でも真に受けちゃ駄目! 小林さんも、人で遊ばない!」
悪ノリする小林梨花と小林教に入信したかのような根本さんに注意すると、根本さんはビクッとし、小林梨花は口を尖らせた。
「遊んでないよ。本当のことなのに」
「ニュアンスが間違って伝わってるからアウト」
「そうかなあ?」
「あの、すみません……」
悪びれない小林梨花に対し、根本さんはまたもや丁寧な謝罪をする。
それを見た小林梨花が
「本当に動きが綺麗だね。やっぱり将来の女将さんだから?」
と感心したように目を丸くした。
小林梨花には、根本さんの了解をとった上で家の事情などは話してある。
「いえ、兄がいますから私が実家を継ぐわけじゃありません。戻って来いとは言われていますが」
「お兄さん、いるんだ」
「はい。八歳年上の、自慢の兄です」
根本さんが幸せそうに微笑む。家族に心配されてるとは言ってたけど、厳しいながらもすごく愛されて育った人なんだろうな、と思う。
そういう人って、純粋で心根が優しくて強いんだよね。
「じゃあ、お兄さんのお嫁さんが若女将に?」
「そうなりますね。ですが今はまだ……」
きっと素敵な家族なんだろうな、と微笑ましく思っていると、隣の小林梨花の瞳がキラーンと光った。
「今は、まだ!?」
「え、ええ。過去に恋人はいたと思いますが長続きせず、なかなか結婚には至らないようで」
やはり仕事が大変だからでしょうか……と呟く根本さんの手を、小林梨花がガシッと握る。
「お兄さん、紹介して」
「はい?」
「ちょっと小林さん。よく知りもしないで……」
「この根本さんが自慢の兄というからには、素敵な人のはずだもん」
「はい、素敵です。兄はお客さんに言い寄られることも多いですが、公私混同せず跡取りとしてきちんと働いています。私とは違い、とても器用でスマートです」
「根本さん、それ以上は……」
「すごい、想像が膨らむ! 俄然、やる気が出てきた!」
「だから小林さん、やる気を出すのはプロデュースの方を……」
「勿論よ! これは私が受け入れられるかどうかの関門でもあるもん。うーん、色気は押さえて清楚な感じの方がいいかな。でも年相応の可愛らしさも欲しいし……。お家の人にも褒めてもらえるようなものを考えるね!」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「任せて!」
な、何だか盛り上がっている……。
やっぱり『混ぜるなキケン』だっただろうかとやや疲れを感じつつも、
「とにかく早く行こうよ」
と二人を促し、ようやく私たち三人はホームから歩き始めた。
本当に大丈夫かな、このメンツ?
とりあえず、今日の夜はまた恵に報告しなくちゃ。
そのとき、私達三人が歩くホームに爽やかな香りと共に春の風が吹き抜けて――これからの学生生活を鼓舞してくれている気がした。
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