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波乱のGW(3)
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日は変わって、5月3日。
いよいよ今日は、旅館女将の体験だ。
「まずは着物ですね!」
と、美沙緒ちゃんが意気揚々と色とりどりの着物を畳に並べ始めたのでびっくりした。そばには帯やたくさんのひも、折り畳まれた白い布……肌襦袢だっけな、それらも並んでいる。
「き、着物!?」
「美沙緒ちゃん、汚したら大変だよ!」
と恵と私は異を唱えたものの、美沙緒ちゃんは
「そうは言っても、女将修行にとって着物は基本中の基本ですよ?」
ときょとんとしている。
「大丈夫です。これは練習用といいますか、私のお古なので」
「私、これがいいなー!」
すっかり乗り気のコバさんは濃いピンク色の着物を指差した。
「コバさんは可愛らしいお顔立ちですから、むしろこちらの女郎花がいいですよ。紅梅ですと、幼くなってしまいます」
「そう?」
「洋装と和装は違いますし、また振袖と小紋も違うんですよ」
何と、着物に関しては美沙緒ちゃんの方が師匠だ。
小紋とは小さな模様が全体に散っている着物で、袖が短く機能的になっている。いわゆる普段使いの着物で、旅館の女将ともなるとあまり派手な柄が入ったものは身につけないらしい。
私たちの体に着物を当てながら美沙緒ちゃんが選んでくれたのは、コバさんが女郎花という淡い黄色、恵には花萌葱という濃い緑色、そして私にはコバさんが最初に良いと言った紅梅色だった。
「うーん、確かに私がコレ着たら、ちょっとアクが強いというか押しが強そう。控え目で楚々とした女将って感じにはならないねー」
私と並んで鏡を見たコバさんが感心したように頷いている。
「でも莉子さんですと、小柄な印象もカバーできて華やかになると言いますか、お顔と着物、相互を引き立てるのです」
そうこんこんと説明してくれる美沙緒ちゃんはというと、青藍という濃い青色の着物。凛とした佇まいで本物の女将みたい。
着物を着る機会なんてそうそうない、と私達ははしゃいで写真を撮りまくった。
とは言っても私はガラケーなので、後でパソコンの方に送ってもらうことになったんだけど。
「はぁ、新川センセーが歯噛みしそうだねー」
恵が私にスマホを構えながら、妙にニヤニヤしている。
「何で?」
「莉子の着物姿が見れなかった!って」
「写真撮ったじゃない。後で見せるよ」
「いやー、やっぱ実物でしょ!」
「……ううん、写真で十分」
プルプルと首を横に振る私を、恵が相変わらずニヤニヤしながら見つめる。どうも見透かされているらしい。
そう。あの人のことだから、真顔で
「帯クルクルさせて」
「悪代官と町娘ごっこしよう」
とか言いそうで、何かイヤです。
* * *
母屋の庭ではいろいろな草花が育てられていて、女将はここから選んで花を活けているらしい。
「お花って買うんじゃないですね」
「玄関に飾るような大きいものや、特別な催し物があるときはプロにお任せしますよ。でもお部屋のお花だったら、旅館をよく知る女将でなければね」
恵の問いに、私たちの着物姿を見に来た女将がにっこりと微笑んだ。
「お部屋の雰囲気に合うように、ですか?」
「それもありますが、お入りになるお客様にもよりますね。お若い方なのか、お年を召された方なのか。ご友人同士なのか、ご夫妻なのか、とか」
「へぇ~」
勉強熱心なコバさんの質問にも、丁寧に答える女将。
うんうん、コバさんの『将を射んと欲すれば』作戦は功を奏しているように見えるね。
「あら、肇。こっちにいらっしゃい」
ひょいと廊下を覗き込んだ女将が手招きをする。肇さんが部屋を覗き込み、和服姿の私たちを見て「おっ」というような顔をした。
「美沙緒の見立てですか」
「兄さん、どうでしょう?」
「うん、上手にできてるんじゃないか?」
あー、私たちの艶姿より美沙緒ちゃんの着付けと審美眼を褒めるか―。肇さん、相当なシスコンだね。
コバさんは、ついっと前に出ると
「あの、美沙緒さんに教えて頂いて、今からお花を生けるんです」
とやり過ぎない程度にアピールする。しかし肇さんは何とも感じてないのか、
「そうですか」
と淡々とした返事だった。
「上手にできたら、お部屋にも飾りますよ」
雰囲気を察したのか、女将がコバさんに優しく微笑みかけた。
「本当ですか?」
「ええ。だから肇、今日は合間を見てお嬢さん方のお手伝いをなさいね」
「僕には僕の仕事がありますが」
うーん肇さん、どうやら朴念仁と言われるタイプの人のようだ。愛想がいいコバさんとは、無いものを補う感じでお似合いな気がするなあ。
「何もずっと、とは言ってないでしょう。時折美沙緒のところに顔を出しなさい、と言ってるんです」
「わかりました」
女将に美沙緒ちゃんの名前を出され、すんなり了承する肇さん。コバさんの顔がパッと明るくなるのが分かった。
その後、女将と美沙緒ちゃんが摘んできてくれた草花を見よう見まねで活ける。
だけどまぁ、何て言うか、私にはあんまり才能がないみたい。一生懸命剣山に刺すんだけど、そっぽを向いたりバラバラになったり、全然まとまらない。
一方コバさんはというと、本当に器用で上手。これが美的センスの差、というやつだろうか。
出来具合を覗きに来た女将に褒められ、肇さんにも「スジは悪くないですね」と声をかけられてご満悦だった。
恵の生け花は、女将さんがちょいちょいっと直してお部屋へ。私はというと
「これは、さすがに……」
と女将に苦笑されてしまった。
「ごめんなさい。うーん、難しいな」
「莉子さん。お花を自分の思い通りにしようとしちゃ駄目よ」
「え?」
私が挿した花を抜きながら、それでも女将は優しく教えてくれる。
「お花が咲きたいように花器の上で咲かせるのよ。無理やり向きを変えたりするんじゃなくて、お花が一番見せたい顔を向けてあげて、お花にとって居心地がいいように挿すの」
そう言いながら女将が挿していった草花は、私が挿していたのと同じ花だというのにみるみる美しい造形を描いていく。
「女将の心得も同じなのよ。旅館を美しく整えようとするのではなく、お客様が居心地がいいように整えるようとすることが大事なの」
それがおもてなしということね、と呟いた女将の声が私の耳に心地よく響く。
「普段の人間関係も、そうですよね。……結婚とか、恋愛とか」
珍しく恵が口を挟んだ。ハッとして顔を上げると恵はあくまで女将に向かって話しかけている。だけどその声は、私の方に飛んできたように感じた。
「自分の『楽しい』ばかりを追いかけちゃダメだし。相手が一緒にいて『楽しい』と思ってもらえる場所を作らないとね」
「あー、メグ、耳が痛い! 私ってすぐ、自分の気持ちで前が見えなくなっちゃうからなあ」
コバさんがアイタタ、とでも言うように両手で耳を塞いでいる。こういう素直なところは、コバさんの良いところだ。女将がふふふ、と微笑んでいる。
「……そうだね」
私が相槌を打つと、初めて恵は私の方を見た。フッと微笑む。
つまり恵は、こう言いたかったのだろう。
「莉子は新川センセーが居心地よくなる空間をちゃんと作れてるのか」
と。
彼氏扱いしなさすぎ、気に入られたい願望が無さすぎというのは、もう少し気を回せとか少しは媚を売れとかそういう『行動』の話じゃなくて。
相手に譲らな過ぎる、そもそも相手のことを考えたことがないんじゃないか、という『気持ち』の話をしてるのかな、と思った。
* * *
それからは折り紙の箸置きの作り方を習ったり、お茶の淹れ方を習ったりした。
思えば、折り紙の箸置きもそうだよね。何てことはない箸置き、だけど鶴や亀、扇などいろいろな形を折れるし、色を変えれば雰囲気も変わる。
ただの四角い瀬戸物の箸置きで統一することは簡単。だけどそれじゃ味気ない。ちょっとした工夫で、おもてなしの気持ちを一つ乗せる。
ほんの一つ、か。確かに私には足りなかったかもなあ。
「まぁ、コバの意気込みはあながち間違ってないと思うんだよね」
夜、離れの部屋でたまたま恵と二人きりになったとき。不意に恵が漏らした。
「へ? 何が?」
「お兄さんの花嫁候補」
「……ええっ!?」
「いやー、初対面のアレは完全に値踏みしてたよね。そのあともちょこちょこ顔を出してたでしょ? 生け花とか折り紙とか。夕飯のときも、忙しい時間帯の筈なのに昨日と今日、両方顔を出してたもんね」
「え、あ……うん」
「美沙緒ちゃんをよろしく、という意味もあるだろうけど、『誰かいい人いないかしら?』も無くはない、という感じ?」
「ええええ……」
そんな想像もできない意図があったのか、と脱力しながら声を上げると、恵は「あはは」と声を上げて笑った。
「まあ、今のところコバが優勢だからいいんじゃない?」
「そうだね。私、全然ダメだったなあ……」
「新川センセーが『莉子はダメなままでいいよー』と甘やかしまくってるからね」
「……っ」
急に新川透の話題になって、思わず言葉につまる。
恵は
「まぁ、『俺がいないと』状態にしたいんだろうねぇ」
と呟いたあと、
「なのに急に『だから莉子は駄目なんだよ』はナイと思う。それは新川センセーが悪いかな」
とバッサリ切り捨てた。
俺がいないと、か。確かに世話焼きオカン状態だったからなあ、最初から。
そして私も、自立しなきゃとか言いながら、結局甘えっぱなしだった気がする。
新川透の好意に胡坐をかいていた、というか。
「まぁ、イラッとしたんだろうけどね。――で、明日はちゃんと話はできそう?」
恵が意味ありげな視線を私に投げかける。
明日の朝、私は一足先に横浜に帰る。新川透が、待ってるから。
「――うん」
今でもやっぱり、新川透のあのセリフはムカつく。
だけど、新川透の気持ちを考えてないところはあったなって。それは思ったから。
だからお互い「ごめんね」が言えればいいなって、そう思いながら、私はしっかりと頷いた。
いよいよ今日は、旅館女将の体験だ。
「まずは着物ですね!」
と、美沙緒ちゃんが意気揚々と色とりどりの着物を畳に並べ始めたのでびっくりした。そばには帯やたくさんのひも、折り畳まれた白い布……肌襦袢だっけな、それらも並んでいる。
「き、着物!?」
「美沙緒ちゃん、汚したら大変だよ!」
と恵と私は異を唱えたものの、美沙緒ちゃんは
「そうは言っても、女将修行にとって着物は基本中の基本ですよ?」
ときょとんとしている。
「大丈夫です。これは練習用といいますか、私のお古なので」
「私、これがいいなー!」
すっかり乗り気のコバさんは濃いピンク色の着物を指差した。
「コバさんは可愛らしいお顔立ちですから、むしろこちらの女郎花がいいですよ。紅梅ですと、幼くなってしまいます」
「そう?」
「洋装と和装は違いますし、また振袖と小紋も違うんですよ」
何と、着物に関しては美沙緒ちゃんの方が師匠だ。
小紋とは小さな模様が全体に散っている着物で、袖が短く機能的になっている。いわゆる普段使いの着物で、旅館の女将ともなるとあまり派手な柄が入ったものは身につけないらしい。
私たちの体に着物を当てながら美沙緒ちゃんが選んでくれたのは、コバさんが女郎花という淡い黄色、恵には花萌葱という濃い緑色、そして私にはコバさんが最初に良いと言った紅梅色だった。
「うーん、確かに私がコレ着たら、ちょっとアクが強いというか押しが強そう。控え目で楚々とした女将って感じにはならないねー」
私と並んで鏡を見たコバさんが感心したように頷いている。
「でも莉子さんですと、小柄な印象もカバーできて華やかになると言いますか、お顔と着物、相互を引き立てるのです」
そうこんこんと説明してくれる美沙緒ちゃんはというと、青藍という濃い青色の着物。凛とした佇まいで本物の女将みたい。
着物を着る機会なんてそうそうない、と私達ははしゃいで写真を撮りまくった。
とは言っても私はガラケーなので、後でパソコンの方に送ってもらうことになったんだけど。
「はぁ、新川センセーが歯噛みしそうだねー」
恵が私にスマホを構えながら、妙にニヤニヤしている。
「何で?」
「莉子の着物姿が見れなかった!って」
「写真撮ったじゃない。後で見せるよ」
「いやー、やっぱ実物でしょ!」
「……ううん、写真で十分」
プルプルと首を横に振る私を、恵が相変わらずニヤニヤしながら見つめる。どうも見透かされているらしい。
そう。あの人のことだから、真顔で
「帯クルクルさせて」
「悪代官と町娘ごっこしよう」
とか言いそうで、何かイヤです。
* * *
母屋の庭ではいろいろな草花が育てられていて、女将はここから選んで花を活けているらしい。
「お花って買うんじゃないですね」
「玄関に飾るような大きいものや、特別な催し物があるときはプロにお任せしますよ。でもお部屋のお花だったら、旅館をよく知る女将でなければね」
恵の問いに、私たちの着物姿を見に来た女将がにっこりと微笑んだ。
「お部屋の雰囲気に合うように、ですか?」
「それもありますが、お入りになるお客様にもよりますね。お若い方なのか、お年を召された方なのか。ご友人同士なのか、ご夫妻なのか、とか」
「へぇ~」
勉強熱心なコバさんの質問にも、丁寧に答える女将。
うんうん、コバさんの『将を射んと欲すれば』作戦は功を奏しているように見えるね。
「あら、肇。こっちにいらっしゃい」
ひょいと廊下を覗き込んだ女将が手招きをする。肇さんが部屋を覗き込み、和服姿の私たちを見て「おっ」というような顔をした。
「美沙緒の見立てですか」
「兄さん、どうでしょう?」
「うん、上手にできてるんじゃないか?」
あー、私たちの艶姿より美沙緒ちゃんの着付けと審美眼を褒めるか―。肇さん、相当なシスコンだね。
コバさんは、ついっと前に出ると
「あの、美沙緒さんに教えて頂いて、今からお花を生けるんです」
とやり過ぎない程度にアピールする。しかし肇さんは何とも感じてないのか、
「そうですか」
と淡々とした返事だった。
「上手にできたら、お部屋にも飾りますよ」
雰囲気を察したのか、女将がコバさんに優しく微笑みかけた。
「本当ですか?」
「ええ。だから肇、今日は合間を見てお嬢さん方のお手伝いをなさいね」
「僕には僕の仕事がありますが」
うーん肇さん、どうやら朴念仁と言われるタイプの人のようだ。愛想がいいコバさんとは、無いものを補う感じでお似合いな気がするなあ。
「何もずっと、とは言ってないでしょう。時折美沙緒のところに顔を出しなさい、と言ってるんです」
「わかりました」
女将に美沙緒ちゃんの名前を出され、すんなり了承する肇さん。コバさんの顔がパッと明るくなるのが分かった。
その後、女将と美沙緒ちゃんが摘んできてくれた草花を見よう見まねで活ける。
だけどまぁ、何て言うか、私にはあんまり才能がないみたい。一生懸命剣山に刺すんだけど、そっぽを向いたりバラバラになったり、全然まとまらない。
一方コバさんはというと、本当に器用で上手。これが美的センスの差、というやつだろうか。
出来具合を覗きに来た女将に褒められ、肇さんにも「スジは悪くないですね」と声をかけられてご満悦だった。
恵の生け花は、女将さんがちょいちょいっと直してお部屋へ。私はというと
「これは、さすがに……」
と女将に苦笑されてしまった。
「ごめんなさい。うーん、難しいな」
「莉子さん。お花を自分の思い通りにしようとしちゃ駄目よ」
「え?」
私が挿した花を抜きながら、それでも女将は優しく教えてくれる。
「お花が咲きたいように花器の上で咲かせるのよ。無理やり向きを変えたりするんじゃなくて、お花が一番見せたい顔を向けてあげて、お花にとって居心地がいいように挿すの」
そう言いながら女将が挿していった草花は、私が挿していたのと同じ花だというのにみるみる美しい造形を描いていく。
「女将の心得も同じなのよ。旅館を美しく整えようとするのではなく、お客様が居心地がいいように整えるようとすることが大事なの」
それがおもてなしということね、と呟いた女将の声が私の耳に心地よく響く。
「普段の人間関係も、そうですよね。……結婚とか、恋愛とか」
珍しく恵が口を挟んだ。ハッとして顔を上げると恵はあくまで女将に向かって話しかけている。だけどその声は、私の方に飛んできたように感じた。
「自分の『楽しい』ばかりを追いかけちゃダメだし。相手が一緒にいて『楽しい』と思ってもらえる場所を作らないとね」
「あー、メグ、耳が痛い! 私ってすぐ、自分の気持ちで前が見えなくなっちゃうからなあ」
コバさんがアイタタ、とでも言うように両手で耳を塞いでいる。こういう素直なところは、コバさんの良いところだ。女将がふふふ、と微笑んでいる。
「……そうだね」
私が相槌を打つと、初めて恵は私の方を見た。フッと微笑む。
つまり恵は、こう言いたかったのだろう。
「莉子は新川センセーが居心地よくなる空間をちゃんと作れてるのか」
と。
彼氏扱いしなさすぎ、気に入られたい願望が無さすぎというのは、もう少し気を回せとか少しは媚を売れとかそういう『行動』の話じゃなくて。
相手に譲らな過ぎる、そもそも相手のことを考えたことがないんじゃないか、という『気持ち』の話をしてるのかな、と思った。
* * *
それからは折り紙の箸置きの作り方を習ったり、お茶の淹れ方を習ったりした。
思えば、折り紙の箸置きもそうだよね。何てことはない箸置き、だけど鶴や亀、扇などいろいろな形を折れるし、色を変えれば雰囲気も変わる。
ただの四角い瀬戸物の箸置きで統一することは簡単。だけどそれじゃ味気ない。ちょっとした工夫で、おもてなしの気持ちを一つ乗せる。
ほんの一つ、か。確かに私には足りなかったかもなあ。
「まぁ、コバの意気込みはあながち間違ってないと思うんだよね」
夜、離れの部屋でたまたま恵と二人きりになったとき。不意に恵が漏らした。
「へ? 何が?」
「お兄さんの花嫁候補」
「……ええっ!?」
「いやー、初対面のアレは完全に値踏みしてたよね。そのあともちょこちょこ顔を出してたでしょ? 生け花とか折り紙とか。夕飯のときも、忙しい時間帯の筈なのに昨日と今日、両方顔を出してたもんね」
「え、あ……うん」
「美沙緒ちゃんをよろしく、という意味もあるだろうけど、『誰かいい人いないかしら?』も無くはない、という感じ?」
「ええええ……」
そんな想像もできない意図があったのか、と脱力しながら声を上げると、恵は「あはは」と声を上げて笑った。
「まあ、今のところコバが優勢だからいいんじゃない?」
「そうだね。私、全然ダメだったなあ……」
「新川センセーが『莉子はダメなままでいいよー』と甘やかしまくってるからね」
「……っ」
急に新川透の話題になって、思わず言葉につまる。
恵は
「まぁ、『俺がいないと』状態にしたいんだろうねぇ」
と呟いたあと、
「なのに急に『だから莉子は駄目なんだよ』はナイと思う。それは新川センセーが悪いかな」
とバッサリ切り捨てた。
俺がいないと、か。確かに世話焼きオカン状態だったからなあ、最初から。
そして私も、自立しなきゃとか言いながら、結局甘えっぱなしだった気がする。
新川透の好意に胡坐をかいていた、というか。
「まぁ、イラッとしたんだろうけどね。――で、明日はちゃんと話はできそう?」
恵が意味ありげな視線を私に投げかける。
明日の朝、私は一足先に横浜に帰る。新川透が、待ってるから。
「――うん」
今でもやっぱり、新川透のあのセリフはムカつく。
だけど、新川透の気持ちを考えてないところはあったなって。それは思ったから。
だからお互い「ごめんね」が言えればいいなって、そう思いながら、私はしっかりと頷いた。
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