5 / 6
第一章:バックグラウンド
其の四『雨宮千鶴』
しおりを挟む
「とりあえず上がって」
「お邪魔します」
いつからいたのかは分からないが、琳はひとまず千鶴を家の中へ招くことにした。
二人は二階にある琳の部屋へと行き、琳は飲み物を取ってくるため一度下へ降りた。
茶の間では母親の香月文乃が白いダボダボのシャツに黒のハーフパンツという格好で大股開いて何もかけずにいびきをかいていて寝ており、テーブルには空のビール缶が二本転がっていた。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
雨宮千鶴。
琳と総一郎のクラスメイトの一人で運動神経が良くて成績優秀な絵に描いたような優等生。長い黒髪にスラリと長い手足と引き締まったウエストを持つスタイル抜群の美少女として学年のみならず学校中の生徒が知っている有名人。
それなのに、誰も彼女のことを詳しく知る者はいない。
普段何をしているのか、何が好きで何が嫌いなのか、どんな私服を着ているのか、両親はどんな人なのかなどなど。住所や電話番号などの学校で管理すべき必要最低限の情報は分かっているのだがそれ以外に関してはあまり分かっていない、同じ小学校や中学校の人たちですら「自分たちが知りたいくらいだ」という反応が返ってくるくらいに謎なのだ。
千鶴本人も他人に対して特に興味があるわけでもなさそうで学校ではいつも本を読んでいる、話しかけられたら話すという感じで自分から誰かに話しかけるなんてことは滅多にない。
部活にも所属しておらず授業が終わるとそそくさと帰ってしまうため放課後に会うこともあまりない。
そんな人物が今自分の部屋にいるというレアケースに琳は少なからずどぎまぎしていた、恋愛感情とはまた違う胸の高鳴りに飲み物を運ぶ手が少し震えていた。
「これ、麦茶だけどよかったら」
「ありがとう、頂くわ」
抑揚も感情も籠ってない声でコップを受け取る千鶴、それを一口飲んで琳の部屋にある小型の折り畳み式テーブルに置いた。
「それでどうしたの? 家の前で……」
「ええ、少し聞きたいことがあって」
「そ、そう。聞きたいことって?」
「昨日の放課後、どこにいたの?」
意外な答えだった、だがそれと同時にこの質問をされた時点で琳は何故かもう逃げられないという気持ちになった。
「後輩に誘われて、総一郎と一緒に森へ行ったんだ。学校の近くの如月神社のとこ」
「後輩というのは陸上部の一之瀬葵さん、総一郎というのは同じクラスの宗像総一郎君のことでいいかしら」
「うん、そうだけど……どうかした?」
「いえ、ただの確認」
千鶴は麦茶をもう一口飲んでさらに重々しい空気を漂わせながら切り出した。
「単刀直入に聞くわ。あなたたち、変な化物にあったでしょう」
その一言を聞いた瞬間、琳の心臓がドクンと大きな鼓動を立てて口から飛び出そうになった。勿論比喩的表現なのだが琳には本当に出るんじゃないかというくらいに思えた。
服の下を嫌な汗が伝う。
「その反応だと図星みたいね」
「なん……で……」
「私もいたから、そこに」
「……は!?」
「詳しい事はまた別の日に話すわ、今日は確認しに来ただけ」
そう言って立ち上がり「お邪魔しました」と言い残してすたすたと部屋から出ていく千鶴を琳は動揺しながらも見送り、千鶴は何も言わずにあっさりと帰ってしまった。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
千鶴の訪問後、シャワーを浴びた琳は携帯電話に一通の着信があったことに気が付いた。履歴には『葵』と表示されていた。
琳は着替えてから葵に電話を折り返すと葵は焦った様子の声色で『先輩! 今すっごい美人さんが来て昨日のこと聞かれたんすけど、先輩は大丈夫っすか!?』と言っているところから察するに恐らく千鶴は葵のところにも行ったのだろう。
琳がさっきのことを話すとどうやら葵も同じようなことを聞かれたようでどことなく安心している様子だった、もし内容が違ったのならそれはそれでどっちも不安になっていただろう。
葵との電話が終わるとすぐさま着信音が鳴った、今度は総一郎からだ。
出ると先ほどの葵と同じような感じで琳のところにも千鶴は来たのか、何を聞かれたといったことで琳はさっきと同じように答えると総一郎は葵と同じような反応をした。
「んぁ……? 琳ー?」
総一郎との電話を終えるとソファーでいびきをかいて寝ていた文乃が大きく体を伸ばしてこれまた大きな欠伸をしながらゆっくりと起き上がった。
「おはよう、母さん」
「うぃー………あ、そういやあんた昨日帰ってきてたぁ? そんな気配しなかったんだけど」
「あぁ、昨日は葵の家に泊まった」
「葵ちゃんの家ぇー? あんた変なことしてないでしょうねぇ?」
「してないってば」
「ふーん……まぁ別にいいけどー」
文乃は「シャワーしてくるわー」と言って乱雑に服と下着を脱ぎ捨てて浴室へと入っていった。
琳も自分の部屋に戻ってのんびりすることにした、宿題もせずにただゴロゴロと。
夏休み二日目の昼前の出来事である。
その一週間後、如月神社の山奥で男性四人の死体が見つかった。
そしてそのうちの一人は他の三人から遠く離れたところで見つかったという。
「お邪魔します」
いつからいたのかは分からないが、琳はひとまず千鶴を家の中へ招くことにした。
二人は二階にある琳の部屋へと行き、琳は飲み物を取ってくるため一度下へ降りた。
茶の間では母親の香月文乃が白いダボダボのシャツに黒のハーフパンツという格好で大股開いて何もかけずにいびきをかいていて寝ており、テーブルには空のビール缶が二本転がっていた。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
雨宮千鶴。
琳と総一郎のクラスメイトの一人で運動神経が良くて成績優秀な絵に描いたような優等生。長い黒髪にスラリと長い手足と引き締まったウエストを持つスタイル抜群の美少女として学年のみならず学校中の生徒が知っている有名人。
それなのに、誰も彼女のことを詳しく知る者はいない。
普段何をしているのか、何が好きで何が嫌いなのか、どんな私服を着ているのか、両親はどんな人なのかなどなど。住所や電話番号などの学校で管理すべき必要最低限の情報は分かっているのだがそれ以外に関してはあまり分かっていない、同じ小学校や中学校の人たちですら「自分たちが知りたいくらいだ」という反応が返ってくるくらいに謎なのだ。
千鶴本人も他人に対して特に興味があるわけでもなさそうで学校ではいつも本を読んでいる、話しかけられたら話すという感じで自分から誰かに話しかけるなんてことは滅多にない。
部活にも所属しておらず授業が終わるとそそくさと帰ってしまうため放課後に会うこともあまりない。
そんな人物が今自分の部屋にいるというレアケースに琳は少なからずどぎまぎしていた、恋愛感情とはまた違う胸の高鳴りに飲み物を運ぶ手が少し震えていた。
「これ、麦茶だけどよかったら」
「ありがとう、頂くわ」
抑揚も感情も籠ってない声でコップを受け取る千鶴、それを一口飲んで琳の部屋にある小型の折り畳み式テーブルに置いた。
「それでどうしたの? 家の前で……」
「ええ、少し聞きたいことがあって」
「そ、そう。聞きたいことって?」
「昨日の放課後、どこにいたの?」
意外な答えだった、だがそれと同時にこの質問をされた時点で琳は何故かもう逃げられないという気持ちになった。
「後輩に誘われて、総一郎と一緒に森へ行ったんだ。学校の近くの如月神社のとこ」
「後輩というのは陸上部の一之瀬葵さん、総一郎というのは同じクラスの宗像総一郎君のことでいいかしら」
「うん、そうだけど……どうかした?」
「いえ、ただの確認」
千鶴は麦茶をもう一口飲んでさらに重々しい空気を漂わせながら切り出した。
「単刀直入に聞くわ。あなたたち、変な化物にあったでしょう」
その一言を聞いた瞬間、琳の心臓がドクンと大きな鼓動を立てて口から飛び出そうになった。勿論比喩的表現なのだが琳には本当に出るんじゃないかというくらいに思えた。
服の下を嫌な汗が伝う。
「その反応だと図星みたいね」
「なん……で……」
「私もいたから、そこに」
「……は!?」
「詳しい事はまた別の日に話すわ、今日は確認しに来ただけ」
そう言って立ち上がり「お邪魔しました」と言い残してすたすたと部屋から出ていく千鶴を琳は動揺しながらも見送り、千鶴は何も言わずにあっさりと帰ってしまった。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
千鶴の訪問後、シャワーを浴びた琳は携帯電話に一通の着信があったことに気が付いた。履歴には『葵』と表示されていた。
琳は着替えてから葵に電話を折り返すと葵は焦った様子の声色で『先輩! 今すっごい美人さんが来て昨日のこと聞かれたんすけど、先輩は大丈夫っすか!?』と言っているところから察するに恐らく千鶴は葵のところにも行ったのだろう。
琳がさっきのことを話すとどうやら葵も同じようなことを聞かれたようでどことなく安心している様子だった、もし内容が違ったのならそれはそれでどっちも不安になっていただろう。
葵との電話が終わるとすぐさま着信音が鳴った、今度は総一郎からだ。
出ると先ほどの葵と同じような感じで琳のところにも千鶴は来たのか、何を聞かれたといったことで琳はさっきと同じように答えると総一郎は葵と同じような反応をした。
「んぁ……? 琳ー?」
総一郎との電話を終えるとソファーでいびきをかいて寝ていた文乃が大きく体を伸ばしてこれまた大きな欠伸をしながらゆっくりと起き上がった。
「おはよう、母さん」
「うぃー………あ、そういやあんた昨日帰ってきてたぁ? そんな気配しなかったんだけど」
「あぁ、昨日は葵の家に泊まった」
「葵ちゃんの家ぇー? あんた変なことしてないでしょうねぇ?」
「してないってば」
「ふーん……まぁ別にいいけどー」
文乃は「シャワーしてくるわー」と言って乱雑に服と下着を脱ぎ捨てて浴室へと入っていった。
琳も自分の部屋に戻ってのんびりすることにした、宿題もせずにただゴロゴロと。
夏休み二日目の昼前の出来事である。
その一週間後、如月神社の山奥で男性四人の死体が見つかった。
そしてそのうちの一人は他の三人から遠く離れたところで見つかったという。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる