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学園の食堂
ベルが鳴った瞬間、身体の奥から力が抜けた。
頭はじんわり重く、肩は妙に張っている。
座学と基礎体力の合わせ技は、初日から容赦がない。
(お昼……!)
その二文字だけで、世界が少し明るく見えた。
「アイナ! 行くぞ」
背後から聞き慣れた声。
振り向けば、いつもの幼馴染が腕を軽く振って立っている。
「今行く」
返事をしながら立ち上がると、足が少しだけ笑った。
これが治癒魔術師の第一歩だと思うことにする。
「授業はどうだ? ついていけそうか」
回廊を抜けながらの問いかけに、私は即答した。
「体力が欲しい。というか筋肉が欲しい」
一拍。
そして、吹き出すような笑い声。
「ははっ。いきなりそこかよ」
「だって現実だったんだもん!
治癒って根性も要るやつ!」
騎士科と治癒魔術科が隣接しているせいか、行き交う生徒の装いも雰囲気もどこか近い。
軽装の騎士科生徒、ローブ姿の魔術科、そして治癒魔術科はその中間。
革と布と魔力の匂いが混ざるこの感じ、嫌いじゃない。
食堂の扉をくぐった瞬間、どっと音と匂いが押し寄せた。
広い。
天井が高い。
そして、料理の種類が多すぎる。
「……迷う」
煮込み、焼き物、蒸し物。
肉も魚も野菜も、彩りが過剰なほどだ。
これが全部、無料で提供されているという事実に、改めてこの学園の本気を感じる。
(学びに集中させるため、か……)
つまり、逃げ場はない。
列に並びながら、ふと視線が引き寄せられた。
(……いた)
あそこだけ、空気が違う。
桃色の髪。
陶磁器みたいな肌。
周囲が自然と距離を取ってしまうほどの存在感。
(ヒロイン……)
胸の奥が、きゅっと鳴った。
しかも。
(え? 一緒にランチ……してる?)
隣に座るのは、銀色の気配。
姿勢が綺麗で、視線の置き方が静かで――
(ベルンハルト……!?)
初日。
もう。
一緒。
眩しすぎて、思わず目を細めた。
(目が……潰れる……!)
「……はぁ。またかよ」
隣から聞こえた、心底うんざりした声。
「待って! 今いい所だから!」
「何がだよ……」
呆れつつも、彼は淡々とトレーを取る。
「お前はBセットな」
気づけば、私の前に置かれたのは魚料理中心の組み合わせ。焼き魚に、香草のソース、軽めのスープ。
「……なんということ!!」
「なにがだよ……」
完全に無自覚なのが、逆にすごい。
(好み、把握されてる……)
ヒロイン席に視線を戻す。
カレンは笑っている。
その隣で、ベルンハルトが何かを話して、彼女が少し照れたように目を伏せた。
(はぁぁ……)
胸いっぱい。
幸福量、過多。
ここは乙女ゲームの世界。
私はモブ。
イベントは発生しない。
介入も、分岐も、ない。
(でも、観測はできる)
それでいい。
それがいい。
最高の席で、最高の物語を眺めるだけ。
トレーを持って席に着く。
まだ一口も食べていないのに、心はすでに満たされていた。
「……楽しい……」
思わず零れた声に、向かいから視線が刺さる。
「お前、飯の前から満腹か?」
「こっちの話!」
呆れ顔を無視して、私はようやく箸を取った。
――いや、正確には。
まだ少しだけ、眺めてから。
「はやく食べろよ」
ため息混じりの声が、どこか優しい。
こうして私は、学園初日の昼食を迎えた。
胃袋より先に、心が満たされるという、予想外の形で。
頭はじんわり重く、肩は妙に張っている。
座学と基礎体力の合わせ技は、初日から容赦がない。
(お昼……!)
その二文字だけで、世界が少し明るく見えた。
「アイナ! 行くぞ」
背後から聞き慣れた声。
振り向けば、いつもの幼馴染が腕を軽く振って立っている。
「今行く」
返事をしながら立ち上がると、足が少しだけ笑った。
これが治癒魔術師の第一歩だと思うことにする。
「授業はどうだ? ついていけそうか」
回廊を抜けながらの問いかけに、私は即答した。
「体力が欲しい。というか筋肉が欲しい」
一拍。
そして、吹き出すような笑い声。
「ははっ。いきなりそこかよ」
「だって現実だったんだもん!
治癒って根性も要るやつ!」
騎士科と治癒魔術科が隣接しているせいか、行き交う生徒の装いも雰囲気もどこか近い。
軽装の騎士科生徒、ローブ姿の魔術科、そして治癒魔術科はその中間。
革と布と魔力の匂いが混ざるこの感じ、嫌いじゃない。
食堂の扉をくぐった瞬間、どっと音と匂いが押し寄せた。
広い。
天井が高い。
そして、料理の種類が多すぎる。
「……迷う」
煮込み、焼き物、蒸し物。
肉も魚も野菜も、彩りが過剰なほどだ。
これが全部、無料で提供されているという事実に、改めてこの学園の本気を感じる。
(学びに集中させるため、か……)
つまり、逃げ場はない。
列に並びながら、ふと視線が引き寄せられた。
(……いた)
あそこだけ、空気が違う。
桃色の髪。
陶磁器みたいな肌。
周囲が自然と距離を取ってしまうほどの存在感。
(ヒロイン……)
胸の奥が、きゅっと鳴った。
しかも。
(え? 一緒にランチ……してる?)
隣に座るのは、銀色の気配。
姿勢が綺麗で、視線の置き方が静かで――
(ベルンハルト……!?)
初日。
もう。
一緒。
眩しすぎて、思わず目を細めた。
(目が……潰れる……!)
「……はぁ。またかよ」
隣から聞こえた、心底うんざりした声。
「待って! 今いい所だから!」
「何がだよ……」
呆れつつも、彼は淡々とトレーを取る。
「お前はBセットな」
気づけば、私の前に置かれたのは魚料理中心の組み合わせ。焼き魚に、香草のソース、軽めのスープ。
「……なんということ!!」
「なにがだよ……」
完全に無自覚なのが、逆にすごい。
(好み、把握されてる……)
ヒロイン席に視線を戻す。
カレンは笑っている。
その隣で、ベルンハルトが何かを話して、彼女が少し照れたように目を伏せた。
(はぁぁ……)
胸いっぱい。
幸福量、過多。
ここは乙女ゲームの世界。
私はモブ。
イベントは発生しない。
介入も、分岐も、ない。
(でも、観測はできる)
それでいい。
それがいい。
最高の席で、最高の物語を眺めるだけ。
トレーを持って席に着く。
まだ一口も食べていないのに、心はすでに満たされていた。
「……楽しい……」
思わず零れた声に、向かいから視線が刺さる。
「お前、飯の前から満腹か?」
「こっちの話!」
呆れ顔を無視して、私はようやく箸を取った。
――いや、正確には。
まだ少しだけ、眺めてから。
「はやく食べろよ」
ため息混じりの声が、どこか優しい。
こうして私は、学園初日の昼食を迎えた。
胃袋より先に、心が満たされるという、予想外の形で。
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