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魂に落ちた声
意識を失った瞬間の記憶は、断片的だ。
重い衝撃。
内臓まで揺さぶられる感覚。
剣を握る指が痺れ、地面の匂いがやけに近くなった。
――まずい。
そう判断した時には、もう遅かった。
視界が暗転しかけ、音が遠のく。
自分が倒れかけているのだと、どこか冷静に理解していた。
(ここで、意識を切ったら……)
後方には、治癒魔術科がいる。
彼女も、そこにいる。
その事実だけが、やけに鮮明だった。
次の瞬間だった。
胸の奥に、強烈な熱が流れ込んできた。
焼け付くようで、しかし痛みとは違う。
裂けた肉が、引き寄せられる感覚。
砕けた内側が、無理やり繋ぎ止められる圧。
(……治癒?)
いや――違う。
これは、ただの回復魔術じゃない。
声が、落ちてきた。
「エルンスト! エルンスト!!」
必死で、必死で。
喉を潰す勢いの声。
その声が、身体ではなく――
魂に、直接触れてくる。
意識が、引き戻される。
重たい瞼を押し上げると、視界の中心に彼女がいた。
雨に濡れ、土に汚れ、息を切らして。
それでも、真っ直ぐこちらを見つめている。
アイナ。
焦げ茶の瞳が、必死に揺れていた。
「……治れ……気合いだ……っ!!」
詠唱は、荒く。
理論も、構文も、完璧とは言い難い。
だが。
そこに込められている“想い”だけは、誰よりも強かった。
魔力が流れ込む。
いや、流し込まれている、という方が正しい。
制御の限界を越えた供給。
自分の身を削ることすら厭わない、無茶な魔力操作。
(……馬鹿だ)
そう思ったのに。
次の瞬間、胸が締め付けられた。
温かいものが、頬に落ちる。
涙だ。
彼女の。
自分のために、泣いている。
「……アイナ……」
名を呼ぶと、彼女はびくりと肩を揺らした。
そして、泣き笑いのような表情で、こちらを見る。
その顔を見た瞬間――
すべてが、どうでもよくなった。
傷の痛みも。
状況も。
訓練かどうかなんてことも。
ただ、この声が。
この温度が。
この存在が――
失われなくて、よかった。
惚けるように、手が動いていた。
自分でも驚くほど自然に。
彼女の頬に、触れる。
温かい。
生きている。
必死で、ここにいる。
その事実が、胸に落ちた。
「……噂には、聞いていたが……」
喉がひりつく。
それでも、言葉が零れた。
「これは……ヤバいな……」
治癒魔術師として、ではない。
一人の男として。
彼女の声は、魔術じゃない。
技術でもない。
魂を、引き上げる。
落ちかけた命を、現世へ叩き戻す力。
それは――
“惹かれない”方が、おかしい。
遠くで、巨大な音がした。
ジャイアントベアが倒れる音。
先生方の指示。
仲間たちの声。
戦いは、終わりへ向かっている。
だが、自分の中では。
別の何かが、はっきりと始まっていた。
(……そうか)
今まで感じていた違和感。
何度も、視線が引き寄せられた理由。
治癒の声に、耳が向いてしまう理由。
全部。
この瞬間に、繋がった。
彼女は、特別だ。
――俺にとって。
この声を失う未来は、考えられない。
彼女が、限界まで魔力を注ぎ込んでいるのが、わかる。
身体が震えているのも、見える。
それなのに、止めようとしない。
(……今度は)
今度は、俺が守る。
そう、静かに誓った。
彼女の声が、魂に落ちた。
それは、ただの救命ではなく。
――決定的な、始まりだった。
重い衝撃。
内臓まで揺さぶられる感覚。
剣を握る指が痺れ、地面の匂いがやけに近くなった。
――まずい。
そう判断した時には、もう遅かった。
視界が暗転しかけ、音が遠のく。
自分が倒れかけているのだと、どこか冷静に理解していた。
(ここで、意識を切ったら……)
後方には、治癒魔術科がいる。
彼女も、そこにいる。
その事実だけが、やけに鮮明だった。
次の瞬間だった。
胸の奥に、強烈な熱が流れ込んできた。
焼け付くようで、しかし痛みとは違う。
裂けた肉が、引き寄せられる感覚。
砕けた内側が、無理やり繋ぎ止められる圧。
(……治癒?)
いや――違う。
これは、ただの回復魔術じゃない。
声が、落ちてきた。
「エルンスト! エルンスト!!」
必死で、必死で。
喉を潰す勢いの声。
その声が、身体ではなく――
魂に、直接触れてくる。
意識が、引き戻される。
重たい瞼を押し上げると、視界の中心に彼女がいた。
雨に濡れ、土に汚れ、息を切らして。
それでも、真っ直ぐこちらを見つめている。
アイナ。
焦げ茶の瞳が、必死に揺れていた。
「……治れ……気合いだ……っ!!」
詠唱は、荒く。
理論も、構文も、完璧とは言い難い。
だが。
そこに込められている“想い”だけは、誰よりも強かった。
魔力が流れ込む。
いや、流し込まれている、という方が正しい。
制御の限界を越えた供給。
自分の身を削ることすら厭わない、無茶な魔力操作。
(……馬鹿だ)
そう思ったのに。
次の瞬間、胸が締め付けられた。
温かいものが、頬に落ちる。
涙だ。
彼女の。
自分のために、泣いている。
「……アイナ……」
名を呼ぶと、彼女はびくりと肩を揺らした。
そして、泣き笑いのような表情で、こちらを見る。
その顔を見た瞬間――
すべてが、どうでもよくなった。
傷の痛みも。
状況も。
訓練かどうかなんてことも。
ただ、この声が。
この温度が。
この存在が――
失われなくて、よかった。
惚けるように、手が動いていた。
自分でも驚くほど自然に。
彼女の頬に、触れる。
温かい。
生きている。
必死で、ここにいる。
その事実が、胸に落ちた。
「……噂には、聞いていたが……」
喉がひりつく。
それでも、言葉が零れた。
「これは……ヤバいな……」
治癒魔術師として、ではない。
一人の男として。
彼女の声は、魔術じゃない。
技術でもない。
魂を、引き上げる。
落ちかけた命を、現世へ叩き戻す力。
それは――
“惹かれない”方が、おかしい。
遠くで、巨大な音がした。
ジャイアントベアが倒れる音。
先生方の指示。
仲間たちの声。
戦いは、終わりへ向かっている。
だが、自分の中では。
別の何かが、はっきりと始まっていた。
(……そうか)
今まで感じていた違和感。
何度も、視線が引き寄せられた理由。
治癒の声に、耳が向いてしまう理由。
全部。
この瞬間に、繋がった。
彼女は、特別だ。
――俺にとって。
この声を失う未来は、考えられない。
彼女が、限界まで魔力を注ぎ込んでいるのが、わかる。
身体が震えているのも、見える。
それなのに、止めようとしない。
(……今度は)
今度は、俺が守る。
そう、静かに誓った。
彼女の声が、魂に落ちた。
それは、ただの救命ではなく。
――決定的な、始まりだった。
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