モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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夏季休暇のお知らせ

昼の食堂は、相変わらず戦場だった。
皿の音、笑い声、カトラリーが触れ合う軽い金属音が混ざり合い、活気という名の熱気が満ちている。

私はトレイを抱えたまま、椅子に沈み込むように腰を下ろした。

「……生き返る」

そう呟いた私の向かいで、腕を組んだヴィルが即座に切り返す。

「帰るよな?」

「え? 当たり前じゃん! 私に炎天下で死ねと?」

即答だった。
夏季休暇中も学園に残る生徒がいるのは知っている。
知っているが――それはつまり、強制トレーニングの延長戦を意味する。

 重り付き訓練。
 炎天下。
 魔力管理強化メニュー。

(……それはもう、修行じゃなくて拷問)

「お土産、買いに行きたい」

「放課後いくぞ」

「お小遣い下さい!」

「お前の方が金持ちだろ」

「気持ちの問題!」

ヴィルは一瞬、呆れたように眉を寄せたが、すぐに小さく息を吐いた。

「……お前の為に買うなら、出し惜しみはしないがな」

「やったー! 高級スイーツは私の物だ!」

「お前……ったく」

言葉とは裏腹に、声は柔らかい。
幼馴染として積み重ねてきた、変わらない距離感。

その空気に、私は安心して――

そして、不意に。

ふわり、と視界の端に、桃色が揺れた。

「……なんということでしょう!」

反射的に呟いた私に、ヴィルはすぐ察したようにため息をつく。

「またか」

「見つめ合う時間が増えている!!」

「よかったな」

「甘ーーーい!!」

「お前が今食べてるやつ、甘み皆無だけどな」

口の中に残るのは、香草と塩気の強い副菜。
確かに、甘さとは無縁だ。

それでも。

少し離れた席で、桃色の髪の少女と銀髪の青年が向かい合い、言葉を交わしている光景は――
まるで、砂糖菓子をそのまま切り取ったみたいに、眩しかった。

(……ああ、ヒロイン)

距離が、確実に縮まっている。
目が合い、微笑み、言葉を交わす。
その一連の流れが、以前よりも自然で、親密で。

胸の奥が、きゅっと鳴る。

それを、私は“推しを眺める喜び”だと、自分に言い聞かせた。

――その一連のやり取りを。

後方の席から、静かに見ている男がいた。

騎士科の制服。
青い髪。
薄い青の瞳。

エルンストは、トレイを前にしながら、視線だけをこちらに向けていた。

私とヴィル。
そして、私が視線を走らせた先――桃色の彼女。

何かを考えるように、彼は一瞬だけ目を細めた。



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