46 / 209
晩餐と夜の庭園
晩餐は、明らかに「歓待」という言葉を軽く超えていた。
料理の数も質も、祝いの席かと思うほどだ。
父も母も、なぜか終始機嫌がいい。
いや、「いい」というより、喜びが抑えきれていない。
(……なんで?)
アイナはその空気に、内心で首を傾げていた。
ネルケ辺境伯は、ワインを掲げて満面の笑みだ。
「エルンスト君が来てくれて本当に嬉しい! いや、本当に!」
隣でメリア夫人が、ぱっと花が咲いたような表情になる。
「素敵な騎士さまですこと! ね? アイナ?」
突然振られて、アイナは一瞬固まった。
何かの圧が、すごい。
「……は、はい。それは、その……前世と現世を含めても、有り得ないほどの喜びで……」
――言った。
言ってしまった。
自分でも、何を言っているのかわからない。
場が一瞬、静まり返る。
メリア夫人は、ほんの一瞬だけ目眩を覚えた。
だが、この人は強い。
そして速い。
「まぁ! アイナったら!」
にこやかに、朗らかに、しかし確実に方向を修正する。
「まるでエルンスト様に出逢うためだけに、この世に生まれてきたみたいな言い方ですこと!」
――それはそれで重い。
だが、もう遅い。
エルンストは、わずかに肩を揺らし、照れたように視線を逸らした。
ピクリとした反応を、アイナは見逃さなかった。
(いま……照れた?)
胸の奥が、くすぐったくなる。
その後の話題は、辺境の守備体制、魔物の動向、領民の暮らし、特産物――
どれも自然な会話のようでいて、よく聞くと「ここに根を下ろしたら」の前提で語られている。
やり手だ、とアイナは思った。
両親が。
エルンストは真剣に耳を傾け、時折質問を返す。
その姿は、まるで未来の一員として話を聞いているようで。
晩餐は、終始和やかに、そして妙な熱量を帯びたまま終わった。
食後。
自然な流れで「庭園を案内してあげて」と促され、気が付けば――
アイナは、エルンストと二人きりで歩いていた。
夜の庭園は、魔法灯に照らされている。
柔らかな光が足元を縁取り、花々の影が揺れている。
空を見上げれば、星が驚くほど近い。
(……こんな庭、あったっけ?)
知っているはずの我が家なのに。
知らない場所みたいだ。
きっと、城内の者たちが総出で整えたのだろう。
完璧すぎるほど、ロマンチックだった。
風が、そっと吹いた。
夜の冷たさを含んだ風が、アイナの髪を揺らす。
その瞬間。
エルンストと、視線が絡んだ。
言葉は、いらなかった。
星と魔法灯に照らされた瞳が、互いを映し合う。
胸の奥が、静かに、確かに、温かくなる。
(……しあわせな家族に、なりそうだな)
理由もなく、そんな予感がした。
料理の数も質も、祝いの席かと思うほどだ。
父も母も、なぜか終始機嫌がいい。
いや、「いい」というより、喜びが抑えきれていない。
(……なんで?)
アイナはその空気に、内心で首を傾げていた。
ネルケ辺境伯は、ワインを掲げて満面の笑みだ。
「エルンスト君が来てくれて本当に嬉しい! いや、本当に!」
隣でメリア夫人が、ぱっと花が咲いたような表情になる。
「素敵な騎士さまですこと! ね? アイナ?」
突然振られて、アイナは一瞬固まった。
何かの圧が、すごい。
「……は、はい。それは、その……前世と現世を含めても、有り得ないほどの喜びで……」
――言った。
言ってしまった。
自分でも、何を言っているのかわからない。
場が一瞬、静まり返る。
メリア夫人は、ほんの一瞬だけ目眩を覚えた。
だが、この人は強い。
そして速い。
「まぁ! アイナったら!」
にこやかに、朗らかに、しかし確実に方向を修正する。
「まるでエルンスト様に出逢うためだけに、この世に生まれてきたみたいな言い方ですこと!」
――それはそれで重い。
だが、もう遅い。
エルンストは、わずかに肩を揺らし、照れたように視線を逸らした。
ピクリとした反応を、アイナは見逃さなかった。
(いま……照れた?)
胸の奥が、くすぐったくなる。
その後の話題は、辺境の守備体制、魔物の動向、領民の暮らし、特産物――
どれも自然な会話のようでいて、よく聞くと「ここに根を下ろしたら」の前提で語られている。
やり手だ、とアイナは思った。
両親が。
エルンストは真剣に耳を傾け、時折質問を返す。
その姿は、まるで未来の一員として話を聞いているようで。
晩餐は、終始和やかに、そして妙な熱量を帯びたまま終わった。
食後。
自然な流れで「庭園を案内してあげて」と促され、気が付けば――
アイナは、エルンストと二人きりで歩いていた。
夜の庭園は、魔法灯に照らされている。
柔らかな光が足元を縁取り、花々の影が揺れている。
空を見上げれば、星が驚くほど近い。
(……こんな庭、あったっけ?)
知っているはずの我が家なのに。
知らない場所みたいだ。
きっと、城内の者たちが総出で整えたのだろう。
完璧すぎるほど、ロマンチックだった。
風が、そっと吹いた。
夜の冷たさを含んだ風が、アイナの髪を揺らす。
その瞬間。
エルンストと、視線が絡んだ。
言葉は、いらなかった。
星と魔法灯に照らされた瞳が、互いを映し合う。
胸の奥が、静かに、確かに、温かくなる。
(……しあわせな家族に、なりそうだな)
理由もなく、そんな予感がした。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。
三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。
新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。
ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる!
実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。
新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。
しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。
ややヤンデレな心の声!?
それでも――――。
七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。
『俺、失恋で、死んじゃうな……』
自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。
傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される?
【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…