モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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晩餐と夜の庭園

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晩餐は、明らかに「歓待」という言葉を軽く超えていた。
料理の数も質も、祝いの席かと思うほどだ。

父も母も、なぜか終始機嫌がいい。
いや、「いい」というより、喜びが抑えきれていない。

(……なんで?)

アイナはその空気に、内心で首を傾げていた。

ネルケ辺境伯は、ワインを掲げて満面の笑みだ。
「エルンスト君が来てくれて本当に嬉しい! いや、本当に!」

隣でメリア夫人が、ぱっと花が咲いたような表情になる。
「素敵な騎士さまですこと! ね? アイナ?」

突然振られて、アイナは一瞬固まった。
何かの圧が、すごい。

「……は、はい。それは、その……前世と現世を含めても、有り得ないほどの喜びで……」

――言った。

言ってしまった。

自分でも、何を言っているのかわからない。
場が一瞬、静まり返る。

メリア夫人は、ほんの一瞬だけ目眩を覚えた。
だが、この人は強い。
そして速い。

「まぁ! アイナったら!」

にこやかに、朗らかに、しかし確実に方向を修正する。

「まるでエルンスト様に出逢うためだけに、この世に生まれてきたみたいな言い方ですこと!」

――それはそれで重い。

だが、もう遅い。

エルンストは、わずかに肩を揺らし、照れたように視線を逸らした。
ピクリとした反応を、アイナは見逃さなかった。

(いま……照れた?)

胸の奥が、くすぐったくなる。

その後の話題は、辺境の守備体制、魔物の動向、領民の暮らし、特産物――
どれも自然な会話のようでいて、よく聞くと「ここに根を下ろしたら」の前提で語られている。

やり手だ、とアイナは思った。
両親が。

エルンストは真剣に耳を傾け、時折質問を返す。
その姿は、まるで未来の一員として話を聞いているようで。

晩餐は、終始和やかに、そして妙な熱量を帯びたまま終わった。

食後。
自然な流れで「庭園を案内してあげて」と促され、気が付けば――

アイナは、エルンストと二人きりで歩いていた。

夜の庭園は、魔法灯に照らされている。
柔らかな光が足元を縁取り、花々の影が揺れている。
空を見上げれば、星が驚くほど近い。

(……こんな庭、あったっけ?)

知っているはずの我が家なのに。
知らない場所みたいだ。

きっと、城内の者たちが総出で整えたのだろう。
完璧すぎるほど、ロマンチックだった。

風が、そっと吹いた。
夜の冷たさを含んだ風が、アイナの髪を揺らす。

その瞬間。

エルンストと、視線が絡んだ。

言葉は、いらなかった。
星と魔法灯に照らされた瞳が、互いを映し合う。

胸の奥が、静かに、確かに、温かくなる。

(……しあわせな家族に、なりそうだな)

理由もなく、そんな予感がした。



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