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新学期初日の鬼ごっこ
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夏季休暇が終わった。
学園の空気は、確かに変わっていた。
空は高く、風は少し冷たく、制服の布越しに秋の気配が忍び込んでくる。
「戻ったな……」
そう実感する暇もなく。
私は、ひたすら――
転がされていた。
「そこー!! 気合いで立てぇ!!」
先生の怒号が、訓練場に響き渡る。
容赦はない。慈悲もない。
新学期初日だろうが関係ないらしい。
地面に叩きつけられ、砂と草の匂いが一気に鼻を突く。
転がった拍子に息が詰まり、視界がぐらりと揺れた。
(ちょっと待って……初日だよね?)
夏で緩んだ意識を叩き起こすため――
そう言われれば聞こえはいい。
だが、実態はこうだ。
騎士科が“完全に倒れた”あとの想定。
つまり、守る者がいない状況で、
命優先で逃げるための訓練。
「逃げろ!」
「捕まるな!」
「止まったら終わりだ!」
騎士科が、追う側に回る。
それはもう、遠慮という言葉を忘れた動きだった。
蹴り。体当たり。足を引っ掛ける。
地面に転ばせ、立ち上がる隙を奪う。
――いじめ?
いや、違う。
これは、生き残るための現実だ。
転がされながら、私は必死に体を丸める。
砂を噛み、息を整え、反射的に転がる。
(怖……)
本気で、怖い。
追われる側になった瞬間、理解した。
視線が刺さる。
足音が迫る。
背後から感じる、獲物を見るような気配。
騎士科の目は、完全に“狩り”のそれだった。
「くる!」
直感が叫ぶ。
瞬間、身体が勝手に動いた。
地面を蹴り、横へ飛ぶ。
風を切る音。
背後をかすめる気配。
(今の……当たってたら終わってた)
走る。
息が乱れる。
脚が悲鳴を上げる。
でも、止まれない。
鬼ごっこって――
こんなに、ハードだったっけ?
追われる恐怖が、背中に張り付く。
学園という場所が、一瞬で戦場に戻った。
(ああ……)
嫌でも思い知る。
――私は、学園に戻ってきた。
夏の現実を経て、
優しさも、甘さも削ぎ落とされた場所へ。
初日から、全力で。
それが、この学園の日常だった。
学園の空気は、確かに変わっていた。
空は高く、風は少し冷たく、制服の布越しに秋の気配が忍び込んでくる。
「戻ったな……」
そう実感する暇もなく。
私は、ひたすら――
転がされていた。
「そこー!! 気合いで立てぇ!!」
先生の怒号が、訓練場に響き渡る。
容赦はない。慈悲もない。
新学期初日だろうが関係ないらしい。
地面に叩きつけられ、砂と草の匂いが一気に鼻を突く。
転がった拍子に息が詰まり、視界がぐらりと揺れた。
(ちょっと待って……初日だよね?)
夏で緩んだ意識を叩き起こすため――
そう言われれば聞こえはいい。
だが、実態はこうだ。
騎士科が“完全に倒れた”あとの想定。
つまり、守る者がいない状況で、
命優先で逃げるための訓練。
「逃げろ!」
「捕まるな!」
「止まったら終わりだ!」
騎士科が、追う側に回る。
それはもう、遠慮という言葉を忘れた動きだった。
蹴り。体当たり。足を引っ掛ける。
地面に転ばせ、立ち上がる隙を奪う。
――いじめ?
いや、違う。
これは、生き残るための現実だ。
転がされながら、私は必死に体を丸める。
砂を噛み、息を整え、反射的に転がる。
(怖……)
本気で、怖い。
追われる側になった瞬間、理解した。
視線が刺さる。
足音が迫る。
背後から感じる、獲物を見るような気配。
騎士科の目は、完全に“狩り”のそれだった。
「くる!」
直感が叫ぶ。
瞬間、身体が勝手に動いた。
地面を蹴り、横へ飛ぶ。
風を切る音。
背後をかすめる気配。
(今の……当たってたら終わってた)
走る。
息が乱れる。
脚が悲鳴を上げる。
でも、止まれない。
鬼ごっこって――
こんなに、ハードだったっけ?
追われる恐怖が、背中に張り付く。
学園という場所が、一瞬で戦場に戻った。
(ああ……)
嫌でも思い知る。
――私は、学園に戻ってきた。
夏の現実を経て、
優しさも、甘さも削ぎ落とされた場所へ。
初日から、全力で。
それが、この学園の日常だった。
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