モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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初めてだった

昼食を終えてからの街は、午後の光に包まれていた。
石畳に落ちる影はやわらかく、行き交う人々の足取りもどこかのんびりしている。

治癒魔術科B班の面々は、食後の余韻そのままに、思い思いの店先を覗き込みながら歩いていた。

「次どこ行く?」
「雑貨屋!」
「いや、甘いもの!」
「さっき食べたばっかだろ!」

わちゃわちゃ、がやがや。
その中心で、私は少し遅れて歩きながら、
胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

「この学園に来てから……初めて!!」

思わず、声が弾んだ。

「はじめて?」
「なにが?」

「初めて……仲間と、お出掛けしてる!!!」

一瞬、空気が止まる。
それから、視線が一斉にこちらに集まった。

「……え?」
「……まじで?」

「うん……」

信じがたい話だけれど、事実だった。
学園に入ってから、外出といえば幼馴染と一緒。
それ以外の誰かと、こうして街を歩いたことはなかった。

「……可哀想」
「思ったより重い過去」
「それ、笑って話すことじゃないぞ」

「なんということでしょう……」

笑うしかなかった。
だって、今はこうして歩けている。

「お前の幼馴染、正直おっかないからな~」
「俺、何回か睨まれたぞ」
「わかる。もはや番犬」
「忠誠心MAXの」

「否定できない……」

乾いた笑いをこぼした、その時だった。

ふっと、空気が変わる。

隣を歩いていた彼の気配が、一段低くなった。
声は出さない。表情も変わらない。
けれど、確かに冷えた。

班の誰かがそれに気づき、言葉を止める。

「……では」

静かな声。

「これからは、また俺たちと出掛ければいい」

その一言で、場の空気が一気に切り替わった。

「それだ!」
「みんなで行けば!」
「こわくない!!」
「数は力!!」

ハモりが、完璧だった。

「あはははは!」

思わず声を上げて笑う。
胸の奥で、何かがほどけていくのが分かった。

彼はそんな私を横目で見て、ほんの少しだけ目を細めていた。

やがて、分かれ道に着く。
彼は騎士科の馬車へ。
私たちは寮へ戻る。

別れ際、私は一歩だけ近づき、顔を上げた。

「今日は……本当に楽しかった」
「ありがとう。私を、みつけてくれて」

その言葉に、
彼は一瞬目を見開き、そして迷いのない声音で答えた。

「ああ。これからも、探すよ」

あまりにも自然で、
あまりにも甘い言葉。

胸の奥が、きゅっと鳴る。

――楽しかった。
ただそれだけなのに。

今日という一日は、
確かに、私の世界を少しだけ広げてくれた。


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