モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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君を探して

学園までの帰り道。
夕暮れの空は、淡く色を変えながらゆっくりと沈んでいく。
石畳を踏む靴音が一定のリズムで続き、
その規則正しさが、今日の出来事を静かに反芻させた。

治癒魔術科B班と合流したのは、偶然ではない。

前回の野外訓練。
持参していた装備、消耗品、班ごとの準備傾向。

それらを思い返し、必要なものを揃えるなら、
どの店に寄るか――自然と答えは出ていた。

だから、街で彼女を見つけた時も、驚きはなかった。

自然に輪へ溶け込み、
会話の流れを乱さず、
距離を測りながら彼女の隣へ立つ。

それは訓練で身についた動きで、無意識にできてしまうことだった。

「みつけた」

耳元でそう囁いた瞬間。
彼女が見せた、あの表情。

ほんの一瞬、驚いて。
それから、安堵と喜びが混じったように、瞳が揺れた。

(……まずい)

胸の奥で、理性が警鐘を鳴らした。
可愛い、と思ってしまった。
誰にも見せたくない、と即座に思ってしまった。

――危ない。

だから、その後は意識的に動いた。
彼女の隣を、誰にも譲らなかった。

班の誰かが入ろうとすれば、自然に一歩前へ。
視線を遮り、会話の流れを引き取り、
彼女の注意が外へ向かないように。

だって、そうだろう。
本来、この日は
――俺とアイナのものだった。

週末。
二人で過ごすはずだった時間。
彼女が迷って、仲間を選んだことを、責めるつもりはない。

選択肢を与えて、待つ。
それが誠実で、正しいやり方だと、ずっと信じてきた。

――違った。

今日、それを骨身に染みて理解した。

街での光景が、まだ脳裏に焼きついている。
仲間に囲まれて笑うアイナ。
楽しそうで、少し誇らしげで、解放されたような空気。

けれど。
ほんの一瞬だけ、俺の方を探すように流れた視線。

あれを、見逃すわけがない。

(……待っているだけでは、足りない)

騎士とは、守る者だ。
そう教えられて育った。

だが、俺は知っている。
自分の血の奥底に、何が流れているかを。

――狩人。

高貴な血を引く騎士という肩書きは、後から与えられた役割にすぎない。

本質は、もっと原始的で、もっと冷静だ。

逃げるものを見極める。
距離を測る。
風向きを読む。
そして、確実に仕留める。

それが、俺のやり方だ。

アイナは、逃げたわけじゃない。
ただ、迷っている。

近づきたいのに、躊躇っている。
踏み出したいのに、足を止めている。

――それは、狩りにおいて最も分かりやすい兆候。

「……探すよ」

街で口にしたあの言葉。
あれは、甘い約束じゃない。

宣言だ。

彼女は気づいていないかもしれない。
だが、俺はもう“待つ側”に戻るつもりはなかった。

学園の回廊。
訓練場。
食堂。
街へ向かう道。

視線を巡らせ、気配を拾う。
誰といるか。
どこで立ち止まるか。
何に迷い、何を選ぶか。

幼馴染という安全圏。
仲間という集団。
それらは彼女を守るが、同時に、俺から遠ざける。

(……なら)

包囲するしかない。

触れない。
縛らない。
だが、逃げ道は自然に消えていく。

彼女が「偶然」俺の視界に入る回数を増やす。
彼女が「自然に」俺の近くに立つ状況を作る。
彼女が「選んだつもり」で、俺の方へ来るように。

それが、狩人のやり方だ。


夜。
部屋に戻り、窓の外を見る。
学園の灯りが、静かに揺れている。

アイナは今、どこにいる。
誰と笑っている。
何を考えている。

想像するだけで、胸の奥が熱を持つ。

(……危険だな)

自覚はある。
だが、止める気はない。

優しさだけでは、手に入らないものがある。
誠実さだけでは、守れないものがある。

彼女は、選択肢の前で迷っている。
なら――選ばせる環境を、俺が作る。

逃げた獲物は、確実に狩る。
それは残酷さじゃない。

責任だ。

俺は、彼女を見失わない。
どこへ行こうと、必ず見つける。

そして、彼女が自分の意思で、俺のもとへ戻ってくるまで。

夜の静寂の中で、目を閉じる。

俺が…君を逃がすわけがないだろう?

――狩りは、もう始まっている。





エルンスト視点
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