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確信という名の刃
聖誕祭前夜。
学園の空気は、昼間の浮かれたざわめきを嘘のように脱ぎ捨て、夜の冷気に沈んでいた。
灯りの落ちた回廊を歩く靴音が、やけに大きく響く。
――静かすぎる。
それが、胸に引っかかっていた。
今日は、皆で集まる日だ。
治癒魔術科B班。
騎士科B班。
そして、アイナ。
誰にも嘘はついていない。
誰も間違った約束をしていない。
それなのに。
(……嫌な予感がする)
俺は、立ち止まり、壁際の窓から中庭を見下ろした。
聖誕祭の飾り付けが、淡い光を反射している。
人の気配はまばらだ。
だが、その静けさの中に、確実に「歪み」がある。
今日、アイナは笑っていた。
仲間に囲まれ、準備をして、楽しそうに。
その姿は、正しかった。
守るべき日常そのものだった。
――だからこそ。
胸の奥で、何かが軋んだ。
(俺は……何を期待している?)
自分に問いかける。
答えは、分かっている。
今夜、彼女は誰のもとへ行くのか。
誰と時間を過ごすのか。
誰の隣で、笑うのか。
そんなものを、
「選択肢だ」「自由だ」と言いながら、
本当は――
(……俺を選べ)
そう願っている。
いや。
願いじゃない。
(選ぶべきだ)
その考えが浮かんだ瞬間、
自分の中で、何かが静かに割れた。
――ああ。
理解してしまった。
俺はもう、「待つ側」ではない。
これまで、選ばせるために距離を測り、
触れずに、縛らずに、
彼女が自分でこちらへ来るのを信じていた。
だが、現実は違う。
幼馴染という安全圏。
仲間という集団。
善意と日常という名の、柔らかな檻。
それらはすべて、
彼女を守るふりをして、
俺から遠ざける壁でもある。
(……ヴィル)
脳裏に浮かぶ名前。
今日の彼の視線。
笑顔の裏にあった、確信めいた影。
――あいつも、分かっている。
アイナが、どこへ向かおうとしているのか。
そして同時に、
自分が「選ばれる側」だと、
まだ信じていることも。
(滑稽だな)
俺も、同じだ。
誰もが、
「自分が選ばれる」と思っている。
だから、歪む。
夜風が、頬を打つ。
冷たいのに、頭は妙に冴えていた。
(……なら)
選択肢を並べるだけでは足りない。
環境を整えるだけでも足りない。
彼女が迷う場所そのものを、
俺の支配下に置く必要がある。
――囲う。
触れないまま。
優しさを崩さないまま。
だが、逃げ道だけを、静かに消す。
それは暴力じゃない。
脅しでもない。
「守る」という名の、必然だ。
拳を、ぎゅっと握る。
革手袋が、軋んだ。
(……危険だ)
自分でも、分かっている。
この感情は、騎士としては不適切だ。
だが、狩人としては、正しい。
逃げ道を失った獲物は、
必ず、最も安全だと思った場所へ戻る。
――俺のもとへ。
遠くで、鐘の音が鳴った。
聖誕祭前夜を告げる、静かな合図。
(アイナ)
今夜、君はどこへ行く。
誰の声を聞く。
誰の隣で、夜を過ごす。
その答えが、
俺の望むものでなくても。
――構わない。
選ばれるまで、
選ばれるようになるまで、
俺は、手を緩めない。
優しく。
静かに。
確実に。
夜の闇の中で、
エルンスト・トゥルペは、
はっきりと理解していた。
これはもう、恋ではない。
――戦だ。
エルンスト視点
学園の空気は、昼間の浮かれたざわめきを嘘のように脱ぎ捨て、夜の冷気に沈んでいた。
灯りの落ちた回廊を歩く靴音が、やけに大きく響く。
――静かすぎる。
それが、胸に引っかかっていた。
今日は、皆で集まる日だ。
治癒魔術科B班。
騎士科B班。
そして、アイナ。
誰にも嘘はついていない。
誰も間違った約束をしていない。
それなのに。
(……嫌な予感がする)
俺は、立ち止まり、壁際の窓から中庭を見下ろした。
聖誕祭の飾り付けが、淡い光を反射している。
人の気配はまばらだ。
だが、その静けさの中に、確実に「歪み」がある。
今日、アイナは笑っていた。
仲間に囲まれ、準備をして、楽しそうに。
その姿は、正しかった。
守るべき日常そのものだった。
――だからこそ。
胸の奥で、何かが軋んだ。
(俺は……何を期待している?)
自分に問いかける。
答えは、分かっている。
今夜、彼女は誰のもとへ行くのか。
誰と時間を過ごすのか。
誰の隣で、笑うのか。
そんなものを、
「選択肢だ」「自由だ」と言いながら、
本当は――
(……俺を選べ)
そう願っている。
いや。
願いじゃない。
(選ぶべきだ)
その考えが浮かんだ瞬間、
自分の中で、何かが静かに割れた。
――ああ。
理解してしまった。
俺はもう、「待つ側」ではない。
これまで、選ばせるために距離を測り、
触れずに、縛らずに、
彼女が自分でこちらへ来るのを信じていた。
だが、現実は違う。
幼馴染という安全圏。
仲間という集団。
善意と日常という名の、柔らかな檻。
それらはすべて、
彼女を守るふりをして、
俺から遠ざける壁でもある。
(……ヴィル)
脳裏に浮かぶ名前。
今日の彼の視線。
笑顔の裏にあった、確信めいた影。
――あいつも、分かっている。
アイナが、どこへ向かおうとしているのか。
そして同時に、
自分が「選ばれる側」だと、
まだ信じていることも。
(滑稽だな)
俺も、同じだ。
誰もが、
「自分が選ばれる」と思っている。
だから、歪む。
夜風が、頬を打つ。
冷たいのに、頭は妙に冴えていた。
(……なら)
選択肢を並べるだけでは足りない。
環境を整えるだけでも足りない。
彼女が迷う場所そのものを、
俺の支配下に置く必要がある。
――囲う。
触れないまま。
優しさを崩さないまま。
だが、逃げ道だけを、静かに消す。
それは暴力じゃない。
脅しでもない。
「守る」という名の、必然だ。
拳を、ぎゅっと握る。
革手袋が、軋んだ。
(……危険だ)
自分でも、分かっている。
この感情は、騎士としては不適切だ。
だが、狩人としては、正しい。
逃げ道を失った獲物は、
必ず、最も安全だと思った場所へ戻る。
――俺のもとへ。
遠くで、鐘の音が鳴った。
聖誕祭前夜を告げる、静かな合図。
(アイナ)
今夜、君はどこへ行く。
誰の声を聞く。
誰の隣で、夜を過ごす。
その答えが、
俺の望むものでなくても。
――構わない。
選ばれるまで、
選ばれるようになるまで、
俺は、手を緩めない。
優しく。
静かに。
確実に。
夜の闇の中で、
エルンスト・トゥルペは、
はっきりと理解していた。
これはもう、恋ではない。
――戦だ。
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