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聖誕祭前夜の宴
治癒魔術科B班と騎士科B班が合流した瞬間、空気がひとつ弾けた。
「おおー!揃った揃った!」
「人数多くね?」
「これ聖誕祭っていうか…宴じゃない?」
街の一角、簡易的に借りた集会所の前。
雪はまだ降っていないが、吐く息は白く、冬の気配はしっかりとそこにあった。
治癒魔術科B班は、食材と飲み物を抱え、
騎士科B班は、薪や調理器具や謎に大きな鍋を担いでいる。
「なんで鍋がそんなでかいんだよ」
「人数分だ」
「絶対余るだろ」
「余ったら明日も食う」
合理的すぎる。
その中心に、自然と立つ青い髪の騎士。
エルンストは、全体を一瞥してから静かに言った。
「では、手分けしよう。怪我人を出さないようにな」
「はーい!治癒魔術科、包丁禁止令!」
「待って!それ偏見!」
「前回、誰が指切ったと思ってる」
「……すみませんでした」
笑いが起こる。
それだけで、張りつめていた空気がほどけていく。
アイナは、少し離れた場所でその様子を眺めていた。
両手には野菜の籠。
班のみんなに囲まれて、あちこちから声をかけられる。
「アイナ、それ洗って!」
「味見役お願い!」
「いや、絶対毒見役にされてるよねそれ!?」
「毒には慣れてますので……」
「やめろ!縁起でもない!」
どっと笑いが起こる。
そのすぐそばで、騎士科B班が薪を組んでいる。
「おい、これどう組むんだ」
「逆だ逆」
「火起こし任せろ」
「騎士の誇りはどこ行った」
エルンストは、自然とアイナの視界に入る位置に立っていた。
何か作業をしているようで、実は常に彼女の動線を確認している。
それを、誰も気づいていない。
――いや、気づいていても「自然すぎて」気にならない。
「エルンスト君、これどう思う?」
治癒魔術科の誰かが声をかける。
「問題ない。むしろ安全だ」
「さすがー!」
「頼りになるー!」
そのやり取りを見て、アイナは思わず苦笑した。
(……完全に馴染んでる)
騎士科B班の誰かが、ぼそっと言う。
「なぁ、エルンスト」
「どうした」
「俺たち、今日さ……」
「うん」
「治癒魔術科B班の保護者か?」
「否定はしない」
即答だった。
「重い!」
「さらっと言うな!」
「でも否定できない!」
また笑いが起こる。
鍋に火が入り、湯気が立ち上る。
スープの匂いが漂い、寒さで強張っていた肩が少し緩む。
「なんかさ」
治癒魔術科B班の一人が、ぽつりと言った。
「こうしてると、普通の学生みたいだよな」
一瞬、静かになる。
すぐに誰かが言う。
「いや、普通の学生は毒飲まされない」
「確かに」
「あと重りもつけない」
「戦場経験もない」
「……普通じゃないな」
「全然だな」
でも。
アイナは、その中で確かに感じていた。
笑っていること。
誰かと同じ鍋を囲んでいること。
冗談を言い合って、失敗を笑い飛ばしていること。
(……楽しい)
その感情が、胸にじんわりと広がる。
エルンストは、その表情を見逃さなかった。
ほんの一瞬、彼女の顔が柔らぐ。
安心したような、居場所を見つけたような。
(……よかった)
それと同時に、胸の奥で小さく疼くものがある。
(……だが)
この輪の中に、彼女がいる。
それは喜ばしい。
だが同時に、
彼女が「誰のものでもない場所」に立っている証でもあった。
笑い声が響く。
鍋が煮える。
聖誕祭前夜の空気は、賑やかで温かい。
――けれど。
その場にいない、もう一人の存在を、
誰も口に出さないまま。
この夜は、進んでいった。
「おおー!揃った揃った!」
「人数多くね?」
「これ聖誕祭っていうか…宴じゃない?」
街の一角、簡易的に借りた集会所の前。
雪はまだ降っていないが、吐く息は白く、冬の気配はしっかりとそこにあった。
治癒魔術科B班は、食材と飲み物を抱え、
騎士科B班は、薪や調理器具や謎に大きな鍋を担いでいる。
「なんで鍋がそんなでかいんだよ」
「人数分だ」
「絶対余るだろ」
「余ったら明日も食う」
合理的すぎる。
その中心に、自然と立つ青い髪の騎士。
エルンストは、全体を一瞥してから静かに言った。
「では、手分けしよう。怪我人を出さないようにな」
「はーい!治癒魔術科、包丁禁止令!」
「待って!それ偏見!」
「前回、誰が指切ったと思ってる」
「……すみませんでした」
笑いが起こる。
それだけで、張りつめていた空気がほどけていく。
アイナは、少し離れた場所でその様子を眺めていた。
両手には野菜の籠。
班のみんなに囲まれて、あちこちから声をかけられる。
「アイナ、それ洗って!」
「味見役お願い!」
「いや、絶対毒見役にされてるよねそれ!?」
「毒には慣れてますので……」
「やめろ!縁起でもない!」
どっと笑いが起こる。
そのすぐそばで、騎士科B班が薪を組んでいる。
「おい、これどう組むんだ」
「逆だ逆」
「火起こし任せろ」
「騎士の誇りはどこ行った」
エルンストは、自然とアイナの視界に入る位置に立っていた。
何か作業をしているようで、実は常に彼女の動線を確認している。
それを、誰も気づいていない。
――いや、気づいていても「自然すぎて」気にならない。
「エルンスト君、これどう思う?」
治癒魔術科の誰かが声をかける。
「問題ない。むしろ安全だ」
「さすがー!」
「頼りになるー!」
そのやり取りを見て、アイナは思わず苦笑した。
(……完全に馴染んでる)
騎士科B班の誰かが、ぼそっと言う。
「なぁ、エルンスト」
「どうした」
「俺たち、今日さ……」
「うん」
「治癒魔術科B班の保護者か?」
「否定はしない」
即答だった。
「重い!」
「さらっと言うな!」
「でも否定できない!」
また笑いが起こる。
鍋に火が入り、湯気が立ち上る。
スープの匂いが漂い、寒さで強張っていた肩が少し緩む。
「なんかさ」
治癒魔術科B班の一人が、ぽつりと言った。
「こうしてると、普通の学生みたいだよな」
一瞬、静かになる。
すぐに誰かが言う。
「いや、普通の学生は毒飲まされない」
「確かに」
「あと重りもつけない」
「戦場経験もない」
「……普通じゃないな」
「全然だな」
でも。
アイナは、その中で確かに感じていた。
笑っていること。
誰かと同じ鍋を囲んでいること。
冗談を言い合って、失敗を笑い飛ばしていること。
(……楽しい)
その感情が、胸にじんわりと広がる。
エルンストは、その表情を見逃さなかった。
ほんの一瞬、彼女の顔が柔らぐ。
安心したような、居場所を見つけたような。
(……よかった)
それと同時に、胸の奥で小さく疼くものがある。
(……だが)
この輪の中に、彼女がいる。
それは喜ばしい。
だが同時に、
彼女が「誰のものでもない場所」に立っている証でもあった。
笑い声が響く。
鍋が煮える。
聖誕祭前夜の空気は、賑やかで温かい。
――けれど。
その場にいない、もう一人の存在を、
誰も口に出さないまま。
この夜は、進んでいった。
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