モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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幼馴染と一緒

学園に通う前までは、ヴィルとはいつも一緒だった。
それが当たり前で、疑うこともなく、私の日常の一部だった。

冬の空はよく晴れていて、雪に反射した光がやけに眩しい。

「晴れてるな」
「雪で反射した光が、私の目をやりにきてる」

そう言ったら、ヴィルが噴き出した。

「ぷはっ!忘れ物ないよな?」
「ばっちり!」

向かったのは、領地にある温泉地。
子どもの頃から何度も来ていた場所なのに、久しぶりに訪れると、どこか新鮮だった。

前世の記憶が降ってきてから、こうして見ると不思議な感覚になる。
建物の様式は海外風なのに、中身はしっかり温泉。

「温泉って、楽しい場所だった!」
「うわ、いきなりテンション上げるな。びっくりするだろ」

そう言いながらも、ヴィルの声はどこか楽しそうだった。

湯から上がると、いつの間にかヴィルが待っていて、冷たい水を差し出してくれる。

「いのちの水!きっくぅー!」
「はいはい」

段差があれば、自然と半歩前に出てくれる。
人の流れがあれば、さりげなく内側に寄せられる。

ご飯は、私の好みで溢れていた。

「この味は……格別じゃ~!」
「よかったな」

そう言って、頭を撫でられる。
その仕草も、声の距離も、全部が昔と同じ。

たまに、ふっと覗き込むように視線が合って、
そのままニカッと晴れ晴れしい笑顔を向けられる。

――こんな顔、久しぶりに見た気がする。

楽しい。
居心地がいい。

「ほら、宿に戻るぞ」

差し出された手に、いつものように自分の手を重ねる。
温泉で温まった身体に、冬の澄んだ風が心地いい。

「足元、気をつけろ。小石あるぞ」
「へ?わっ――」

足を取られた瞬間、身体が前に傾いた。

次の瞬間、腕に抱きとめられる。

ぎゅっと、力のこもった腕。
思ったより、強い。

……すぐに、離れない。

ヴィルが何度か深呼吸をしてから、少し慌てたように言った。

「びっくりした!お前って、ほんと……」
「ご、ごめん」

顔を上げた瞬間、視線が絡んだ。

――音が、消えた。

ゆっくりと腕が解かれ、右手が私の頬に触れる。

「今、すげぇ色っぽい顔してる自覚あるか?」

「……え?」

冗談めいた口調じゃない。
真剣な声音。

「気をつけろ。他の誰にも、そんな顔見せるな」

そのまま頷いてしまったら――
何かが、戻れなくなる気がした。

一瞬で、胸の奥が冷える。

はっとしたように、ヴィルが手を引っ込めた。

「身体冷やすな。宿へ急ぐぞ」
「……う、うん」

また歩き出す。

いつもと同じ道。
いつもと同じ隣。

でも――心は、確かに違っていた。

幼馴染と一緒。
それだけのはずなのに、
もう、同じには戻れない気がしていた。


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