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今年から
学園の正門が見えた瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
長い冬季休暇が終わったのだと、石畳に刻まれた足音が教えてくれる。
門の向こうには、いつもの学園。
訓練場の土の匂い、魔術棟から漂う薬草の香り、少し騒がしい生徒たちの気配。
帰ってきた、という実感が、遅れて身体に馴染んでいく。
馬車が止まり、順番に降りる。
冷たい風が頬を撫で、思わず肩をすくめた。
ここからは、いつも通り。
エルンストは騎士科の通学路へ、私は治癒魔術科の寮へ。
それぞれの場所へ戻るだけ——そのはずだった。
「じゃあ、ここで……」
そう言いかけて、言葉が途切れる。
エルンストが、動かない。
別れの挨拶をするでもなく、背を向けるでもなく。
ただ、じっと私を見ていた。
青い瞳が、真正面から絡む。
逃げ場のない距離。
「……?」
首を傾げた、その瞬間だった。
エルンストの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
柔らかいのに、どこか獲物を見つけたような笑み。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。
「今年から、騎士科の寮に入ったんだ」
さらりと告げられた言葉。
あまりにも自然で、あまりにも爆弾。
「……え?」
思考が追いつく前に、隣から低い声が落ちた。
「わー……だるい」
ヴィルだった。
心底面倒そうな声音で、思わず本音が漏れたらしい。
そのまま額に手を当て、ため息をつく。
「なんで、今それ言うんだよ……」
「だって、今が一番面白いだろ?」
エルンストは悪びれもせず、肩をすくめる。
視線は、ずっと私から逸らさない。
頭の中が、一気に騒がしくなった。
騎士科の寮。
つまり、学園内。
つまり、距離が、圧倒的に近い。
毎朝すれ違う可能性。
夜の見回り。
訓練後の偶然。
ありとあらゆる「偶然」が、現実味を帯びて押し寄せる。
「なんということでしょう!!」
思わず声が裏返った。
自分でもびっくりするくらい、大きな声だった。
「静かにしろ、注目浴びるだろ」
ヴィルが呆れたように言う。
だが、その視線は鋭く、エルンストから一瞬も離れない。
「……覚悟しとけよ」
低く、ぼそりと呟かれた言葉。
それが誰に向けられたものか、考える余裕はなかった。
エルンストは、楽しそうに目を細める。
「学園で、ちゃんと会えるな」
その一言が、やけに重い。
別れるはずだった。
ただ、それだけのはずだったのに。
学園の門は、もう目の前。
なのに、ここから先の生活が、音を立てて組み変わっていく予感しかしなかった。
春の風が吹き抜ける。
新学期の始まりは、
どうやら想像以上に、騒がしくなりそうだった。
長い冬季休暇が終わったのだと、石畳に刻まれた足音が教えてくれる。
門の向こうには、いつもの学園。
訓練場の土の匂い、魔術棟から漂う薬草の香り、少し騒がしい生徒たちの気配。
帰ってきた、という実感が、遅れて身体に馴染んでいく。
馬車が止まり、順番に降りる。
冷たい風が頬を撫で、思わず肩をすくめた。
ここからは、いつも通り。
エルンストは騎士科の通学路へ、私は治癒魔術科の寮へ。
それぞれの場所へ戻るだけ——そのはずだった。
「じゃあ、ここで……」
そう言いかけて、言葉が途切れる。
エルンストが、動かない。
別れの挨拶をするでもなく、背を向けるでもなく。
ただ、じっと私を見ていた。
青い瞳が、真正面から絡む。
逃げ場のない距離。
「……?」
首を傾げた、その瞬間だった。
エルンストの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
柔らかいのに、どこか獲物を見つけたような笑み。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。
「今年から、騎士科の寮に入ったんだ」
さらりと告げられた言葉。
あまりにも自然で、あまりにも爆弾。
「……え?」
思考が追いつく前に、隣から低い声が落ちた。
「わー……だるい」
ヴィルだった。
心底面倒そうな声音で、思わず本音が漏れたらしい。
そのまま額に手を当て、ため息をつく。
「なんで、今それ言うんだよ……」
「だって、今が一番面白いだろ?」
エルンストは悪びれもせず、肩をすくめる。
視線は、ずっと私から逸らさない。
頭の中が、一気に騒がしくなった。
騎士科の寮。
つまり、学園内。
つまり、距離が、圧倒的に近い。
毎朝すれ違う可能性。
夜の見回り。
訓練後の偶然。
ありとあらゆる「偶然」が、現実味を帯びて押し寄せる。
「なんということでしょう!!」
思わず声が裏返った。
自分でもびっくりするくらい、大きな声だった。
「静かにしろ、注目浴びるだろ」
ヴィルが呆れたように言う。
だが、その視線は鋭く、エルンストから一瞬も離れない。
「……覚悟しとけよ」
低く、ぼそりと呟かれた言葉。
それが誰に向けられたものか、考える余裕はなかった。
エルンストは、楽しそうに目を細める。
「学園で、ちゃんと会えるな」
その一言が、やけに重い。
別れるはずだった。
ただ、それだけのはずだったのに。
学園の門は、もう目の前。
なのに、ここから先の生活が、音を立てて組み変わっていく予感しかしなかった。
春の風が吹き抜ける。
新学期の始まりは、
どうやら想像以上に、騒がしくなりそうだった。
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