モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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遅れて合流してきた君

週末の空気は、少しだけ軽かった。
寮前には、すでに治癒魔術科B班と騎士科B班が集まっていて、荷物の確認やら、
誰が何を忘れたかで小さな騒ぎになっている。

そこへ――
息を切らした足音。

「遅れた」

振り向いた先に、エルンストがいた。
ほんの少しだけ乱れた髪。
走ってきたのが一目でわかる。

「おそーい!」
「何してたの!」
「大丈夫か?」

口々に飛ぶ声に、エルンストは短く答える。

「問題ない」

それだけなのに。
その視線が、まっすぐに私を捉えた瞬間。

――ほっとした。

そんな色が、はっきり浮かんだ。

胸が、きゅっと鳴る。
久しぶりに、ちゃんと目が合った気がして、私は思わず息を飲んだ。

「行くか」

その一言で、空気が動く。

「さんせーい!」
「でもその前に腹減った!」
「確かに……」
「食べてから行こう!」

一気にわちゃわちゃし始めるB班。
この軽さが、少し前までどれだけ救いだったか、私は知っている。

「魚料理が出る店がいいな」

エルンストのその一言に、
「じゃあ俺のオススメ行こうぜ!」
と騎士科B班が乗っかる。

がやがや、わいわい。
生き延びてきた者同士の、遠慮のない距離感。

その中で。

すっと、エルンストが私の隣に立った。
近い。
近すぎる。

耳元に、低い声が落ちてくる。

「俺の名前を……呼んでくれないか?」

「……い、いま?」

思わず顔を上げると、真剣な瞳がそこにあった。
ふざけてない。
冗談でもない。

今まで、気軽に呼んでいた名前。
なのに。

こうして、真正面から求められると――
急に、胸の奥が熱くなる。

深呼吸。
一回。
もう一回。

なにかに挑むみたいに、私は彼を見つめた。

「……エルンスト」

「違うだろう?」

息を呑む。

喉が鳴る。
心臓が、うるさい。

「……エルン」

その瞬間。

ぱっと、花が咲いたみたいに、エルンストの表情が華やいだ。

「ああ、アイナ」

名前を呼び返されただけ。
それだけなのに。

彼の瞳が、急に熱を帯びていくのがわかる。
じっと、逃がさないみたいな視線。

ぞくり、と背中を何かが走った。

――ただ、名前を呼んだだけなのに。

胸の奥が、ざわついて落ち着かない。

前を歩くB班の笑い声が、少し遠く感じた。


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