モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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君の声で世界に色が戻る

B班と合流した瞬間、空気が少しだけ軽くなった。
がやがやとした声。
生き残ってきた連中特有の、距離の近さ。

……その中に、アイナがいる。

それだけで、胸の奥に溜まっていたものが、わずかに緩んだ。

俺は遅れてきた。
理由は言わない。
言えるほど、落ち着いてなんかいなかったからだ。

視線が合う。
アイナが息を呑むのが、はっきり分かった。

ああ、そうだ。
俺は、この反応を失いかけていた。

俺の中の何かが、ずっと霧に包まれていた。
誰かと話していても、どこか上滑りして、
言葉が自分のものじゃない感覚。

でも、今は違う。

俺は一歩、自然に彼女のそばへ寄った。
距離を測る必要なんてない。
身体が覚えている。

耳元へ、唇を寄せる。

「俺の名前を……呼んでくれないか?」

自分でも驚くほど、声が低く、真剣だった。
確認なんだ。
戻ってこい、と。
俺のところへ。

「……い、いま?」

戸惑い。
それすら愛おしい。

「……エルンスト」

違う。

違う、違う。
それじゃ、足りない。

俺は、ゆっくりと彼女を見下ろした。

「違うだろう?」

息を呑む音。
喉が鳴る。
心臓の音が、ここまで聞こえそうだ。

そして――

「……エルン」

その瞬間。

胸の奥で、何かが弾けた。

霧が、一気に晴れる。
血が巡る。
世界に色が戻る。

ぱっと、視界が明るくなった。
本当に、花が咲いたみたいに。

「ああ、アイナ」

笑った。
抑えきれずに。

そうだ。
これだ。

俺は、この呼び方を待っていた。
名前じゃない。
距離だ。

彼女が、俺を選んで、俺を呼ぶ音。

それだけで、
抑え込んでいた感情が、溢れ出す。

好きだ。
可愛い。
触れたい。
抱きしめたい。
奪うんじゃない。
重ねたい。

全部だ。

レストランで、魚を取り分けた時も、
ベンチに座った時も、
俺はずっと、確かめていた。

戻ってきているか。
俺のところへ。

そして、今――戻った。

夜風の中、二人きりのベンチ。
彼女の髪が揺れる。
近づくだけで分かる、甘い香り。
汗をかいた時の、あの、反則みたいな匂い。

俺の指が、彼女の髪に触れる。
耳の輪郭をなぞり、
頬に滑り、
唇へ。

指先に、はっきりとした熱。

……たまらない。

その指を、自分の唇に当てる。
妄想じゃない。
現実だ。

見つめ合ったまま、息が絡む。

「エルンだ」

彼女が、確かめるように言う。

「ああ。俺だ」

胸を張って言える。
逃げない。
曖昧にしない。

だから――

小さな箱を取り出した。

「アイナのことを考えて選んだ」

嘘じゃない。
一瞬も、他の誰かなんて考えていない。

箱を開けた彼女の目が、きらりと揺れる。
淡い青。
俺の色だ。

「つけても?」

頷き。

耳元に近づく。
吐息が触れる。
指が震えないよう、意識して、ゆっくり。

ピアスを留める。

その瞬間、囁く。

「守る」
「離さない」
「俺のそばにいろ」

全部、本音だ。

熱を込めて、確かめるように。

彼女の顔が赤くなる。
それを見て、喉が鳴る。

……ああ、ダメだ。

俺は、もう戻った。

霧は晴れた。
違和感は消えた。

アイナが呼んだ。
俺を。

だから、俺はここにいる。

めちゃくちゃに愛してる。
それを、隠す気はない。

明日も。
その先も。

呼ばれなくても戻るが――

呼ばれたなら、何度でも溢れる。

それが、俺だ。

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