神々の遠い記憶を継ぐ者

まるねこ

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第一章 神祇官へ

十一

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「闇に落ちる?闇に落ちるとどうなるのですか?」

「鶉(うずら)のようになるだろ。お前、知らないのか?ああ、お前が生まれる随分と前の話だったな。

 昔、冬の国の衛門府に鶉ってやつがいたんだ。衛門府でも中堅といったところだった。将来は衛門府の長になると言われるほどの男だった。

 いい奴だったんだがな。昔の話だが、悪しきものを退治した時にどうやら瘴気が体内に入り込んでいたようなんだ。

 いつも彼は討伐後すぐに池を出ていたのだがそれが悪かった。体内に残った瘴気は浄化しきれなかったらしく、気づかない間に蝕み続けて我々が気づいた頃には既に人が変わったようになっていた。

 鶉は我々の言葉を聞かず、我々に突然切りかかり、怪我人を出し人間界に降りて人々を殺していった」

「それで、う、鶉さんはどうなったんですか?」
「鶉はもちろん神の手によって 消滅したさ」「神が人間界に降りられたのですか?」
「ああ、そうだ。タケミカヅチノカミ様が降りられた」

 神が自ら人間界へ降りたということは私達では鶉さんを倒せなかったのだろう。そう語った衛門府の人はその当時を思い出しているようで苦い顔をしていた。

 私も瘴気を無理に取り込むと体を浸食されていくのは感じてはいた。一刻も早く番紅花様達に追いつこうとやせ我慢して大丈夫だと過信するのは良くなかったと猛省するしかない。

 私も瘴気に取り込まれないように気を付けないと。

「それにしても今回、一斉に各地で瘴気が涌いたのは何なのでしょうか?」

 衛門府の人達はやはり難しい顔をしたままだ。

「さあな。考えられることは良くないことが起ころうとしていることだろうな」

 そうして会話している間にも一人、また一人と回復し池を出ていくが、同時に討伐から戻ってきた人達が池に入ってくるので相変わらず混んでいる。

 私は瘴気を取り込んだだけで怪我はしていなかったから浄化だけで済み、治療はすぐに終わった。

「宵闇も戻るのか。お前は何かと焦って失敗しそうだな。あんまり無理するんじゃないぞ?」
「はい。番紅花様達に追いつきたいと実力以上に頑張っていたことを猛省するばかりです」

「まあなんだ。何かあれば相談に乗る」
「ありがとうございます。では私はこれで戻ります」
「じゃあ、またな」

 私は彼らに会釈した後、心新たに気合を入れなおし、衛門府へと戻った。

「宵闇、神の癒し池から戻りました」
「待っていた。まだ悪しきものが退治されていない地域がある。いくぞ」
「は、はい!」

 火影様は私が回復するのを待っていたようですぐに転移門へと向かう。まだ瘴気は出ている箇所があるのね。

 転移門の前では何人かが転移を待っている状態だった。

「混んでいますね」
「ああ、まだ瘴気は各地で出ているからな」

「火影様、瘴気はどうして湧き出すのですか? 忘れられた神社や寺などから瘴気を帯び、悪しきものが生まれると聞いたのですが、今回各地で起こっています。別な要因がありそうな気がするのですが」

「ああ、普段の瘴気が涌く原因は廃神社などは奉られていた神が忘れ去られ、悪しきものとなり瘴気を放つか、聖なる場所が汚れ瘴気に変わるか、だ。殆どが後者になる。神は忘れられても神の世界に戻り、過ごしているだろう?」

「そうですね」
「だが、もし、神だった者が悪しきものに落ち、体の一部を各地にばらまいたとなればどうだ?」
「それなら説明がつきますね」

「だが、一人でこれだけ多くの体の一部を撒くなんて出来ないですよね?」
「ああ。何者かが協力したのだろう。朝生の森にいた悪しきものはその一部を取り込み形を取っていたのかもしれん。

 宵闇が封印玉にしたから後で名無し様達が調べてくれるだろう。濃い瘴気の中には発生源となる体の一部は無かったが、石のようなものなら落ちていても分からないからな」
「そうですね」

 また自分の未熟さに恥ずかしくなる。瘴気を取り込んで火影様の役に立ちたいという思いばかり目がいって悪しきものの中に落ちた神の体の一部があるなんて考えてもみなかったからだ。

 そこに考えがいかないなんてまだまだね。

「さ、いくぞ。次は松濤(しょうとう)の浜だ」
「はい」

 私達は松濤の浜の少し手前に転移した。転移した瞬間から異様な空気を感じ、薙刀を握りしめた。

「……火影様」
「ああ、これは酷いな。我らが呼ばれた理由も納得だ。春の国からの応援できたが、我らも全力で掛からねばならんな」
「はい」

 松林を抜け、浜に入った。今の季節は春だというのに強風が吹き荒れ、厳冬の海のように白波が立ち、高波が防風林まで飲み込んでしまいそうなほど普段見ることのできない異様な状況だった。

 春の国の武官達五人が悪しきものと対峙しているようだが、各人怪我をしており劣勢を強いられている様子が見て取れた。

「秋の国、衛門府の火影、神祇官の宵闇が助太刀に来た!」
「神祇官がいるのか。助かる!」

 火影様は悪しきものから目を離すことなく短く挨拶する。

 悪しきものはというと、先ほど私たちが倒したものとはまた違った形で泥のような形状をしているのだが、太刀で斬りつけても液状のためあまり攻撃が効いていないようだ。

 だが、液状がたまに棘のように形を変え、攻撃するようで攻撃の予測がしにくく、倒すのに時間がかかっているようだ。

「宵闇、準備はいいか?」
「はい! どこまで出来るか分かりませんが、悪しきものの吸い込みを始めます」

 液状のような悪しきものに手を翳し、瘴気を含めて私は封印の玉を作り始めた。

「君の封印は自ら瘴気を取り込むのだな」

 悪しきものが纏っている瘴気を取り込み始めると、敵は徐々に動きが鈍くなってきた。

「硬くなってきたぞ! 総攻撃だ!」

 春の武官の一人が声を上げると、皆が一斉に悪しきものへと斬りかかった。

 私は無理をしないことを心に留めながら瘴気を取り込み続け、封印玉はころりと一つ砂浜に落ちた。

 纏っていた瘴気が無くなり始めると悪しきものは全身を棘に変え、武官達に襲い掛かった。
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