神々の遠い記憶を継ぐ者

まるねこ

文字の大きさ
46 / 47
追憶

四十七

しおりを挟む
「おい、うずら。ここの瘴気は酷い。すぐに瘴気を散らそう。この祠が原因か?」
「そうだな。銅鏡が欠けている。この分じゃすぐに悪しきものが涌いてしまうだろう」
「とりあえず瘴気をある程度散らしたら神祇官に相談しよう」
「ああ。始めるか」

 鶉?

 確か冬の国の衛門府に所属している武官だったはずだ。春隣はるとなり様とよく組んで悪しきものを封印していたんじゃなかったかな。

 鶉さんと別の武官は瘴気を払い始めた。

 しばらくすると、鶉さんは足元に光る物を見つけ立ち止まる。

「……これは」

 一言そう呟き、光る欠片を拾い上げた。

「鶉、どうしたんだ?」
「いや、なんでもない」

 鶉さんは欠片をそのままふところ仕舞しまう。
 そうして彼らは辺りの瘴気を散らした後、冬の国へと戻っていった。


 そこからまた景色がガラリと変わる。

 ここは冬の国だ。どうやら鶉さんの動きを見ているのかもしれない。

果月かげつ様、先ほど東宿あずまやどの西の村に瘴気が出ていると知らせを受け、瘴気の出ている場所は人間達が放置して風化が始まっている祠からでした。

 祠にはひび割れた銅鏡が飾られており、何者かを封印しているようで我々では対応が出来ず、周辺の瘴気のみ散らして戻ってきました。これから神祇官へ報告に行ってまいります」
素雪そせつ、割れた銅鏡から悪しきものは出ようとしていたの?」

「いえ、瘴気は出していましたが、中から出てくる様子はありませんでした」
「わかりました。神祇官の者が出るか、隠の社から名無し様が出ると思うのでこちらも再度武官を出せるように準備しておきます。素雪は報告後、しばらく休みなさい。鶉もですよ」
「承知いたしました」

 果月様は衛門府の長のようだ。
 果月様の見た目は髪が長く優しい雰囲気をしている。

 鶉さんは仕事を終え、自宅へと戻っていく。

 長屋の一番端に住んでいるようだ。扉を開けると簡素な作りになっている。宵闇の家ともさほど変わらないようだ。

 彼は土間どまの横に置いてあるたるから酒を湯呑ゆのみに注いで布団を敷き、横になった。

 一人口を開くこともなく、手酌で飲んでいる。思い出したように懐から欠片を取り出し、眺めている。

「持ち帰ってしまったな。これは銅鏡の欠片だろうか? すっかり忘れていた。瘴気も出ていないようだし、問題なかろう」

 そう言葉を溢しているうちに眠気が襲ってきたようで彼はそのまま深い眠りに入った。

 鶉さんが寝ている間に銅鏡の欠片から僅かな瘴気が彼の中に入っていった。その途端、彼はうめき声を上げている。悪夢をみているのかもしれない。

 目を覚ました彼は周りを見渡した。

「さっきのはなんだ? 血まみれの人間の女の恨みが神に纏わりついていた。……嫌な夢だったな」

 彼はそう一言呟きまた眠りについた。

その日から彼は寝ると悪夢を見るようになっていった。

少しずつ彼の心を浸食しているのだと思う。それは女の呪いなのか堕ちた神の力なのだろうか。

「鶉、最近顔色が悪いぞ? どうしたんだ?」
「ああ、春隣。最近、毎日夢に人間の女が出てくるんだ。恨みを抱えて俺を取り込もうとする夢なんだ。

 だけど、後ろにいる取り込まれた誰かが一生懸命俺からその女を引き離そうとしているんだが、それが誰かも分からない」

「大丈夫か? 瘴気に当てられたんじゃないか?」
「いや、大丈夫だと思うが……」
「続くようなら癒し池に入った方がいい」

「そうだな。最近悪しきものも多いし、疲れているのは確かだ。無理はしないようにする」



 そうしている間に鶉さんは少しずつ浸食されてある日、悪しきものが出て討伐しようと人間界に降りた時に変化が起きた。

「おい、鶉! お前……」
「クッ。春隣、俺から、離れろ」

 鶉さんはそういうと、春隣様と距離を離すように力一杯押した。

「鶉っ! すぐに助けてやるからな」

 春隣様は焦ったように話をしながらどうにかしようと神祇官の長である椿つばき様に言の葉を飛ばしている。

「春隣、俺は、多分もう、駄目だ。名無し様に頼み、このまま浄化を」
「駄目だ。きっと何か方法が残されているはずだ」

「春隣、俺は悔いはない。夢の中の女が神を堕とし絡め取った。彼は俺を助けようとしているが、力が強すぎただけなんだ」
「何を言っているんだ?」

「春隣、俺は誰も恨んでいない。早く、浄化を。自我が残っている間に」

 そう言った傍から瘴気が溢れてきている。

 春隣は相棒の鶉を攻撃できず、漏れ出る瘴気に対処するだけとなっていた。

すると、玄帝様と神祇官の長である椿様が現れた。

「春隣、下がりなさい」
「ですがっ」

 玄帝様の言葉に反抗しようとするが、鶉がそれを止める。

「……い、いんだ。春隣。玄、帝様、俺は堕ちた神の力で……。どう、か消、……」

 玄帝様は何も発することなく手錫杖を取り出し、鶉を消滅させようと言葉を紡ぎはじめた。

 だが、鶉さんが堕ちていく力は強くて消滅させることができない状態になっていた。

「玄帝様、神おろしをするしかありません」
「……椿、覚悟は出来ているか?」
「はい」

 小さく頷き合い、玄帝様と椿様は神おろしの言葉に切り替えた。椿様は鶉さんが動かぬように力を使っている。

 風が吹き、砂煙すなけむりは鶉さんの周りだけ舞い上がる。

「鶉っ! 鶉ーーー!!」

『我を呼ぶのは誰だ?』

 そう言葉が空気を伝わり聞こえ、一瞬にして空気が変わる。

 玄帝様は神降ろしに成功し、悪しきものに堕ちた鶉をはらうためにハヤアキツヒメノカミ様が降りてこられたのだ。

『消滅せよ』

 一言発すると、鶉さんを中心として円を描くように強い浄化の光りが放たれている。

 春隣様は目に焼き付けるように動くことなくその状況を見守っていた。

 次第に光りが消え、鶉さんの姿もなくなった。

『彼がこうなるまで放置したのか』

ハヤアキツヒメノカミ様は振り返り、玄帝様と椿様にそう言った。

 二人は膝を突き、頭を下げている。

 するとハヤアキツヒメノカミ様は二人の能力を剥奪し、神界へと戻っていった。

 ……まさか、こんなことになるとは思っていなかった。

 過去の出来事とはいえ、もどかしい。

 鶉さんは何を思っていたんだろう。
 夢の中でカラヒノタチ様の姿が見えていたのだろうか。

 玄帝様と神祇官の長だった椿様はこの時に長を降りられたのは知っていたけれど、その場を見ていた私はやるせない気持ちになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...