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そこからの私は気が抜けたようにボーッとする日々が続いた。
きっとこれが最善だったのだと自分に言い聞かせながら時間ばかりが過ぎていった。
ダリア達はアレンが誘った時に最初は反対していたけれど、日が経つうちに反対はしなくなった。ダリア達からみてもアレンは誠実な人なのだろうと感じたのかもしれない。
きっと彼は国に帰ればどこかの令嬢と結婚するのだろう。
彼の容姿、話し方や態度に熱を上げる人は多そうだ。そんな事を思って相手の令嬢に嫉妬する自分がいる。
でも今の私では嫉妬する資格もない自ら手放してしまったのだから。後悔もあるけれど、それが彼にとって最善だったのだと無理やり思い込む。
それから一年が過ぎようとしていた。
季節は冬から春に変わろうとしている。離宮での暮らしは穏やかなものだったが、村からくる護衛騎士の話を聞くと、世間はどうやら大変な事になっていたようだ。
どうやら南部の方で麦が不作で飢えて亡くなる人が多くいたらしい。
幸いなことに離宮の周辺は不作になることは無かったので知らずに過ごしていた。
そんなある日。
突然王都からの使者が森の離宮へとやってきた。
「リヴィア王女殿下! 国王陛下より命が下りました。王宮へ戻れ、とのことです」
使者の言葉に目の前が暗くなる私。行きたくないと駄々をこねた所で無理なことくらい分かっている。ここでのゆったりした生活が終わる。
ダリアたちは心配してくれているけれど、王命には逆らえないことも分かっているわ。
しめやかに王宮へ向かう準備をしていく。帰りもダリアたちは付いてくれるので一人じゃないことが心の支えだと思う。
そして王宮に戻ればダリアは侍女、ロンはそのまま庭師として復帰。モニカは引き続き私の侍女となりティポーも執事兼従者として側に居てくれるわ。
私達は行きよりもゆっくりと時間を掛けて王宮へと戻った。
言葉少なに陛下に戻ったことを伝える。
「国王陛下、ただいま戻りました」
「リヴィア、良く戻った。疲れただろう。しばらくゆっくりしなさい」
「畏まりました」
最低限の挨拶を終え、早々に部屋へと向かった。久々に戻った自分の部屋。
相変わらず何もない。
何の思い入れもない部屋。
離宮での暮らしの方が何倍も幸せだった。
「ダリア、疲れているところ悪いのだけれど、侍女仲間に挨拶がてら現在、王宮はどんな状況なのか聞いて欲しいわ。離宮は情報が入ってこなかったから」
「承知しました」
「ティポーはダリアが戻ったら王宮の研修だっけ?頑張ってね」
「はい」
モニカは王宮で働いた事があるので問題はないけれど、ティポーは王宮で働いた事がないので侍女長から直接指導があるらしい。そうして二日ほど荷解きに時間を要したけれど、その間は部屋から出なくて済んだので有難かった。
ダリアが侍女仲間から聞いてきた話によると、私達が離宮に移動してから『リヴィア様は静養のため婚約を解消し王都を離れたらしい』と噂が流れ始めたようだ。
フェルディナンドとロジーナの婚姻はその後すぐに貴族達の知ることになった。
そのことでフェルディナンドは王妃派の貴族から叱責を受けたり、興味本位で聞かれたりして公の場にあまり出なくなったとのこと。
フェルディナンドの相手であるりロジーナ子爵令嬢の行動は貴族の中でたちまち有名になった。
最初は貧乏子爵令嬢が王女様から婚約者を奪い取った強い女性だと面白可笑しく話題になっていたようだが、如何せん彼女は悪目立ちしているためか最近は彼女が公爵子息を陥れ、王女との婚約を破棄させたに違いないと言われるようになったらしい。
子爵は娘が起こしたことを他人に聞かれても話を濁すしか出来ない。公爵家としても息子が陥れられたことを公表したいが、王妃と水面下で動いていた計画も露呈してしまうのを恐れて黙秘を貫くしか出来ない。
フェルディナントを婿にやって子爵家と縁を切ってしまえばいいと思っていたが、子爵夫人やその娘の行動で公爵家にも影響が出始めているため、そうも言っていられない状況になっているようだ。
公爵夫人は急いでロジーナを公爵家に住まわせて厳しい教育が施されている最中なのだとか。
だがロジーナの淑女教育は芳しくないらしく、公爵も夫人も頭を抱えていると公爵家の侍女達が話をしていたようだ。
何故、こうして公爵家の侍女達の話が漏れているのかといえばやはり舞踏会があるおかげね。
侍女や従者達はそれぞれ家人が舞踏会に出席している時は控室で待機している。一同に集まるため侍女同士で会話も弾むのは仕方がない。そこに王宮の侍女達も顔を出すことがある。
忠誠心の高い従者や侍女はそれとなく話をはぐらかすけれど、どこにでもおしゃべりな人はいるようで噂話をするには困らないらしいのだ。
まあ、話半分で聞くには面白い情報ね。彼に関する噂はその程度だけれど、他の話は考えていたよりも深刻だった。
国は南部を中心として大規模な飢饉が発生し、いくつかの村が廃村になったようだ。
飢饉の理由は麦の病気。
昨年は一部地域でのみ発生した病気だったが、対策を怠り蔓延してしまったのだとか。分かった時点で対策をしていれば被害も最低限で済んだと考えれば悔しくて仕方がない。
私が王ならすぐに対策をとったはずだ。
陛下はどうしたかといえば、主だった対策をせずにカインディール国に泣きついた。
なんて無能なんだろう。
呆れて物が言えない。
すぐにカインディールから麦が送られてきたのだろう。けれど、それは無料ではない。どれくらいの金額を払ったのだろうか。考えただけでも恐ろしい。
きっとこれが最善だったのだと自分に言い聞かせながら時間ばかりが過ぎていった。
ダリア達はアレンが誘った時に最初は反対していたけれど、日が経つうちに反対はしなくなった。ダリア達からみてもアレンは誠実な人なのだろうと感じたのかもしれない。
きっと彼は国に帰ればどこかの令嬢と結婚するのだろう。
彼の容姿、話し方や態度に熱を上げる人は多そうだ。そんな事を思って相手の令嬢に嫉妬する自分がいる。
でも今の私では嫉妬する資格もない自ら手放してしまったのだから。後悔もあるけれど、それが彼にとって最善だったのだと無理やり思い込む。
それから一年が過ぎようとしていた。
季節は冬から春に変わろうとしている。離宮での暮らしは穏やかなものだったが、村からくる護衛騎士の話を聞くと、世間はどうやら大変な事になっていたようだ。
どうやら南部の方で麦が不作で飢えて亡くなる人が多くいたらしい。
幸いなことに離宮の周辺は不作になることは無かったので知らずに過ごしていた。
そんなある日。
突然王都からの使者が森の離宮へとやってきた。
「リヴィア王女殿下! 国王陛下より命が下りました。王宮へ戻れ、とのことです」
使者の言葉に目の前が暗くなる私。行きたくないと駄々をこねた所で無理なことくらい分かっている。ここでのゆったりした生活が終わる。
ダリアたちは心配してくれているけれど、王命には逆らえないことも分かっているわ。
しめやかに王宮へ向かう準備をしていく。帰りもダリアたちは付いてくれるので一人じゃないことが心の支えだと思う。
そして王宮に戻ればダリアは侍女、ロンはそのまま庭師として復帰。モニカは引き続き私の侍女となりティポーも執事兼従者として側に居てくれるわ。
私達は行きよりもゆっくりと時間を掛けて王宮へと戻った。
言葉少なに陛下に戻ったことを伝える。
「国王陛下、ただいま戻りました」
「リヴィア、良く戻った。疲れただろう。しばらくゆっくりしなさい」
「畏まりました」
最低限の挨拶を終え、早々に部屋へと向かった。久々に戻った自分の部屋。
相変わらず何もない。
何の思い入れもない部屋。
離宮での暮らしの方が何倍も幸せだった。
「ダリア、疲れているところ悪いのだけれど、侍女仲間に挨拶がてら現在、王宮はどんな状況なのか聞いて欲しいわ。離宮は情報が入ってこなかったから」
「承知しました」
「ティポーはダリアが戻ったら王宮の研修だっけ?頑張ってね」
「はい」
モニカは王宮で働いた事があるので問題はないけれど、ティポーは王宮で働いた事がないので侍女長から直接指導があるらしい。そうして二日ほど荷解きに時間を要したけれど、その間は部屋から出なくて済んだので有難かった。
ダリアが侍女仲間から聞いてきた話によると、私達が離宮に移動してから『リヴィア様は静養のため婚約を解消し王都を離れたらしい』と噂が流れ始めたようだ。
フェルディナンドとロジーナの婚姻はその後すぐに貴族達の知ることになった。
そのことでフェルディナンドは王妃派の貴族から叱責を受けたり、興味本位で聞かれたりして公の場にあまり出なくなったとのこと。
フェルディナンドの相手であるりロジーナ子爵令嬢の行動は貴族の中でたちまち有名になった。
最初は貧乏子爵令嬢が王女様から婚約者を奪い取った強い女性だと面白可笑しく話題になっていたようだが、如何せん彼女は悪目立ちしているためか最近は彼女が公爵子息を陥れ、王女との婚約を破棄させたに違いないと言われるようになったらしい。
子爵は娘が起こしたことを他人に聞かれても話を濁すしか出来ない。公爵家としても息子が陥れられたことを公表したいが、王妃と水面下で動いていた計画も露呈してしまうのを恐れて黙秘を貫くしか出来ない。
フェルディナントを婿にやって子爵家と縁を切ってしまえばいいと思っていたが、子爵夫人やその娘の行動で公爵家にも影響が出始めているため、そうも言っていられない状況になっているようだ。
公爵夫人は急いでロジーナを公爵家に住まわせて厳しい教育が施されている最中なのだとか。
だがロジーナの淑女教育は芳しくないらしく、公爵も夫人も頭を抱えていると公爵家の侍女達が話をしていたようだ。
何故、こうして公爵家の侍女達の話が漏れているのかといえばやはり舞踏会があるおかげね。
侍女や従者達はそれぞれ家人が舞踏会に出席している時は控室で待機している。一同に集まるため侍女同士で会話も弾むのは仕方がない。そこに王宮の侍女達も顔を出すことがある。
忠誠心の高い従者や侍女はそれとなく話をはぐらかすけれど、どこにでもおしゃべりな人はいるようで噂話をするには困らないらしいのだ。
まあ、話半分で聞くには面白い情報ね。彼に関する噂はその程度だけれど、他の話は考えていたよりも深刻だった。
国は南部を中心として大規模な飢饉が発生し、いくつかの村が廃村になったようだ。
飢饉の理由は麦の病気。
昨年は一部地域でのみ発生した病気だったが、対策を怠り蔓延してしまったのだとか。分かった時点で対策をしていれば被害も最低限で済んだと考えれば悔しくて仕方がない。
私が王ならすぐに対策をとったはずだ。
陛下はどうしたかといえば、主だった対策をせずにカインディール国に泣きついた。
なんて無能なんだろう。
呆れて物が言えない。
すぐにカインディールから麦が送られてきたのだろう。けれど、それは無料ではない。どれくらいの金額を払ったのだろうか。考えただけでも恐ろしい。
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