【完結】婚約破棄された女騎士には溺愛が待っていた。

まるねこ

文字の大きさ
10 / 60

10

しおりを挟む
彼女は元伯爵の四女で姉と同級生。結婚をしながらも仕事を続けている結構珍しい人なの。働く事が好きなんだとか。男爵の旦那さんも仕事で生き生きしているコラリー様が良いらしい。仲良し夫婦なのよね。

「コラリー様、お久しぶりです」
「ごめんね巡回中に呼び止めてしまって。ちょっと気になった事があって。手短に話すわ」
「はい」

コラリー様のいつになく真面目な表情に不安を覚える。

「あのね、シャロアちゃんの婚約者、まだ婚約者のままなのよね?」
「えぇ、来月結婚予定ですが、ダイアンがどうかしました?」

私の心臓がドクドクと音を立てていく。

「あのね、侍女の間では有名なんだけど、彼、アンネリアと親密な仲らしいわ。婚姻は家との繋がりだろうから難しいかもしれないけれど、婚約破棄するなら今のうちよ?」

コラリー様の言葉を聞いた他の侍女達も『私は図書館で二人を見たわ』『彼女が今度の舞踏会で一緒に過ごすのって自慢していたわ』『私は二階の一番端にある王宮客室で見たわ。あんな浮気性の男、止めた方がいいわ』と口々に見たことを話している。

目撃している人は多いよう。

次々と出てくる証言に私は混乱し、動けないでいると私の視界が急に暗くなった。どうやら私の精神に限界がきたようだ。


気づけばどこかのベッドに寝かされていた。

「……ここは?」
「騎士団の医務室だよ。第二騎士団のシャロア・エレゲン」
「貴方は?」
「君はまだ騎士団の医務室を使った事がないんだね。ワシは王宮医務官のボーだ。普段は王宮の医務室にいるがね。今日は人が居なくてこっちに出張しておるのだよ」

ボー医務官は白髭を障りながら説明してくれた。

どうやら私は侍女課で倒れてラダン副団長に抱きかかえられてこの医務室に運ばれたようだ。まさかラダン副団長に抱えられるなんて恥ずかしくて顔から火が出そうだわ。と、とにかく副団長には謝罪とお礼をしなければ。

私はベッドから起き上がり、すぐに詰所に戻ろうとしたけれどボー医務官に止められた。

「倒れたばかりだ。少し休みなさい。シャロア嬢の家族が第一騎士団にいるらしいね。ラダン副団長が呼びに行ってくれた。今日ばかりは一緒に家に帰りなさい」

「嫌ですっ! 嫌ですっ! ジルド兄様と帰りたくないですっ! 私が倒れたと知ったら、兄様の愛情たっぷりの打ち合いが始まるんですっ。一人で帰りますっ」

私は慌ててベッドから出ようとしたけれど、一歩遅かったようだ。

「ジルド兄様……」
「なんだ、愛しの妹が倒れたと聞いて来たんだが心配なさそうだな」
「シャロア、大丈夫だったか?」

兄の後ろには父も居た。父達は詰所で報告書を書いていた所にラダン副団長が呼びに来たらしい。

「……お父様」
「ラダン君から聞いた。彼の事は後回しだ。とりあえず家に帰ろうか」
「はい、お父様」
「ジルド、後の事は頼んだぞ」
「はい、父上。シャロア、とにかく今は休め」
「ジルド兄様、今はダイアンに話さないで下さいね?」
「あぁ、分かっている。ここまでくればもう本人に注意しても意味がないだろう。ほらっ、母上も心配しているから早く帰れ。あぁ、ラダンにはちゃんとお礼を言っておくから心配するな」
「兄様……。ありがとう」

私は父に連れられて馬車に乗り込んだ。いつも出勤は徒歩だけれど、今日は伯爵家の馬車が迎えに来ていた。

まさか、ずっとダイアンは私や自分の家に隠れて会っていたのかしら。

きっと、そうなのでしょうね。

彼等を見たという侍女達は一人じゃなかった。嘘を吐かれていたのだと思うと凄く辛い。コラリー様が嘘を吐くとは思えない。

でも、信じたくない自分もいて苦しくなる。

「シャロア、着いたぞ。顔色が悪いな」
「お父様!?」

父は私を抱っこして部屋へと連れて行こうとする。意識がある中で父といえども抱っこは羞恥心でどうにかなりそうだ。

「自分で歩けるわ!」
「ハハッ。そうだな! シャロアはもうお姉さんだもんな!」
「もうっ、お父様。いつまでも子ども扱いは嫌ですっ」

私は父の抱っこから降りてぷりぷりと怒りながら部屋へと戻る。

「……お父様、ありがとう」

部屋へ戻った私はジッとしている事が落ち着かず、動いていたい気分になっていた。

そうだ、ダイアンとの思い出の品を整理しよう。

私は机やクローゼットを開いて一つずつ品物を要らない箱へと仕舞っていく。髪飾りやペン、手紙など手に取る度にあの時はあぁだったなとか、恥ずかしい気持ちや嬉しい気持ちの記憶が蘇る。

箱へ仕舞う度に私の心も整理され、落ち着きを取り戻し始めている。

そうよね。彼が居なくても私は女騎士として一人で立派に生きていけるもの。

でも、皆の言っていた事も嘘だと思いたい。まだ少し迷っている部分もあるけれど、自分の中で整理はついた。

ダイアンと会ってちゃんと聞いてみよう。

私はそう決心し、父の書斎へと足を運んだ。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

処理中です...