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午後の治療にはローニャも一緒に治療することになる。医務室は怪我した騎士を主に診察しているが、本来の業務は王宮で働いている人々の病気や怪我をみる場所のようだ。
症状の重い人は診察し手当した後は別の階にあるベッドへと運ばれ入院する事になっている。
「ようこそおいで下さいました。ナーニョさん、ローニャさん。今か今かと待っていたのです」
「……お待たせして申し訳ありません」
「こればかりは仕方がないだろう?ザイオンよ」
「だがマートン、怪我人は待ってくれんのだ。紹介が遅れました。私、医師のタール・ロルフォード・ザイオンといいます。二人のことはマートンから聞いておりますよ」
「ザイオン先生とお呼びすれば良いでしょうか?」
「えぇ、そのように呼んでください」
「で、二人はどんな治療が出来るのですか?」
「基本的には怪我の治癒です。魔法の範囲は一人。欠損は上位魔法になり、今の私では使う事が出来ません。
あと、病気は治せないです。ただ、病気について喉が痛い、咳が出ているなどの場合、症状は軽く出来ると思います」
「なるほど、怪我をメインにして治してもらうことになりますね」
「ザイオン、後は頼んだ。だが二人はまだ成人していない。無理に働かせるなよ。陛下のお気に入りでもあるからな」
「分かっている」
そんな話をしながらマートン長官は研究所に戻っていった。
「では早速始めましょうか。隣の部屋のベッドが六台置かれているのですがそこの患者が一番怪我が酷く、生死の境を彷徨っている状況なのです」
「あのっ、私が重症患者は治療します。ですが、ローニャはまだ幼子で血を見ることになれていないのでローニャは軽傷の患者をお願いしてもいいですか?」
「そうですね。怪我を治したいばかりに幼子に無理させるところでした。ローニャさんは助手のエリオットと共にこの部屋の患者の治癒をお願いします」
「分かりました。私、やってみるね」
ローニャは助手のエリオットに連れられてベッドで休んでいる患者の方に向かった。
「ではナーニョさん、私達も行きましょうか」
私はザイオン先生に連れられて隣の部屋へと入室する。
扉を開けてすぐに感じる血の匂い。どの患者も丁寧に白い布で巻かれているが、血が滲み今にも息を引き取りそうな気配。怪我人は皆意識がないようにも見える。
ナーニョは過去の惨状を思い出し、戦慄する。
私達の国では異界の穴はすぐ閉じられる。父達は犠牲になってしまったけれど、世界はまだ平和だった。でも、この世界の現実。日々魔物に殺される人達。
ナーニョはザイオンが口を開く前に無意識に指輪をつけて一番近い患者に手を当てていた。
『ヒエロス』の魔法はナーニョの心に呼応するように強い光が放たれ、一瞬のうちに怪我人は安定した呼吸となった。
「……苦しかったでしょう。もう大丈夫よ。『ヒエロス』」
ザイオン医務官はナーニョの魔法に息を呑む。これだけ酷い怪我をしている人間を若い少女が躊躇う事なく魔法を使っている。
「……ごめんなさい。今の私では足を元に戻すことは出来ないけれど、他の怪我は治すわ」
そう一人ひとりに言葉をかけながら唱えていく魔法。
「……聖女だ。まさに君は、聖女だ」
ザイオン医務官はその奇跡を目の当たりにして言葉を溢した。
「ザイオン先生、治療は終わりました。ですが、怪我は治せても失った血は元に戻せません。しばらくはこのまま静養が必要になると思います」
「君は、怪我人を見て怖くなかったのかい?」
「……怖くないといえば嘘になります。ですが、これがこの世界の現実。誰もが必死に戦い、家族の命を守ろうとしている。
私達姉妹のような人々を増やしてはいけないと思うのです」
「君達姉妹は魔獣に親を殺されたのか」
「えぇ。ローニャがまだ四歳の頃、私達二人を除いて村人全てが亡くなりました。ローニャは幼かったから軍の人に守られて壊れた家を見ただけですが、私は殺された村人達の遺体確認に立ち合いました」
「そうか、君も十分に若い。苦労してきたんだな」
「私には妹しかいません。妹を守るためならなんだってすると決めているのです。
妹は自分の魔法が安定しない中で怪我人が一人でも減るのなら治療していきたいと言ったのです。だから私も手伝う事に決めたのです」
「……そうか。君の妹、ローニャは全力で私達が守ろう。絶対に嫌がることも無理をさせることもしないと誓う。どうか、ナーニョ殿、我々にこれから力を貸してほしい」
先ほどの態度とは打って変わり、神妙な面持ちで片膝をついてナーニョに願い出た。
「わかりました。ローニャの事を守って頂けるのであれば私も協力を惜しみません」
「ナーニョ殿、有難う」
ザイオン医務官は私の言った言葉に思うところがあったのだろう。私はそれ以上言葉を口にするのを止めた。
「ザイオン先生、治療した彼らはどうなるのですか?」
「王宮の下女達が彼らの汚れた服を綺麗にした後、世話もすることになっている。目が覚めてからすぐに動くのは辛いだろうが、家族と共に帰宅となるだろう」
「それなら良かったです」
「では一旦医務室へ戻ろう」
部屋の中に居た下女達は怪我人を確認しながら動き始めている。
私達は元の部屋に戻った。
症状の重い人は診察し手当した後は別の階にあるベッドへと運ばれ入院する事になっている。
「ようこそおいで下さいました。ナーニョさん、ローニャさん。今か今かと待っていたのです」
「……お待たせして申し訳ありません」
「こればかりは仕方がないだろう?ザイオンよ」
「だがマートン、怪我人は待ってくれんのだ。紹介が遅れました。私、医師のタール・ロルフォード・ザイオンといいます。二人のことはマートンから聞いておりますよ」
「ザイオン先生とお呼びすれば良いでしょうか?」
「えぇ、そのように呼んでください」
「で、二人はどんな治療が出来るのですか?」
「基本的には怪我の治癒です。魔法の範囲は一人。欠損は上位魔法になり、今の私では使う事が出来ません。
あと、病気は治せないです。ただ、病気について喉が痛い、咳が出ているなどの場合、症状は軽く出来ると思います」
「なるほど、怪我をメインにして治してもらうことになりますね」
「ザイオン、後は頼んだ。だが二人はまだ成人していない。無理に働かせるなよ。陛下のお気に入りでもあるからな」
「分かっている」
そんな話をしながらマートン長官は研究所に戻っていった。
「では早速始めましょうか。隣の部屋のベッドが六台置かれているのですがそこの患者が一番怪我が酷く、生死の境を彷徨っている状況なのです」
「あのっ、私が重症患者は治療します。ですが、ローニャはまだ幼子で血を見ることになれていないのでローニャは軽傷の患者をお願いしてもいいですか?」
「そうですね。怪我を治したいばかりに幼子に無理させるところでした。ローニャさんは助手のエリオットと共にこの部屋の患者の治癒をお願いします」
「分かりました。私、やってみるね」
ローニャは助手のエリオットに連れられてベッドで休んでいる患者の方に向かった。
「ではナーニョさん、私達も行きましょうか」
私はザイオン先生に連れられて隣の部屋へと入室する。
扉を開けてすぐに感じる血の匂い。どの患者も丁寧に白い布で巻かれているが、血が滲み今にも息を引き取りそうな気配。怪我人は皆意識がないようにも見える。
ナーニョは過去の惨状を思い出し、戦慄する。
私達の国では異界の穴はすぐ閉じられる。父達は犠牲になってしまったけれど、世界はまだ平和だった。でも、この世界の現実。日々魔物に殺される人達。
ナーニョはザイオンが口を開く前に無意識に指輪をつけて一番近い患者に手を当てていた。
『ヒエロス』の魔法はナーニョの心に呼応するように強い光が放たれ、一瞬のうちに怪我人は安定した呼吸となった。
「……苦しかったでしょう。もう大丈夫よ。『ヒエロス』」
ザイオン医務官はナーニョの魔法に息を呑む。これだけ酷い怪我をしている人間を若い少女が躊躇う事なく魔法を使っている。
「……ごめんなさい。今の私では足を元に戻すことは出来ないけれど、他の怪我は治すわ」
そう一人ひとりに言葉をかけながら唱えていく魔法。
「……聖女だ。まさに君は、聖女だ」
ザイオン医務官はその奇跡を目の当たりにして言葉を溢した。
「ザイオン先生、治療は終わりました。ですが、怪我は治せても失った血は元に戻せません。しばらくはこのまま静養が必要になると思います」
「君は、怪我人を見て怖くなかったのかい?」
「……怖くないといえば嘘になります。ですが、これがこの世界の現実。誰もが必死に戦い、家族の命を守ろうとしている。
私達姉妹のような人々を増やしてはいけないと思うのです」
「君達姉妹は魔獣に親を殺されたのか」
「えぇ。ローニャがまだ四歳の頃、私達二人を除いて村人全てが亡くなりました。ローニャは幼かったから軍の人に守られて壊れた家を見ただけですが、私は殺された村人達の遺体確認に立ち合いました」
「そうか、君も十分に若い。苦労してきたんだな」
「私には妹しかいません。妹を守るためならなんだってすると決めているのです。
妹は自分の魔法が安定しない中で怪我人が一人でも減るのなら治療していきたいと言ったのです。だから私も手伝う事に決めたのです」
「……そうか。君の妹、ローニャは全力で私達が守ろう。絶対に嫌がることも無理をさせることもしないと誓う。どうか、ナーニョ殿、我々にこれから力を貸してほしい」
先ほどの態度とは打って変わり、神妙な面持ちで片膝をついてナーニョに願い出た。
「わかりました。ローニャの事を守って頂けるのであれば私も協力を惜しみません」
「ナーニョ殿、有難う」
ザイオン医務官は私の言った言葉に思うところがあったのだろう。私はそれ以上言葉を口にするのを止めた。
「ザイオン先生、治療した彼らはどうなるのですか?」
「王宮の下女達が彼らの汚れた服を綺麗にした後、世話もすることになっている。目が覚めてからすぐに動くのは辛いだろうが、家族と共に帰宅となるだろう」
「それなら良かったです」
「では一旦医務室へ戻ろう」
部屋の中に居た下女達は怪我人を確認しながら動き始めている。
私達は元の部屋に戻った。
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