男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

文字の大きさ
29 / 35

29 カークス伯爵

しおりを挟む
 翌日、私たちはカークス伯爵家に馬車で向かうことにした。昨日、王宮からカークス伯爵家へ行くための先ぶれを出す時に陛下からの手紙も添えたおかげですんなりと伯爵家に迎えられた。

 懐かしい佇まい。
 私が居た頃と何も変わっていない。

 玄関ホールを通り、サロンへと案内された。
 私たちはお茶の香りを楽しみながらギリン兄様が来るのを待った。

「待たせたな。君がロイ・ブラジェク伯爵子息とフラン・ノール男爵令嬢だね。私の名はギリン・モールディス・カークスだ」

 私たちは立ち上がり、礼を取る。

 懐かしい声。

 兄は白髪となっていたが、あの頃と変わらない優しい表情をして迎えてくれた。

 私は変わらぬ兄の姿に懐かしさを覚え、今すぐにでも声をかけたい衝動に駆られた。

「カークス伯爵、今回の訪問を許可していただきありがとうございます」

 ロイ様がそういうと、ギリン兄様は笑顔で話をする。

「ああ、事前に知らせをもらっていたからね。陛下からの口添えもある。で、君たちの商会でジャロの実を販売したいという話だったね。すまないがジャロの実を国外に輸出するほど数が実っていないんだ」

「ギリン様、シャリア様が植えた木は全部で千二本。ギリンの実は十年以上経ち、実を付けているはずですが、それでも足りませんでしたか?」

「なぜ植えた本数を知っているのか? 陛下が面白い娘がいると手紙にあったが……」

 不審そうな目でギリン兄様は私を見ている。早々に話をしておいた方が良さそうだ。

「だってシャリアが生まれ変わりが私ですから」
「はっ? 冗談はよしなさい。シャリアはもっと気品に溢れていたんだ」

「気品に溢れていたですって! ロイ様聞いた? ふふっ、嬉しいわ。私が生きていた頃、ギリン兄様はいつも『お転婆リア』って言っていたのに。ギリン兄様、また兄様と利き茶をして遊びたいわ」

 私はギリン兄様と遊んでいた頃を思い出し、遊ぼうと提案した。

 ギリン兄様は目を丸くし、言葉を失ったようだったが、不敵な笑みを浮かべ従者に聞き茶の準備をさせている。

「君がシャリアだというのならシャリアの好みの茶を当ててみてほしい」
「私の好きだったお茶ですか? 兄様と遊んでいた頃はカーニャ領のアレンで採れるお茶だった。側妃になってからは好みも変わってフィリップ領でとれるイェルの茶葉が大好きだったのよね」

「……そうだな。君はよく調べているね。シャリアが好んでいたのはアレンで採れる茶葉だ。味は調べるわけにはいかないからね。楽しみだ」

 従者はテーブルの上に五つの茶葉を準備し、お茶を淹れていく。

「準備が出来ました」
「では君達からどうぞ」

 ギリン兄様は余裕を見せながら私たちにお茶を勧めた。

「僕はお茶を殆ど飲まないから良く分からないな」

 私は一つ一つ香りを確かめ、口に含んだ。

 ……これは。

 私は眉間に皺を寄せた。

 その姿を見ながらギリン兄様はお茶を飲んでいく。

「ふむ。フラン嬢、君がシャリアだと言い張るのならこれくらいは当然分かるだろう?」

「ギリン兄様、いたずらが過ぎます。まあ、答えましょう。一つ目はミディリア茶。二つ目はカーノーディル産の茶葉。三つ目はシェリス領で採れる赤い茶と呼ばれるもの。四つ目はファスタム産の茶葉。五つ目はゴトー領のハリッサで採れる茶葉です」

 私の言葉にギリン兄様は満面の笑みを浮かべた。

「凄いな。全問正解だ」
「ミディリア茶をわざと混ぜたでしょう?」
「なぜわざとだと思うんだ?」

「兄様は好きな茶葉だけど、私はあまり好きじゃない。でもこのお茶は、お母様が特別な日だけに飲んでいたお茶だもの」
「シャリアしか知らない話だ……。本当に君はシャリアなのか?」

「ええ、ギリン兄様。シャリアよ」
「まさか、本当に、そんなことが」

 兄は口元を手で押さえている。
 そうよね。

 私はここに戻ってくる予定だったのに殺されたんだもの。

「兄様、伯爵家に戻ってこれなくてごめんなさい。兄様を支えるつもりだったのに」
「問題ない。我が家の力が弱いばかりにシャリアにはずっと苦労をかけていた。両親も亡くなるまでずっとお前のことを気にしていたんだ」

「お父様、お母様……」

「辛気臭いのは良くないな。シャリアが生まれ変わっていたことを喜ぶべきだ」

「……そうですね。ギリン兄様、それにしても私が植えたジャロの実は足りませんでしたか?」

「いや、今年は夏が涼しくてね、あまり実が生らなかったんだ。まだ安定して出荷ができるほどの量はない。樹木数は少しずつ植林して増やしているがあと数年はかかるだろう。シャリアが食べたいと言って植えた木が我が家の一大産業になるとは思ってもみなかった」

「でしょう? ジャロの実は甘くて美味しいし、高値で取引されるし、素晴らしい果実よね」
「せっかく我が家に来たんだ。食べて帰るか?」

「本当!? 嬉しい! ジャロを食べるためにここに来たと言っても嘘じゃないもの」

「フラン嬢、商会で取引しなくていいのか?」

 ギリン兄様は優しい声で話をする。

「ええ。取引出来ればいいかなという程度だったの。安定した収穫量が確保できるようになったら再度お願いにくるわ」
「そうか。まだ他国に販売するほどの量はないが、フラン嬢が食べたいのなら沢山持って帰るといい」

「ギリン兄様、ありがとう」

「ところでブラジェク伯爵子息がこの国に来た理由はこの国との取引を再開するためかい?」
「そのことについて今、申しあげられないというか……」

 ロイ様は言葉を濁した。

「ごめんなさい。ギリン兄様、シャリアに関わるので今すぐには話せないのです」

 ギリン兄様はその言葉に察したようで『そうか』と呟き一つ頷いた。

「我が家も協力できることがあれば協力を惜しまない」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいです」

 そうして私たちはジャロの実を籠いっぱいもらい、ホテルへと戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

修道院パラダイス

恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。 『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』 でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。 ◇・◇・◇・・・・・・・・・・ 優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。 なろうでも連載しています。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...