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「やぁ、モア嬢。元気そうで良かったよ」
殿下はそうにこやかに話をしながら隣の席に座った。
「お茶会では庇っていただき有難うございました」
「あれくらいどうって事はないよ。むしろ本当の君を知れて良かったと思っているくらいだ」
殿下はおもむろにポケットからハンカチを取り出したかと思うと、私の眉を擦り始めた。
!!!
「ははっ。やはり。化粧をして美しく着飾る令嬢は多いが君は化粧をして醜くなるように見せているね」
「……」
「伯爵家の財政状況もここ数年で一気に目減りしている。その事に理由があるのかな?」
「……」
私は口を開くことが出来なかった。
一言発してしまえばそこから窮地に陥りそうな気がする。
「どうしたの?」
殿下は優しい笑みを浮かべて聞いてくる。
「……いぇ、突然の事で驚いてしまって」
「私はこの間のお茶会からずっとモア嬢の事が気になっていたんだ。母は自分の派閥から婚約者を選ぼうと思っているようだけれどね。
私は王族だから婚約者は政略結婚だ。国の安定のためであれば誰でもいいとさえ思っていた。けれどもっと君の事が知りたいと思ってしまったんだ。調べれば調べるほど興味が湧く。ウルダード伯爵家は君を守るためにこの国での爵位も返上しようとしているのかな?」
「……家の事はわかりません。それにクロティルド王太子殿下とは七歳も離れていますわ。私はまだ子供。色々と殿下を疑いますわ」
私は眉を顰めながら殿下を見ると殿下はぷっと吹き出し、笑い始めた。
「そうだね、そうだね。確かにまだモア嬢は七歳だったね。子供が好き、という訳ではないからその辺は心配しなくてもいい」
「君は将来とても美しくなるだろうね。そして君の家も本当は国一番の収益があるんじゃないかな?
そう考えると今の間に婚約者になっておく方が賢明だと思うんだよね。確かに七歳差ではあるけれど、世の中にはそれくらいの歳の差なんてよくある事さ」
流石王太子殿下。父の事業の事をよく見ていらっしゃる。父は相当隠してバレないようにしていたはずなのに。
陛下は父の事を知っているのだろうか。そう考えると急に不安になってきた。私のせいでまた我が家が没落するまでに追い込まれてしまうのではないかと。
一気に不安が押し寄せポロポロと涙を流す私にクロティルド王太子殿下は慌てた様子。
「何故、何故ですか?なぜ、みんな私を放っておいてくれないのです?私は望んでいないわ。ただ静かに暮らしたいだけなのに」
呟くように小さな声が漏れ出る。泣きたい訳じゃないの。文句を言いたいわけでもない。自分ではどうにも出来ない理不尽さに涙が込み上げてくる。
「……そうか。モア嬢はその容姿で嫌な思いをしてきたんだね。だから伯爵も必死に隠そうとしているのか。私はモア嬢に無理をさせてしまったようだ。ごめん」
「……こちらこそ、すみません。もう帰ります」
私は席を立とうとすると殿下も一緒に立った。
「中庭の噴水の所にある白い花を一緒に摘みに行こう」
従者が持ってきてくれると言っていたのに。まさか殿下と行くのは嫌だと言うに言えず。
殿下のエスコートで中庭へと出た。殿下はこれ以上私を泣かせないように気を遣ったのだと思う。王都の話や食べ物の話をして私が答えやすい質問をしながら噴水前に到着した。
私は誰が見ているかも気づかずに。
「モア嬢、この白い花が欲しかったんだよね?」
「はい」
殿下は後ろにいた従者に話すと従者は早速何本か花を切って小さな花束にしてくれた。
「モア嬢に良く似合っている」
殿下は赤い薔薇を一本手折って棘を取り、私の耳元へ挿した。
「……ありがとうございます」
私は礼を言うと殿下はホッとしたような顔をしている。
「さぁ、もう帰った方がいい。あまり長く引き止めては両親も心配しているだろう」
「……本日はお茶会に呼んでいただき有難うございました」
「またモア嬢とお茶をしたい」
「……機会があれば」
私はそう言うと殿下に礼をして馬車に戻った。馬車が出発した途端にメリダが憤慨していたわ。
「レディの化粧を暴くなんてあり得ないです。しかも素顔を見て喜ぶなんて最低ですよ!綺麗だから自分の物にしたいなんてあり得ないです」
私の代わりに怒ってくれているメリダには感謝しかなかった。
邸に戻ると心配そうにフルム兄様が玄関ホールで待っていてくれた。
「モア!おかえり。大丈夫だったかい?!!!化粧を落としたのかい?」
「それについては後ほど。とりあえずすぐに父の執務室へ」
「そうだな」
私はフルム兄様と一緒に父の執務室へと入った。そこで今日あった事を全て話した。王妃様としては自分の派閥から婚約者を出したいが、クロティルド王太子殿下はモアの事が気になり、我が家を調べ始めているようだ、と。
私は早く隣国へ向かいたい。今回陛下に目を付けられた訳ではないし、王太子殿下の婚約者がいなかった事で殿下は私に目が止まった。
前回のように弱みを握って我が家を陥れるという最悪な事態は免れるかもしれないけれど、婚約者候補達から目を付けられる可能性は十分にある。前回、十歳のお茶会の後、アーデル・メイエル公爵令嬢が殿下の婚約者になったと公表されたはず。
どのように決定したのか私には分からないけれど、三年も前に殿下と会ってしまったから予定に狂いが生じているのかもしれない。
父と母、フルム兄様は難しい顔をしながらメリダの報告も聞いた。私の話だけでは齟齬が出てしまうかもしれないから。
殿下はそうにこやかに話をしながら隣の席に座った。
「お茶会では庇っていただき有難うございました」
「あれくらいどうって事はないよ。むしろ本当の君を知れて良かったと思っているくらいだ」
殿下はおもむろにポケットからハンカチを取り出したかと思うと、私の眉を擦り始めた。
!!!
「ははっ。やはり。化粧をして美しく着飾る令嬢は多いが君は化粧をして醜くなるように見せているね」
「……」
「伯爵家の財政状況もここ数年で一気に目減りしている。その事に理由があるのかな?」
「……」
私は口を開くことが出来なかった。
一言発してしまえばそこから窮地に陥りそうな気がする。
「どうしたの?」
殿下は優しい笑みを浮かべて聞いてくる。
「……いぇ、突然の事で驚いてしまって」
「私はこの間のお茶会からずっとモア嬢の事が気になっていたんだ。母は自分の派閥から婚約者を選ぼうと思っているようだけれどね。
私は王族だから婚約者は政略結婚だ。国の安定のためであれば誰でもいいとさえ思っていた。けれどもっと君の事が知りたいと思ってしまったんだ。調べれば調べるほど興味が湧く。ウルダード伯爵家は君を守るためにこの国での爵位も返上しようとしているのかな?」
「……家の事はわかりません。それにクロティルド王太子殿下とは七歳も離れていますわ。私はまだ子供。色々と殿下を疑いますわ」
私は眉を顰めながら殿下を見ると殿下はぷっと吹き出し、笑い始めた。
「そうだね、そうだね。確かにまだモア嬢は七歳だったね。子供が好き、という訳ではないからその辺は心配しなくてもいい」
「君は将来とても美しくなるだろうね。そして君の家も本当は国一番の収益があるんじゃないかな?
そう考えると今の間に婚約者になっておく方が賢明だと思うんだよね。確かに七歳差ではあるけれど、世の中にはそれくらいの歳の差なんてよくある事さ」
流石王太子殿下。父の事業の事をよく見ていらっしゃる。父は相当隠してバレないようにしていたはずなのに。
陛下は父の事を知っているのだろうか。そう考えると急に不安になってきた。私のせいでまた我が家が没落するまでに追い込まれてしまうのではないかと。
一気に不安が押し寄せポロポロと涙を流す私にクロティルド王太子殿下は慌てた様子。
「何故、何故ですか?なぜ、みんな私を放っておいてくれないのです?私は望んでいないわ。ただ静かに暮らしたいだけなのに」
呟くように小さな声が漏れ出る。泣きたい訳じゃないの。文句を言いたいわけでもない。自分ではどうにも出来ない理不尽さに涙が込み上げてくる。
「……そうか。モア嬢はその容姿で嫌な思いをしてきたんだね。だから伯爵も必死に隠そうとしているのか。私はモア嬢に無理をさせてしまったようだ。ごめん」
「……こちらこそ、すみません。もう帰ります」
私は席を立とうとすると殿下も一緒に立った。
「中庭の噴水の所にある白い花を一緒に摘みに行こう」
従者が持ってきてくれると言っていたのに。まさか殿下と行くのは嫌だと言うに言えず。
殿下のエスコートで中庭へと出た。殿下はこれ以上私を泣かせないように気を遣ったのだと思う。王都の話や食べ物の話をして私が答えやすい質問をしながら噴水前に到着した。
私は誰が見ているかも気づかずに。
「モア嬢、この白い花が欲しかったんだよね?」
「はい」
殿下は後ろにいた従者に話すと従者は早速何本か花を切って小さな花束にしてくれた。
「モア嬢に良く似合っている」
殿下は赤い薔薇を一本手折って棘を取り、私の耳元へ挿した。
「……ありがとうございます」
私は礼を言うと殿下はホッとしたような顔をしている。
「さぁ、もう帰った方がいい。あまり長く引き止めては両親も心配しているだろう」
「……本日はお茶会に呼んでいただき有難うございました」
「またモア嬢とお茶をしたい」
「……機会があれば」
私はそう言うと殿下に礼をして馬車に戻った。馬車が出発した途端にメリダが憤慨していたわ。
「レディの化粧を暴くなんてあり得ないです。しかも素顔を見て喜ぶなんて最低ですよ!綺麗だから自分の物にしたいなんてあり得ないです」
私の代わりに怒ってくれているメリダには感謝しかなかった。
邸に戻ると心配そうにフルム兄様が玄関ホールで待っていてくれた。
「モア!おかえり。大丈夫だったかい?!!!化粧を落としたのかい?」
「それについては後ほど。とりあえずすぐに父の執務室へ」
「そうだな」
私はフルム兄様と一緒に父の執務室へと入った。そこで今日あった事を全て話した。王妃様としては自分の派閥から婚約者を出したいが、クロティルド王太子殿下はモアの事が気になり、我が家を調べ始めているようだ、と。
私は早く隣国へ向かいたい。今回陛下に目を付けられた訳ではないし、王太子殿下の婚約者がいなかった事で殿下は私に目が止まった。
前回のように弱みを握って我が家を陥れるという最悪な事態は免れるかもしれないけれど、婚約者候補達から目を付けられる可能性は十分にある。前回、十歳のお茶会の後、アーデル・メイエル公爵令嬢が殿下の婚約者になったと公表されたはず。
どのように決定したのか私には分からないけれど、三年も前に殿下と会ってしまったから予定に狂いが生じているのかもしれない。
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