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65.修復魔法
しおりを挟む「どうした。浮かぬ顔だな」
ラインハルトが不思議そうにわたしを見て言った。
あの後、恩恵を与える与えないで揉める二頭をなんとか宥め、エスターとラインハルトの元に戻ることができた、のだが。
やっぱり気になる。ユニコーンは断言してたけど、本当なんだろうか。本当にラインハルトは……。
「ユリ様?」
エスターが心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
「どうかなさいましたか、何か気になることでも? ユニコーンのたてがみは手に入ったのでしょう?」
「あ、ええ」
わたしは頷いた。
そうだ、今はテニスラケットの修理が先決だ。
「あの、このたてがみを貰えたんですけど……」
「ふむ」
ラインハルトはたてがみを手に取り、まじまじと眺めた。
「たしかに通常の魔獣とは、質の違う魔力だな。これなら成功するかもしれん」
ラインハルトは頷き、言った。
「ユリ、おまえの呪具をよこせ。修復系の魔法は得意ではないが……」
「お待ちください」
ラインハルトの言葉を遮り、エスターが言った。
「私も修復系の魔法を使えます。私に直させていただけませんか」
わたしは驚いてエスターを見た。
「いいだろう、やってみろ」
たてがみをエスターに渡し、ラインハルトは言った。
「ユリ、エスターに呪具を渡せ」
「あ、はい」
わたしは言われるがまま、エスターに呪具を渡した。
「あの、エスター……」
「ユリ様」
エスターはわたしを見つめ、言った。
「わたしの修復魔法は、少々変わっております。ユリ様のお力をお貸しいただけますか?」
エスターの真剣な表情に、わたしも緊張して頷いた。
「わかりました。……わたし、何をすれば?」
テニスラケットを手に、エスターはにっこり笑った。
「こちらへ。座ってください」
エスターに導かれるまま、わたしは柔らかい草の上に腰を下ろした。すると、そのすぐ後ろにエスターが、わたしを抱えこむような格好で座った。
「エ、エスター?」
後ろから腕を回され、抱きしめられて、わたしはどぎまぎした。
な、なんだこの格好。こんな格好でする魔法なんてあるの?
「……少々変わっている、と申し上げたでしょう?」
わたしの考えを読んだように、エスターが言った。
「昔、私が祖父に教わったやり方です。子どもの頃、祖父はこうして手を添えて、私の壊れた玩具を直してくれました」
祖父と孫ならほのぼの映像になるけど、こ、これはちょっと……。
エスターは左手でテニスラケットを持ち、ガット中央の穴の開いた部分にユニコーンのたてがみを置いた。
「ユリ様、失礼いたします」
そう言うと、エスターはわたしの右手に手を重ね、指をからめるようにしてきた。
「……エ、エスター……」
うわ、うわ、ちょっと。ななんか、ちょっと……、いや、ラケットを直すため、なんだ、けど。
「……そのまま、魔力を右手に集中させてください。ゆっくり……」
耳元でささやかれると、ちょっとこれは! やりづらいんですけど!
わたしは真っ赤になりながら、なんとか集中しようとした。
エスターの息遣いとか、心臓の鼓動まで聞こえるような気がして、もう頭が沸騰しそうだ。
エスターが何か呟いている。異世界翻訳機能がバグっているのか、声は聴こえるのに意味がわからない。なんだか頭がクラクラする。
すると、ラケットの中央部分に置いたユニコーンのたてがみがキラキラと輝いた。
エスターが、重ねたままの右手でたてがみに触れる。
『なおし さだめ かえれ』
不思議な呪文とともに、たてがみに魔力が注ぎこまれた。
すると一瞬、たてがみが燃えるように光を放ち、ラケットが振動した。眩しさに目をつぶると、
「ユリ様」
耳元で、ささやくようにエスターが言った。
「成功しました」
目を開けると、元通り……ではなく、なんかキラキラ輝くテニスラケットがそこにはあった。ガットも金色に輝いている。なにこの派手なエフェクト。
「以前よりさらに強固な呪具となりました。これならば、たとえ魔女の呪いを受けたとしても、壊れることはないでしょう」
……そ、そうなんだ……。
少し複雑な気分で、直ったテニスラケットを手に持ってみた。
……うーん。なんか、ラケットっていうより、少し……、呪具っぽくなってしまったような……。いや、それでいいんだろうけど。
「か……、変わった魔法、ですね……」
「ええ、これは他国の魔法なのです。祖父が外国に赴いた際、覚えた魔法なので、我が国ではあまり知られていないでしょう」
「そ、そうなんですか」
この国の魔法自体、よく知らないわたしが言うのもなんだが、たしかにすごく変わってると思う。呪文も明らかに系統が違ってたし、それに何よりあのやり方……。
「修復した部分には、ユリ様と私の魔力がより合わされております」
なんだか嬉しそうにエスターが言った。そのまま、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
うう、エスターのスキンシップが激しい。……けど、なんか大切にされてる感が伝わってくる。
「……ありがとう、エスター」
小さな声でお礼を言うと、ちゅっと軽くこめかみ辺りにキスされた。
「ちょっ、エスター!」
慌てて体を離そうとしたけど、エスターは笑って、ますます強くわたしを抱きしめた。
……なんかエスター、遠慮というものがなくなってきてない? わたしの気のせい?
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