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6章
6章②
しおりを挟む「正確に言えば、あいつらが智弥を出し抜いた、かな。胡散臭い音楽プロデューサーとやらに声かけられて、智弥がいないならデビューさせてあげるよ、とか言われて。勝手にメンバーから外したんだ」
光希が身を乗り出して被せるように口を開いた。
「あの、最初に殴られた人が言ってた。『おまえらが成瀬のギターテクについていけてなかったんだろ。そんなことも分かんねえんだろ』って」
「……買いかぶりすぎだよ、そんなの」
大きな瞳にじっと見つめられてまた吸い込まれそうになり、智弥はふいっとポスターだらけの壁を向いて、髪をかき上げた。
「多分、そのプロデューサーは智弥がいると扱いにくいって思ったんだろうな」
「そうそう。智弥、おとなしく言うことききそうにねえもん。――音楽に関しては特に」
パイプ椅子に跨り、背もたれに肘を乗せ前後に揺らしながら哲志がニヤニヤと見上げてくる。
「ま、おかげで俺らは優秀なギタリストに恵まれて助かってるけど」
秀平は意味ありげに目配せしてきた。
この二人には、元メンバーに啖呵を切った場面をばっちり見られたのだ。
頭に血が上っていて正直、なんと言ったか覚えていないが、それを聞いて二人が智弥のことを大いに気に入ったらしい。助っ人を頼まれるようになったのはそれからだ。
「智弥抜けてなんとなーく小さくまとまった。んで、デビューは果たしたけど全然売れてない」
うしし、となぜか嬉しそうに哲志が肩を揺らして笑った。
「売れてない腹いせに嫌がらせに来るなんて、たかが知れてるよ」
秀平が、な、と光希に向かって片目を瞑った。
先輩二人が楽しそうに光希に説明するのを傍から聞いて、智弥は照れくさくなって首筋を掻いた。ステージから降りてまだ着替えてもいない。汗臭かったかも、と何故かそんなことが気になった。
「しっかし、それでムカついてやつらにケンカ売るなんて。可愛いカオしてやるねえ」
「名誉の負傷だね」
哲志と秀平が口々に褒め称えるのに光希が恐縮したように手を振る。
「いや、俺はケンカを止めようとして……」
あのとき――光希が倒れ込んだ時。一瞬、何もかもが飛んだ。演奏のことも、ここがステージだということも。
「あんたはもうやめとけ。また吹っ飛ばされたら大変だから」
ソファに近寄り、不服そうな顔をした光希の、さらりとした黒髪を撫でる。
「……あんたは俺だけ見てればいいんだよ。周りなんか気にせずに」
「う……うん」
光希が頬を赤く染めて、目を逸らした。予想外の反応に茫然としていると、哲志と秀平が顔を見合わせて、
「ま、奥様聞きました? 今の」
「ねえ。まるで愛の告白みたい」
ホホホ、とわざとらしく手の甲を口元にあててこっちを見てきて、初めて自分の台詞の意味を悟った。
「ちょ……何言ってんですか二人ともっ」
うっかり放ってしまった言葉は宙を舞い、もう取り消すこともできない。智弥はふたたび壁を向いて、大きくため息をついた。
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