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後日談
腕時計を買いに②
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待ちあわせ場所は、駅を降りて裏口の……俺と智弥が初めて会った場所だった。銀杏の大木が足元にちょうどいい木陰を作ってくれている。濃い緑が目に和む。
去年の今頃何してたっけ。……山崎に結婚するって報告もらったのはものすごく暑い日だったのを覚えてる。ちょうど今日みたいな猛暑日。
……初めて智弥に会ったときは真冬で。この木にも葉っぱは一枚もなくて。
一年経って、こんなことになってるなんて夢にも思わなかったなあ。
「――悪い、待たせたな」
午前中、ブランカで仕込み手伝ってくると言ってた智弥が早足で近づいてきた。
「ううん、全然」
なんかホントにカップルみたい。いや、俺たち付き合ってるんだから、それでいいのかな?
颯爽と歩き出した智弥がふり返って俺を見てくるので慌てて足を前に出す。
こうして並んで歩くと、やっぱり智弥って……カッコいい。
背もスラっと高くて。顔立ちも、鼻が高くて、ぱっと見日本人には見えないし。
涼し気な目元に、青みがかった灰色の瞳。
なのに実家でオリバーさんに英会話ビシバシやられてしどろもどろになってるときや、岳大さんと言い合いしてるときなんかは子どもっぽくて……可愛い。
俺が可愛いなんて言うと、智弥怒るかもだけど。
和鷹さんとはまだ二人で話すのは難しいみたいだけど、俺とかオリバーさんとかが一緒だと、一言二言、会話を交わすようになってきた。よかった、ホントによかった。
アルバムを見せてもらったけど、智弥、エマさんにそっくりだ。目の色だけ和鷹さん似で。
いろいろ思いを巡らせてるうちに、智弥が一軒の店に足を踏み入れた。
うわ、どこに行くとか全然考えてなかったんだけど。あの……ここどこ? こんな店あったっけ?
「何突っ立ってんだよ」
来いよ、と手招きされて入ったけども。多分あれだな、前通ったことあるけど敷居が高くて自分に関係ないからって視界に入ってなかったんだな。
いらっしゃいませ、とスーツ姿のお兄さんがにこやかに頭を下げた。分度器で測ったらきっと45度ぴったりだろう。
「こいつに合うやつ探してるんだけど。なんか適当に出してみてくれる?」
お兄さんに全然気後れしない智弥。な……なんかすごく大人に見える!!
「かしこまりました」
とお兄さんがいったん下がって鍵を手に戻ってきた。ショーケースの中から時計を次々と取り出して、ふわふわのトレイに並べていく。
ちょっと待って。これ値段いくらかな。値段次第じゃ、「失礼しました」って尻尾巻いて回れ右しなきゃなんないよ? 尻尾ないけど。
背中に冷や汗をかきながら俺がうんうん唸っていると、
「……好きなの選べよ。どうせ俺が払うし」
「え!?」
「……俺がプレゼントしたやつ、しててほしいんだよ。悪いか」
ふてくされたように言われたけど、頬がちょっと赤くなってて可愛い。
わ……悪くはない、悪くはないよ。むしろ嬉しいけど。
ちらりと見えた値札の数字に思わず目を見開く。
智弥は可愛いけど値段は可愛くないよ? ゼロが5個ついてるよ?
恐る恐るそのことを智弥に耳打ちすると、
「え? 時計ってそんなもんじゃね?」
き……。
金銭感覚!!
そうだよな考えたら和鷹さんは海外に別荘持っててしかも聞いたら貴族の血が流れてるって話だし(オリバーさん談)。
颯さん達だってお金に困ってるようには見えないし、柊吾さん達も開店休業みたいな日ばっかりでも全然焦った様子もないし。
智弥だって雑誌とかでいいなあって見てても高くて手が出ないよなあって服着てたりするし(後で聞いた話によると、服に関しては柊吾さんのお義姉さん達が何故かやたら買ってくれるらしい。撮影会込みって条件付きらしいけど)。
だいたい、その何十万の時計代はどこから出ようとしてるんだ!?
「あ、やっぱこっちのもいいな。スリムな感じで」
と、さらに桁がひとつ違うコーナーに行こうとしたので、慌ててシャツの裾を引っ張って止めた。
スーパーのタイムセールは気にするくせに!
左腕がやたら重い。
……ちょっと分からなくなってきた……。
お金に困ってないなら、なんであんなにバイト三昧?
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