降り積もる記憶の彼方から

椎葉ユズル

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later scene.1(黒木side)④

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 ぱちっと前触れもなく、佐野さんは目を覚ました。

「うわ、俺また気絶した……?」
 俺の腕の中でごそごそと動き回る。顔を隠そうとしているらしい。
「それだけ気持ちよかったってことですよ、ね?」
 確かめるように尋ねると、分かんねえ、というつぶやきが俺の胸のあたりから漏れてきた。耳が真っ赤になっている。

「今何時……」
「もう日が暮れちゃいました。七時ちょっとすぎくらい……」
「マジか……」
 胸のあたりで動き回られるとさらさらの髪が乳首に当たってくすぐったい。けど気持ちいい。

「もしかして、体拭いてくれた……?」
「ええ、まあ」
「悪い……」
 そういうところ律儀だなあ。そんなの、全然気にしなくていいのに。

「遼太郎さんが、気絶するくらいカンジてくれる方が俺は嬉しいですけど」
「バカ……」

 さらにもそもそと動いて布団の中に潜り込む。うなじが色っぽくて噛みつきたくなる。



「……腹減った。なんか食わせろ」
 布団からくぐもった声が聞こえてきて、俺はなんとか衝動を抑えた。
「はい。食べたいものあります?」
 しばらくだんまりが続いたが、やがて背中がもぞりと動いて、うつ伏せの姿勢で目だけ布団の中からこちらを向いた。

「あれがいい。こないだ食べた、ミートソースのパスタ」
「分かりました」
 前に佐野さんが来てくれたときに作ったパスタ、気に入ってくれたんだ。よかった。

「……お前、コーヒーだけじゃなくて料理もできるとか反則だからな」
「え? 普通ですよ」
 そんなに大したもの作ってないんだけどな。コーヒーは好きだからちょっと勉強したけど。

「お前の普通は普通じゃねえんだよ……!」
 もういい、さっさと作れとベッドから追い出されてしまった。
 よく分からないけど早く仕上げてお腹を満たしてあげた方が機嫌が直りそうなので、言われた通りにする。

 リビングに出て、出窓から外を見る。雪はまだ降り続いているようだ。街灯に照らされてぼんやり浮かび上がる白い雪景色をしばし眺める。まるで桜の花びらが舞っているみたいだ。

 春になったら、この窓から満開の桜が拝める。二人で花見をしている情景を思い浮かべ、ひとり頬を緩めながら俺はカーテンを閉めた。


 later scene.1 〈了〉


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