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逃亡
しおりを挟む俺は今、地下の駐車場で無所属の過激派の殲滅をおこなっている。
「お前も怪人だろ! こんなに怪人が差別や迫害される世界を守ってなんになる!」
「知るか」
刀でトドメを刺すと、怪人は最後のセリフを言って、この世を去る。
早速左手に集まった十二人分の悪の力を試験管に入れて、試験管をベルトの前に持っていき、ベルトの機能を使ってルイコ先生に転送する。
ピピピとスマホから音が鳴る。ポケットから取り出すと、ルイコ先生からだ。
「ずいぶん頑張ってるね」
通話のマークを押すと、開口一番に褒められた。
「いやいや、ルイコ先生の情報のおかげですよ。事件にもなっていないから、ヒーローと鉢合わせることもないですし。ルイコ先生はなんで事件を起こす前の無所属の動きが分かるんですか?」
「私も怪人だし、そういう能力がある」
「ホントですか! 凄いですね」
事件が起こる前に知れる能力なら、大儲けが出来るほどの価値がある。
「嘘よ嘘。君に教えた情報も三回に一回は外れているじゃないか」
嘘?
「悪の組織が運営する病院の医者だ。偉くなると、無所属からの情報も、悪の組織の情報も、結構集まる。本当は教えたら駄目で、バレたら危険な行為なんだけど、君は心配しないでいい」
「なんで俺なんかの為に、そこまでの危険を犯すんですか?」
「この前言ったけど、手伝うって言ったからには付き合う。でも納得いかないなら、そうだな。君には秘密にしていることがある」
「秘密ですか?」
「あぁ秘密だ。照れてるんじゃない。ほ、保留……そう保留にしてもいいか?」
ルイコ先生は急に取り乱して、保留を推してきた。
「はい?」
「悪の力が集まったら手伝った理由を話すことにするよ」
暴れるはずだった無所属の情報をくれて、悪の力を正義の力に反転することもやってくれると言うルイコ先生には感謝することしかできない。
ルイコ先生が秘密と言うなら、俺も深くは聞かない。
「無所属の過激派の怪人って、裏のマーケットで悪の力を買っている場合があるから、倒すのは物凄く危険だけど。君が動くことで一般の怪人たちの差別や迫害が少しでも無くなればいいわね」
「はい!」
「君のダークヒーローみたいな姿、私は好きだよ」
ルイコ先生はそう言い残すとプツンとスマホの通話を切った。好きと言われてしまった。
素直に嬉しい。
通話が終わって、倒した怪人たちを見てみる。
怪人の死体は真っ黒になり、砂のお城みたいにボロボロと少しずつ崩れている。
このまま五分ぐらい時間が経てば、怪人の死体たちは、造形が残らないサラサラの真っ黒な土になる。
俺はそこまで待てないので、怪人の形をかたどった砂を足で蹴って、壊して回った。
周りを見回しても、黒い土しか残っていない。
スマホの時計を見ると、八時二十分。
「あっ、遅刻ギリギリ」
制服を見てみるが、目立った汚れもない。よしと意気込んで、俺は悪の組織で良かったと思われる特権を使わしてもらおう。
転移石を使って更衣室に転移し、更衣室の扉から高校の屋上へ。そして階段をスマートに降り、スライド式のドアを開いて、机に座る。
ふふふ、これを出来るのが悪の組織だ!
バイトなのに俺の転移石の使用率は高い。
教師が入って来た。
「おい佐藤、その姿はなんだ?」
「え?」
前の席の女子が手鏡を持って、俺に見せて来た。
鏡に映っている俺は、顔も、制服も、黒土まみれだった。
駐車場にいる時は暗くて分からなかったのか。怪人の最後の足掻きか! ちくしょう。
制服をパンと叩くと、黒土が想像以上に舞い上がる。
「ゴホッゴホッ!」
やべっ! と思いながら席から立って後ろへ下がった。
窓が開いていて、丁度よく一陣の風が。
土煙を持った風が、愛華を襲った。
「コホコホ、コホコホ」
黒土まみれの愛華から涙目で睨まれた。
「ごめん」
俺は教室から逃亡した。
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